AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 21 2010, Vol.328


水のねじれと回転(Wet Twists and Turns)

塩が水に溶けると、その成分であるプラスとマイナスのイオンが引き離され、H2O分子の殻 (shell:シェル) に囲まれる (Skinnerによる展望記事参照)。Jiたち (p. 1003) はターゲット分子のその配向とその近傍の双方に鋭敏な振動分光法を用いて、これらの殻の動きを詳しく調べた。最近の理論的予測と一致して、個々の水分子は陰イオンとそれを取り巻く液体の間を急激な離散的ステップで (滑らかに増加する回転ではなく) 配向を変えていた。Tielrooijたち (p. 1006) は個々のイオンの役割に関して鋭敏な分光学的技術を用いて、より広範囲な水のネットワークの剛性における陽イオンと陰イオンの相対的な影響を比べた。硫酸マグネシウムといったある種の陽イオン/陰イオンの組み合わせは、個々の殻の境界を越えて一緒になって、水分子の運動を制限しているらしい。(KU,nk)
Large Angular Jump Mechanism Observed for Hydrogen Bond Exchange in Aqueous Perchlorate Solution
p. 1003-1005.
Cooperativity in Ion Hydration
p. 1006-1009.

天文学的膨張(Astronomical Inflation)

天文学におけるインフレーション理論に従うと、宇宙は誕生の瞬間に極端な加速膨張を経験した。このプロセスは宇宙を平らで等方、均一にし、そして量子力学的な種が、どのようにして現在私たちが観測する大規模構造に発達するのかを説明している。またインフレーション理論は、初期のインフレーション段階の間に重力波が生み出されたと予測している。他の代替理論では、重力波が発生しないか、異なる特性の波が予測されている。Krauss たち (p.989) は、原始重力波がどのようにしてビッグバン直後の物理に関する情報を与えるものか、そして、どのようにしたらそれらが宇宙背景輻射への痕跡を通して間接的に検出できるものかをレビューしている。この背景輻射は、宇宙が電磁波放射に対して透明になったときに放出された、ビッグバンからの遺物の輻射である。(Wt,nk)
Primordial Gravitational Waves and Cosmology
p. 989-992.

サー、みんな一緒に(All Together Now)

社会性のアメーバーである細胞性粘菌において、サイクリックAMP(cAMP) の周期的な合成と遊離が子実体を作るのに必要な細胞凝集を導びく。このような行動の開始が自主的な周期的に変動する細胞の同期化によるのか、或いは集団全体が振動性にならなければ、非周期的状態に留まったままなのかどうかが不明であった。Gregorたち(p. 1021,4月22号電子版;Prindle and Hastyによる展望記事参照)は生きた細胞のイメージング法を用いて、cAMPのパルスが空間における特異的な場所から生じていること、そして個々の細胞はこれらのシグナル伝達センターの領域に入ったり出たりしていることを示している。この観測は、周期的変動が特定の細胞の自主的な活動から生じているのではないことを示唆している。しかしながら、個々の細胞はcAMPの外部濃度の閾値以下で確率的なcAMPのパルス形成を示しており、そして同期化した周期的変動は、このランダムなパルス形成を考慮したときにのみ正確にモデル化されるであろう。(KU,nk,kj)
The Onset of Collective Behavior in Social Amoebae
p. 1021-1025.

地球の内核構造を明確化(Clearing Up the Inner Core)

地球の内核は、この惑星の熱の収支だけでなく磁場の制御も行っているが、その構造は謎のままである。例えば、固体の内核は地震波で観測する限り非対称であるが、この非対称が何に起因するか解ってない(Bufettによる展望記事参照)。Monnereau たち(p. 1014, および、4月15日号の電子版を参照) は、内核の主要鉱物相である結晶鉄の粒径をモデル化し、東方向へのゆっくりした平行移動は東半球を液化し、西半球を固化する結果、歪んだ核形状が出来る可能性があると報告している。Deuss たち(p. 1018, および、4月15日号の電子版を参照) は、90個の大きな地震から集めた内核の正規モード(normal mode) 振動構造を調べた結果、半球単位の単純な変動ではなく、もっと微妙な地域差のある構造を見出した。彼らはこれらの地震波を磁場に重ねた結果、内核では固化に伴ってか、あるいは、強い磁性の影響によって、領域に依存した結晶の整列化が生じていると思われる。(Ej,nk)
Lopsided Growth of Earth's Inner Core
p. 1014-1017.
Regional Variation of Inner Core Anisotropy from Seismic Normal Mode Observations
p. 1018-1020.

グラフェンのもうひとつの交差点(More Crossings for Graphene)

単層のグラファイトシートからなるグラフェンは数多くの独特な電気特性を示す。伝導帯と価電子帯がゼロエネルギー点で交わる「ディラック点」を導く円錐バンド構造もその一つである。Bostwickらは(p.999)角度分解光電子分光法を用いて、アルカリ原子がドープされかつ基板から浮いたグラフェンを調べた。彼らは、荷電キャリアとプラズモン (電子ガスの密度振動) の相互作用に起因する plasmaron に関連する特性を観測した。Dirac crossing pointは今3つの要素からなることが明らかとなった。ひとつは電子バンド、ひとつは、plasmaron バンド、そしてもうひとつは電子バンドと plasmaron バンドの相互作用によるものである。(NK)
Observation of Plasmarons in Quasi-Freestanding Doped Graphene
p. 999-1002.

Janus型の薬剤輸送媒体(Janus Drug Delivery Vehicle)

効果的な薬剤運搬媒体は、ある限られたサイズの範囲で、かつ、均一なサイズ分布で製造される必要がある。伝統的な小分子や重合体の両親媒性物質による自己組織化したものは、ミセル、リポソーム、重合ミセル、そしてポリマソームと呼ばれるドラッグデリバリー関係の人工カプセル用の膜として利用される。今回、Percec たち(p. 1009) は、Janus型(すなわち、2つの頭を持つ)自己組織化デンドリマーを使って、デンドリマーソーム(dendrimersomes)と呼ばれる単分散の超分子や、他の複雑な構造物を作った。この構造は、長期的な安定性を保つだけでなく、サイズの分布が狭く、デンドリマーのエタノール溶液を水に注入することで、容易に作ることができる。このデンドリマーソームには、抗ガン薬ドキソルビシンを載せることが可能で、pHを変化させることで薬剤の遊離制御も可能である。(Ej,hE)
Self-Assembly of Janus Dendrimers into Uniform Dendrimersomes and Other Complex Architectures
p. 1009-1014.

回復のためのネットワーク(Network for Recovery)

長年にわたる理論は、社会的多様性が経済の発展を牽引することを示唆している。英国の電話の通話記録 (地上電話と携帯電話の両者) と地域の経済状況に関する情報を結びつけることにより、Eagle たち (p.1029) はネットワークの多様性のみで地域の経済状況の相違の4分の3以上を説明できる事を示した。そのデータでは因果関係を明らかにすることは出来ないが、その関連性は経済的発展や回復が単なる財政的刺激だけでなく、国家の社会基盤の進展にも依存することを示唆している。(Sk)
Network Diversity and Economic Development
p. 1029-1031.

複雑なSAGA(Complex SAGA)

SAGA (Spt-Ada-Gcn5-Acetyltransferase) 複合体はSpt-Ada-Gcn5-アセチル基転移酵素であり、真核生物に保存され、遺伝子発現に際しては、重要な役目を演じる。これは21個のタンパク質から出来ており、その機能にはヒストンのアセチル化や脱ユビキチン化も含まれる。Samara たち(p. 1025,および、4月15日号の電子版参照) は、SAGAの脱ユビキチン化モジュール(DUBm)の構造を公表し、これが4タンパク質の部分複合体から成っており、ユビキチン特有のプロテアーゼである Ubp8 が Sgf11, Sus1 および Sgf73 と結合していることが明らかになった。この領域は相互接続しており、8つの亜鉛原子によって安定化されている。この構造から、DUBm 複合体が酵素の触媒領域活性化になぜ必要であるか、そして、どのようにして DUBm がモノユビキチン化されたヒストンに結合しているかの洞察が与えられる。(Ej,hE)
Structural Insights into the Assembly and Function of the SAGA Deubiquitinating Module
p. 1025-1029.

腫瘍への浸透性の攻撃(Penetrating Attack on Tumors)

腫瘍学における研究における努力のかなりのものが、新しい抗ガン薬の設計に焦点を当てて行なわれている一方、重要であるのに比較的研究の少ない研究領域として、現存の抗ガン薬の腫瘍への輸送と浸透を最適化する方法の開発がある。従来の研究は、腫瘍血管との特異的な相互作用のおかげで腫瘍組織を選択的に標的として浸透する、あるペプチド(iRGD) の特徴を明らかにしてきた。このたびマウスモデルを研究することで、Sugaharaたちは、iRGDペプチドの同時注入によって、細胞毒性のドキソルビシン(抗ガン薬)や治療性のある抗体トラスツズマブ(Herceptin)など、いくつかの抗ガン薬の腫瘍への浸透と抗腫瘍活性が、健康な組織への悪影響なしに増大することを示している(p. 1031, また表紙参照のこと)。重要なことに、そうした効果にはそのペプチドへの抗ガン薬の化学的結合が必要ではないのである。(KF)
Coadministration of a Tumor-Penetrating Peptide Enhances the Efficacy of Cancer Drugs
p. 1031-1035.

サイトゾル、サルモネラ、そしてpH(Cytosol, Salmonella, and pH)

サルモネラ属やその他の病原性微生物は、宿主の動物の細胞の内側、細胞内空胞内で成長する。細菌は空胞の膜を越えてエフェクタータンパク質を分泌し、宿主細胞の生理を病原体に有利なように変化させる。この分泌プロセスには、特化した分泌装置であるタイプIII分泌装置が関与している。その装置の組立は、宿主細胞の空胞内が低 pH であることによって引き起こされる。このたび Yu たちは、pH が中性であることが、細胞内サルモネラ属によるエフェクター輸送の生理的シグナルである、と同定した(p. 1040、4月15日号電子版; またCollierによる展望記事参照のこと)。このプロセスには、他の動物病原体にも見出される膜結合型調節性複合体の解体が関わっている。つまり、サルモネラは空胞の pH が低いことを信号として利用して分泌装置の組立を誘発し、続いて、細胞質の pH が中性であることを利用してエフェクターの輸送を引き起こしているのである。(KF,KU)
pH Sensing by Intracellular Salmonella Induces Effector Translocation
p. 1040-1043.

出芽酵母の全リン酸化酵素が明らかに(Budding Yeast Kinome Revealed)

リン酸化によるタンパク質の共有結合的修飾は、タンパク質の生化学的活性と機能を細胞が制御するための、基本的な手段である。リン酸化によって仲介される細胞の制御の仕組みの全体をより理解するために、Breitkreutz たちは質量分析を用いて、出芽酵母から得られたタンパク質キナーゼの完全な集合と相互作用しているタンパク質、またリン酸化反応に影響を与えるフォスファターゼ (脱リン酸化酵素) などの他の分子と相互作用しているタンパク質を同定した(p. 1043; またLevyたちによる展望記事参照のこと)。その結果、相互作用するタンパク質キナーゼとフォスファターゼからなるネットワークの存在が明らかになり、相互作用する他のタンパク質の分析により、それらの酵素の多くの今まで発見されていなかった役割が示唆されるにいたったのである。(KF,KU)
A Global Protein Kinase and Phosphatase Interaction Network in Yeast
p. 1043-1046.

生命の内部の管からのニュース(News from the Innner Tube of Life)

人体の表面や開口部に棲みついている900種の微生物のゲノムを配列決定するというアメリカ国立保険研究所(NIH)の大きなイニシアチブにより、大規模な基準(reference)配列決定に対する標準化されたプロトコルと方法が確立された。以前蓄積されたデータとこの新たなデータを組み合わせることで、Nelsonたち (p. 994) は、178種の細菌のゲノムに関する最初の解析結果を報告している。このサンプリングは、人において見出されている多様な微生物に関する研究の単なる第一歩であるが、この研究は今後の解析に於ける重要なベースラインを与えるものである。(KU,kj)
A Catalog of Reference Genomes from the Human Microbiome
p. 994-999.

微妙な違い(Subtle Variation)

表現型(生物の形質)が大きく違うにも関わらず、脊椎動物は肝臓の肝細胞のように、たくさんの明確に認識できる固有の細胞型を持っている。この特異的細胞を決定する遺伝子発現は、進化的に保存されたオルソロガス (共通祖先からの種分化に由来し、異なる種において同じ遺伝子座を占めている遺伝子) 転写因子によって決まる。Schmidtたちは (p.1036,4月8日号電子版)、人間・犬・マウス・ヒガシチビオジネズミオポッサム・ニワトリの肝臓にあたる全ゲノム領域にわたり、転写因子CEBPA、HNF4Aの結合におけるその保存と多様化について研究した。オルソロガス転写因子の結合している配列は類似しているにも関わらず、大部分の結合の事象はそれぞれの種に固有であった。(Uc,KU,kj)
Five-Vertebrate ChIP-seq Reveals the Evolutionary Dynamics of Transcription Factor Binding
p. 1036-1040.

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