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製品・取り組み

廃プラスチックの社会課題を解決する樹脂判別ハンディセンサー。リコーが描くサーキュラーエコノミーの未来像

目次

一般家庭からも産業からも、日々大量に廃棄されているプラスチック。環境負荷の大きい焼却や埋立で処理されているプラスチックもまだ多く、世界的に問題視されている。そんな社会課題の解決に寄与するのが、リコーの樹脂判別ハンディセンサー「RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150」だ。

開発の背景や、この製品で実現したい未来について、環境・エネルギー事業センター 循環型ソリューション開発室の釜谷智彦室長、同開発3グループの野口英剛リーダー、同企画・PM3グループの寶田達也氏、総合営業推進部・事業化支援グループの田山紀彦氏の4人に、話を聞いた。

再生利用はまだ一部。廃プラスチックをめぐる社会課題

プラスチック循環利用協会の資料によると、2020年の日本の廃プラスチック(樹脂)の総排出量は、822万トン。そのうち、リサイクルされているプラスチックは年間709万トンだ。173万トンが、同じ素材の原料に変える「マテリアルリサイクル」、27万トンがプラスチックを油など他の物質に変える「ケミカルリサイクル」で、再利用されている。その一方で、年間509万トンが、プラスチックを燃やして発生する熱エネルギーを利用する「サーマルリサイクル」で処理されている。

樹脂判別ハンディセンサー「RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150」のマーケティングを担う寶田達也氏は、8割以上のプラスチックがリサイクルされているとはいえ、環境負荷の少ない素材の再生利用は十分に普及していないと語る。

環境・エネルギー事業センター 循環型ソリューション開発室 企画・PM3グループ 寶田達也氏

「サーマルリサイクルはエネルギーを再利用するとはいえ、焼却していますから環境に負荷をかけます。ではなぜ、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルができないかというと、さまざまな種類があるプラスチックを正確に分類するのは、コストや手間がかかり、難しいからです。分類されないプラスチックを、サーマルリサイクルでまとめて燃やしてしまっているのが現状です」(寶田氏)

分類が難しいために、リサイクルが進まない。そんな廃プラスチックの問題を解決するのが、RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150だ。

プラスチックリサイクルに風穴を開ける樹脂判別ハンディセンサー

RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150

RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150は、分類ができないことからサーマルリサイクルや廃棄で処理されていたプラスチックの再生利用を推進する目的で開発された。その最大の特徴は、シンプルでスピーディな操作性だ。センサーを対象物にかざしてボタンを押すと、わずか2秒でスマートフォンやタブレットのアプリに測定結果が表示される。片手で持てるサイズで、スマホとセンサーがあればどこでも測定できるモバイル性も魅力だ。

判別可能なプラスチックの種類は、2022年9月時点で、13種類。日本で生産されている樹脂の8割以上を網羅する。判別ができなかった素材の測定結果を、名前をつけて100件まで保存できるユーザー登録機能も有している。

この開発を手がけたのが、リコーの環境関連製品を担う環境エネルギー事業センターの循環型ソリューション開発室だ。リコーグループは、循環型社会実現のコンセプトとして1994年に「コメットサークル」を制定して以来、30年以上にわたり、製品や部品再生などの事業による循環型社会実現に向けた取り組みを推進している。同センターは、その活動の中枢を担う拠点だ。

環境エネルギー事業センター 循環型ソリューション開発室の室長であり、このプロジェクトを主導する釜谷智彦氏は、同センターの役割をこう語る。「環境エネルギー事業センターが手がけているのは、主に環境課題に取り組む新規事業です。中でもこの循環型ソリューション室は、循環型社会の実現に向けた製品を手がける部門。樹脂判別ハンディセンサーの展開をきっかけに、今、世界のサーキュラーエコノミーに一石を投じようとしているところです」。

リコー独自の光学装置でコンパクト・シンプルな操作性を実現

樹脂判別ハンディセンサーで使われている独自技術の誕生は、その前身の大型分光方式樹脂判別センサーにさかのぼる。世界における廃プラスチック問題への意識の高まりや、中国の廃プラスチック輸入禁止などの情勢を受けて、使いやすい小型センサーの開発プロジェクトがスタート。2021年に製品化のめどが立ち、現在、本格的な販売開始に向けた実証実験中だ。

製品化を叶えたのは、リコー独自のMEMSミラーと、凹面回折格子というふたつの光学装置だ。センサーの小型化とシンプルな使い勝手を実現したこの技術について、開発を主導した野口英剛リーダーはこう話す。

環境・エネルギー事業センター 循環型ソリューション開発室 開発3グループ 野口英剛リーダー

「このセンサーの仕組みは、簡単に言うと、近赤外線を対象物に当てて、戻ってくる光のスペクトルを測定して素材を判別します。MEMSミラーは、リコーの複写機や車載用ヘッドアップディスプレイ向けに開発された装置です。それを今回のセンサーに応用させ、さらにリコーが持つ精密な成型技術で実現したミラー状の凹面回折格子と組み合わせることで、単素子ディテクタによるスペクトルデータの取得が可能になり、小型化・低コスト化を実現できました」(野口リーダー)

スマホやタブレットのアプリとの連携も、使いやすさを追求する上で欠かせなかった。「センサー自体に判別機能や表示部を持たせると、大型化してコストも上がります。コンパクトなサイズとシンプルな操作性は、開発当初からのテーマでした。判別処理や、結果の表示などのUIはアプリの更新で改良していくことができますから、本体の機能は、光のデータを採取してアプリに送るのみにとどめました」と、野口リーダーは振り返る。

手軽な分類によって廃プラスチックのリサイクルを加速

樹脂判別ハンディセンサーの活用場所として想定したのは、廃プラスチックを扱うリサイクル業者や、製造過程で廃プラスチックが発生する自動車、電機、食品などのメーカーだ。

プラスチックは種類が多岐にわたるだけでなく、素材が混合するものも多く、樹脂メーカーごとに配合が違うケースもあるため厳密な分類が難しい。マーケティングや販売戦略を手がけ、センサーを使用する現場の声を多く聞いてきた田山紀彦氏は、廃プラスチックをめぐる企業の課題や、センサーの導入で見込める効果をこう語る。

事業企画センター 総合営業推進部 事業化支援グループ 田山紀彦氏

「プラスチックの種類に関する知識がない、費用をかけられない等の理由から、プラスチックがまとめて廃棄されているケースも多いです。リサイクル業者さんでは、素材がわからない樹脂があると、ベテラン社員さんが樹脂に火をつけて、炎の色を見たり、匂いを嗅いだりしているぐらい、分別は難しいんです。樹脂判別ハンディセンサーがあれば、経験に関わらず、誰でも樹脂を正しく判別できます。センサーの導入によって、まとめて捨てていた廃プラスチックの再利用の可能性が広がるんです」(田山氏)

実証実験で、センサーを使用しているリサイクル業者は、そのモバイル性も評価する。「センサーを、廃プラスチックを買い取る顧客のところに行く営業に持たせたいという声があるんです。顧客先で種類がわからないプラスチックがあると、持ち帰って調べてから見積もりを出すそうなのですが、営業が顧客先で素材をすぐ判別できれば、その場で見積もりが出せて、ビジネスチャンスが広がります。営業効率を上げるツールとして、期待を寄せていただいています」(田山氏)

廃棄物の処理に悩むメーカーの課題も、樹脂判別ハンディセンサーは解決する。実証実験に参加するメーカーからは、捨てていたプラスチックを有価でリサイクルへ回すことで、処理費用を抑えられたという喜びの声もあがっている。消費者の関心が高まる環境問題に対処することで、企業の社会的責任を果たせるのも大きなメリットだ。

樹脂判別ハンディセンサーが子どもたちの意識を変えるきっかけに

リコーは、樹脂判別ハンディセンサーを通して、廃プラスチックに関する意識変革を促す活動も行っている。地域の環境プロジェクトや学生向けイベント、観光ツアー内の企画で、一般ユーザーに、樹脂判別ハンディセンサーを実際に使ってもらう取り組みだ。福井県小浜市で行われた「海と日本プロジェクト事業」では、小学生が、回収したプラスチックの海洋ゴミの種類を、センサーを使って自ら測定し、素材ごとに分類した。

「樹脂判別ハンディセンサーは簡単に使えるので、子どもたちも楽しく測定を体験していました。お子さんは素直なので、判別不能という結果が出ると『えー、できないのー?』と不満がっていて(笑)。そういうときは、『こういう袋の素材はリサイクルがしにくいんだよ。だからあまりゴミを出さないようにしようね』と伝えると、理解してくれました。イベントを通して、子どもたちが廃プラスチックの問題に関心を持ってくれたら嬉しいですね」(寶田氏)

リコーが描く、サーキュラーエコノミーの大きな絵

センサーの技術開発に長く携わってきた野口氏の視線は、製品の正式リリース後の展望もとらえている。「現時点では、色が濃い樹脂や、複数の原料が積層された樹脂の判別はまだまだ難しい。より多くのプラスチックをカバーできるように、技術開発を進めます。また、廃プラスチックの約半数は、家庭から出るプラごみです。現在は産業向けですが、将来的には、価格面も含めて、家庭でも使っていただける製品へと改良していきたいです。そのためには、お客様のニーズをしっかり聞き、製品にフィードバックするという開発の姿勢を最重視していきたいですね」。

実証実験に参加している企業からも、判別種類の増加などのニーズも多く届いている。本格販売開始に向けて、現場の声を生かしてさらに改良を重ねていきたいと、寶田氏は意気込む。

「樹脂判別ハンディセンサーで分別を習慣化していただいて、今後、さらに精密な大型判別装置を導入して、プラスチックの分別を本格的に進めていただくのもいいと思います。そうなれば、2022年4月施行のプラスチック資源循環促進法もあいまって、マテリアルリサイクルが増えていくと期待しています。この樹脂判別ハンディセンサーを、『リサイクルは手間もお金もかかって、再生素材の質も悪い。だからリサイクルしなくていいや』という皆さんの意識を変えて、リサイクル推進へと踏み出すきっかけにしたいですね」(寶田氏)

田山氏は、樹脂判別ハンディセンサーが、ユーザーがプラスチックについて深く知る機会になると見込んでいる。「このセンサーを使うことで、企業も大人も子どもも、プラスチックの使用をなるべく減らそうとか、できるだけ単一素材のプラスチックを使おうというように、行動を変えるきっかけを得られると思います。私自身、この製品に携わり、そのお手伝いをすることで、社会課題の解決に少しでも貢献できたら嬉しいですね」。

樹脂判別ハンディセンサーは、リコーのサーキュラーエコノミーの実現に寄与する活動をさらに広げていく上での土台になると、釜谷室長は話す。「リコーは今後さらに、サーキュラーエコノミーの大きな絵を描いていきます。リコーが循環型社会のこの部分に寄与したと堂々と言えるような成果を残すために、まずはこの製品を確実に世の中に浸透させます。その上で、リコーだけではできないことも、パートナーとも協力しながら実現し、サーキュラーエコノミーをさらに推進していきます」。

プラスチックリサイクルの可能性を広げる樹脂判別ハンディセンサーが今後、リコーの循環型社会実現へのチャレンジを、さらに加速させていく。

製品情報

樹脂判別ハンディセンサー

ニュースリリース

樹脂判別ハンディセンサー「RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150」を発売

リコー、小型・軽量の樹脂判別ハンディセンサーを新開発

お知らせ

樹脂判別ハンディセンサーで「第6回エコプロアワード」経済産業大臣賞を受賞

樹脂判別ハンディセンサー「RICOH HANDY PLASTIC SENSOR B150」が2022年度グッドデザイン賞のグッドデザイン・ベスト100に選出

私の選んだ一品 「デザインの手ざわり」 - 2022年度グッドデザイン賞審査委員セレクションに出展(2022年10月7日(金) - 11月6日(日))

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