近年、「モノからコトへ」といわれるように、市場環境は製品やサービスの持つ機能面が価値を持つ時代から、それらがどのような場面で利用者の目的を果たすのかといった経験的な側面が価値を生む時代へと移り変わって来ています。
リコーでは、従来のような技術指向の製品開発のアプローチだけではなく、実際のお客様を想定したニーズ指向の開発アプローチとして「エスノグラフィ」を取り入れています。
従来のOA機器などの周辺だけでなく、さらに視野を広げて、お客様の働く場全体を深く知り、潜在的課題やニーズを見つけて、お客様のお役に立てる次世代の製品・サービスにつなげることを目指しています。
エスノグラフィ(民族誌学)とは、人類学者が異なる文化で暮らす人々を理解、研究するために開発したフィールドワークという研究手法のことで、研究の結果を民族誌という形で記録します。この手法では、調査対象となる人々と長期間一緒に生活したり、活動しながら、人々のふるまいや人間関係を観察したり、時にはなぜそのようなことをするのかといったインタビューを行ないます。
私たちは、このエスノグラフィのアプローチを企業活動に応用しています。お客様の日常や業務の観察やインタビューを通じてお客様を理解することで、お客様自身が気づいていない潜在的なニーズを明らかにし、新たな製品・サービスの企画につなげていきます。
私たちのエスノグラフィは、大きく分けると「問いを立てる」「フィールドリサーチ」「アイデア創出」「試す」の4つのステップで構成されています。
各ステップを順番に追っていくだけではなく、何回も行ったり来たりを繰り返しながら、小さく、速くプロセスを実践しています。
技術トレンドや社会変化の分析、未来洞察を用いて、世の中にどんな人々がいてどんな課題を抱えているのかを浮き彫りにし、そこに対する問いを立てることで、リサーチするフィールドを設定します。
設定したフィールドで、実際にリサーチを行います。
お客様が誰であり、彼らにとって重要なものは何なのかを理解することを目的とし、主に観察とインタビューの2つの方法を用いて、新鮮な目で物事を捉えていきます。
◆観察
短時間の行動を見る行動観察と、数日から数ヶ月程度の行動を見る参与観察の2種類があります。どちらの観察方法でも、お客様の日常的な自然な振る舞いを見ることで、お客様の発言と行動の間の矛盾や、現状の課題に対するお客様独自の解決方法などを明らかにしていきます。
◆インタビュー
質問事項をぶつけるのではなく、お客様との会話を通して、彼らの本音に迫る回答を引き出していきます。
リサーチで得た事実を大切にしつつ、新たな「インサイト」や着眼点を獲得するために分析を行ないます。チームでのブレインストーミングなどを経て、よりお客様の生活や仕事のやり方を大きく変えるアイデアを創出していきます。
アイデアをプロトタイプとして表現し、それらを用いてお客様に疑似体験してもらい、フィードバックを得ます。
プロトタイプにはペーパープロトタイプ、ファンクショナルプロトタイプなどいくつかの種類がありますが、お客様に体験を理解してもらえる、安く早く失敗できる、自分自身がアイデアと対話できるという共通の効果が得られます。
私たちは、リコーインタラクティブホワイトボード(以下、IWB)の開発時に価値検証活動を行いました。
北米に拠点を構えるWebサイト開発チームの元にIWBのプロトタイプを持ち込み、約1ヶ月間の使用の様子を観察し、インタビューを実施しました。
観察やインタビューの中で、開発リーダーは意思決定と部下への指示において迅速さと正確性を重要視していること、そしてIWBによって会議が効率的になること、彼らの仕事の流れ自体が変わること、といった幾つもの気づきが得られました。
その中でもっとも印象的だったのは、開発リーダーが語ってくれた「IWBを使うと会議がクールになった」という言葉です。そこから、会議を効率化するだけでなく、「IWBを使用すること自体がお客様の感性を刺激するのではないか」という気づきを得ることができました。