倉田タカシ×INTERFACE
対談2/3
自分の興味から少し外れた情報が飛び込んでくるSNSが情報源:倉田タカシ
January 19, 2016
独自の世界観で注目を集めるSF作家の倉田タカシさんと、リコーの研究者・油谷圭一郎による、未来の技術やデバイスについての対談(2/3)。前編に続き、デバイスの進化や、ロボットと人間の心身との関係、最新情報の収集方法など、2人のイマジネーションと考察が展開していきます。
進化する技術と、人の気持ちの「うつろい」との関係に、どう折り合いをつけるか
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倉田:
油谷さんが研究されているエレクトロクロミックデバイスをはじめとした領域では、10年後、20年後を見据えていろいろ試行錯誤していらっしゃる段階なんですよね。
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油谷:
そうです。自分としては人の身の回りに関わるモノをつくりたいと思っていますので、この技術を多くの方々に使っていただくために、レンズの色が変わるメガネをはじめ、さまざまなデバイスを試作しています。
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倉田:
最初は一つの基礎的な技術だったものが、さまざまな方向にどんどん発展していくんですね。
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油谷:
はい。ほかにも、ロボットや自動化機器と人間との関わり方にも関心があります。人の使い方によって、インターフェースも変化していくと思うんです。たとえば最近では、足が動かなかった人がロボット義足を着けたら歩けるようになったというニュースに興味を持ちました。
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倉田:
身体の一部でありながら、本質的には「ロボット」であるということなんですね。
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油谷:
そうなんです。そんなふうにロボットが複雑な動きをできるようになる一方で、人の「こう動かしたい」という思いは曖昧で、しかも不安定です。そういった人の気持ちの「うつろい」に対して折り合いをつけることは非常にむずかしいと思いますが、徐々に折り合いをつけられる新技術やデバイスが出てきつつありますね。
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倉田:
「義足自身が判断して動きを決める」といった方向に技術が進んでいるという話も聞いたことがあります。デバイス自体がものを深く考えて、自主的な判断で動くとすると、それは「道具」というよりは、独立した意思をもった何か――つまり「ロボット」と呼んだほうがふさわしいのかなと思いますよね。
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油谷:
そうですね、さまざまなセンサーや距離・位置の検索機能なども高性能化・小型化してきて、人間や生き物に近づいているなと感じることも少なくありません。
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倉田:
2036年に街並みの写真を撮ったら、たくさんの大小さまざまなロボットが普通にいるような世界が実現するんじゃないかと思っています。いまは、街の写真を撮ると、みんな小さくて四角い機械を持っていますが(笑)
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油谷:
私も持っています、スマホ(笑)
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倉田:
あの光景は、僕が小学生の頃には想像もつかなかったものですね。いまでも「なんで、みんな、これ持ってるの?」という異様さを感じることもありますが、それをしのぐくらい、奇妙な形をしたロボットだらけの異様な街になっているのかもしれないなと思っています。
左:株式会社リコー 未来技術研究所 システムデバイス開発室 油谷圭一郎、右:作家 倉田タカシ
“情報の流れが一番いい場所”に身を置きながら、アウトプットし、考え、学ぶ
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油谷:
ところで倉田さんは、執筆される際に、どうやって最新情報や専門知識を入手されるんですか?
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倉田:
いまのところはSNSが情報源になっています。いろいろな人をフォローしたり、科学系の記事を引用するタイムラインを見たりしていると、執筆のネタがパッとポップアップしてくることがすごく多いんです。それが、SNS、さらに言えばインターネットのおもしろさだと感じています。情報の流れが一番いい場所に自分がいることで、多様な情報を拾えますし、さらに自分自身でも考えることができます。
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油谷:
その情報というのは、技術トピックスのようなイメージですか? それとも「誰かがこんなことを考えている」といった、フィクション寄りのトピックスですか?
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倉田:
どちらもあります。「再生医療で新発見!」というような生の技術情報やニュースもありますし、知り合いの「こんなことってできるのかな」といった書き込みに自分が触発されることもありますね。情報を受け取るだけではなくて、自分がアウトプットすることが前提の仕組みだということが、SNSの良さかもしれません。常に自分もアウトプットし続けることによって、考え、学ぶこともできますから。
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油谷:
私の場合は、基本的に専門領域の文書を読んだり、学会や展示会に足を運んだりして情報を収集します。偶発的というよりは、自分が知りたいものを知りに行くという感じです。
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倉田:
自分以外の何かに触れる機会ならば、なんでも有効だと思います。SNSの場合は、自分の興味から少し外れたものが飛び込んでくることがいいんじゃないかと感じています。あらかじめ自分が知っていること以外の情報が、目の前に突然現れる。そういった良さがありますね。
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油谷:
たしかに、そういう意味ですと、専門領域の異なる技術者同士で考えたほうがおもしろいアイデアやキーワードが出てくることはありますね。キーワードといえば、今回のストーリーを読んで、特に「うつろい」という言葉が胸に響きました。どこからこの言葉が出てきたのですか?
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倉田:
自分の考えるSFの定義の一つとして、「変化を描くフィクションである」というものがあります。「変わらないと思っていたことが、こんなに変わってしまう。本当に変わりうるんだ」ということの驚き、面白さ、怖さが、自分にとっての大きな興味でもあるんですね。今回のストーリーでは、「変わる」ということをポジティブに捉えたいという気持ちが多く含まれています。