リライタブル記録とは何でしょう。「リライタブルマーキング技術とは、熱、光、磁気、電界、圧力などのエネルギーを与えて可視画像を形成し、その画像はエネルギーを与えることなしに保持され、再びエネルギーを与えることによって画像が消去され、その繰り返しが可能な技術である」と定義されています(電子写真学会誌、第34巻、第4号、p.441(1995))。
リライタブル記録は、書いた画像を簡単に消せないか、という“想い”から始まったと推測されます。色変化を示すクロミック材料は数十年も前からフォトクロミック材料、サーモクロミック材料などが検討されてきました。色が変化したり画像が消えたりすることが、何よりもこれらを扱う人たちを魅了します。ニーズ面からも、コピー用紙などを使い捨てにするのではなく繰返し使用することによる環境負荷削減の用途や、磁気・ICなどに記憶された情報の一部を表示して可視化するなどの用途が提案されてきました。
現在、リライタブル記録は、磁気やICなどのメモリに蓄えられた情報の一部をカード上に表示するカード表示が主用途です。商品を買う際に購入価格に応じて与えられるポイントを加算して表示するポイントカードや定期券の期限を表示する期限表示カードがその代表例です。さらに、RF-IDとの組み合わせやレーザ記録によって産業用に用途が拡大しつつあります。これらには書き換えエネルギーに熱を利用するサーマルリライタブル記録材料が主に用いられています。
以下に、代表的なリライタブル記録材料であるロイコ染料/長鎖顕色剤型サーマルリライタブル記録材料の特性と発色・消色メカニズムについて説明します。
ロイコ染料と長鎖アルキル基を持つ顕色剤を組み合わせたサーマルリライタブル記録材料は、ロイコ染料の種類により黒、青、赤など任意の発色が得られるという特徴を持っています。長鎖アルキル基を持つ顕色剤分子は、顕色剤自身の結晶化する力を利用してロイコ染料から顕色剤を引き離すことができ、発色状態と消色状態を制御できます。この発色状態と消色状態は、図1に示すように加熱によりロイコ染料と長鎖型顕色剤が結合・分離することで制御されます。
ロイコ染料/長鎖顕色剤型サーマルリライタブル記録材料の発色・消色プロセスと、発色/消色現象のメカニズムを図2に模式的に示します。消色状態(A)から顕色剤を融点以上に加熱すると融解してロイコ染料と反応し発色します(B)。ここから急冷すると顕色剤がロイコ染料との結合を維持したまま規則性をもって凝集し、発色状態が固定されます(C)。発色状態(C)から昇温すると、発色温度より低い温度でこの凝集構造が崩れ始め(D)、さらに昇温すると顕色剤が会合(2個の分子が結合し1個の分子のように行動する現象)し単独で結晶をつくりロイコ染料をはじき出して消色します(E)。この状態から冷却すると元の消色状態(A)に戻ります。(A)では顕色剤は結晶状態で存在し、これがもっとも安定な状態となります。
ロイコ染料/長鎖顕色剤型サーマルリライタブル記録材料を実用化させるためには、いくつかの課題を解決する必要があります。リコーは以下のように技術課題を解決しました。
発色状態の安定性を高めるためにはロイコ染料と顕色剤の反応性を高める必要があります。一方、消色を短時間で行うにはロイコ染料と顕色剤を速やかに分離する必要があります。これらを両立させるために、リコーでは長鎖型顕色剤を新規に合成して新たな材料を創り出すことにより、両方の品質を達成させました。
レシートなどに多用されている感熱紙にもロイコ染料が用いられ、加熱して印字していますが、地肌の黄変や画像が茶色に変色する現象が見られます。これは、一般的にロイコ染料が光に対して弱いという性質をもっているためです。より長期に使用するリライタブル記録材料ではこの変色を防ぐことが特に重要です。また、形成した画像を消そうとしても薄く残ってしまうというリライタブル記録材料特有の現象が発生しますが、この劣化は紫外線と酸素によるものです。リコーでは、紫外線を防ぐため、記録層の上部に紫外線吸収剤を含有させた層を設けることにより耐光性をカード用途の実用レベルまで向上させることができました。さらに、物流用途などの屋外環境での用途拡大のために、新たな材料を合成し可視光ぎりぎりまで紫外線を遮断し、加えて新たに酸素遮断層を設けることにより、耐光性を従来の数十倍に向上させました。この技術はリライタブルレーザシステムに活用されています。
“リライタブル”という特性を活かして実用性を高めるためには、記録媒体自体の耐久性も高める必要があります。リコーでは、記録層の主材料であるロイコ染料と長鎖型顕色剤を保持するマトリックス樹脂を架橋(高分子を橋かけ結合して三次元網目構造にすること)することにより記録層自体の耐久性を向上させました。さらに、従来のサーマルヘッドからレーザに記録プロセスを変更してサーマルヘッドによるメディアへの圧力などの物理的負荷をなくし、加えて、均一に加熱できるようにレーザ走査を制御することで、繰り返し耐久性を1,000回まで向上させることを可能にしました。これらの技術開発により、リコーは従来にない高性能のリライタブル記録システムを実現しています。
画像は、サーマルヘッドやレーザを用い小さなエネルギーで記録層を瞬間的に加熱した後、その熱が周囲に急速に拡散して急冷されることによって形成されます。一方、消色は冷却速度にあまり影響を受けないため、さまざまな加熱方式で画像の消去が可能ですが、消色可能な一定の温度範囲に加熱する必要があります。RF-IDと複合化したタグメディア(図3)ではヒートローラやセラミックヒータなど加熱面積が大きな手段で画像を消去します。
リコーのリライタブルレーザシステムでは、図4のようにビームを大きくした円形ビームを2次元走査して消去領域を加熱しています。N字状の往復走査を連続で行うことで、消去時間を短くできるほか、折り返し部の過剰加熱を回避することができます。実際に消去している様子が図5です。照射レーザは不可視光線であるので光の軌道を目で見ることはできません。
リコーのリライタブル記録技術は、まず表示が書き換えられるポイントカードや定期券などのカード表示用途で実用化されました。その後、生産管理などに利用されるRF-IDと複合化したRECO-View RFタグが商品化され、さらに物流用途に活用されるメディアを通い箱に貼ったまま非接触で書き換えできるリライタブルレーザシステムへと用途が広がっています。
本技術の分類:分野別「サーマルメディア」「省資源」|製品別「サーマルメディア」「環境」