AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 14 2014, Vol.346


どうして、ある種の動物の大人のオスは子供を殺すのか?(Why some male animals kill infants)

いくつかの動物種の社会的行動において最も忌まわしい事柄の一つは、大人のオスが子供を殺すことである。LukasとHuchardは、ネズミからマングース、コウモリから熊に至る多種多様な社会的システムを有する哺乳類のグループを観察した。オスによる幼児殺しの行動は、季節繁殖によらない繁殖を行う社会的な種において、生殖上の利害の対立から生じた結果であるらしい。メスの子供を新しい繁殖相手のオスが殺すことによって、メスはより早く繁殖可能状態を回復し、そのオスが自分自身の子供を作ることが可能となる。進化的には、メスによるたった一つの効果的な防御方法は一妻多夫になることである。すなわち、複数のオスとつがいになっているメスになることによって、どのオスもそのメスの子供が自分の子供かそうでないかを見分けることが困難になるからである。(Uc,nk,Ok)
The evolution of infanticide by males in mammalian societies (Science, this issue p. 841)

フラジェリンがロタウイルスにワン・ツーパンチを与える(Flagellin gives rotavirus a one-two punch)

ロタウイルスは胃腸炎を引き起こし、特に乳児と幼児に重篤な症状をもたらす。細菌のタンパク質であるフラジェリンは自然免疫系を活性化し、様々な感染症や炎症性の因子に対してマウスを守っている。Zhangたちは、フラジェリンがマウスにおいてロタウイルス感染症を防ぎ、そしてロタウイルスに慢性的に感染したマウスを治癒することをも報告している。それは二つの異なる自然免疫シグナル伝達経路を活性化することで行われ、各経路はサイトカインのインターロイキン 22とインターロイキン 18を産生する、感染したマウスの細胞にそれぞれ通じていた。フラジェリンに類似して、これらのサイトカインの双方を用いてマウスを処置すると、ロタウイルス感染症を防いだり、或いは治癒した。(KU,nk,Ok)
Prevention and cure of rotavirus infection via TLR5/NLRC4?mediated production of IL-22 and IL-18 (Science, this issue p. 861)

暑さとともに増加する落雷(Striking when hot, and more when hotter)

暑い時は涼しい時よりも頻繁に雷が発生するが、世界的な温度上昇につれて、雷はどの程度増加すると考えておかねばならないのであろうか。現在、年間におよそ2500万回の落雷がある。Romps たちは、大気中での上昇気流を作り出すのに利用されるエネルギーと降水率に基づいて雷の指標を構築し、アメリカ合衆国本土全体での落雷の回数をモデル化した。彼らは、地球の平均気温が一度上昇する毎に、落雷回数が約12%増加するであろうと予測している。(Sk,nk)
Projected increase in lightning strikes in the United States due to global warming (Science, this issue p. 851)

ハムスターの記憶の上に朝夕が刻まれる(The Sun rises (and sets) on hamster memories)

体内にある概日時計は、生体システムがそれに合わせて拍子を刻んでいるリズムを設定する。概日時計は、眠りと覚醒の周期を調整するばかりでなく,学習と記憶にも影響を及ぼしている.Fernandezたちはキャンベルハムスターをモデルに用いて,概日リズムが乱された時に起こる記憶間違いに関して、概日時計周期を調整する脳部位である視交叉上核(SCN)の役割を評価した。予想通り,リズムが乱されたハムスターは,認識記憶や空間記憶に障害が生じた。しかしながら,ハムスターのSCNが遮断されると、これらの記憶障害は回復した。このように, 概日リズムの障害で発生する記憶障害は、SCNへと向かう回路の接続が保持されているかどうかで決まっているのである。(MY,nk)
Dysrhythmia in the suprachiasmatic nucleus inhibits memory processing (Science, this issue p. 854)

潮汐力につながれた世界の長い午後(Sunny side hot for tidally locked world)

我々の太陽系内の多くの惑星は、一日の間にその熱を表面全体に均等に拡散している。その熱の放散は、比較的高速な自転と太陽からの十分な距離によって実現されている。しかしながら、ある種の太陽系外惑星は、そう都合よく均衡していない。Stevenson たちは、WASP-43b のような木星サイズの惑星が、それらの中心星近くの周りを24時間以下で回転しており、そのため、その惑星は潮汐力によって同じ面が母星に向くように固定されているので、熱が再分配される機会がほとんどないことを示している。(Wt,nk)
Thermal structure of an exoplanet atmosphere from phase-resolved emission spectroscopy (Science, this issue p. 838)

分子定規が繊毛と鞭毛の長さを規定している(Molecular ruler rules cilia and flagella length)

繊毛と鞭毛は、その超微細構造の内部に規則的な間隔で配置された繰り返し構造を含んでいる。細胞は、どうやってナノメートルの精度で長さを測定しているのだろうか? Odaたちは、クラミドモナス(Chlamydomonas:緑藻類)における鞭毛のタンパク質複合体を同定し、この複合体が一種の分子定規として働き、繰り返しの長さを規定しているらしい。このタンパク質の長さを変える遺伝子を変化させると、結果として鞭毛内の繰り返しの長さに対応する変化を引き起こした。(KU,nk,Ok)
A molecular ruler determines the repeat length in eukaryotic cilia and flagella (Science, this issue p. 857)

金ナノ粒子がプラズモンの可能性を拓く(Gold nanoparticles form potential plasmons)

金属表面において、光によって誘起される集団的電子励起であるプラズモンは、太陽エネルギーを活用する新しい基盤技術になるかもしれない。現在、太陽エネルギーは、屋根の上に設置されている装置のように光熱変換、或は光起電現象を用いて使い勝手の良いエネルギーに変換されている。ニッチ用途では熱電素子にも用いられている。Sheldon等は、光照射によって金ナノ粒子中に電位が発生する現象を見出した。この現象は、プラズモニクスに基づく次世代エネルギー変換素子に活用できるであろう。(NK,nk,Ok)
Plasmoelectric potentials in metal nanostructures (Science, this issue p. 828)

より良いワクチン助剤(アジュバント)に向けてのステップ(A step toward better vaccine adjuvants)

TLR4受容体は、免疫シグナル伝達経路を刺激する。これは、シグナル伝達に関与するタンパク質の一種である2つのアダプタータンパク質を介してこれを行うことができる。すなわち、それらは望ましくない炎症反応を引き起こす MyD88と、免疫応答を刺激する TRIFである。現在、ワクチンの免疫応答を良くするアジュバントは、その構造が TLR4が用いているアダプタータンパク質を確定するというアイデアで開発されている。しかしながら、Kolbらは、TLR4シグナル伝達が TRIF-依存的な経路に向かって本来かさ上げされていること、特にI型インターフェロンシグナル伝達の前後関係においてかさ上げされていることを示唆している。この知見は、潜在的に有害な炎症反応を誘発することなく、免疫応答を高めるより効果的なワクチンアジュバントの開発におそらく役立つことになるであろう。(hk,KU)
Type I interferon signaling contributes to the bias that Toll-like receptor 4 exhibits for signaling mediated by the adaptor protein TRIF (Sci. Signal. 7, ra108 (2014))

冬のような気配を遠方から導く(Leading a wintry march from a distance)

300万年前ごろから、南極の氷床が拡大し始めると、深海の循環を引き起こし、北半球における氷河化のペースを加速した。Woodardたちは、北西太平洋からの海底堆積物を分析した。海水面低下のかなりの割合は、北半球の氷床が急速に成長し始める前に実際に起こっていたが、これはおそらく南極の大陸の氷の成長の為であろう。このように、南極の氷河は予期した以上にダイナミックであり、このことは温暖化の世界における南極の氷床の安定性に関する示唆を与えるものである。(KU,nk,Ok)
Antarctic role in Northern Hemisphere glaciatio (Science, this issue p. 847)

DNAレコーダーによる記憶の記録(Record your memories with a DNA recorder)

DNAをベースにした記憶装置は、ある時間に渡る入力量のような連続量の情報の記録に最適なものではない。FarzadfardとLuは、生きている細菌集団内のゲノムDNAを「テープレコーダー」へ転換した(AuslanderとFusseneggerによる展望記事参照)。特異的な複数のDNAを使って、ゲノムDNAに正確な複数の変異を導入した。貯蔵された情報はレポーター遺伝子や機能的アッセイ、DNA配列決定を介して読み出すことができる。このアプローチ方法によって、複数の入力の集団レベルでの記録が可能になった。この記録は、必要に応じて消去することもできる。(KF,nk)
Genomically encoded analog memory with precise in vivo DNA writing in living cell populations (Science, this issue 10.1126/science.1256272 see also p. 813)

肺の間葉系細胞はどのように振る舞うか(How lung mesenchymal cells behave)

臓器系は多様だけれど、そこには共通の特徴がある。間質性組織が、ほとんどの脊椎動物の器官を支え、維持しているのである。そうした間質性組織は、間葉幹細胞から形成される。Kumarたちはマウスでのクローン細胞標識を用いて、発生中のマウス肺における間質性前駆体を同定し、単細胞の分解能でその特徴を明らかにした(LeeとKimによる展望記事参照)。前駆体の集団はさまざまに異なった位置を占有し、多様な運動と系列の境界を示した。気道平滑筋の前駆体は樹状に分岐する気管支の枝分かれ場所の先に位置していて、慎重に制御された複数の領域へと組織化されている。(KF)
Defining a mesenchymal progenitor niche at single-cell resolution (Science, this issue 10.1126/science.1258810; see also p. 810)

ヒトの雄の個体における組換えのマップ化(Mapping recombination in individual human males)

精子と卵子は、ゲノムDNAのコピーを2つ含む二倍体細胞から生じる。一倍体の生殖細胞は、DNAの含有量を半分にする減数分裂という特殊な細胞分裂を経なければならない。減数分裂には、両方の親の染色体間のDNA組換えの段階が含まれる。組換えは、DNA二重鎖切断によって惹起されるもので、染色体間のDNAの交換を可能にし、ヒトの遺伝的変異を駆動するプロセスである。Prattoたちは、ヒトの雄の個体における減数分裂組換え部位をマップ化した(de Massyによる展望記事参照)。組み換えで突然変異を起こしやすい部位(ホットスポット)は、ヒストン-リジンN-メチル基転移酵素タンパク質である PRDM9とその他の因子によって、影響を受けていた。この組換え部位はまた、ゲノム進化と遺伝病の発生率に影響するものである。(KF,Ok)
Recombination initiation maps of individual human genomes (Science, this issue 10.1126/science.1256442; see also p. 808)

電気二重層を詳細に調べる(Dissecting the electrical double layer)

電極表面の1nmより薄い領域の水の構造は,電気二重層として知られている。この層では,電気化学反応が影響されるような強い電界が生成している。Velasco-Velezたちは,金の裸電極上で電気二重層の構造を調べた。電位がかかっていない場合や正電位がある場合,電気二重層は、未結合状態の水素結合がほとんどない構造性が高い(氷に類似した)状態にあった。しかしながら,負電位の場合には,電気二重層はむしろ水分子が通常に集合した状態に近く,水分子の半数が電極表面上に横たわって並んだ状態で存在していた。(MY,Ok)
The structure of interfacial water on gold electrodes studied by x-ray absorption spectroscopy (Science, this issue p. 831)

脱プロトン化用の鋳型を自身でもたらす(Bring your own template for deprotonation)

医薬品や農薬を製造する場合,化学者には、六角形のベンゼン環上の特定の炭素位置に置換基を付加することが求められる。ベンゼン環上にすでに置換基がある場合,置換基が存在する炭素の隣の炭素を脱プロトン化するのにしばしば塩基を用いて行う。しかしながら,もし,塩基を用いて、炭素2つ分離れた位置を攻撃したい場合は,どうすればよいのか? Martinez-Martinezたちは,塩基付随のカウンターイオンであるナトリウムイオンやマグネシウムイオンを利用して,これを実現する方法を考案した。これらのイオンにより,塩基が配向して、より遠く離れた位置を攻撃する鋳型が形成される。(MY,KU)
Directed ortho-meta??- and meta-meta??-dimetalations: A template base approach to deprotonation (Science, this issue p. 834)

森林伐採の湿原への影響(Impacts of deforestation on wetlands)

世界的な森林伐採は、湿原の範囲の拡大を引き起こしている可能性がある。異なる複数のアプローチ方法を組み合わせて、Woodwardたちは、古い時代およびより最近の森林伐採が世界の湿原の水文学における主要な変化をもたらしていることを示している。たとえば、オーストラリアとニュージーランドでは、森林伐採が新たな湿原を作り出し、既存の湿原においては水位を上げた。このような影響を認識することによって、緑地帯の管理方法に示唆が与えられる。すなわち、湿原流域における再森林化の計画は、脆弱な湿地帯にとって思いもよらない結果があるかもしれない。(KF,uc,nk)
【訳注】
・水文学:地球上の水循環を対象とする科学の一分野
The hydrological legacy of deforestation on global wetlands (Science, this issue p. 844)

どの二種類の抗生物質を使えばいいの?(It takes two antibiotics---but which two?)

複数の抗生物質による治療は抗生物質耐性菌の発生を減少させるが、全ての組み合わせが同じように有効なわけではない。耐性を回避する最適治療計画を策定するためには、予測モデルが必要である。Munck たちは、適応進化と遺伝子学を用いて、単一および組み合わせた場合の抗生物質に対する細菌の抵抗反応を解明した。著者らは、異なるレベルの薬剤抵抗性をもたらす変異を正確に示した。この知見は、抗生物質耐性の獲得を抑える、より優れた薬剤の組み合わせを設計することができる。(Sk,Ok)
Prediction of resistance development against drug combinations by collateral responses to component drugs (Sci. Transl. Med. 6, 262ra156 (2014))
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