2014年度から実施してきた3州(デリー、テランガナ、ビハール)での活動は、2015年9月末にて第1期の活動を終了しました。活動終了に向けて、各地域で政府、先生を含む関係者が成果共有を行ないました。
テランガナ州では8月、州の教育行政を統括する教育局(Department of School Education)、州の教育研究機関(SCERT:State Council of Educational Research and Training)、県の教育機関(DIET:District Institute of Education and Training)、対象校の教員たち、セーブ・ザ・チルドレンとリコー関係者が参加して、事業の成果を共有するための会合を開催しました。会合では、教員たちが自分たちの経験やデジタル教材を発表し、それについて関係者間で議論し、その場において、州政府から他地域への導入拡大への意欲も聞くことができました。また、県教育機関の施設内に「デジタル・ハブ」というネーミングでPC やサーバーを設置し、これまでに県と教員が共同で開発したデジタル教材をだれもが自由に活用できるようにするなど、政府の期待の大きさも確認することができました。
同様に、ビハールは8月に、デリは9月に、関係者が集い、子どもたちが理科・生活科における勉強の成果を発表し経験を共有するための学習成果発表会を実施しました。
第1期の活動の結果、子どもたちの理科・生活科の内容の理解度、保護者の学校の授業に対する関心ともに上昇し、また教員の授業への意欲も向上したことが確認できました。また、デジタル教材の活用にあわせ、教員と生徒の間で双方向のコミュニケーションを行なう授業スタイルへ移行することで、子どもたちがより積極的に発言するようになるなど、様々な変化が現れています。
生活圏以外の世界と接する機会も限られている子どもたち、特に貧困地域に住む子どもたちにとって、映像や画像を通して視野を広げることができる機会は非常に重要であり、大きな画面でわかりやすく伝えられるプロジェクターとデジタル教材の導入は、「教育の質の向上」に大きく寄与できていると言えます。
この成果を踏まえ、10月からは、第2期の活動として、テランガナ州において、対象校、対象教科を拡大しながら、持続的な教育の質の向上につながる仕組みづくりをサポートしていきます。
テランガナ州での成果共有会
県教育機関の施設内の「デジタル・ハブ」
ビハールでの学習成果発表会
テランガナ州でのパイロット授業の事前事後の理解度テストの点数の推移
※テランガナ州のパイロット授業の事前事後の理解度テストの比較結果(2015年1月~3月に実施したテスト):各州、各学年でばらつきは見られるものの、テスト結果の増加率はパイロット非対象校よりも対象校の方が大きいことが確認できた。
一般的なインドの公立小学校の授業では、補助教材や体験・実験するような機材がなく、教科書に沿って先生が説明をし、子どもたちがノートに書いたり、問題を解いたりするのみで、一方通行の授業が行われがちです。
「楽しく学ぶ授業を創る」ことをコンセプトとした本プログラムでは、デジタル教材に加え、見聞きして理解したことを楽しみながら体感することで、更なる学びにつなげることにも重点を置いています。そこで昨年からは、実際に先生や子どもたちのニーズを把握するとともに、これら教材を提供した場合の効果を測るため、触って学べる教材を準備したり、子どもたちに実際に体験する機会を作ったり、先生たちが工夫してパイロット授業を行なってきました。
4月に発生したネパールでの地震を受けて、デリの学校では、5年生の授業で地震の学習をしました。授業では、地震のメカニズムを説明するデジタル教材をプロジェクターで投影し、先生がリモコンを使って、映像を止めて説明したり、教室を歩き回って子どもたちに質問をしたりしながら進められました。また、「地震が起こった時にどうすればいいか」について、ロール・プレイなどを交えて体験しながら学びました。
水の大切さや循環の仕組みを学ぶ4年生の授業では、雲から雨が降り、その雨が川になって海まで流れ、また雲になる循環の仕組みをデジタル教材で学び、その模型を子どもたちが実際に作ることで理解を深めました。また、グループに分かれてペットボトルを使った水の浄化実験も行ないました。
パイロット授業の回数を重ねるごとに、先生たちが上手にデジタル映像や画像を取り入れ、子どもたちとの対話や体験活動の時間を増やせるようになってきました。その結果、子どもたちの考える力が伸び、より質問するようになるなどの効果が出ています。
3州で実施しているパイロット授業は、州政府の教育機関からも注目されており、「単に授業をこなすのではなく、どうすれば子どもたちに分り易い授業ができるかを先生たちが試行錯誤するいい機会となっており、それが先生と子どもたちの双方向のコミュニケーションを生み、効果的な授業に繋がっている」との評価を得ています。
こうした効果を更に強化するために、引き続き、先生や政府機関と協力しながら、ニーズに沿った「触って学べる教材」と「デジタル教材」の開発を進めていきます。
地震が起こる仕組みについて映像を交えながら説明する先生
子どもたちが作った「水の循環」模型
ペットボトルを使った水の浄化の実験
先生の質問に積極的に答える子どもたち
2014年9月から、デリ、テランガナ州(旧アンドラ・プラデシュ州)、ビハール州の各州において、県の教員養成機関(DIET: District Institute of Education and Training)と小学4・5年生の教員が共同で作成した授業計画に基づく『生活』(Environmental Studies)の授業において、参加型授業のパイロットとして、触って学べる教材と、プロジェクターを使ってのデジタルコンテンツを組み合わせた授業を実施しています。
さらに、パイロット授業の成果を確認するため、子ども、教員の意識がどう変化したかの調査も行ないました。パイロット授業前、生徒に対して「一番好きな科目は何か」と質問したところ、5年生で「生活」と答えたのは、全生徒の12%でした。しかし、パイロット授業後は、36%と大幅に伸び、これまで最も人気があったヒンディ語をおさえて1位となりました。また、「どの程度楽しいか」について5段階評価をしてもらったところ、「とても楽しい」と答えた生徒は、4年生で39%から67%、5年生では33%から74%に上昇しました。また、事前・事後テストを通して、各単元とも、子どもたちの理解度が上昇していることも明らかになっています。
一方、先生に対して、「教えることの楽しさ」を5段階評価してもらったところ、「とても楽しい」と答えた教員が55%から80%に上昇しました。「教師と子どもの双方向なやり取りが可能な授業を行うことで、子どもたちとの対話が増え、普段からいろんな話をしてくれるようになった」など、授業だけでなく学校生活の全般においても、ポジティブな影響を与えていることが分りました。
※上記各調査結果の数値は、デリのもの。
ビハール州の学校では、授業の成果を発表するために、子どもたちが中心となって『展覧会』を企画・開催しました。この展覧会は、①農業、気候変動、クリーンエネルギー、情報通信技術など、科学が私たちの生活に深く関わっていることを学んだ上で、それぞれの分野で科学が果たす役割を再認識する、②持続可能な社会を構築するために、様々な課題に対する解決方法を自分自身で考える、という目的で開催されたものです。
2月19日に行なわれた展覧会には、子どもや先生だけでなく、学校運営委員会やPTAのメンバー、DIETの職員も参加しました。子どもたちは、「生活」の授業で習った中から、特に興味を持ったテーマ(例えば、農作物の成長サイクル、水のサイクル、太陽系、人体模型の他、太陽エネルギーを用いた調理器)を選び、自分たちの研究成果や作品を発表しました。子どもたちは学んだことを発表しただけでなく、専門家の話を聞き、他の子どもたちと意見交換し、学び合う機会を得ることができました。この展覧会の様子は、地方の新聞でも紹介されました。
子どもへの調査インタビュー
学習理解度調査(テスト)
展覧会の様子
展覧会の様子を伝える地元新聞