円城塔×WORK PLACE
ストーリー1/3
手作りの手:円城塔
February 17, 2015
作家の円城塔さんによる「西暦2036年を想像してみた」、短編小説の本編(1/3)。誰もがクリエイターになれる時代、「働き手」にはどのような変化があるのか?
キャラクターグッズ
昭和の風情を漂わせる商店街の突き当たりを左手に曲がると、小学校の正門が現れた。正門から国道へまっすぐ伸びる道のすぐ角に古ぼけたビルディングが立っている。外装はタイル、ガラスは時代ものなのか波打ち、アルミサッシはくすんでいる。
引き戸を開けると、中央の作業台の傍らに立っていた男が顔を上げた。台の回りには真剣な顔をした小学生たちの姿があり、部屋の各所の作業台でも小さな体が押し合いしている。外観とは対照的に、内部の色彩は鮮やかである。
「それは当然、版権の問題が生じることもありますね」と男が苦笑した。「子供の好きにさせておくと、それはまず、キャラクターものを作りますよ」と言う。カラフルな町工場のような室内に並ぶのは中古落ちの工作機械と、型落ちしたコンピュータだ。横にいた男の子がにやりと笑って腕を突き上げ、はやりのキャラクターが造形された腕輪が光る。
階段を上ると、大きなオブジェに出くわした。大人の姿は見えない。
「当ラボの誇る」とオブジェの陰から女の子が顔を出した。「ワンルーム・データセンターです。縦横高さで20かける20かける20個のボードを備え、3万個ほどのCPUを使用しています」と胸を張ってみせている。「教材の寄せ集めですけど」と肩をすくめてみせた。「データ処理のボランティアもやってます」
商店街
「この頃は」と保安担当者が言う。「青田買いも激しいですね。まあ、この施設も実質的には企業資本によるものです。本来はマーケティングが眼目だったんですが。行政との連携というやつですね。『モノ作りを作る』ということです。まあ最近は──」と首を振ってみせた。「──ちょっとモノ自体で利益が出すぎて、非営利団体としてはそちらが問題になっています」
「これだけの工作技術と、計算パワーがあるのに、どうして建物自体を建て直さないか、ですか」
一階では男が建物から子供たちを追い出している。「その質問をしてもらうためですね」と応えた。
「見かけを維持するように、商店街全体をメンテナンスしています。そっくり同じものを作る練習としてね。観光資源ですから」
波打ったガラス窓からは夕日が差し込み、帰宅を促す17:00の音楽が聞こえている。