お役立ちコラム
2024.4.8
AIをビジネスの現場で活用する企業が増えている一方、AIを使って具体的に何ができるのか分からず、導入が進んでいないという企業も少なくありません。AI活用を検討したくても、メカニズムや「できること」を理解していないと自社ビジネスに活用するアイデアは広がらないでしょう。
将来的にビジネスを拡大させていきたいなら、AI活用は必須になってくると言えます。この記事では、AIの基本的な仕組みをおさらいするとともに、ビジネスでの活用事例や業務効率化を実現するためのヒント、そしてAIは未来に向けてどう進化し、どう活用されていくのかも含めて詳しく解説します。
AIは「Artificial Intelligence」の略称で、日本語では人工知能とも呼ばれます。一般的に「AI」や「人工知能」と聞くと、人間よりも万能で、あらゆる課題を解決できるコンピュータのようなものをイメージしがちです。また、人によってはアニメの世界に登場するような人格のあるロボットを連想するかもしれません。
しかし、上記のような万能なAIはいまだ存在せず、AIにできることも限られています。まずはAIの定義や仕組みなど、最低限押さえておきたい基礎知識を確認しておきましょう。
AIという言葉は最近になって登場したものではなく、実はコンピュータ開発が始まった1950年代から存在していました。その当時よりも技術は目覚ましい発展を遂げているものの、今も昔もAIについて明確な定義はありません。
しかしAIという言葉が広く普及し、認知度も高まった現在においては、「人間が話す言語を認識したり、人の知覚や能力を再現したり、さまざまな情報をもとにした推論や問題解決を検証・実行したりすることが可能な仕組みあるいはその技術」といった理解が一般的でしょう。それをより端的に言い換えれば、「人工的に開発された知能」と表現できます。
AIはどのようにして人間が話す言語を理解したり、知覚や能力を再現したり、推論や問題解決を行ったりしているのでしょうか。AIの基本的な仕組みは、私たち人間が言語を習得したり画像・映像から情報を理解したりするプロセスと似ています。
すなわち、膨大な情報をもとに経験や学習を積み重ねることで、言葉の意味や画像・映像に映っているものが何なのかを理解できるようになるのです。そこで重要なキーワードとなるのが「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」いう手法です
機械学習とは、膨大なデータをコンピュータへ読み込ませた上で、データを見分けるパターンや特徴をAIに学習させる手法です。
たとえば、犬と猫の画像が1枚ずつあったとしても、それだけではどちらが犬なのかをAIは判別することができません。そこで、体格の大きさや鼻の形、耳の形、体毛の長さなどさまざまなポイントをコンピュータに指示することで、それに従って犬なのか猫なのかを判別できるようになるという仕組みです。
深層学習(ディープラーニング)とは、機械学習のように人間が指示を与えるのではなく、コンピュータが自ら特徴を見分け、学習していく手法です。
100枚、1,000枚という膨大な犬や猫の画像を読み込ませることで、人間が指示を与えなくても体格の大きさや鼻の形、耳の形、体毛の長さなどの特徴的な要素を自ら抽出し、判別できるようになります。なお、コンピュータに読み込ませるデータは「学習データ」と呼ばれ、学習データの量が多いほどAIの精度は上がっていきます。
AIは徐々に私たちの社会に浸透しており、ビジネスシーンにおいても活用の幅が広がっています。以下は、各分野における代表的なAI活用事例です。
株式の取引においては、企業の業績や業界全体の動向、過去の株価の推移などさまざまな情報をもとに判断しなければなりません。一般的にはトレーダーが情報を収集し、知識やこれまでの経験則・勘などをもとに投資先を選定しますが、近年ではAIが株価を予測するサービスも登場しています。AIの株価予測は的中率が高いサービスも多く、効率的に株の取引をサポートできます。
さまざまな疾病があるなかで、死因の上位を占めているガン。対策として、こまめな検査による早期発見が何よりも大切です。しかし、初期のガンは腫瘍が極めて小さく、検査を行っても発見が難しいという課題がありました。検査画像をAIによって診断することで、専門医ですらも見逃す可能性のある初期のガンが発見しやすくなり、早期治療につなげられます。
建設現場には常に危険が潜んでおり、作業中に大規模災害に見舞われると命を落とすリスクも高まります。そのため、建設現場では作業に入る前に必ず「危険予知活動」が実施されています。
これは、その現場で起こり得る危険や災害を予測し対策を講じるものですが、具体的な事例を探し出すには時間と手間がかかるほか、防災対策の知見が不十分だとリスクを見逃す恐れもあるでしょう。建設業界の中には、過去の膨大な災害事例をAIに学習させ、危険予知活動に役立てている企業もあります。
重要なライフラインである電力は、常に需要が一定ではなく、時間帯や季節、曜日などによっても大きく変動します。しかし、電力はガスや水のように溜めておくことができず、発電した電力は速やかに送電し、消費に回さなければなりません。すなわち、安定した電力供給には需給バランスを見極めが重要と言えます。
そこで、過去の電力需要やエネルギーの市場価格、気象情報などのデータをAIに学習させ、需要予測に役立てるサービスも登場しています。これにより高い精度で電力供給量を予測し、合理的でムダのない発電計画が立案できます。
人手不足やECサイト(インターネットショッピング)の需要増加などにより、物流業界は逼迫した状況にあります。物流量を適切に予測し、それに応じて配車や人員を配置しなければなりませんが、これまでは物流各社のノウハウや経験などに頼るケースが一般的でした。
今日では、AIに過去の物流データや気候、日付などの情報を学習させ、物流量の自動予測に役立てている企業もあります。
「AI活用」と聞くと大きなビジネス課題を解決するための切り札というイメージが先行しがちですが、身近な業務に役立てることも十分可能です。業務効率化を実現するためには、どのような活用法が考えられるのか――。未来の展望やAIの今後の可能性も含めて解説します。
日々多くの問い合わせが寄せられるカスタマーサービスセンターやヘルプデスクの現場では、オペレーターによる有人対応が一般的でした。しかし、問い合わせの中には「請求料金の確認」や「パスワードのリセット」など、定型的な内容も少なくありません。
チャットボットを導入すれば、AIが問い合わせ内容を自動的に判別し、それに応じたメニューや解決法を提示することができます。これによりオペレーターにかかる負担や人件費を大幅に軽減できるほか、自動化による問い合わせ時間短縮によって顧客満足度の向上も実現できるでしょう。
取引先と契約を締結する際、契約書の内容によっては法的なリスクが生じ、トラブルに発展する可能性もないとは言えません。このような問題を未然に防ぐためのステップとして契約書のリーガルチェック(法務確認)は不可欠ですが、リーガルチェックには法律の専門的な知識が求められます。
AIなら、法律に関わる専門的な知識を学ばせることも可能です。AIが契約書の法務リスクをチェックし、修正すべき箇所や必要事項の抜けや漏れなどを検知するサービスも登場しています。
顧客や取引先とメールでやり取りを行うにあたり、ビジネスマナーやルールに沿った適切な文面を作成するのは意外と手間がかかるものです。また、クレームや苦情などがあった場合は、先方に失礼のないよう文言に十分な配慮をしなければなりません。
今日では、伝えたい内容やキーワードを入力するだけで、AIがビジネスシーンに適した文面を自動的に作成してくれるサービスも登場しています。新入社員やビジネスメールに不慣れなケースでも失礼のない適切な文面を作成でき、こちらの伝えたい内容も正確に伝えられるでしょう。
グローバル化が進む世界において、海外の顧客や取引先、関係者などとコミュニケーションをとる機会は今後さらに増えていくと予想されます。そこで、未来のビジネスシーンにおいて特に注目されているのがAIを活用した翻訳・通訳サービスです。
外国語の翻訳に対応したWebサービスやアプリケーションは数多く存在しますが、必ずしも正確な意図に翻訳できるとは限らず、言葉のチョイスも不自然に感じてしまうことがあります。
AIの自然言語処理の精度がさらに向上していけば、外国語で記載された文面を正確かつ自然な言語に変換することはもちろん、ビデオ通話や音声通話などの際に通訳を介すことなくリアルタイムで多言語に変換することも可能になります。これにより、誰もが簡単に多国籍コミュニケーションを実現できるため、海外を見据えたビジネスも展開しやすくなるでしょう。
「生成AI」とは文章、画像、音声、動画、プログラムなど、さまざまなコンテンツを生成できる人工知能のこと。使用者の問い合わせ(プロンプト)に対して、大量のデータからその回答を生成する能力を持つAIを指します。
生成AIでは米国・OpenAI社が開発したChatGPTが有名ですが、ChatGPTは大量のデータを学習した学習モデルが人間の作成するような文章を生成できる、いわゆる「文章生成モデル・自然言語処理モデル」です。
先に紹介したチャットボットやリーガルチェックなどをはじめ、企業の業務効率化には生成AIの活用が不可欠です。社内情報をどのように生成AIに取り込むか、そしてその方法をどう作るかがこれからの重要な課題と言えます。
ビジネスシーンにおける本格的なAI活用はまだ始まったばかりで、生産性向上や新たなビジネスモデルの中核として取り組んでいる企業もそれほど多くはありません。
リコーはそれぞれのワークプレイスにおける課題を深く理解し、最適なAIを開発し使いこなすことで最適な解を見つけ出し、働く人へ価値を提供しています。
人間と同じように「見る・聞く・考える・話す」ことによって営業をサポートするバーチャルヒューマン「リコーAIエージェント」の開発はその一例です。将来的には、商談に役立つ情報を営業担当者へ提供してセールス活動をサポートすることはもちろん、お客様と自然な会話をしながら直接商談ができるレベルの実現を目指しています。
「リコーAIエージェント」について気になった方は、以下の記事をご覧ください。
未来の"はたらく"を創る技術開発。AIエージェントで営業の働き方を変えたい|RICOH
監修者
森 雅俊(もり・まさとし)
東京大学 博士(工学)。現在は埼玉学園大学経済経営学部で教授を務めるかたわら、企業の業務効率化に対する支援を行っている。約10年間にわたってAI活用による業務効率化を研究しており、2023年にはこれまでの研究から『「生成AIによる活用による業務改革」-ChatGPTやBardを活用した業務効率化-』を上梓。