ビデオ会議システムを持ち運び可能にするためには、本体を小型化することはもちろんですが、それ以外にもさまざまな技術課題があります。リコーはそれらの課題を次のように解決しました。
従来のテレビ会議システムはISDNでの接続を前提としていたため、通信相手を指定する識別子として電話番号を利用しています。IPネットワーク上では、電話番号の代わりに、通信相手をIPアドレスで指定します。しかし、ビデオ会議端末を持ち運んで別のネットワークに接続するとIPアドレスが変わってしまう可能性があるため、IPアドレスを電話番号のような半恒久的な識別子として利用することはできません。
IPアドレスが変わっても発信側は問題なく開始できますが、かけようとしている相手側のIPアドレスが変わっている可能性があるわけです。どこに繋がるか、実際にかけてみないとわからないのでは使い物になりません。通信相手のIPアドレスを事前に知ることができれば解決しますが、宛先リストなどをそのたびに変えなければならないため機能せず、やはり問題が残ります。
M2MとはMachine-to-Machineの略で、機器同士がイベントを通信し合うことで連携したり、機器の状態を取得したりするための基本技術です。この技術により、従来は実現が難しかった「遠隔での機器制御」「稼動状況の監視」「障害発生時の自動復旧」といったことが可能になります。
リコーでは、さまざまな機器同士の連携や、遠隔での機器管理を実現するために、長年にわたりM2M通信制御技術の研究を行い、独自の方式を確立しました。
一般的なM2M通信では、携帯電話キャリアの通信モジュールを利用します。これに対し、リコーのM2Mプラットフォーム(図1)では、インターネット上でクラウドの技術を用いて、特別な通信モジュールを必要とせずに、全ての機器の個体それぞれをクラウド上で管理します。これにより、今回開発のユニファイド コミュニケーション システムも、クラウドアプリケーションとして効率よく開発を行うことが可能でした。
このように、ビデオ会議端末それぞれをクラウド上で管理することで、従来の電話番号と同様に簡単に接続できるようになりました。端末を別の場所に持ち運んだことでIPアドレスが変わってしまったとしても、CID(宛先を表すコンタクトID)は変わりません。そのたびに宛先リストを編集する必要もなく、いつでも・どこでも簡単に接続できるようになるわけです。
従来のビデオ会議システムでは、会議をするのに必要な転送速度や帯域を、会議を始める前にあらかじめ決めていました。しかし、インターネットでは一般に「ベストエフォート型の接続形態」がとられ、ネットワーク速度や帯域は常に変化します。また近年普及が著しい無線ネットワークでは、有線接続よりもさらに大きな変動がみられます。会議開始時に決めた転送速度や帯域より上回るように変動してくれればよいのですが、下回ってしまうと「映像が止まる」「音声が途切れる」といった品質の低下や、最悪の場合は切断を引き起こし、会議を中断せざるを得なくなります。しかし、品質低下や切断を避けるために、最初から速度や帯域を小さくして始めると、最初から最後まで品質が低いまま我慢して会議を続けなければなりません。
「いつでも・どこでも、だれでも・だれとでも、コミュニケーション」をストレスなく行えるようにするためには、確実に通信相手に接続できることはもとより、無線などの不安定なネットワーク下でも品質の良い映像・音声を送受信できるようにする必要がありました。
不安定なネットワーク環境下で映像を送受信するための規格として、H.264 SVC(*1)が注目されています。SVCはScalable Video Codecの略で、正式には「H.264/SVC Annex G」という規格です。
H.264 SVCでは、映像を複数の品質に分けて符号化し、複数のチャンネルで送受信します。ネットワークが混雑したり、無線の状況が悪いなどの要因で十分な帯域が確保できなくなると、高品質データの映像の表示はできなくなりますが、ベースデータの表示は続けることができるため、ネットワークの帯域が変動して狭くなっても会議を続けることができます。
H.264 SVCを採用することで、無線ネットワークなど、帯域の変動が極めて激しい環境でも従来のように映像の途切れや切断といった現象は起きにくくなります。「いつでも、どこでも」を実現する可搬性と無線接続での映像の安定的送受信という課題に対し、M2MプラットフォームとH264 SVCを組み合わせることで相互の技術のメリットを最大限引き出し、円滑なコミュニケーションを行うことが可能としました。
本技術の分類:分野別「ネットワーク」|製品別「テレビ会議・Web会議」