昨年、デジタル印刷機を寄贈した学校の先生方からの「試験用紙や副教材などを印刷するのに非常に役立っている」という声を受け、7月からスタートした第2期のプログラムでは、新たに10か所の教育機関にデジタル印刷機の寄贈準備を進めています。
印刷機設置にあたり、寄贈予定の学校で実際に機械を使用する先生たちに、どのような使い道が考えられるかをインタビューした中で、ナサプール女子高校の英語の先生から、次のような話を伺いました。
「この学校では英語教育に非常に力を入れていて、生徒たちは英語を読んだり、聞いたり話したりすることに大変興味を持っています。しかし、テレビやインターネットなどへのアクセスがないこの地域に住む子どもたちは、実際に英語に触れる機会が非常に限られています。そこで、印刷機が寄贈されたら英語の本や新聞を印刷し、生徒たちに配りたいと考えています。英語を身に着けることで、子どもたちの将来したいことや仕事につながります。」
教材や情報が限られているインド農村部の学校では印刷機の活用は、子どもたちの学ぶ力に貢献するだけでなく、未来への選択肢が増え、子どもたち自らが将来を切り開く自信と可能性につながります。
寄贈した印刷機はその学校だけでなく、周辺校にも活用するように呼びかけており、10月には周辺校の先生を対象に、印刷機の使い方研修を実施しました。今は試験や教材の印刷が中心ですが、たとえば、子どもたちが印刷したいものを持ってきてボックスに入れてもらう、または自分たちで利用できるよう、高学年の子どもたちには使い方を教えるなど、誰もが簡単に様々な用途で使用できるように、どんどん工夫をしていきたいと思っています。
寄贈先の一つであるコニャラ校の子どもたち
先生へのインタビュー
ナサプール女子校の授業
先生への印刷機の使い方研修
昨年5月にスタートした本プログラムですが、約1年間の第1期の活動により、以下のような成果が出始めています。
一方で、先生の不足、教材の不足などが原因で、印刷機の活用が十分できない学校があったり、州政府が中心となり実施する学校運営委員会の研修が遅れていたり、なかなか進まない活動もありました。
そこで、7月に開始した第2期では、より良い学習環境を整備していくために、これまで以上に政府や地元で教育サポートを行っているNGOとの連携を強化していこうと考えています。具体的には、まず、アンドラ・プラデシュ州政府が推進する公立学校のモデル校や公立学校の教育の質を補完することを目的とした地元NGOが運営する補習校にも印刷機を寄贈します。
7月に訪問したモデル校候補の学校は、同地域の他校に比べ設備や補助教材もそろっており、先生も様々な方法で教育の内容を充実させるべく、熱心に取り組んでいました。また、小規模の学校には無い人体模型や実験機材などを使用し、公立学校の授業の質を補てんする補習校(NGO運営)での授業も見学してきました。こうした教育リソースが豊富な学校・補習校に印刷機を活用してもらうことで、現地の教育現場の現状をふまえた効果的な印刷機の活用方法を検討し、1期目に寄贈した地域や他県の学校においても更に効果的に印刷機を活用してもらえるような働きかけもしていきます。
また、1期目に引き続き、メダック県ハスヌーラ郡の60校において教員、保護者、コミュニティや子どもたちに対して、学校環境や地域の中で子どもたちを取り巻く環境改善のための活動や子どもの権利に関するワークショップなどの具体的な取り組みも進めていきます。
1期目に引き続き教育支援活動を行う
学校の子どもたち
現地NGOが運営する補習校の授業
モデル校:教室の壁には教材の
チャートがびっしり
モデル校:高学年のクラスには机・イスがある
2012年3月〜4月にかけて、事業対象地であるアンドラ・プラデーシュ州メダック県ハスヌーラ郡にて先生たちが地域ブロックごとに集まり、どのように授業の質を改善することができるかを話し合う機会を設けました。
ハスヌーラ郡のように、都市部から離れた農村地や遠隔地の公立学校においては、学校の生徒数に対して先生の人数が不足しており、先生たちは授業や試験の準備などに日々追われています。先生たちはとても教育に熱心で、子どもたちが勉強意欲を高められるように、より多くの教材を準備したいと思いながらも、なかなか時間が割けないのが実情です。
そこで今回の会合では、先生たちがお互いの経験や日々の問題を共有し、どうしたら今使っている教材の質を向上できるか、グループで話し合い発表しました。また昨年7月に5校に設置したデジタル印刷機をどのように活用すれば、教材の質向上や先生たちの作業の効率化になるかも議論しました。
印刷機の活用に関しては、子どもたちには、図やチャートなどの視覚教材、新聞記事切り取り、地図、保健衛生の情報の印刷、コミュニティに対しては、学校運営委員会・PTA会議のお知らせや協議事項などの印刷をしたら良いのではいかなどの提案がありました。
また、設置した学校の周辺の学校にも積極的に印刷機を使ってもらえるよう、各学校にデジタル印刷機の用途例、設置場所を説明するポスターも配布する予定です。ポスターでは、本プログラムの紹介や教育の権利法などについても紹介しています。
こうした先生方への働きかけにより、各学校が印刷機を積極的に活用し、地域全体でより質の高い授業ができるよう引き続きサポートしていきます。
会合の意義を説明するセーブ・ザ・チルドレンのスタッフ
先生たちによるグループディスカッション
出た意見はメモに書いていきます
グループのアイディアを発表し全員で共有しました
リコーインドとセーブ・ザ・チルドレン・インドが協働で作成した印刷機ポスター
2011年5月からスタートした本プログラム。1年を迎える前に、現地での進捗や成果を確認し、課題の対応を話しあうために、2012年2月初旬にセーブ・ザ・チルドレン、現地NGO、リコーの関係者が一同に集まり、協働モニタリングを行いました。
まず、印刷機の活用状況を確認するため、寄贈した10箇所のうち、7箇所を訪問。先生や教育機関の職員の方々に、印刷機の活用方法や問題点、効果についてのインタビューを行いました。その結果、学校ではテストや教材を中心にプリントを行い、時間の節約や教育の質向上につながっていることが確認できました。
例えば、テストや授業の際、これまでは先生が黒板に問題やポイントを書き、子どもたちがノートに写すことに時間が割かれていましたが、事前に先生が準備したプリントを配ることで、より多くの練習問題ができ、より多くの時間を教えることに使えるようになっています。
また、保護者へのお知らせや先生のガイドライン、先生の名簿など、より多くの情報を、早く多くの人と共有できるようになったことで、情報発信に自身が持てるようになったとの声もありました。
「子どもクラブ」に参加する子どもたちからは、子どもの権利保護、就学促進、衛生改善、文化活動などそれぞれが担当している役割があること、定期的に集まり、「トイレに水と屋根が欲しい」など学校の課題改善に向けて、話し合っていることを聞きました。子どもたちが、自信を持って自分たちの考えを発言できるようになっていることが、活動の大きな成果といえます。
学校運営委員会や子ども保護委員会など学校や子どもたちの教育環境改善にキーとなる活動は、これから本格化していく状況であり、印刷機の活用にも、まだまだ課題もありますが、今回の現地訪問を通して、着実に子どもたちの環境が改善されていることを確認することができました。2年後のプログラム終了時には、より多くの成果が出せるよう、今後も進めていきたいと思います。
校長先生(左)に印刷機についてインタビューする
セーブ・ザ・チルドレンスタッフ(右)
先生が印刷機を使っているところを
見せていただきました
印刷して配布された手書きのテスト
(写真は原本)
子どもクラブについて話してくれた女の子たち
英語の授業中の子どもたち
印刷機の活用状況を分析できるよう、使う度に、
使用日、枚数、用途を記載してもらっています
地域の人たちの手でより良い教育環境を作っていくためには、学校の改善に子どもたち自身が参加することが重要です。そこで、子どもたちが学校に行く権利、意義を理解し、学校運営やその地域の子どものもつ問題に関わっていくことができるよう63校で約800人の子どもたちが参加する「子どもクラブ」を結成し、活動を始めました。
結成にあたり、各校で子どもたちに向けてオリエンテーションを行い、リコーとセーブ・ザ・チルドレンが実施しているプログラムや子どもクラブの目的を説明すると同時に、子どもの権利についても話をしました。そして、子どもたち自身が学校生活で感じている困りごとを書き出してもらったところ、「トイレが汚い」、「机が無い」など、いくつもの問題点が出てきました。
今後は、子どもクラブの活動を通して子どもたち自身をエンパワーし、学校運営や早婚、児童労働や健康など子どもたちが抱える問題の解決に、子どもたちが自主的に参加していけるような取り組みを進めていきます。そして同時に、子どもの環境を守っていく子ども保護委員会や学校改善を実施していく学校運営委員会の活動も強化し、子どもたちの意見を取り入れながら、コミュニティが自立して、持続的な教育環境の改善ができる仕組み作りをサポートしていきます。
参加メンバーの子どもたち
グループオリエンテーションの様子
子どもたち感じている問題点はいろいろ