AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 7 2014, Vol.346


競い合っているコウモリがお互いの信号を邪魔する(Competing bats jam one another's signal)

大きな群れ社会に棲んでいる生き物は、多くの点で集団生活による恩恵を得ているが、しかし日常生活や採餌活動での数々の不都合な点で群れの多くの相手と競い合う必要がある.Corcoranと Connerは、何十万にもなりうる群れで棲息するメキシコオヒキコウモリ(Mexican free-tailed bat)が、競争者のエコーロケーションに対して盛んに妨害音波を出すことで、この厳しい食物獲得競争に対処していることを示している.妨害干渉しているコウモリは、採餌しようとするコウモリがフィーディング・コールを発する丁度その時に超音波を出し、それにより、効果的にエコーロケーションを妨害し、採餌者にその目標物を見失わさせている.(MY,ok,nk)
【訳注】
・エコーロケーション:発した音波の反響で周囲の状況を探知すること
・フィーディング・コール:摂食するときに発する音
Bats jamming bats: Food competition through sonar interference (Science, this issue p. 745)

リン酸化部位でのタンパク質の折り畳む(Protein folds as phosphorylation sites)

タンパク質における修飾部位のほとんどは、一次アミノ酸配列中の短い直線的コンセンサスモチーフで同定されてきたにもかかわらず、タンパク質は複雑な三次元構造に折りたたまれている。Duarteたちは、キナーゼが、折りたたまれた基質タンパク質の非隣接部分で形成されるコンセンサス部位を認識していることを見出した。彼らは、キナーゼ PKCに対する基質においてこのような「構造的に形成された」コンセンサス部位を特徴づけ、そして PKCの他の基質や別のキナーゼ PKAの基質における構造的に形成されたコンセンサス部位を同定した。このように、研究者たちは、直線的配列と三次元的構造の双方を調べて、タンパク質における全ての潜在的なリン酸化部位を同定する必要がある。(KU,nk)
【訳注】
コンセンサス部位:一次構造において一定の機能を持っている領域で高頻度で出現するアミノ酸配列
Protein folding creates structure-based, noncontiguous consensus phosphorylation motifs recognized by kinases (Sci. Signal. 7, ra105 (2014))

ミトコンドリアの 疎水性タンパク質を作ること(Making mitochondrial hydrophobic proteins)

ミトコンドリアは細胞に対する化学エネルギーを産生する。ヒトのミトコンドリアは、彼ら自身の特異的リボソーム、即ちミトリボソーム(mitoribosome)を持っており、これは細胞質のリボソームとは異なる。ミトリボソームは、化学エネルギーを作るミトコンドリアの膜タンパク質を合成する。Brownたちは低温電子顕微法を用いて、ヒトミトリボソームの大きなサブユニットの高分解能の構造を決定した。ミトリボソームは疎水性のアミノ酸残基が整列した出口通路などの、多くのユニークな特徴を持っている。(KU,ok)
Structure of the large ribosomal subunit from human mitochondria (Science, this issue p. 718)

光駆動型触媒の力を倍加する(Doubling up on optically driven catalysis)

植物は、光合成の間、連続して4回太陽光を吸収(即ち、4個の光子吸収)して、水から酸素を作るのに十分なエネルギーを蓄積している.それとは対照的に、化学者たちは反応を進行させるために光エネルギーを利用する場合、一回の、すなわち一個の光子吸収で済まそうとする。。今回、Ghoshたちは、或る特定の色素分子が、吸収された2つの光子のエネルギーを結合して、アリルハロゲン分子の還元とその後のカップリング反応に用いることを示している.この方法は、光触媒の範囲を、安定過ぎて、単一の光子では分解できない塩化物のような幅広い化合物へと拡張するものである.(MY,KU,nk)
Reduction of aryl halides by consecutive visible light-induced electron transfer processes (Science, this issue p. 725)

ミスフォールド膜タンパク質の分解(Trashing misfolded membrane proteins)

核膜孔を通過して、タンパク質は内側核膜(inner nuclearmembrane:INM)とその他の小胞体との間を移動する。結果として、INMは染色体の組織化や転写の調節等の、多様な機能に必要な特異的な一連のタンパク質を蓄積する。しかし、INMタンパク質がミスフォールドしたとき、それらはどのように除去されるのだろうか?Forestiたちは、酵母においてこの疑問に取り組み、そして小胞体に関連した分解系の以前曖昧だったところがキーであることを見出した(Shao and Hegdeによる展望記事参照)。(KU,ok)
Quality control of inner nuclear membrane proteins by the Asi complex (Science, this issue p. 751; see also p. 701)

宇宙の広く拡散した輝きは原始からのものではない(A diffuse cosmic glow is not primordial)

これまでに恒星や銀河から放射されたすべてのフォトンの累積マップは、宇宙の進化の歴史的な記録として非常に望まれているものである。それゆえ、宇宙論研究者たちは、この拡散した光の分布、すなわち、銀河系外の背景光を測定しようと努めてきた。Zemcovたちはロケットを打ち上げて、このかすかな背景光の揺らぎを測定し、これまで知られている銀河から生ずるであろう揺らぎよりも大きなスケールの変動を見出した(Moseley による展望記事を参照のこと)。その原因としては、未知の原始銀河ではなく、母銀河から潮汐力で引きはがされ銀河間空間を漂う星がもっとも怪しい。(Wt,ok,nk)
On the origin of near-infrared extragalactic background light anisotropy (Science, this issue p. 732; see also p. 696)

細菌がノロウイルスのB細胞への感染を助けている(Bacteria help norovirus infect B cells)

胃痛、悪心、下痢・・・多くの人が、ノロウイルスの与えるそんな胃腸への大打撃を知っている。それにもかかわらず、ヒトノロウイルスは培養液中では増殖できないため、ノロウイルスの生態は良く分かっていない。Jones たちは、今回、ヒトノロウイルスが、細菌の助けを借りることにより培養した B細胞に感染できることを報告している(Robinson と Pfeiffer による展望記事参照)。ヒトノロウイルスは、B細胞に感染するために、血液型の決定に関わるタンパク質を発現させる腸内細菌の存在を必要とした。マウスのノロウイルスも同様に B細胞に感染するが、マウスを抗生物質で処置することで、ノロウイルスの感染から保護された。(Sk,nk)
Enteric bacteria promote human and mouse norovirus infection of B cells (Science, this issue p. 755; see also p. 700)

古代微生物のイオウ循環を分析する(Dissecting ancient microbial sulfur cycling)

地球の生命は、酸素濃度が高まる前、海洋でのイオウ循環に依存していた.異なるイオウ同位体を分別することにより、その昔に、どの生物地球化学的循環が活発であったかに関する手がかりが与えられる(Uenoによる展望記事参照).Zhelezinskaiaたちは、ブラジルの始生代の岩石で負の同位体異常を発見し、硫酸塩還元細菌による代謝の流れが、大気中のイオウを含む地球上のイオウ循環に影響を与えたと推定している.その一方で、Parisたちは、南アフリカでの始生代の堆積物で正の同位体異常を発見した.これは、海域での硫酸塩の貯留と大気中のイオウとがさらに切り離された関係にあったことを意味している.始生代の海洋に類似するものとして、Croweたちは、現代のインドネシアのマタノ湖でのイオウ同位体比の特徴を調べ、そして海水の低い硫酸塩濃度が初期の細菌活動を制限していたことを示唆している.(MY,KU,nk)
【訳注】
・生物地球化学的循環:化学物質の生物や無生物間の循環のこと
・負の同位体異常:元素の同位体比の永年変化が低い方向に振れること
Coping with low ocean sulfate (Science, this issue p. 703; see also p. 735)
Large sulfur isotope fractionations associated with Neoarchean microbial sulfate reduction (Science, this issue p. 742; see also p. 735)
Neoarchean carbonate?associated sulfate records positive ?¢33S anomalies (Science, this issue p. 739; see also p. 735)

DNA折り紙を用いて金と銀を鋳造する(Casting gold and silver with DNA origami)

溶液中で合成されたナノ粒子のサイズと形状の制御は、特に狙いが電子とプラズモンのアプリケーションのための対称性のすくない形状を生成する場合には、挑戦的な課題となる。Sunらは、DNA「折り紙」(DNA鎖の間の接触が特定の形状を組み立てるように設計されているナノ構造)が、金と銀のナノ構造成長の鋳型として作用するのに、十分に固いことを示している。著者らは、長方形の断面を有する金粒子と設計されたプラズモン特性を持つた銀の三角形状等の形状を作成した。(hk,KU,ok,nk)
Casting inorganic structures with DNA molds (Science, this issue 10.1126/science.1258361)

タンパク質翻訳の場所と理由(The wheres and whys of protein translation)

局在化したタンパク質合成は、動物のボディープランの特定から分泌経路への移行の協調に至る広範囲の生物活性に重要である。特異的な細胞内部位での翻訳を研究できる有用なツールは数少ない。Janたちは、局在化したタンパク質合成の正確な特徴づけを可能にする、柔軟なリボソームプロファイリングに基づいた方法に関して報告している(Shao and Hegdeによる展望記事参照)。近接-特異的(Proximity-specific)なリボソームプロファイリングは、生細胞中での局在化したタンパク質のターゲッティングと合成のメカニズムを調べるための高精度のツールを提供する。このアプローチは、小胞体での同時翻訳転位置に関する高分解能のシステムレベルの展望を与えた。Williamsたちはこの技術を適用して、ミトコンドリア外膜での局在化した mRNA翻訳を調べた。(KU)
【訳注】
リボソームプロファイリング:リボソーム内で翻訳中のmRNAを解析し、タンパク質の発現量を知ることのできる手法
Principles of ER cotranslational translocation revealed by proximity-specific ribosome profiling (Science, this issue 10.1126/science.1257521, ; see also p. 748)
Local synthesis and disposal (Science, this issue p. 701; see also p. 748)

量子スピン液体を明らかにする(Nailing down a quantum spin liquid)

量子スピン液体(QSLs)は、磁気相互作用を有しており、絶対零度においても無秩序な液体様スピン状態を保持している。しかし、測定される最低の温度以下で秩序状態になる可能性が常にある為、サンプルが QSL状態にあることを明確に示すことは困難である。Barkeshili等は量子場理論を用いて、超伝導体や磁性体のようなエキゾチックマテリアルと接するようにサンプルを配置することで、QSLを直接的に判別できる方法を提案している。同理論では、境界において QSLに移動する電子は電荷またはスピンを失った励起状態に変化するという。今後この変化が実験的に実測されるであろう。(NK,KU,nk)
Coherent transmutation of electrons into fractionalized anyons(Science, this issue p. 722)

融解は多くの経路をたどる可能性がある(Melting can follow many pathways)

系に余分の運動エネルギーが与えられるに連れて起きる秩序の低下が、融解に関係している。この種の相転移の単純なモデルは存在するが、その初期段階を観察することは、実験的にもシミュレーション上も非常に困難である。Samanta たちは、莫大な演算時間を必要とせず融解現象を調べることを可能にする、信頼性の高い希少現象のサンプリング技術を開発した。銅とアルミニウムの両者に対して、彼らは、古典的核形成理論で想定されていた均一な秩序の低下ではなく、欠陥の生成が融解プロセスの開始点として作用することを観察した。(Sk,nk)
Microscopic mechanisms of equilibrium melting of a solid (Science, this issue p. 729; see also p. 704)

形状を変えるヒト免疫不全ウイルス外被タンパク質(HIV's shape-shifting envelope protein)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の外被タンパク質(Env)は、ウイルス粒子を被覆し、HIVが宿主細胞に侵入するのを可能にしている。HIVの侵入は高度にダイナミックである。外被タンパク質は、(三量体と呼ばれる)3つからなるグループで作用するが、それらタンパク質は、宿主細胞の発現する、ウイルス受容体と共同受容体に結合する。ウイルス受容体との結合が三量体における構造再編成を引き起こし、それが共同受容体との結合と、最終的なウイルス侵入を可能にしている。ウイルス侵入の際の外被タンパク質の高次構造の動的変化を可視化するため、Munroたちは、異なった色の蛍光性タグを個々のHIV三量体の2つの違う領域に付加した。単一分子の蛍光共鳴侵入移動によって、細胞侵入前に3つの違った外被タンパク質高次構造があることが明らかになった。特定の高次構造の占有は、宿主の受容体結合に依存している。(KF,nk)
Conformational dynamics of single HIV-1 envelope trimers on the surface of native virions (Science, this issue p. 759)

昆虫の進化の解決に向けて(Toward an insect evolution resolution)

昆虫は、動物の中でもっとも多様性のあるグループであって、最大の種の数を誇る。しかしながら、昆虫の種の間の進化的関係の多くは議論の余地があり、解決が難しい。Misofたちは、すべての主要な昆虫目および近縁生物のタンパク質-翻訳領域遺伝子の系統的ゲノム解析を実施し、分類群の配置を明らかにした。著者たちはこの解明された系統樹に化石の解析を併せ用いて、昆虫の起源を4億7千9百万年前と年代決定し、昆虫系統発生学上の長い間の懸案だった問題を解決した。(KF,nk)
Phylogenomics resolves the timing and pattern of insect evolution (Science, this issue p. 763)

生命の第4の領域を求めて(On the hunt for a fourth domain of life)

現存のすべての生物は、古細菌、細菌、真核生物という3つの大きな領域のどれかに所属している。地球上に、新規な4つ目の領域を打ち建てるほどに違う生命はありうるのだろうか? 展望記事において、WoykeとRubinは、科学者たちがそうした異常な生物の徴候を見逃している可能性があると説明している。強力なゲノム技術は初期の研究の制限を克服し、科学者たちは実験室で成長させられない微生物の特徴を明らかにすることが可能となっている。こうした進歩したツールによって、我々は今や、生物の第4の領域を発見する準備ができている。それが存在すれば、の話だが。(KF)
Searching for new branches on the tree of life (Science, this issue p. 698)

C型肝炎ウイルス予防に向けて(Toward an ounce of HCV prevention)

C型慢性肝炎ウイルス(HCV)への感染は、肝臓の炎症の原因となり、それが肝機能を弱体化し、肝不全を引き起こしさえする。最近のHCVに対する抗ウイルス薬の承認によって、治療の選択肢が増えることとなった。しかしながら、それら新たな治療法は高価であり、使える状況が限られていて、ワクチンなどの予防法の必要性はまだ残されている。このたび、Swadlingたちは、人間の患者のHCVに対するプライム-ブースト(免疫誘導-免疫増強)ワクチン接種の予備的試行を報告している。この戦略では、自然な感染においてHCVをコントロールしている免疫 T細胞反応と類似したT細胞反応を誘発する。(KF,nk)
A human vaccine strategy based on chimpanzee adenoviral and MVA vectors that primes, boosts, and sustains functional HCV-specific T cell memory (Sci. Transl. Med. 6, 261ra153 (2014))
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