AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 31 2014, Vol.346


想像を絶する噴火を事前に推測する(Imaging before an unimaginable eruption)

超巨大火山噴火では,人類の歴史上で文書に記録された最大の噴火よりも何千倍もの量の噴出物が放出される。この種の想像を絶する破局をもたらす超巨大火山が,現在,地球の表面上に幾つか点在している。Jaxybulatovたちは地震性の背景ノイズを利用して,世界で最も大きなマグマ溜まりの1つである北部スマトラのトバカルデラでのマグマ溜まりの規模や成熟度について推定している。地殻へ注入され水平に広がったマグマ層の長期に渡る蓄積がカルデラの下で緩やかに生じている。これらのマグマ床は地下20kmまで立証されているが,さらに深くまで達している可能性がある。巨大火山系でのマグマ溜まりのキャラクタリゼーションは,将来の超巨大火山噴火への備えに役立つかもしれない。(MY,KU,ok,nk)
A large magmatic sill complex beneath the Toba caldera (Science, this issue p. 617)

低酸素が動物の繁栄を抑制した(Low oxygen limited the rise of animals)

地球の原初の大気中酸素のレベルは、複雑な生命の進化に重要な影響を及ぼした。Planavskyたちは、地球のあちこちの堆積岩中のクロムの同位体特性(過去の酸素レベルの代用指標として)を分析した。原生代中期(16億年から9億年前)の酸素レベルは非常に低く、現代の大気の0.1%未満であった。このような低いレベルは、おそらく原初の動物にとって最低限の酸素必要量を下回っており、動物の出現と多様化を遅延させた。(Uc,KU)
Low Mid-Proterozoic atmospheric oxygen levels and the delayed rise of animals (Science, this issue p. 635)

電子を原子核ターゲットにまき散らす(Scattering electrons off nuclear targets)

原子核はフェルミオンである陽子と中性子が相互作用により結合したものである。2つフェルミオンは同じ量子状態を占めることが出来ないため、原子核中では陽子と中性子は様々な運動量をもつことになる。Henらは様々なサイズの原子核で電子を散乱させ、陽子と中性子の運動量分布について調べた。陽子は、他の陽子よりもより高い頻度で中性子と高運動量対を形成した。このようなわけで驚ろいたことには、原子核中には陽子よりも中性子の方が多く存在しているにも関わらず、運動量の平均値は中性子の方が陽子に比べて低かった。(NK,KU,ok,nk)
Momentum sharing in imbalanced Fermi systems (Science, this issue p. 614)

小惑星の水のなかに残された歴史(History recorded in asteroid's water)

天文学者たちは、星間物質中の水が若い惑星系に大量に取り込まれていることを知っている。私たちの青い惑星は、多量の水を集めていた(あるいは、付着した)。いまだに、太陽系の内側での水の動きの詳細はよく判ってはいない。Sarafian たちは、小惑星 Vesta からの隕石の試料中にある水の同位体を測定した。これは、水が付着した時期の手がかりを探すためである。これらの試料には、揮発性物質の同位体は、地球や炭素質コンドライトと同じだけあった痕跡が残されている。この炭素質コンドライトは、最も原始的な隕石のなかの一部分をなしている。この発見は、地球はコンドライト様の天体から、比較的早期に大部分の水を受け取ったことを示唆している。(Wt,KU)
Early accretion of water in the inner solar system from a carbonaceous chondrite-like source (Science, this issue p. 623)

両生類への古くて新しい脅威(A new, yet old, threat to amphibians)

地球規模で、両生類はカエルツボカビ菌 Batrachochytrium dendrobatidisによってもたらされる病気に大きく影響されてきた。最近、ヨーロッパのかなりのサンショウウオが新たな、関連するツボカビ菌の B. salamandrivoransの出現により1/10に減少した。Martelたちは、大陸にまたがる両生類をスクリーンした。この新たに浮上した脅威はアジアにその起源を有し、そしてペット貿易の一部として輸送されたサンショウウオと一緒にヨーロッパに入り込んだ。アジアのサンショウウオはこの病原菌への耐性を進化させたが、しかし世界の他の地域のサンショウウオは極めてこの菌に弱い。(KU,ok)
Recent introduction of a chytrid fungus endangers Western Palearctic salamanders (Science, this issue p. 630)

タンパク質ハンチンチンの影響を探し求める(Hunting for the effects of huntingtin)

ハンチントン病 (HD)は、タンパク質ハンチンチン (Htt)の変異型と関係している。HDに関係した症状は、キナーゼ mTOR(これは、アミノ酸が豊富にあるときにタンパク質の合成を活性化する)の抑制によって軽減される。マウスの線条体ニューロンにおいて、Pryorたちは、野生型の HTTが、或る活性化するタンパク質とのその相互作用を高めることでアミノ酸誘発性の mTORシグナル伝達を刺激することを見出した。変異HTTは、反応可能なアミノ酸の量が増加していないときでも、この相互作用を促進した。HDのマウスモデルにおいて、線条体ニューロンにおける mTORの活性化がこの症状の開始を促進した。(KU,nk)
Huntingtin promotes mTORC1 signaling in the pathogenesis of Huntington's disease (Sci. Signal. 7, ra103 (2014))

雄性植物が雌性の発生に影響する理由(Y male plants affect female development)

ほとんどの植物は,1つの花の中に雌雄の両方の器官を備えているが,雄性と雌性が別々の植物も存在する。カキノキのような幾つかケースにおいては,雄性は Y染色体により決定される。Akagiたちは,カキノキの雌雄間での遺伝子転写物の違いを調べた。Y染色体上の遺伝子は,非-性染色体と関係し,雌性器官の発生を抑える低分子RNA(small RNA)を制御していた。この低分子RNAは雄花に局在して存在しており,他の植物種における雌性の発生に影響を与えている可能性がある。これらの遺伝子の進化の歴史は,これらの遺伝子が,カキノキ科における性の分離の起源と関係していることを示唆している。(MY,KU)
A Y-chromosome-encoded small RNA acts as a sex determinant in persimmons (Science, this issue p. 646)

チャリティーの寄付を増やす方法(How to increase charitable donations)

立ち上げ時の補助金が間接経費の支払いに用いられたということを発表出来れば、チャリティーはより多くの人からより多くに金を集めることができるだろう。Gneezyたちは、最初の寄付金(目標額の半分)は元手資金として、またマッチングファンド(経営資源持ち寄り基盤)として、或いは管理コストと運営コストを賄うために用いられるだろうということを40,000人の潜在的な寄付者に語った。お金が支払いを賄うよう付与されると、2倍ほどの人が資金を提供した。(KU,ok)
Avoiding overhead aversion in charity (Science, this issue p. 632)

分子レベルでの癌の画像化に用いるナノ粒子(Nanoparticles for molecular cancer imaging)

小さな粒子は、癌に特有の分子を標的とするために抗体やペプチドで被覆して、診断精度や患者の層別化を改善することができる。それにもかかわらず、このような装飾されたナノ粒子を臨床試験段階にもっていくのには時間がかかっていた。今回 Phillips たちは、"C dots"とよばれる超微小な(<10 nm)無機ナノ粒子の応用が、動物試験から患者での治験への段階に移行したことについて述べている。このナノ粒子は、転移性黒色腫に侵された5人の患者からなる小グループにおいて毒性の無いことが確認され、腎臓および膀胱を経由して完全に排泄された。これと対照的に、より大きかったり、コーティングされていない粒子は、しばしば肝臓内に留まった。毒性が無いことを確認したり、狙いとする腫瘍を見つけるように最適化を図るには、実際の患者でのもっと多くの研究が必要であるが、今やそのような超微小ナノ粒子がヒトで試験できるようになったということは、分子レベルでの癌の画像化という新たな時代が始まったということを示している。(Sk,nk)
Clinical translation of an ultrasmall inorganic optical-PET imaging nanoparticle probe (Sci. Transl. Med. 6, 260ra149 (2014))

担持されたナノ粒子は、反応を加速させる(Supported nanoparticles make the reaction faster)

現在、いくつかの技術は、真空条件下とは異なり、反応性ガスへの暴露時に触媒として使われる表面構造が調べられるようになっている。Divinsらは大気圧近傍での X線光電子分光法を用いて、還元性の酸化セリウム担体上のパラジウム-ロジウム・ナノ粒子と担体に担持されていないナノ粒子における反応性ガスの影響を比較した。水素を生成するエタノールと水蒸気との反応に関して、担持されたナノ粒子は反応性が高く、還元や表面転位がしにくくなっていた。(hk,KU,ok)
Influence of the support on surface rearrangements of bimetallic nanoparticles in real catalysts (Science, this issue p. 620)

マヨラナ状態かもしれない観測結果(A possible sighting of Majorana states)

ほぼ80年前、イタリアの物理学者 Ettore Majoranaは、それ自身が反粒子となる異常な粒子、いわゆるマヨラナフェルミオンの存在を提唱した。自由マヨラナフェルミオンの探索は今のところ成功していないが、ある種の奇妙な超伝導において、束縛されたマヨラナのような集団励起が存在している可能性がある。Nadj-Pergeたちは、超伝導状態の鉛の表面上に鉄原子を置いて原子の鎖を形成し、そのようなトポロジカル超伝導体を作り出した(Lee による展望記事参照)。彼らはその後、走査型トンネル顕微鏡を用いて、理論的にマヨラナ状態が出現することが予測されているこれらの鎖の端部で、ゼロエネルギーにおいて伝導度が増大することを観測した。(Sk,nk)
Observation of Majorana fermions in ferromagnetic atomic chains on a superconductor (Science, this issue p. 602; see also p. 547)

生物多様性において、互いに利益のある結果を達成する方法(How to achieve win-win outcomes for biodiversity)

たとえば洪水を防ぐことに役立ったり、野生蜂によって受粉が確実になること等、生態系はたくさんの機能を提供している。生物多様性を保全するという努力を、このような「生態系のサービス」からの経済的な利益が、生物多様性を保全する努力の根拠になることは可能だろうか? 展望記事において、Adamsは、経済的利益と保全の利益が合致するようなところでは、互いに利益のある結果が可能になると主張している。しかしながら、彼は、生態系サービスの概念がそれ自身、保全のための尺度ではなく、そして生態系のサービスの価値が保全に有利に働くためには、数々の条件が揃う必要がある、と警告している。(Uc,KU,nk)
The value of valuing nature (Science, this issue p. 549)

ゴルジ体へのつなぎ紐を1つか2つ、選ぶ必要がある(You've got to pick a Golgi tether or two)

細胞の内部には、非常に多様な膜輸送小胞が含まれているが、そのそれぞれは到達すべき正しい標的を発見し、それと融合する必要がある。どの小胞がどの標的膜と融合するかを特定する詳細な仕組みは、膨大な量の研究のテーマだった。ゴルジ複合体を横切る細胞膜内輸送の特異性をもたらす付加的なレイヤーには、特定の膜の「つなぎ紐」が含まれていると考えられている。しかしながら、そうしたつなぎ紐の重要性は不明なままであった。WongとMunroは巧みなトリックを用いて、特定のつなぎ紐がいかにして小胞の正しい目的地を保証しているかを明らかにしている。ミトコンドリア上に実験的に発現させたつなぎ紐タンパク質は、別の輸送小胞を略奪し、そして輸送小胞をかれらの正常な目的地からミトコンドリアへと違う方向に変えた。(KF,KU)
The specificity of vesicle traffic to the Golgi is encoded in the golgin coiled-coil proteins (Science, this issue 10.1126/science.1256898)

正しい(間違っていない)mRNAを抑制する(Repressing the right (and not the wrong) mRNA)

ミクロRNA (miRNA)は、小さな非翻訳 RNAであって、リプレッサー複合体の標的を特異的メッセンジャーRNA (mRNA)にすることによって、遺伝子発現を制御している。Schirleたちは、リプレッサー複合体の中心的成分である Argonaute-2 (Ago2)タンパク質と、標的である mRNAの双方に結合する miRNAの構造を決定した(Patelによる展望記事参照)。複合体中の miRNAは、まず、mRNA中の相補的配列の短い領域を認識する。この最初の相互作用が構造変化を促進し、複合体が付加的標的配列に結合することを可能にする。著者たちは、広範な miRNA-mRNAの対形成の非存在下では、リプレッサー複合体の活性部位が不活性にされ、非標的 mRNAの抑制を防ぐことになると示唆している。(KF)
Structural basis for microRNA targeting (Science, this issue p. 608; see also p. 542)

発生の際の樹状分枝の生成(Making dendritic arbors during development)

発生中の軸索は、末梢神経系中での生存と増殖のために、限りある、標的由来のニューロトロフィンを競争相手と奪い合っていることが知られている。Jooたちは、小脳プルキンエ細胞の樹状分枝の発生に関与する、付加的で相互的なモデルを示唆している。マウスでの研究で、著者たちは、成長中のプルキンエニューロンの樹状突起は、中枢神経系での競合的な樹状の増殖の際に、シナプス前パートナー由来のニューロトロフィンを必要とすることを示している。(KF)
Dendrite morphogenesis depends on relative levels of NT-3/TrkC signaling (Science, this issue p. 626)

後成学:それは個別に違っている(Epigenetics: It's all about the individual)

bromodomain and extraterminal domain (BET)タンパク質は、アセチル化したクリマチン(染色質)との相互作用を介した転写に影響する後成的制御因子のファミリーである。それらタンパク質は、癌などのヒトの疾患におけるその役割から、薬物標的として関心を惹いてきた。個々のファミリーメンバーの生物学的機能を解析によって明らかにすることは、薬剤開発にとって重要であるが、タンパク質の構造領域の共有のせいで、かなり難しい課題である。概念証明(proof-of-concept)としての研究で、Baudたちは化学的遺伝学戦略を用いて、ファミリーメンバーの1つの染色質結合活性を抑制する高度に選択的な小分子プローブを設計した。このアプローチ方法の拡張は、個々の BETタンパク質の機能の解明と、薬物標的としてのそれらの優先順位付けに役立つものであろう。(KF,KU,ok)
A bump-and-hole approach to engineer controlled selectivity of BET bromodomain chemical probes (Science, this issue p. 638)

引き離せばもっとべったりとなるだけ(Pulling me apart only makes me stronger)

隣接する細胞間に伝わる張力は,細胞増殖,細胞分化,細胞組織の構造化に重大な影響を発揮する可能性がある。細胞間の機械的張力が,分子レベルではどのくらい正確に感知されているのかについてはよく分かっていない。魅力的な仮説として,細胞-細胞間の接着分子である E-カドヘリン,その結合相手であるαおよびβカテニン,およびアクチンフィラメントとの間の連結が,張力センサーとして振る舞うかもしれないというものがある。しかしながら,この連結が分子レベルでどのようにして構築されているのかは不明である。Buckleyたちは光ピンセットを用いて,機械的な負荷がどのようにして単一のアクチンフィラメントとカドヘリン/カテニン複合体との相互作用に影響しているのかを測定した。得られたデータは、外力によらず弱く結合した状態から、外力に極めて敏感に強固に結合した状態まで、その相互作用を変えるモデルを支持し ている。この知見により,細胞が,動き,形を変えることが可能でありながら,如何にして組織の統一性を維持しているかが説明できるであろう。(MY,KU,ok,nk)
The minimal cadherin-catenin complex binds to actin filaments under force (Science, this issue 10.1126/science.1254211)

ブドウ球菌感染症の克服はもうすぐである(Overcoming staph infections is hardwired)

抗ブドウ球菌免疫に関するいくつかの進化的に保存された成分が、モデル生物としてショウジョウバエを用いて同定されてきた。しかしながら、ショウジョウバエにおいてグラム-陽性感染症の制御にキーとなる役割を果たしている、TOLL ligand Spaetzleに関して、脊椎動物での相同分子種はこれまで同定されていなかった。Hepburnたちは、脊椎動物においてハエの Spaetzleに機能的な同一分子として NGF-βを同定した。NGF-βは、黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染症へのマクロファージや好中球の応答を結集するパラクライン「アラーミン(alarmin)]として作用している。NGF-βあるいはその高親和性の受容体であるTRKAをコードしている遺伝子に有害な変異を持つ人々は、反復性の、重篤なブドウ球菌感染症に罹りやすい。S. aureusタンパク質は、選択的にNGF-βのマクロファージの産生をトリガーし、このことがS. aureusの取り込みとスーパーオキシド-依存的な死滅を増強し、炎症誘発性のサイトカイン産生を刺激し、そして好中球補充を促進する。更に、in vivoでのTrkAサイレンシングは S. aureusへの感受性を高める。かくして、NGF-β-TRKAの経路が S. aureus感染症への脊椎動物免疫の重要な、進化的に保存された成分である。(KU)
【訳注】
・パラクライン(paracrine):傍分泌.局所的に産出、放出され狭い範囲で作用する
・アラーミン(alarmin):周辺細胞へ自然免疫を誘導する分子
A Spaetzle-like role for nerve growth factor-A in vertebrate immunity to Staphylococcus aureus (Science, this issue p. 641)
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