磯光雄×OFFICE DEVICE
対談1/3
人間をインターフェースにすれば、新たな仕事の概念も生まれる:磯光雄
December 9, 2014
アニメーター/脚本家の磯光雄さんとリコーの研究者 齊所賢一郎による、未来の働き方についての対談(前編)。磯さんの想像をもとに、インターフェースの進化と、未来の仕事やオフィス環境について語り合ってもらいました。それぞれの想いが融合して、発火(IGNITE)されたイマジネーションがたどり着く未来とは――。
人間以外の「知性体」が働く、未来のオフィス
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齊所:
私はいま、自動車のフロントガラス上に虚像を表示する「ヘッドアップディスプレイ(HUD)」をはじめとする、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)システムの開発に携わっていて、「人と機械、人と情報の新たな関わり方」を専門に研究しています。
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磯:
興味深いですね(笑)。ディスプレイを使う側からしても、ひとつのインターフェースやデバイス上で、人と機械が双方向に交じり合いながら、一緒に新たな仕事や作業をすることになっていくのだろうなという予感は感じていました。
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齊所:
HMIというのは、自動車でいうとメーターやカーナビなど、まさに「人と機械が、情報と動作の入出力を行う」境界の部分です。それらを「高画質化」「大型化」というディスプレイ技術の進化だけではなく、「その映像を見てどう感じるのか」「どんな行動につながるのか」といった人間の反応を測定しながら、“目と脳を巻き込んだ設計”を進めています。
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磯:
インターフェースはこの数十年間で劇的に発達しましたが、実は人間の身体、あるいは言語も、インターフェースの一種だと思うんですね。だから、身体や言語をインターフェースという目的だけに特化させれば、何か新しい概念が発見されて、それを独走させることでいろいろなものと会話できる世界がくるんじゃないかと妄想しています。
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齊所:
磯さんのお話に出てきた「アバター会議」が、その例ですよね。いままでオフィスにいなかったタイプの人間や、人間ではない「知性体」みたいなものが仕事の現場に参加する。その可能性はあるだろうなと、私も思います。
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磯:
あの「アバター」は、言語能力を持たせたある種のミドルウェア(人と機械の中間に位置するソフトウェア)なんです。それを情報の塊とか、あるいはコミュニケーションが不得意な人間にかぶせて言語能力を与えることで、「いままでにない知性」として振る舞ってくれるのではないかという妄想なんです。
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齊所:
おじいちゃんの知性が、若いビジネスパーソンのアバターをかぶって会議にやってくるとか(笑)
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磯:
そう、労働者の高齢化対策にも(笑)。普段は言語力のハンデで評価されていない知性が、急に鋭い意見を語りだす可能性もある。いまは「言語力=知性」と思われていますけど、知性と言語は別のものとして分化すべき時期ではないかと感じています。
左:アニメーター/脚本家 磯光雄、右:株式会社リコー フォトニクス研究センター 製品開発室 映像モジュール開発グループ 齊所賢一郎
オフィス環境が変化しても、人間同士の“共有感”はなくならない
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齊所:
2036年には、オフィス以外で仕事をすることが当たり前になるかもしれないですよね。極端に言えば、情報のやりとりをする電子メールさえ使えれば、どこででも仕事ができる。働く人や働き方を支えるインフラが、たとえば遠隔会議システムなどに入れ替わっているのかなと感じています。
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磯:
オフィスの風景が突然変わるという現象は今後もきっと起こるでしょうね。いま、みんなスマートフォンを持っていますが、スマホの登場までは、たぶん誰もこの風景を想像していなかったと思います。SF映画などで通信機は登場していましたが、こんなに全員がずっといじっているイメージはまったくなかった。コピー機もかつて世界の風景を変えたひとつですよね。
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齊所:
そんな風に環境が変化しても、たとえば一緒に仕事をする人同士の“共有感”や“情報共有”は無くならないのだろうなと思っています。たとえば、書類をスキャンしたPDFデータが届いて、その書類の端にコーヒーのシミや紙のシワがついていれば、「そういう場所で、夜遅くまで仕事していたんだな」という“感性情報”みたいなものも受け取れると思うんです。
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磯:
紙文化ですね。アニメ業界も、昔は大量の原画をムービー撮影できなかったので、手でパラパラめくっていました。気合の入った原画は枚数が多いので、ぶ厚い束になりがちなんですが、あまりにも気合を込めてめくるので、原画の用紙が湾曲してしまうんですね(笑)
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齊所:
紙の場合は、そういう熱意が残ってしまいますよね。目に見える形として。
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磯:
そう、情報が物質に残るんですよ。でも、そういった身体的で非言語な情報を、いまのデジタルやビジネスはまったく扱えてない。これはたぶん、まったく未開拓の研究領域なのでしょう。
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齊所:
2036年には、そんな“感性情報”がデジタルデータでも伝達されるようになって、これまで文字中心だった「ビジネス」という概念も変貌を遂げるかもしれないですね。