地球温暖化による世界的な気候変動や廃棄物による環境汚染が社会問題になっている中、化石由来プラスチックの代替素材普及は喫緊の課題になっています。リコーグループは環境経営をいち早く掲げ、脱炭素/循環型社会構築に向け、MFP等の部材として植物由来のでんぷん・糖から作られたPLA(ポリ乳酸:polylactic acid)を材料としたバイオマスプラスチックを採用してきました。この植物由来かつ生分解性(コンポスタブル性)を有するPLAをベースとして、発泡シートという新素材開発に取り組みました。
PLAはカーボンニュートラル、つまり、焼却しても大気中の二酸化炭素を増加させません。さらに、土中や堆肥など一定の環境下のもとで水と二酸化炭素に分解するコンポスタブル性という特性を持っています。PLAはこのように環境上優れた素材ですが、一般的に成形加工が難しいとされ、また、化石由来プラスチックに比べてコストも高いため、市場への投入が進んでいません。
リコーは、独自の技術でPLAのしなやかさと強さを両立した新素材発泡PLAシートの開発に成功しました。このシートは緩衝材や梱包材、容器などに広く利用できます。
発泡PLAシートにより、ブランドオーナー様は、さまざまなシーンでバイオマスプラスチックを思いのままに使えると同時に、環境ビジネスを通じてESG投資での信用獲得や社会貢献につながることが期待できます。
加工オーナー様は、従来のPLAよりもしなやかで強い素材のため、安心して新たなビジネスを広げることができます。
しなやかさと強さを両立した発泡PLAシート
植物由来ほぼ100%のPLAをリコー独自の「CO2微細発泡技術」で発泡させた素材は、しなやかさと強さが両立する特長をもっています。
PLAは、特性上従来の一般的な発泡方法では発泡が困難で、化石由来樹脂などとの併用が必用でした。このような方法をとっても気泡の制御が困難でばらつきが大きく、かつ気泡の直径が数百ミクロンと大きくなるため、シートが破れやすいなどの問題点がありました。また、化石由来樹脂を加えるためPLAの特長であるカーボンニュートラルやコンポスタブル性を犠牲にせざるを得ませんでした。
リコーは加工プロセスで超臨界CO2を利用し、混錬工程でPLA中にフィラー(発泡核剤)を均一に分散させ、そのフィラーを核に発泡させることで、数十ミクロン単位の均一な気泡を作成することに成功しました。このため、均一な発泡を持つPLAは薄いシートにしてもしなやかで破れにくくなります。
リコー方式と従来方式の断面模式図
CO2に高温で圧力をかけると、超臨界流体と呼ばれる状態になります。きわめて密度の高い気体状(液体なみに高濃度な蒸気)になっており、分子が激しくぶつかり合って自然な対流が起きているため、この中にPLAとフィラーを投入することで均一な混錬が可能になります。この均一に分散させたフィラーを核にして発泡させることで、均一できめ細かい泡を発生させることができます。
超臨界CO2を使ったPLAの可塑化状態(液状化)
リコーではこの発泡PLAシートの試作装置を導入し、技術開発の促進と、柔軟性・耐久性・生分解等の性能およびコストの実証を行いながら、世の中に提供することを目指します。
想定用途 | 緩衝材、 梱包材 |
食品容器 | 各種トレー、 容器 |
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発泡倍率 | 15倍 | 5-15倍 | 2-5倍 | |
厚み(mm) | 2mm | 1-3mm | 0.5-1.5mm | |
突き刺し強度(N) JIS Z 1707* |
4.8 | 2.8 | — | |
引っ張り強さ(MPa) JIS K 6767* |
MD | 0.5 | 1.4 | 35 |
TD | 0.2 | 1.1 | — | |
圧縮永久ひずみ(%) JIS K 6767* |
56 | 10 | — | |
曲げ強さ(Mpa) JIS K 7171* |
— | — | 56 | |
生分解性試験(到達日数) ISO 14855-2(JIS K 6953-2)* |
60%分解(日米) | 37 | 73 | — |
90%分解(欧州) | 60 | 102 | — |
この植物と空気からできた新素材を、PLAiRと名付けました。PLAiRは、脱炭素社会・循環型社会の実現を使命とし、未来につながるやさしさをビジョンに掲げ、安心して使えるのが当たり前の社会を目指して新しい環境素材を提供し続けます。
発泡PLAシートの成型加工例(nano tech 2020に参考出展)