AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 21 2014, Vol.346


チベット峡谷は地殻の隆起に抵抗している(Tibetan gorge avoids a tectonic aneurysm)

250万年前の急速な地殻上昇が、チベット高原東端の広大なツァンポ峡谷形成の原因となった。Wangたちは、その急激な地殻上昇の後に土砂が堆積し始めたヤルンツァンポ川に沿った深い谷の上流にその埋もれた峡谷を発見した。その埋もれた峡谷の堆積物のボーリングコアは、その谷の下流で観察されたと同じ川の勾配を示している。川の勾配が等しいことにより、従来信じられていた川の浸食作用というよりも、急激な地殻上昇現象がこの峡谷を形成したことが強く示唆される。(Uc,KU,nk)
Tectonic control of Yarlung Tsangpo Gorge revealed by a buried canyon in Southern Tibet (Science, this issue p. 978)

2っのDNA鎖を取り囲んでいるコヒーシンリング(A cohesin ring around two DNA strands)

相同的な姉妹染色体ペアの結合は、細胞分裂とDNA修復の際の必須の必要条件である。コヒーシンという特殊な複合体が、3っの異なるタンパク質から作られたリングを形成し、そして二つの姉妹DNA鎖を結合している。Gligorisたちと Huis in 't Veldたちは、コシーシンリング内に DNA出口ゲートを形成する特異的なタンパク質-タンパク質の界面の正体を明らかにした。この界面における変異は、姉妹染色分体間の接着を妨げる。このように、コヒーシンリングは、実際に二つの DNA鎖を取り囲んで、それらを結合させているに違いない。(KU,ok)
Closing the cohesin ring: Structure and function of its Smc3-kleisin interface (Science, this issue p. 963)
Characterization of a DNA exit gate in the human cohesin ring (Science, this issue p. 968)

光損失をレーザー利得で補う(Compensating optical loss for laser gain)

光損失は、ビーム品質劣化、マルチモード発振、効率低下等の原因となるため、レーザー動作にとって有害であると考えられている。時間-パリティ対称性の理論的アイディアからのヒントを得、それを結合したレーザ・コンポーネント設計に活かした結果、損失と利得とが実際に協調できるようになった。Feng等及び Hodaei等は、マイクロリングキャビティからなるレーザーシステムを設計し、各コンポーネント内の損失と利得量を注意深く制御した。損失と利得の相互作用により、量と質が高まったレーザー放射が得られるようになった。(NK,KU)
Single-mode laser by parity-time symmetry breaking (Science, this issue p. 972)
Parity-time?symmetric microring lasers (Science, this issue p. 975)

核廃棄物「ゾウの足」を封じ込める(Containing the nuclear elephant's foot)

大量の二酸化ウランから成る溶融した核燃料は、非常に危険である。液状の UO2は高温であり、非常に反応性が高いため、それを研究するための適当な試料容器を見つけるのが困難である。Skinnerたちは容器を用いるのを避け、代わりにレーザー光を用いて、不活性ガスとシンクロトロンX線ビームの中で浮揚させたUO2の粒を加熱した。彼らは、個々のウラニウム陽イオンをとり囲む酸素原子数の減少により、溶融核燃料の流動性が予想以上に増大してしまうことを見出した。これらの知見は、事故発生時にどのように核燃料を収容するかを考える上で重要である。(Sk,ok,nk)
【訳注】
・ゾウの足:1986年、チェルノブイリの原子力発電所事故で溶融した炉心から出た放射性廃棄物の「黒い溶岩」がゾウの足に似た形状であり、これを形から「ゾウの足」と呼ぶようになった。また、http://en.wikipedia.org/wiki/Elephant's_foot 参照
Molten uranium dioxide structure and dynamics (Science, this issue p. 984)

従来型のエボラ低減策を再生させる(Recharging Ebola mitigation measures)

エボラウイルスに対して効果的な薬やワクチンはまだ実現していない。それでは我々に何ができるであろうか。Pandeyたちは数学的モデルを用いて、異なる状況下(地域社会、病院、葬儀)での伝染の仕方を解析した。病気が流行している状態では、患者の隔離など、どのような単一の規制措置も、完全に順守させることは不可能である。しかしながら、患者の隔離、衛生的な埋葬、患者との接触者の追跡調査を組み合わせ、最低限で60%の順守が達成できれば、5、6か月のうちに日々の患者発生数を一桁台に減少させることが可能である。さらに、成功のためには持続性と地域の習慣に対する認識も必要である。(Sk,nk)
Strategies for containing Ebola in West Africa (Science, this issue p. 991)

結核の治療に糖尿病の薬を用いる(Using a diabetes drug to treat tuberculosis)

薬剤耐性を持つ結核菌株(結核菌:結核(TB)を引き起こす細菌)による患者数の増加が,新薬の探索にパラダイムシフトをもたらしてきている.結核菌そのものを標的とするよりは,宿主防御を高めようとする研究が試みられつつある.今回,Singhたちは,米国食品医薬品局の認可薬で,現在,2型糖尿病の治療に用いられているメトホルミンが、結核菌感染に対する免疫応答を改善することを報告している.メトホルミンは,in vitroと結核感染マウスで,特異的免疫反応を増進することで結核菌の増殖を抑制した.さらに,結核に罹った糖尿病患者に対するメトホルミン治療により結核の重症度が低減した.(MY)
Metformin as adjunct antituberculosis therapy (Sci. Transl. Med. 6, 263ra159 (2014))

磁気圏効果に記録された天体通過 (Transit marked by magnetosphere effects)

地球上の生命は、太陽から吹きつけられる荷電粒子を捩じ曲げる防御的磁気圏の内側に守られて存在している。Kislyakovaたちは、熱い木星タイプの太陽系外惑星の磁界強度を計算した。この惑星はこれまでよく研究されており、地球と類似の効果を生み出している。その惑星が中心星 HD 209458 の前を通過するとき、惑星大気が中心星の光を吸収した透過スペクトルには、水素原子吸収の独特の非対称な特徴が残されていた。(Wt,KU,ok,nk)
Magnetic moment and plasma environment of HD 209458b as determined from Lyman-αobservation (Science, this issue p. 981)

マウスでの脂肪の減少を脳に推進させる(Making the brain promote fat loss in mice)

糖尿病やメタボリック症候群に関連して、肥満が世界的な問題となりつつある.脳からの信号は全身の代謝を制御しており,脂肪組織による脂肪燃焼を誘発する.Perinoたちは,触媒機能不活性型の2つのホスホイノシチド 3-キナーゼ (PI3KβとPI3Kγ)を発現するマウスが,一般的なマウスより,スリムで,脂肪をより多く燃焼し,より多くエネルギーを消費することを見出した.脂肪の減少は,脳中へ特異的に送られた PI3Kβと PI3Kγの阻害剤を受けとったマウスでも生じた.このため,これらの酵素を脳内で阻害する薬剤は,肥満との戦いに役立つ力があるかもしれない.(MY)
Combined inhibition of PI3K?A and PI3K?A reduces fat mass by enhancing ??-MSH-dependent sympathetic drive (Sci. Signal. 7, ra110 (2014))

インフルエンザ感染症の山と谷 (Hills and valleys of influenza infection)

個々人は、その生涯に絶えず変化するインフルエンザウイルスの幾つかの異なる系統に遭遇するであろう。今日では科学者たちの努力で、様々なウイルスに曝されてきたこれまでの生涯に渡り、どのような感染を経歴してきたかをまとめて見ることが可能となった。Fonvillたちは、抗体景観モデリング(antibody landscape modeling)と呼ばれる技術により、防御反応と判然としないインフルエンザウイルスとの間の相互作用を可視化した。景観は、ウイルス追加免疫の新たな系統への暴露がどのように応答するのかを明らかにし、そして今後のワクチン接種のプログラムの最適化に向けての可能性を示唆している。(KU,nk)
Antibody landscapes after influenza virus infection or vaccination (Science, this issue p. 996; see also p. 919)

マウスにおけるエボラ症状の多様性 (Variety of Ebola symptoms in mice)

サルは別として、エボラウイルス感染症に関して人と同じような症状を示す利用しやすい動物モデルは存在しない。Rasmussenたちは、厳密な生物安全性の条件下で行われた一連の困難な実験において、明瞭な遺伝的背景を持つマウスでのエボラウイルスの影響を調べた。エボラウイルスへの抵抗性と感受性は、炎症、血液凝固、および血管機能において異なる遺伝的特性と関連していた。これらマウス群のサンプルは、薬物療法の候補やワクチン候補の予備的スクリーンに対して有用となるであろう。(KU,nk)
Host genetic diversity enables Ebola hemorrhagic fever pathogenesis and resistance (Science, this issue p. 987)

あるHIVの薬剤は、炎症を弱めることもできる (HIV drugs can dampen inflammation, too)

ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(NRTI)は、HIVが自身のゲノムを複製するために重要なプロセスである逆転写をブロックすることによって、直ちにHIVを停止させる。Fowlerたちは、マウスにおいて、その薬剤が、NLRP3インフラマソームと呼ばれる大きなタンパク質複合体によって惹き起こされる炎症をもブロックすることを発見した。この活性は、逆転写をブロックするその薬剤の能力とは独立したものである。その代わり、この薬剤は、NLRP3インフラマソームを活性化するイオンチャネルP2X7の活性をブロックしている。NRTIは、加齢黄斑変性や移植片対宿主病などの、NLRP3インフラマソームに依存しないいくつかの炎症性マウスモデルの結果を改善した。(KF,nk)
Nucleoside reverse transcriptase inhibitors possess intrinsic anti-inflammatory activity (Science, this issue p. 1000)

指と生殖器の発生における類似の制御 (Similar regulation of digit and genital development)

Hoxタンパク質は、脊椎動物と無脊椎動物の身体計画の設定を助け、脚と触角の違いのような部位のアイデンティティを特定している。Lonfatたちは、マウスの肢と生殖器におけるHox遺伝子制御について検討した。肢と生殖器とは構造と機能が大きく違っているが、発生の際のHox制御については共通の特色を示す。それらの解剖学的部位における転写は、共有される染色質の形態的領域内の遺伝子エンハンサーに依存している。こうした制御のあり方が、エンハンサーの進化のためのゲノムのニッチを提供しているようであった。(KF,nk)
Convergent evolution of complex regulatory landscapes and pleiotropy at Hox loci (Science, this issue p. 1004)

遺伝子制御のあり方を切り替える (Rewiring the gene regulatory landscape)

DNAse I 高感受性領域(DHS)は、メッセンジャーRNAが産生される場所を制御するゲノム上の位置と相関している。DHSには、細胞型と発生段階と種とに依存して違いがある。Vierstraたちは、マウスとヒトのゲノム全体における DHSマップを比較した。DHSのおよそ3分の1が、どちらの種にも共通に保存されていて、これはおよそ8千年前に分離したことを示している。DHSのほとんどは、組織特異的なコホートに分類される。しかしながらそれらは、一般に、ヒトとマウスの間で保存されない。DHSの大部分は、その領域がいかにして制御されるかをゆっくりと変えていく配列内の変化のせいで、進化しているらしい。(KF)
Mouse regulatory DNA landscapes reveal global principles of cis-regulatory evolution (Science, this issue p. 1007)

菌類はどうやって何世紀も生き抜くことができるのであろうか(How a fungus can live for centuries)

菌類や植物の中には,千年やそれ以上の間,生きることができるものがある.これらの種は,どうやってこのような長い期間に渡り,有害な変異を回避するのであろうか? Aanenは,展望記事の中で,長寿命菌の個々において,遺伝子変異が極端に少ないことを報告している最近の研究に脚光を当ている.幹細胞が分裂するやり方は,菌,植物,動物で異なっている.これらの差異により,ある種の菌類や植物類では,有害な変異の成長層での蓄積が回避可能となり,これらの生き物の特別長い時間に渡る成長が可能となっているのかもしれない.(MY,nk)
How a long-lived fungus keeps mutations in check (Science, this issue p. 922)
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