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人間は、同じ物体であれば光源に依らず同じ色として知覚できる色恒常性をもつため、撮影された画像の色が知覚色と異なると違和感を覚える。近年のデジタルカメラは、光源色を推定して色補正を行うオートホワイトバランス機能を備える。肌の平均色と撮影された任意の肌色との色差に基づいた光源色推定が提案されてきたが、個人の肌色の違いによって推定誤差が生じやすい問題がある。本稿では、肌画像をメラニン成分とヘモグロビン成分に分離する技術を用いた環境光源色の推定法について報告する。これは、同一光源下においては各色素の最小成分は個人の肌色差に依存しないという特徴を活かし、それぞれの最小色素成分の合成を光源色成分として取得する。様々な光源下で撮影された人物画像を用いた実験により、従来手法よりも精度の高い光源色推定ができることを確認した。
デジタルカメラを用いて、高速で動く被写体を確実に撮影するためには、正確にターゲット物体にフォーカスする必要があるが、被写体は頻繁に変形、ランダムに動くので、被写体を追従、位置特定することには困難が伴う。本論文では、高精度に高速で物体追尾、被写体位置を特定する方法を提案する。本提案手法はYUV特徴量を用いたパーティクルフィルタ物体追尾を行うことで、被写体が変形、ランダムに動き、画面から消失して、再度現れるケースでも高精度で追尾できる。さらに並列処理のアルゴリズムにより、リアルタイム追尾を実現できる。リコー製デジタルカメラCXに実機実装し、動く被写体追尾の定量評価実験を行い、本技術の有効性を示した。
また、動き予測のアルゴリズムも開発した。物体追尾の結果を用いて、一定の時間後の物体動きを予測し、被写体の位置特定ができる。この技術により、カメラ撮影タイムラグによって発生したフォーカスエラーを削減することができる。デジタルカメラで撮影した動画でシミュレーションを行い、動き予測の効果を確認した。
ステレオカメラの画像情報を基にしたロボット技術が、通常の2次元カメラによるものに比べ注目を集めるようになっている。このような中、リコーでも産業用ロボット分野で使われることを目指したステレオカメラの開発が行われている。現在、3次元画像を使うロボットの研究や応用は、その多くが予め決められた形状の物体を扱うことを想定しており、形状が決まっていない自然の物や手作りの食品などについては扱いが難しい。
本研究は、形状や大きさが一定ではない物体がランダムに積み重なった状態での物体認識技術を扱うものである。このシステムは、積み重なった物体の集まりから1つずつ物を取り出すといった、製造工程内で人が実際に行わなければならないような動作をロボットに行わせることを狙う。
我々が開発した認識システムは、リコー製のステレオカメラから得られる3次元情報と2次元情報を使う。3次元情報は、物体の全体像の解析、全体的な積み重なりの情報の取得、物を掴むためのロボットの位置の算出などに用いられる。一方、2次元情報は、3次元情報を検証したり、物体同士の細部の重なりを見たりするのに用いられる。現時点では、1秒以下の計算時間で約90%の精度を実現している。
自動クルーズコントロールを目的とする先行車の検出や、衝突回避のための歩行者の認識など、道路上の目標検出技術は、運転支援システムを実現する上で非常に重要である。現在、道路が平坦であれば、その路面形状は精度よく検出できているが、上り下りのある坂道やカーブなどの複雑な路面形状は平坦な場合よりも精度が劣る。本研究では、実際の状況に近い平坦ではない道路における距離情報を利用した路面形状検出方式を提案するものである。この方式では、まず入力画像イメージから複数の視差情報画像を生成し、次にこの視差情報画像から道路の凹凸や断面情報が算出され、更に平坦ではない路面形状が抽出される。実際の路上にて本方法を適用した結果、視差情報画像を利用することで平坦ではない複雑な路面の状況をうまく抽出することができた。
入力画像の整数倍の拡大においては、単純な「Nドット」の方法が使える。たとえばダブルドットによって解像度を2倍にできる。この単純で、不自然な結果に陥る可能性の低い拡大方法は、多くのプリンターベンダーが製品の解像度を整数倍に増加させている理由となっている。しかし、非整数倍の拡大縮小が必要となることも多く、この場合は最近傍補間、双三次補間、双一次補間を含む従来の方法は、バーコード、二値画像、ラスターフォントのような応用に適さない。本研究の目的は、フィルタリングやモルフォロジー演算と組み合わせてバーコードの可読性や拡大画像の画質を大きく改善できる、新しい拡大方法を開発することである。このような拡大画像を効果的に使うには、たとえば背景との境界が不自然でないように配置するには、背景と重ね合わせるために半透明マスクを作る必要がある。この拡大技術の改良が、連帳インクジェットプリンターで使われた場合に、さまざまなアプリケーションに適用可能であることを明らかにする。
MEMS駆動のマイクロピンセットであるナノピンセットと原子間力顕微鏡用のカンチレバーを用いて、単一粒子の電荷量を計測する手法を開発した。ナノピンセットで把持した粒子をカンチレバーに近接させることで、カンチレバーに誘起される鏡像力を計測する独自のシステムを構築し、得られた鏡像力から仮想的な電荷中心を導入した解析モデルにより電荷量を算出する手法を確立した。ブローオフ法との相関が得られることから、本手法によって、粒子間の電荷量比較が可能であることを示せた。
我々は、従来赤外線センサを設置することができなかった狭小スペースへの設置や携帯機器への組み込みを目的として、赤外線センサの一層の小型化、低コスト化に取り組んでいる。既存のレンズ付きメタルパッケージ型の赤外線センサに対して、体積比で2桁の小型化を目指し、ウェハレベルパッケージ(WLP)を適用したレンズ一体型超小型非接触温度センサを開発した。ガラスフリット接合により、レンズ基板、センサデバイス基板、ガラス電極基板を3層接合し、従来型のセンサに対して約1/80の体積となる外形サイズ1.9 mm×1.9 mm×1.5 mmの超小型化を実現した。センサ特性としては、感度約15.6 V/W、時定数約3.0 msが得られており、超小型でかつ実用レベルに近いセンサ特性を実現した。
プロダクションプリンターにおいて高品質な画像形成を得るために、電子写真方式では個々の印刷用紙銘柄に対して適切な印刷条件を設定する必要がある。非破壊かつ簡便な方法で用紙銘柄を判別するために、我々は光学的な手法の開発を試みており、拡散反射光の偏光特性を考慮した独自の反射モデルを提案した。
独自の反射モデルに基づいた光学系の設計においては、拡散反射光の偏光変化成分を検出することに加え、検出方向を変えることで表面多重拡散反射と内部拡散反射を区別する手法を見出し、有効性を確認した。設計した光学系を用いて商用印刷市場で広く使われる65種の用紙銘柄の反射光量を計測した結果、用紙銘柄ごとに異なる偏光変化が観測され、提案したモデルの妥当性を示唆する結果が得られた。
近年、プロダクションプリンタ市場は、幅広い紙厚、多種多様な用紙へ印刷するニーズが高まってきていると同時に出力機器の給紙搬送装置に対しては、高い信頼性と生産性が求められている。
従来技術の摩擦分離にエアアシストを付加した給紙搬送装置では給紙可能な紙厚の上限も限られており、さらに用紙間密着力が強く分離しがたいコート紙、フィルム紙、ラベル紙、凹凸紙といった用紙以外に摩擦分離が困難であるメタリック紙、マグネット紙といった特殊紙の要求も加わったことで、給紙装置に求められている高信頼性、高生産性のニーズをカバーできない領域へと差し掛かっている。
そこで、今回新たな顧客ニーズに応えたプロダクションプリンタ市場向けのエアピック方式を採用した2つの給紙搬送装置を開発した。
リコーでは、商業印刷分野で求められる多種多様な厚みや表面性を有する用紙に対応したデジタルオンデマンド印刷機を発売した。
このような多種多様な用紙対応性は、用紙の表面性に追従変形を可能とする弾性中間転写ベルトを採用し、かつ、紙種に適した転写圧に可変制御する転写圧可変機構を搭載した2次転写ベルトユニットを採用することにより実現した。本論文では、その用紙対応転写技術について報告する。
インクジェットデジタル印刷機は、商用印刷市場に参入するために、高速化、高画質化への対応を進めている。連続帳票紙を印刷するラインヘッド方式のインクジェットデジタル印刷機では、高解像度化によるヘッドアレイの大型化と、各色ヘッドアレイ間での用紙の蛇行によって、色合わせ精度が悪化し、高画質化の妨げとなっている。用紙蛇行に合わせてヘッドアレイを動かす色合わせ補正技術によってこの課題を解決し、商用印刷市場で求められる画質と速度を併せ持つインクジェットデジタル印刷機を商品化した。
プラスチック基材等の非浸透基材にインクジェットプリンターを用いて画像形成が可能な水性レジンインクを開発した。この水性レジンインクは、サイングラフィックス用途に用いられる非浸透基材対応のインクとして普及しているソルベントインクに劣らない30 m2/h以上の印刷速度を提供できる。
水性レジンインクでの印刷速度向上にあたっては、まず、インクが印刷基材のコート層と相溶することが重要であり、相溶性の向上には添加する溶剤が大きく影響することを見出した。さらに、溶剤の基材コート層の溶解性は、TeasのFractional parameter; Fd(%)、Fp(%)、Fh(%)が所定の範囲にあることが重要とわかった。最後に、表面乾燥過程測定装置を用いたインクの定着速度の評価方法を新たに考案し、上記の溶剤の効果を検証した。結果、基材コート層の溶解性を持つ溶剤の添加率を高めることでインクの定着速度が向上することを確認し、水性レジンインクの高速印字対応技術として確立できたことが実証された。
我々は有機系工業廃水の無害化処理を目的とした高圧水中燃焼プロセスを開発した。また、パイロットプラントを建設し、反応器内の温度分布を測定することで高圧水中燃焼の挙動を可視化した。このプロセスは触媒を用いることで、従来法である超臨界水酸化を用いた廃水処理プロセスと比較して燃焼条件を緩和することができた。さらに、二流体ノズルを用いて廃水を微粒化することで、大型反応器内の燃焼温度の均一化に成功した。
iPS細胞技術は再生医療の技術開発を加速させることが期待されている。しかし、人体外での細胞の平面培養では、ヒト組織としての機能が十分に再現できないことが多い。したがって、iPS細胞由来の細胞を用いた3次元組織体の作製は、化粧品の安全評価、医薬品の毒性試験、再生医療等には非常に重要である。本報告で、細胞表面への接着たんぱく質(ECM) のコーティングにおいて、iPS細胞由来細胞への物理ダメージを低減できるミクロンサイズのフィルターによる分離手法 (Filter-Layer by Layer) の従来の遠心法 (C-LbL) に対する優位性を、工程の大部分を自動化した自動コーティング装置で検証した。次に、iPS細胞由来心筋細胞 (iPS-CM) を用いた3次元組織体を構築し、3次元組織体の拍動状態について、画像解析を用いて可視化できることを示した。
2016年2月25日発行
発行 | 株式会社リコー リコーICT研究所・リコー未来技術研究所 〒224-0035 神奈川県横浜市都筑区新栄町16-1 TEL. 045-593-3411(代) |
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