生物多様性依存とインパクト評価

LEAPアプローチに沿った自然関連の課題特定と評価

TNFDから提供されているLEAPアプローチに沿って、自然関連の依存とインパクトを診断しました。

自然との接点の発見

1.依存とインパクトの抽出(Locate)
ENCORE*1を活用し、対象となる操業内容から、ENCORE内の産業分類(sub-industry)を選択して評価しました。評価結果を表1に示します。

表1リコーグループの主要事業における自然との接点の抽出

操業内容 依存 インパクト
地下水 表層水 バイオマス 水循環 植生による洪水や暴風雨からの保護 水の
使用
水質
汚染
土壌
汚染
廃棄物 大気
汚染
GHG排出 騒音
光害
画像機器の製造 M M H H M M
画像機器消耗品の製造 M H H M H
サーマルペーパーの製造 VH H H M
印刷用紙/サーマルペーパー原紙の製造
(バリューチェーン上流)
VH VH M M VH H H M

凡例:低→影響度→高

M H VH

*1 国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンターなどが中心となって開発された、自然関連リスクの特定ツール

2.直接操業における優先地域の特定(Locate)
依存とインパクトの抽出段階で影響度が高いと推定された水と、自然資本を生産・回復する主体である生物多様性について、直接操業の拠点を以下の観点から評価し、優先地域を特定しました。結果を表2に示します。

  • 水資源における要注意地域:Aqueduct*2の「Water stress」「Water Depletion」「Untreated connected Wasterwater」のラベルが「HIGH」以上である
  • 水資源におけるマテリアルな地域:拠点の水使用量が相対的に多い
  • 生物多様性における要注意地域:①IBAT*3における、保全/復元ポテンシャルを示すSTARメトリクスが「HIGH」以上である ②実地調査により生態系の十全性が高い区域が事業所内にある
優先地域を有する国・地域として、日本・中国・東南アジア、北米が抽出されました。これらの国・地域、操業拠点について、より具体的な評価を進めていく予定です。また、生態系の十全性が高い恵那・御殿場においては保全活動を実施しています。
他の自然資本についても順次評価を進めていく予定です。用紙の製造拠点や原木の生産地については、今後同様のプロセスで評価を進めていく予定です。

*2 世界資源研究所により開発された、水リスクに関する評価ツール
*3 国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンターなどが中心となって開発された、生物多様性リスクに関する評価ツール

表2 直接操業(生産拠点)における優先地域の特定結果

対象 評価項目 特定方法 優先地域を有する国・地域
水ストレス Aqueduct 中国(2)・タイ(2)
使用量 自社データ 日本(5)・タイ(2)・北米(1)・中国(1)
汚染への感度 Aqueduct 中国(5)・タイ(2)・ベトナム(1)
生物多様性 保全/復元ポテンシャル IBAT 日本(12)・中国(5)・タイ(1)
生態系の十全性 実地調査 恵那・御殿場*

( )内は特定された優先地域内の拠点数
*自然共生サイトとして認定

3.依存とインパクトの診断(Evaluate)

依存とインパクトについて、生物多様性に対し特に重要な領域を特定するため、また、バリューチェーンを通じた影響の重大さを把握するために、日本における代表的な製品についてライフサイクル影響評価手法LIME*1により評価しました。画像機器については、印刷用紙に起因する負荷が60%以上を占める(図1)ことが分かり、サステナブルな用紙調達の重要性が改めて認識されました。 用紙の影響を除いた場合、気候変動、原材料調達段階による影響が大きいことが分かりました(表3)。これらは主に鋼板と樹脂に起因しているものです。
同様の評価をサーマルペーパーについて行った結果(表4)、気候変動と森林資源消費、原材料調達段階による影響が大きいことが分かりました。これらは主に基材と剥離紙の原材料である紙に起因しているものです。水資源については、 LIMEでは他の影響領域との比較が行えません。ENCOREにおける評価では重要性が高いとされていますが、バリューチェーンを通じた影響を評価したところ、紙や段ボールに由来する影響が大きいと推察されたことから、直接操業による取水の影響は比較的小さいと考えられます。水質・土壌汚染の重大さについては、今後評価を進めていく予定です。
リコーグループでは、この影響の低減に寄与する施策として、再生材の活用拡大、再生機の販売、剥離紙のないシリコーントップライナーレスラベルや、印字したい対象に直接表示するラベルレスサーマル技術を提供しています。
*1 本評価ではLIME3とLIME2を使用

図1 画像機器のバリューチェーンを通した生物多様性への影響

image:Product Safety Organization Chart

※印刷用紙の使用量は、評価対象とした製品の標準的な生涯使用量をベースに、裏表印刷や複数ページを1枚の用紙にまとめる印刷を考慮して推定

表3 画像機器(印刷用紙除く)のバリューチェーン段階ごとの環境影響

影響領域 LIMEにおける生物多様性の評価対象
気候変動 土地利用 化石燃料消費 鉱物資源消費 森林資源消費 廃棄物 生態毒性(水域) 生態毒性(陸域) 大気汚染 騒音
ENCOREによる抽出結果*2 関連する自然資本

重要度
GHG排出 バイオマス 廃棄物 水質汚染 土壌汚染 大気汚染 騒音や光害
LIMEによる生物多様性影響評価結果 原材料調達 VH M L L M L 今後評価予定 LIMEにおいて生物多様性への影響が十分小さいとされている
生産 M L L L L L
流通 H L L L L L
使用・維持管理 H L L L L L
廃棄・リサイクル M L L L L L

表4 サーマルペーパーのバリューチェーン段階ごとの環境影響

影響領域 LIMEにおける生物多様性の評価対象
気候変動 土地利用 化石燃料消費 鉱物資源消費 森林資源消費 廃棄物 生態毒性(水域) 生態毒性(陸域) 大気汚染 騒音
ENCOREによる抽出結果*2 関連する自然資本

重要度
GHG排出 バイオマス 廃棄物 水質汚染 土壌汚染 大気汚染 騒音や光害
LIMEによる生物多様性影響評価結果 原材料調達 VH H L L VH L 今後評価予定 LIMEにおいて生物多様性への影響が十分小さいとされている
生産 H L L L L L
流通 M L L L L L
使用・維持管理 M L L L L L
廃棄・リサイクル H L L L L L

凡例

L
<1%
M
≧1%
H
≧5%
VH
≧30%

数値はLIMEにより算出される生物多様性に対する寄与の割合

数値は個々の影響領域における寄与の割合

*2 ENCOREを用いた評価で依存やインパクトとして抽出されなかったもの、もしくは依存やインパクトの影響度が低いものは”―”で表記
影響度については、表3は「画像機器の製造」「画像機器消耗品の製造」の内、高いほうを選択、表4は「サーマルペーパーの製造」「サーマルペーパー原紙の製造」の内、高いほうを選択
インベントリデータベースとして、産総研 AIST-IDEA Ver.3.4を使用

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