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はたらくへのまなざし

子どもたちの笑顔や成長が、はたらく歓び、生きる活力に

Vol.01 小学校教諭 矢崎恭陽さん

誰かを支える。未来を創る。
いろんな想いで"はたらく"に向き合う、十人十色のストーリーをシリーズで紹介していきます。

目次

中学生の頃から憧れた「小学校の先生」

 自分もいつか、教壇に立ちたいーーそう考え始めたのは、中学校2年生のときです。ある先生の授業が面白くて、勉強が楽しいと思えたのがきっかけでした。ただ教科書通りに教えるのではなく、先生独自の視点があって、もっと知りたい、もっと学びたいと思える授業をしてくれたのです。自分もそんなふうに、生徒と目線を合わせて、個々の力を伸ばせるような教師になりたいと憧れました。

 その思いは、高校、大学と進学しても、変わることはありませんでした。同じように教職を志していた友人のなかには、教育実習で実際に教壇に立ち、子どもたちに指導をしたり、教育現場を垣間見たりしたことで、別の進路を選択した人もいます。でも、私の場合は実習を経てより一層、教師になりたいという思いが強まりました。それも、公立の小学校の教師にです。

 近年は小学校でも「教科担任制」の導入を進める動きがありますが、従来の「学級担任制」ではより多くの時間を子どもたちと過ごし、緊密に関わることができるところが魅力でした。

 念願を叶え、教師として歩み始めた初任校は、自分が生まれ育った県下の公立小学校です。辞令交付式では子どもの頃にお世話になった先生を何人かお見かけし、ご挨拶をすることができました。数年後、恩師の一人が校長に着任され、共にはたらくようになったときは感慨深い思いでした。 

子どもたちと向き合い、共にチャレンジする日々

 小学校の教師になって実感したのは、同じように繰り返される日常が全くないということです。日々の指導では、小さな壁が次々と現れます。子どもたち一人ひとりに個性があって、学力の高い子もいれば、基礎が身についていない子もいます。運動が得意な子や苦手な子、友だちと仲良く付き合える子やトラブルを起こしやすい子もいる。そんななかで、なるべく子どもたちが主体的に考えて、課題を乗り越えていけるようにサポートするよう努めていますが、自分自身も学ばなければいけないことがたくさんあると感じることも多いですね。

 学年の方針で1年間、子どもたちと週間日記を交わしたときは、授業以外にも一人ひとりの悩みや相談ごとに向き合いました。40人近い子どもたちの日記を読み、返事を書くのには多くの時間と労力がかかりましたが、学年を終える頃には心の距離が縮まったように思います。クラス最後の挨拶では泣き出す子がたくさんいて、自分も思わず涙を見せてしまいました。

 人を大事にする。今を大事にする。そして、楽しむ。これは私自身が大切にしていることで、子どもたちにもよく話していることです。人を大事にして、今、自分ができることを懸命にやっていくと、どこかで見ていてくれる人がいて、しんどくなったときや困ったときには、きっと力になってくれる。だから、力を尽くして頑張って、応援される人になってほしい。そう願っています。

 子どもたちにその思いが伝わって、苦手なことにもチャレンジしたり、つまずくことがあってもあきらめずに立ち向かっていこうとしたりする姿を見られることが、はたらくうえでのやりがいであり、支えにもなっています。

自身の夢を思い出した教え子の言葉

 学校では2020年から、キャリア教育の一環として「キャリア・パスポート」という取り組みが始まっています。キャリア・パスポートは、小学校・中学校・高校までの12年間を通じて引き継がれていくもので、児童や生徒が自分自身を見つめて、将来の夢や目標を考えたり、学びや成長を振り返ったりしながらその記録を蓄積していきます。

 私が教師になって2年目に担任を務めたクラスが卒業を迎えたとき、卒業時の担任がある女の子のキャリア・パスポートを見せてくれました。その子は将来の夢や目標に「先生になりたい」と書いていたのですが、そのきっかけとなったのは、私との会話だったそうなのです。

 私が担任だった当時、その子には将来の夢がなく、キャリア・パスポートにも書けずにいました。そのとき私が「将来の夢は、今はなくてもいいんだよ。これから探していけばいいんだから」と話したことが、その子の心に響いたようで。

「夢がないことをダメだといわずに、今はなくてもいいといってもらえたことがうれしかった。自分もそういう声をかけてあげられる先生になりたい」

 卒業時のキャリア・パスポートにはそんなことが書かれていて、とてもうれしかったですね。実はそのときの会話はよく覚えていなかったのですが、「生徒と目線を合わせて、個々の力を伸ばせるような教師になりたい」という自身の夢をも思い出させてくれました。

困難はあっても、それ以上の歓びと幸せを実感

 教師になったばかりの頃は、次々と現れる壁をなんとか乗り越えていくのが精一杯で、視野が狭くなりがちでした。そんなときは、放課後などに職員室で先生方に話を聞いてもらったり、できないことにとらわれず、できたことに目を向けるようにしたりして、気持ちを切り替えるようにしていました。

 最近は学級担任としてだけでなく、学校のさまざまな行事や地域と関わる役割も多くなり、周囲に目を配ることができるようになってきました。そうしてあらためて思うのは、自分が子どもだった頃にも、先生たちは学習指導だけでなく、児童が安全に、健やかに過ごせるように力を尽くしてくださっていたのだなということです。

 教師の仕事は大変だといわれることが多く、確かにそう感じるときもあります。ただ、子どもたちの笑顔や成長は、それ以上の歓びをもたらしてくれます。その歓びは、生きていく活力でもあります。

 昨年に第一子が生まれ、自身も親になりました。子どもが泣いたり笑ったり、初めて寝返りを打ったり、言葉を発したりといった日々のほんの小さな成長が、親にとっては何よりもうれしく、かけがえのないものなのだと実感しています。私は仕事でも、たくさんの子どもたちの成長に携わることができる。それはなんて幸せなことなんだろうと思っています。

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