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第二章 セーブ・ザ・メモリープロジェクトの全体像

(2)写真の洗浄と乾燥

  写真の洗浄方法に関しては、先に写真洗浄ボランティア活動を行っていた写真関連企業から学ばせていただきました。その写真関連企業のWebサイトには、現在も写真洗浄のテクニックが掲載されています。

  津波をかぶり、がれきに埋もれてしまった写真は、表面上の汚れがあるだけではなく、バクテリアが付着しています。写真が汚水で湿った状態にあると、そのバクテリアが活動して写真の画像を表面の層から侵食していきます。ゆえに、写真洗浄前であっても、濡れた状態ではなく乾かしてあるほうがベターです。ただし、混乱した被災現場でそのような管理は難しく、汚水や湿った泥にまみれた状態のままの写真は数多く見受けられました。
  アルバムのまま汚損状態にある写真はあらかじめアルバムを解体して取り出しておきますが、同じアルバムの写真がバラバラにならないよう留意して洗浄、乾燥を行います。

  写真の洗浄は、基本的に水(温度が低めのぬるま湯)を使って一枚一枚手作業で行われます。作業環境の気温・室温にもよりますが、作業環境の温度が低く水が冷たい場合は作業者の手作業に影響するため、あらかじめ水中ヒーターを使って水を温めておきます。大きめのパレットに水を張り、作業テーブルの上に洗浄環境を整えます。大量の写真を処理する場合、作業時間も長くなりますので、作業者に負担のない姿勢で作業が続けられる工夫が必要です。私たちは一般的な会議用長テーブルを一列に長くつなげ、「ライン」状に設置し、イスに座って洗浄作業ができるようにしました。このラインとなったテーブル上に、水を張ったケースまたはパレットを置きます。
  汚れを取る作業は段階的に行われます。汚泥の付着状況にもよりますが、三段階~四段階で徐々にきれいな状態にしていきます。一般的な流れとしては、「泥、ひどい汚れを洗い流す」→「大まかに汚れを洗い流す」→「写真の細部まで丁寧に汚れを取っていく」→「最後にきれいな水で仕上げ洗い」、と進んでいきます。あらかじめひどい汚れが洗い流してある写真については、三段階で十分きれいな状態になります。乾いた泥が付着している場合は、水の中に投入する前に、ブラッシングで大まかに泥を除去する方法もとりました。

  大量の汚泥を落とすためには、大量の水が必要です。最初の洗浄作業を行うためには、大型で深さがあるプラスチック製ケースを利用しました。後半の丁寧に洗う作業、仕上げ洗いについては、底が浅いステンレス製またはプラスチック製パレットを利用しました。水はすぐに汚れてしまいますので、大型のポリバケツやケースに水を汲み置きし、適宜汚れた水を取り替えながら作業を行います。効率よく作業を行うためには、きれいな水の汲み置き用バケツと、汚れた水を捨てるためのバケツが必要となります。

  洗浄作業は手で行うため、手を保護するための極薄の使い捨てゴム手袋を装着します。極薄である理由は、写真洗浄の最中には汚れの状況を指先の感覚で確かめることが重要であるためです。厚めであったり固めの素材のゴム手袋は適切ではありません。大きな汚れを取る段階では、ブラシを利用することもあります。ただし、写真や画像を傷つけてしまわないよう十分に注意が必要です。細かい汚れを丁寧に取っていく段階では、水の中で写真の表面を親指の腹でなでるようにして洗浄を行います。砂状の汚れを取る場合、やわらかいブラシを利用して水の中で丁寧に砂を取り除く方法もあります。汚れの状態にもよるのですが、汚れを落ちやすくするため、写真をしばらく水に浸しておく場合もあります。こびりついた汚れを浮かすことが目的ですが、この場合も長時間浸さないように注意が必要です。画像の浸食が進んでいる写真の場合、長時間水に浸すことによって画像が溶け出してしまうことがあります。
  アルバムから取り出された写真は、バラバラにならないようひとまとめにして洗浄しました。

  以上、写真の洗浄作業は汚れの程度や保管状態、被災からの経過時間によってケースバイケースで対応していく現場管理となります。私たちは毎日の洗浄枚数やスキャン枚数を管理しながら、経験とノウハウの蓄積によって高い作業品質と効率を保つよう心がけました。

  最後に、洗浄した写真を干して自然乾燥させます。まず最初に、きれいな水で仕上げ洗いされた写真の水分をCDラックなどに立てかけて切り、次にペーパータオルを使って吸い取ります。私たちは、自社工場で使用している工業用の「キムタオル」というペーパータオルを使用しました。吸水性が高く耐久力があってケバ立ちがなく紙粉が出ない、という特長がある製品です。
  どんどん洗い上がる多くの写真を効率的に干すため、荒い目のネットと洗濯ばさみを利用した「写真干しスペース」を設置しました。乾燥を早めるため、扇風機による送風も行いました。写真のこれ以上の損傷を防ぐため、生乾きではなくよく乾燥させます。温度・湿度に影響を受けますが、写真の自然乾燥には時間がかかります。連続的に洗い上がってくる写真洗浄の量・スピードと、時間がかかる写真乾燥のバランスを取ることが重要な管理項目でした。
  もともとアルバムに貼ってあった写真については、まとめて洗浄してありますので、バラバラにならないよう明確に識別できるように付箋でマーキングを行って乾燥させるようにします。

  膨大な量の写真を処理するため、セーブ・ザ・メモリー ファクトリー名取、ファクトリー東京、ファクトリー海老名において、リコーグループ社員の方を対象とした写真洗浄ボランティアを募集しました。
  ボランティア活動は基本的に毎日行われ、社内広報活動や社内掲示ポスターなどで参加を呼びかけました。ボランティア活動へのエントリーを円滑に行っていただくためのボランティア予約管理Webシステムも開発し、社内イントラネット上で予約や取消しをできるようにしました。
  ボランティア活動には、各セーブ・ザ・メモリーファクトリーの近隣に勤務する方々だけではなく、遠くに勤務する方もクルマや電車を使って参加いただいております。平日に休暇を取って参加いただいた方も多数いらっしゃいますし、終業時間後、夜のボランティア活動に連日参加いただいた方も多数いらっしゃいました。
  最終的に、のべ518名の皆さんに写真洗浄ボランティアに参加いただき、現地での活動と合わせて40万枚以上の写真を洗浄し、高品質な画像データとしてデータベース化を行うことができました。

汲み置いた水

冷たい水をヒーターで温める

写真洗浄トレーと水切り台

写真洗浄ライン

泥をとるブラッシング

写真洗浄中

写真洗浄中

写真洗浄中

洗浄された写真と汚れた水

写真を干すネットと洗濯バサミ

写真乾燥スペース

写真乾燥中

写真を干す

写真乾燥中