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はたらくへのまなざし

梱包材にとどまらない「プチプチ®」でサステナブル社会に貢献

Vol.02 川上産業株式会社常務取締役、プチプチ文化研究所所長 杉山彩香さん

誰かを支える。未来を創る。
いろんな想いで"はたらく"に向き合う、十人十色のストーリーをシリーズで紹介していきます。

目次

該当職種の募集をしていなかった会社に惹かれ自ら応募

 小さなお子さんからお年寄りにまで知られている、梱包材の「プチプチ」。きっと誰もが一度は、“プチプチッ”と指でつぶしたことがあると思います。プチプチは、気泡シートや気泡緩衝材の通称や愛称と思われることが多いのですが、実は川上産業株式会社が商標登録している製品名です。私自身がそのことを知ったのも、就職先として川上産業を発見したときでした。

 私は短大在学中からウェブ制作の仕事をしていて、卒業後もフリーランスで活動を続けていました。ただ、制作よりもディレクションやプロデュースの仕事に興味を持つようになり、組織で働いてみたいという思いも募ってきたことから、就職先を探すことに。自分が知っているモノづくりをしている企業がいいと考えて、商工会議所の会員企業のリストの中で目に留まったのが、あのプチプチを製造販売しているという川上産業だったのです。プチプチのことは多くの人が知っているのに、プチプチを製造販売している会社のことはあまりよく知られていない。そのギャップに面白さを感じました。

 さっそくホームページを見てみると、ウェブ制作の経験を活かしていろいろと改善の提案ができそうでした。そこで、そうした職種の社員募集はしていなかったのですが、メールで問い合わせをしてみると、驚かれたもののすぐに面接、採用となりました。

プチプチを通じた多彩な出会いと経験が財産に

 川上産業へ入社後は管理部門に配属され、社長秘書とウェブ関連の仕事を兼務することになりました。創業家の2代目だった当時の社長は、プチプチの商標登録をはじめ、斬新なアイデアを次々と思いつくとてもユニークな方でした。8月8日は「プチプチの日」として、毎年全国各地でさまざまなイベントを開催していますが、このプチプチの日を発案したのも2代目社長です。プチプチの日は日本記念日協会にも正式に登録・認定されていて、その手続きの際に協会の代表から、「プチプチはなんだかおもしろいから本でも作れば?」という提案をいただきました。そこで、『プチプチ OFFICIAL BOOK』を企画。2代目社長と設立した「プチプチ文化研究所」で、本来の梱包材としての用途以外で使われているプチプチを「プチプチ文化」と定義して調査・情報収集を行い、その研究成果をまとめて出版しました。

 本書ではアーティストやクリエーターにプチプチに関するアイデアをいただいたり、実際にプチプチにまつわる作品を制作していただいたり、「4トントラックでプチプチを踏んだらどうなるか」「プチプチでどれだけヒマをつぶせるか」といった実験を行ったりしました。制作の過程では新たに知り得たことや驚いたことがたくさんあり、プチプチへの関心がさらに深まりました。

 プチプチ文化研究所では、プチプチの魅力や可能性を日々探求し発信しているのですが、逆に私たちが思いもよらないような問い合わせをいただくことも多く、新しい発見が尽きません。研究所と同時期にECサイト「プチプチSHOP」を立ち上げてからは、企業向けの製品だけでなく、小売店や個人向けの製品も開発し販路を拡大。ハート型の「はぁとぷち」、つぶして楽しむ専用の「プッチンスカット」などのほか、最近では四角い気泡を格子状に並べたことで手で簡単に切ることができる「スパスパ」など、約1,000種類のプチプチ製品を生み出してきました。

 基本的なプチプチは、ポリエチレンと空気でできた単純な構造をしています。単純だからこそ、応用が利いたり、遊び心を刺激したりする余白があって、業界の枠を超えたさまざまな分野の方々とのコラボレーションで製品を開発したり、イベントなどを企画したりする機会にも恵まれてきました。そのつながりや経験が、私の財産だと思っています。

「ループリサイクル」の取り組みに尽力

 プチプチは、梱包材をはじめさまざまな用途に活用されても、最終的には廃棄されゴミとなります。そのために、川上産業では1980年代から環境に負荷をかけない製品づくりに努めてきました。現在では製品の約8割に再生原料が使われています。

 そして今、最も注力して取り組んでいるのは、プチプチのリサイクルです。使用済みのプチプチを回収して、原料に加工し、再びプチプチを製造する「ループリサイクル」を広めていきたいのです。当初は各工場や近隣の小学校などにプチプチ回収ボックスを設置。今後はスーパーやドラッグストアなどにも展開していく予定です。

 回収したプチプチの中には、他社の気泡緩衝材やストレッチフィルム以外に、他の素材などが混在していることがあります。以前はその中からプチプチの原料となるポリエチレンだけを分別する作業に大変な手間がかかっていました。そこで、樹脂を判別できるハンディセンサーを試験的に導入してみると、知識や経験のない人でも簡単に、素早くポリエチレンを選り分けられるようになりました。今後は全工場で樹脂判別ハンディセンサーを活用して、資源回収がさらに進んでいくことを期待しています。

 小学校ではSDGs教育の一貫として、プラスチックリサイクルについての授業を行ったり、ワークショップを実施したりしています。こうした活動は主に若手社員が担っていますが、リサイクルに真摯に取り組もうとする子どもたちから教えられることも多く、モチベーションの向上にもつながっているようです。ワークショップの場でも樹脂判別ハンディセンサーを使ってみると、プラスチックの分別について楽しく学べるのではないかと考えています。

 個人的には前社長の影響もあり、その先の未来に「プチプチのない世界」も夢見ています。3Dプリンターの技術革新がさらに進めば、さまざまな製品はデータを送ることで現地での造形が可能になり、梱包材が使われる輸送は不要になるでしょう。サステナブル社会の実現のためには、そんな将来も視野に入れて、動向を注視しています。

仕事とライフワーク、それぞれの活動でより良い未来を

 私が働くうえで大切にしているのは「まずはやってみる」ことです。経験のないことでも、勇気を持って半歩でも1歩でも踏み出してみることで、自分の幅を広げることができると思っています。

 自身としては想定外だった工場長を兼務することになったときは、私に製造現場のマネジメントが務まるのか不安でした。それでも、作業服を着て、できる限り工場内の生産ラインを歩いて回り、現場の最前線で働く人たちと会話を交わし、信頼関係を築くように努めました。工場は会社の屋台骨でもあり、運送会社をはじめとする工場ならではのお取引様とのおつきあいなど、オフィスでは経験できなかった現場での学びが多くありました。本社の管理業務に戻った今でも、新製品が発売になるときなどは、工場に足を運んで製品ができる過程を実際に見るようにしています。

 会社での仕事のほかにもライフワークとして、J-POPやロックなどの音楽をツールとした国際交流に取り組んでいます。中国やベトナムをはじめとする東南アジアや日本で開催されるイベントの企画・運営などに携わって20年近くになりました。私にとっては仕事とライフワークにオンとオフの区別はなく、どちらも欠かせないものだと思っています。言葉も文化も違う人たちとのコミュニケーションでは、仕事以上に難題を抱えることもありますが、それを乗り越えてイベントが成功し、多くの人に喜んでもらえることが、何よりのやりがいになっています。音楽をきっかけに日本に興味を持ち、日本で学んだり、働いたりする人が増えれば、日本の将来の力になる。そんな想いもあります。

 仕事にしてもライフワークにしても、1つの出会いがきっかけとなって、新たなご縁を引き寄せることがあります。そうして仲間が増えていくことで、新しい価値を生み出すことができる。それらを通じて自分自身の成長はもちろんのこと、より良い未来の創造、サステナブル社会の実現につながっていくことが、私にとってのはたらく歓びであり、原動力になっています。

*「プチプチ」「はあとぷち」「プッチンスカット」「スパスパ」「ループリサイクル」は川上産業株式会社の登録商標です。

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