円城塔×WORK PLACE
対談3/3
新しいテクノロジーに“手”を出し、自ら動かす人が求められる時代に:円城塔
March 24, 2015
芥川賞受賞作家の円城塔さんと、リコーの研究者 吉川博美による、未来の働き方についての対談(3/3)。対談の最終回となる本記事では、「未来のオフィスワーカーに求められる素養」や「未来の働き方に不可欠なもの」へと話が展開していきます。
進化するテクノロジーや情報を、どう使いこなすか
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円城:
1990年頃から現在までの約25年間は、人間の内面はあまり変化していなさそうですが、テクノロジーの変化はすさまじいですよね。
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吉川:
インターネットも進化して、いろいろな情報が手に入るようになりましたね。でも、情報が雑多で、量も多過ぎて、どれを見たらいいかわからない......。未来に向けて、もっと個人にフィットした“知りたい情報”の提示方法が出てくると私は思っています。いまある検索サイトのサジェスト機能(検索候補の予測表示機能)が進化したようなものが。
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円城:
あの機能は、なかなか便利ですが、やっぱり不安も感じますね(笑)。僕はいま、通販サイトのリコメンド機能と、こっそり一人で闘っています。「お前の薦めてくるものは、もう持っている! だが教えない」とか、なるべく合致させないようにして。
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吉川:
自分が欲しいものを自分自身よりも知られているのは、恐ろしいですよね。さらに、予想されたキーワードのほうに、だんだん自分の考えが寄っていくかもしれないですし。そうなると、機械との闘いが必要になってきますね(笑)
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円城:
闘わないと、自分の思考まで勝手に決められてしまう。それには不安を感じます。
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吉川:
重要なのは、「テクノロジーや情報を、どう使いこなすか」ということですよね。円城さんは、未来のテクノロジーの恩恵を受けるには、どういったスキルや能力が必要になるとお考えですか?
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円城:
新しいテクノロジーを「やる」こと、ですね。とにかく、触ればいいんです。たとえば、新しいソフトウェアを見つけたら、その瞬間にインストールして、とりあえず触れてみる。そういうことが大事になると思います。僕もそうですが、インストールしても、なかなか使わないんですよね(笑)
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吉川:
いまは、子どもでもメッセージアプリを使いこなしていますし、プログラミングもできますからね。ブロックを動かすような感覚で、簡単にプログラムを組んでいるのを見たことがあります。
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円城:
あのプログラミングは子ども用に見えるんですが、もしかしたら未来ではあっちのほうが主流になる可能性もある。そういう点でも、とにかく「新しいものに“手”を出して、“手”を動かす人」が求められていくと思います。
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吉川:
2036年には、働く場所が“会社”である必要はなくなるかもしれませんね。サテライトオフィスのような場所がいろいろなところにあって、そこに行けば会社と同じように仕事ができたらうれしいです。
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円城:
僕はいま大阪に住んでいますが、東京を離れても仕事ができているのは、完全にテクノロジーのおかげです。さらに、僕は家の外で仕事をするタイプなので、まずWi-Fiで通信できる環境がないと仕事ができない。ものすごくテクノロジー依存なんです(笑)
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吉川:
女性の視点で考えると、「結婚して育児をするようになったら、研究者との両立はむずかしい」と、現時点では感じています。そういった働くうえでの不安は、テクノロジーが進化した未来では軽減されると期待しています。
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円城:
人間がやれるところは残して、やれないところはテクノロジーで強化や補完をすればいいんですよね。
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吉川:
「テクノロジーが仕事をする」というよりは、テクノロジーという土台があって、その上に自分が乗っているというイメージですね。
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円城:
僕は「未来予測」というと暗いほうに考えてしまうのですが(笑)。その土台がすごく分厚くなっていくと、別の不安も生まれてくるかもしれない......。
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吉川:
たしかに、テクノロジーに頼り過ぎてしまうと怖い部分もありますね。
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円城:
だから、テクノロジーの進化に合わせて、人間自身も変化していかなければならないと思います。変化したほうが、経済社会の中でも有利になるし、企業や社会にとって不可欠な存在になれるはずです。また、人間が成長して、テクノロジー上での人間同士の「親密さ」も大切にしていけるようにならないと、ビジネスというものは長く続かないと思います。
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吉川:
テクノロジーがどんなに進んでも、やっぱり重要なのは、それを扱う“人”の気持ちですね。
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円城:
仕事も生活も“人間”に寄り添いながら進めていかないと、どうしても辛く感じるようになってしまうと思うんです。そこがすごく不便な部分でもあり、「テクノロジーは進化したけど、まぁ、やっぱり人間は人間なんだよね」という、大切な部分でもあると思います。
左:作家 円城塔、右:株式会社リコー フォトニクス研究センター 製品開発室 映像モジュール開発グループ 吉川博美
人間自身も進化・成長することで、未来に不可欠な存在になれる
PROFILE
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円城塔(エンジョウトウ)作家
1972年北海道生まれ。2006年、SF小説『Self-Reference ENGINE』でデビュー。2012年、『道化師の蝶』で芥川賞を受賞。同年、故・伊藤計劃との共著『屍者の帝国』で日本SF大賞特別賞などを受賞。2014年に、デビュー作が米国のSF文学賞「フィリップ・K・ディック賞」で特別賞を受賞した。
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吉川博美(ヨシカワヒロミ)株式会社リコー フォトニクス研究センター 製品開発室 映像モジュール開発グループ
1988年長野県生まれ。2013年、電気通信大学大学院を修了後、リコーに入社。研究分野であるバーチャルリアリティや認知科学の知見を活かし、360°全天球カメラ「RICOH THETA」の開発に参加。主に画質に関わる制御や画像処理を担当しながら、「RICOH THETA」の応用や映像に関する研究開発を行っている。
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