事業を通して生み出す新しい価値の提供により社会的課題の解決を目指すCSVを成長戦略のひとつと位置づけています。技術や商品・サービス、人材などのリコーグループのリソースを活かして社会課題を解決するとともに、それが新たな市場や顧客の開拓、イノベーションの創出などの事業への貢献につながることを目指しています。
子どもの数が世界で一番多いインドでは、学校に通えない子どもや学校を中退してしまう子どもがたくさんいます。こうした背景には、教育に対する意識の低さや教育サービスの質の悪さ、インフラや教材の不足など、さまざまな課題があります。そこで、教育現場をサポートする製品やサービスをお届けしているリコーだからこそできる活動で、国の発展の基盤となる教育分野に貢献したいと、2011年よりセーブ・ザ・チルドレンとの協働をスタートさせました。まずは、学校・行政、教育支援を行うNGOなどに印刷機を寄贈し、授業の質的向上や情報共有への活用、学校の運営改善への支援を行ないました。
2013年10月からは、新たにプロジェクターとデジタル教材を活用した授業を実施し、子どもたちがより楽しく参加できる質の高い授業を目指すと同時に、リコーとして新興国の教育市場に提供するソリューションパッケージの開発・事業化を目指す調査活動を開始しました。
生活圏の外と接する機会も限られている子どもたち、特に貧困地域に住む子どもたちにとって、映像や画像を通して視野を広げることができる機会は非常に重要であり、大きな画面でわかりやすく伝えられるプロジェクターとデジタル教材の導入は、「教育の質の向上」に大きく寄与できると考えたからです。
第1期は、デリ、テランガナ州、ビハール州の各10校において、教員研修やカリキュラム作成を担う州・県の教育機関も巻き込み、4・5年生の「理科・生活科」(Environmental Studies)の授業を対象に教員研修や教材作成を実施。学校では、実際にプロジェクターを導入し、デジタル教材に加えて、体験する活動も取り入れ、先生と子どもたちとの対話を増やすなど、効果的な授業の検証を行ってきました。これまでの活動の結果、こうした授業の実施前と実施後では、子どもの理解度、先生の指導力、モチベーションなどの各指標で大きな改善が見られています。
2015年10月以降の第2期では、テランガナ州の20校を対象に、言語(テルグ語・英語)の教科のデジタル教材の開発・授業の導入支援を行いました。対象学年や教科を広げ、教員研修を実施・普及させることで、学校現場での教育の質が持続的に向上していく仕組み作りをサポートしてきました。その結果、県の教育局では、教員が作成した100以上のコンテンツが、常にダウンロードできる状態となり、教員養成コースには、デジタル教材の開発研修が組み込まれました。
こうした成果を踏まえ、テランガナ州教育局は、ICT*1を活用した授業のモデルを州内の学校に拡大することを決定し、すでに一部の学校において、リコーのプロジェクターの導入も進んでいます。今後は、本プログラム期間を通して見出した学校現場のニーズにマッチしたプロジェクターやITサービスなどのソリューションパッケージにより、ビジネスを通して教育の質の向上に持続的に貢献していきたいと考えています。
印刷機を活用したプログラムの成果
BOP (Base of the Pyramid)と呼ばれる新興国や途上国の貧困層は、国の経済的発展のかげで、多くの社会的課題を抱えながら生活をしています。リコーは、インド農村部の貧困層が直面する課題解決に持続的に貢献するために、現地の人たちによるビジネス創出とその拡大を支援しています。こうした活動を通して、将来のリコーのビジネスアイデアを創出するとともに、農村部の生活の質の向上や都市部と農村部の格差解消への貢献を目指しています。
この取り組みを進めるにあたり、パートナーであるインドの社会企業・Drishteeとともに、活動地域として選んだのはインド北東にあるビハール州の村です。2010年~11年にかけて、社員の中から農村滞在者を選抜し、1ヵ月にわたる滞在を2度実施。まず村人と信頼関係を構築することに重点を置き、現地の生活、文化を理解し、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを繰り返すことで、現地の困りごとやニーズの把握を行いました。その結果、多くの課題がある農村の持続的な発展のために、まずは「現地の方々のビジネスを創り・育て、それに寄り添ってサポートをすることでリコーのビジネスを見つけること」を目指すことを基本ポリシーとしました。
村人発のビジネスアイデアと起業家を発掘するため、2011年には、アイデア・コンペティションを開催し、集まった31のアイデアの中から、2名の女性起業家のビジネススタートをサポートしました。また、2度の現地滞在を通して、現地のニーズ・課題から現地にお役立ちできるビジネスアイデアを数多く検討し、その中から2つのビジネスが生まれました。写真が大好きな村人にリコーのリソースで貢献する「写真プリントショップ」と女性のエンパワーと雇用創出を目指す女性のための女性による「ウーマンショップ」です。
どちらも村でショップを経営したい起業家を発掘し、トレーニングを行った上での店舗オープンをサポート。2011年12月に1号店が開店したウーマンショップは、2017年3月までに、ビハール州・ウッタル・プラデシュ州、ハリアナ州あわせて、70店舗に広がっています。この店舗は、女性起業家の収入向上やエンパワーメントに加え、地域における女性の地位向上や女性コミュニティの活性化といった効果ももたらしています。
こうした成果をふまえ、ウーマンショップの取り組みは、UNESCOが推進する「持続可能な開発のための教育」のGlobal Action Programとして、2019年までに250店舗の拡大と5万人の女性のエンパワーメントを行なうことを、パートナーのDrishteeとともにコミットしています。
現地起業家のビジネスをサポートするため、プリントショップでは、リコーのプリンターやカメラを提供し、新しい写真サービスの提供方法を起業家とともに模索してきましたが、持続的な収益モデルの構築が難しく、2015年3月で検証を終了しました。一方、ウーマンショップでは、店舗での売上管理や在庫管理がスムーズにできるよう、リコーITソリューションズ、リコーインドの協力を得て、タブレットでの簡易システムを提供しています。今後も店舗の持続的な運営・拡大とともに、農村部と都市部との間で物・情報・お金が行き来するネットワークとコミュニティ作りなど、ビジネスのプラットフォーム(基盤)構築をサポートしていきます。また、こうしたプラットフォームを活用することで、農村部の課題解決に貢献するリコーのビジネスアイディア創出も目指しています。
「起業して、毎日が充実しています」
私がお店を始めたことには、3つの理由があります。一つ目は、村にお店ができれば女性たちが4キロ離れた商店まで買い物に行かなくてもすむこと、二つ目は私自身もここで買い物ができること、三つ目が家族の収入の足しになることです。
実際にお店を始めてから、多くの商品を扱い、いろいろな人と話をすることができるようになり、本当にうれしいです。村の女性たちも、便利になったと言ってくれます。特に、急に必要になったものや急な来客への手土産が近所で買えるのは助かるようです。
お店をもつまでは、家で特にやることもなく過ごしていましたが、今は、働く時間があり、お客様と話すことができ、充実した日々を送っています。今では、毎月数千ルピーの利益を得られるようになり、売上がさらに増えたら店舗を大きくしたいと思っています。そして、子どもが大きくなったら、お客様をさらに増やせるよう、美容の資格も取りたいと考えています。
2015 年は、流通小売・物流・メーカーなどへ表示メディア(バーコードラベル)などを提供しているサーマルメディア事業において、社会課題の解決につながる新たなビジネスアイディアの探索を開始しました。
同年11月には、インドネシアを拠点に活動するNPOと共に中間層~低所得者層の生活を知るための調査を実施。インドネシア第2の都市スラバヤを中心に、農家や漁村、流通・小売店、病院、学校、家庭を訪問しヒアリングを行いました。
その結果、水や電気などのインフラの課題、不安定な農業の収入、コールドチェーンを含む物流ネットワーク、衛生・健康面の課題など、多くの現状を知ることができました。
こうした現地調査を通して把握した課題と、インドネシア国家としての優先分野、グローバルな目標である持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を突き合わせ、インドネシアの穀物を対象に「食の安全・安心と効率化」をテーマに取り上げ新たな事業の検討を行なっています。