AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 14 2010, Vol.328


植物組織におけるsiRNAの移動(siRNA Movement in Plant Tissues)

植物におけるRNA干渉(RNAi)-由来のシグナルの長距離移動は発生やウイルス攻撃に対する防御において重要な役割を果たしている。このシグナルはある種の核酸であろうということを示唆する証拠があるが、細胞から細胞へと伝播するこのシグナルの本質は知られていない。 (Martienssenによる展望記事参照)。Molnarたち (p. 872、4月22日号電子版) 及びDonoyerたち(p. 912,4月22日号電子版)は、外来性と内在性の低分子干渉RNAs (siRNAs)(これらの長い二重鎖の前駆物質のRNAsではない) の両者が、植物細胞間に情報を伝達する分子であることを示している。siRNAsを隔離することでRNAiに抵抗するウイルスタンパク質は導入遺伝子RNAiのサイレンシングシグナルの伝播を阻止する。更に、siRNAs−プロセシング酵素が伝播において大元 (source) の細胞(受容細胞では無く)に必要であり、植物への二重鎖siRNAsのボンバードメントにより、siRNAsが細胞間で伝播することを直接に示した。内在性のsiRNAsもまた、組織間を伝播し、そして遠い組織における標的配列のDNAメチル化を行うことが出来た。(KU,kj)
Small Silencing RNAs in Plants Are Mobile and Direct Epigenetic Modification in Recipient Cells
p. 872-875.
Small RNA Duplexes Function as Mobile Silencing Signals Between Plant Cells
p. 912-916.

全てと無(all and nothing)

複数の異なった状態が同時に重ね合わさった状態であるもつれは、量子力学の基本原理のひとつである (生死の状態にあるシュレーディンガーの猫がよい例である)。また、より大きな系でもつれを利用して、イメージング、コミュニケーション、パターニング、計測と言った応用に用いることができる。しかし"大きな"もつれ系を系統的に作り出すことは難しい。Afekらは (p.879; Wildfeuerらの展望記事参照) 、NOONと呼ばれる複数の光子からなるもつれを作る手法について報告している。この系では、N個の光子全てが一方のパスにあり、他方のパスには光子がひとつも無い、いわゆる"全てと無"の重ね合わせ状態が起きている。ビームスプリッターを用いてもつれ対を古典的光と混ぜ合わせることで、最大で5つの光子がもつれた状態を作り出したという。この手法は高次のもつれ状態をつくるための技術として一般的に適用可能であろう。(NK)
High-NOON States by Mixing Quantum and Classical Light
p. 879-881.

酸化物表面上での静止あるいは移動(Stop or Go on Oxide Surfaces)

走査トンネル顕微鏡(STM)のような機器を使った表面拡散の直接観測では、しばしば金属表面上の化合物に注目しているが、表面拡散が重要な役割を担うのは金属酸化物表面での反応である。Liたち(p. 882)はSTMと密度汎関数の理論計算を用いて、酸化チタンのルチル相の表面上でどのようにカテコール(2つのOH基を持つベンゼン環) が拡散するかを研究した。繰り返しSTMで走査しながら、プロトンの捕獲と遊離により個々のカテコール分子の移動と静止の状態が分の時間スケールでスイッチすることが観測された。表面のOH基とカテコール分子間の水素原子の移動が分子と表面の間の相互作用エネルギーを変化させ、その結果拡散障壁を変化させた。(hk,KU,nk)
Hydrogen Bonding Controls the Dynamics of Catechol Adsorbed on a TiO2(110) Surface
p. 882-884.

地球の銀の裏張り(Earth's Silver Lining)

地球表面の最も古い岩石の年齢は論争の種であるが、たとえ、それが推定年齢のうち最古のものであったとしても、私たちの惑星の最も初期の数億年間の歴史は、なお、欠け落ちたままである。しかしながら、比較的最近までマントル中に存在したある種の岩石では、地球形成時代からの同位体に関する特徴が今なお保存されている。Schonbachler たち (p.884) はこの保存性を利用して、原始物質を説明するモデルに拘束を与えた。この原始物質は、集合し、合体して地球を形成してきたものである。この岩石中の銀の同位体の特性は、あるクラスの原始隕石で測定されたものとほとんど同一であることから、最古の物質は、おそらくは、揮発性物質を多量に含有していたと思われる。しかしながら、他の同位体で見られる分別現象から推定すると、揮発性物質の含有量はそれに続く降着現象の期間の間に減少していったらしい。これらの同位体モデルへの拘束に基づくと、過去の主要な衝突の一つである、月形成の大衝突は、かなり大量の水と他の揮発性元素を地球にもたらした可能性がある。(Wt,nk)
Heterogeneous Accretion and the Moderately Volatile Element Budget of Earth
p. 884-887.

古代の鳥の下手な飛行(Poor Flight of the Ancients)

飛ぶためには、鳥の羽は折れたり曲がったりせずに鳥の体重を支えるために十分強くなければならない。構造的な支えとなっている羽の主要部分は、その長さ方向で羽を硬くしている中央の軸(羽軸)である。現代の鳥ではこれは軽量化のため中空になっている。Nudds と Dyke (p.887) は中生代の鳥である始祖鳥や孔子鳥の羽軸の断面が、現代の鳥たちのそれよりもずっと小さかったことを示している。計算によると、もしそれが芯まで詰まっていたとしても、羽ばたく飛行を維持するには弱すぎて、何とか滑空が出来るくらいの強度であっただろう。このように羽ばたき飛行は、鳥の進化において後々生じたものであり、このような初期の鳥たちは飛ぶのが下手だった。(Sk,KU,nk)
Narrow Primary Feather Rachises in Confuciusornis and Archaeopteryx Suggest Poor Flight Ability
p. 887-889.

ネットワーク表現法(Network Notation)

群集構造は、構成要素の集合の仕方、すなわち他の要素よりもどれだけ密接に相互作用し互いに緊密な連携をもっているか、という観点で特徴づけられることが多い。しかしながら、複雑な群集構造におけるこのような連携構造の系統的な検証や研究は簡単ではない。生物学的調整ネットワーク(biological regulatory networks)や社会学的ネットワークで多数見られるような、相互作用の時間的変化や複合的な連携を含む場合は、特に難しい。Muchaたちは (p.876)、このような、群集構造の不可欠な機能構成単位を担っている可能性をもつ集合要素を検知する数学的な手法を開発した。米国上院の投票記録からどのような意味が見て取れるかを解析するような、現実世界への応用によってその手法の有望さが示されている。(Uc,Ej,nk)
Community Structure in Time-Dependent, Multiscale, and Multiplex Networks
p. 876-878.

β-Barrelを解明する(Bring Out the β-Barrel)

グラム陰性菌の外膜中や真核生物の葉緑体やミトコンドリア中に見られるβ-Barrel膜タンパク質の組立についてはほとんど解ってない。今回、Hagan たち(p. 890, 4月8日号電子版、および、Stroudたちによる展望記事参照)は、再構成された系の発生について述べており、大腸菌Bam複合体によるβ-Barrelの組立プロセスを再現する、再構成システムの進展について述べている。タンパク質の基質の組立には精製された5-タンパク質Bam複合体といくつかの部分複合体(subcomplex)とシャペロンが必要であるが、外部からのエネルギー供給は不要である。(Ej,kj)
Reconstitution of Outer Membrane Protein Assembly from Purified Components
p. 890-892.

トカゲの消滅(Demise of the Lizards)

地球規模の気候変化が与える生物種への影響を調べた最近の研究が示す悲観的な予想や、地理的局地的に観測された種の絶滅にもかかわらず、これまで地球規模での絶滅の証拠はほとんど見られない。Sinervo等(p. 894; Huey等による展望記事参照)は、現在気候変動が原因となった種の絶滅によって、全世界のトカゲの多様性が減少しつつあることを明らかにした。20世期中の気候記録が、過去30年間にわたる200箇所のメキシコ産の種の詳細な調査結果と対比された。この地域における気温はかなり急激に変化してきたため、適応の速度が気候変化に遅れを取った。このモデルを全世界1000箇所以上におけるトカゲの全種に拡げると、今日気候変化がもたらす絶滅が全世界的なトカゲの集団に影響を与えつつあることを示唆している。(TO,KU)
Erosion of Lizard Diversity by Climate Change and Altered Thermal Niches
p. 894-899.

Na+チャネルを1つづつ調べる(Counting Na+ Channels One by One)

神経細胞がいかにして自分へのシナプス入力を統合して出力シグナルを産み出しているかを理解するには、中心のニューロンの軸索-細胞体-樹上突起表面上における電位依存性イオンチャネルの同定が必要である。改良された超微細構造的な免疫細胞化学の技術を用いて、LorinczとNusserは、新たに記述された電位依存性Na+チャネルであるNav1.6が、ランビエ絞輪と軸索の初期セグメントに存在していただけでなく、より低濃度の、しかし機能的に有意なレベルで、CA1錐体細胞中にもあるということを発見した(p. 906)。しかしながら、他の脳のNa+チャネルは、それら樹状突起中には存在しておらず、このことは、樹状突起のナトリウム・スパイクが特定な型のナトリウムチャネルの体細胞活性化の結果によって生じることを示唆するものである。(KF)
Molecular Identity of Dendritic Voltage-Gated Sodium Channels
p. 906-909.

それが、ノックアウト(It's a Knockout)

マラリア寄生虫は、ヒトの病原体の中でももっとも重要なものの1つである。その薬剤抵抗性が増してきたことは公衆衛生上の切迫した災害あり、我々は緊急に新しい薬剤を発見する必要がある。最近得られたマラリアのゲノムは、多くの標的を提供してくれる。しかしながら、寄生虫の遺伝的な扱いの難しさのせいで、臨床に意味のある寄生虫の血液段階に必須な遺伝子を同定するのは困難だった。Dvorinたちは、熱帯熱マラリア原虫の植物様カルシウム依存性タンパク質キナーゼ、PfCDPK5の機能を研究した(p. 910)。それは、その寄生虫の浸潤性血液段階において発現されるものである。そのタンパク質の発現を条件的にコントロールすることで、ライフサイクルの血液中ステージでその機能をノックアウトした寄生虫を作ることができた。PfCDPK5は、寄生虫のライフサイクルにおいて宿主のヒト赤血球から離脱するために必須である。(KF,Ej,kj)
A Plant-Like Kinase in Plasmodium falciparum Regulates Parasite Egress from Erythrocytes
p. 910-912.

後成的な地図(Epigenetic Maps)

シトシン塩基上のゲノムDNAのメチル化は、遺伝子発現についての決定的な後成的制御を提供し、刷り込まれた遺伝子の発現制御だけでなく、転位因子(TE)や反復配列のサイレンシングにも関与している。Zemachたちは、5つの植物、5つの菌類、それに7つの動物のゲノムのDNAメチル化を、重亜硫酸塩配列決定法(bisulfite sequencing)によって分析した(p. 916;4月15日号電子版; またJeltschによる展望記事参照のこと)。そのデータは、広範なDNAメチル化を蒙っている地上の植物と脊椎動物が、TEを抑圧する強い選択圧の下にあり、それはそれらの生殖が有性生殖であるためだ、ということを示唆している。無性生殖的に繁殖する単細胞動物と菌類は、TEメチル化を欠くことになりやすい。遺伝子本体のメチル化は、進化的には古くからのものだが、それはまた変異原性的であるので、この経路の損失は、比較的よくあることで、真菌の進化の初期に、またいくつかの植物や動物の系列ではより後になって、生じてきたのである。(KF)
Genome-Wide Evolutionary Analysis of Eukaryotic DNA Methylation
p. 916-919.

ゾウムシの家系図(Pedigree Weevils)

生物の表現型は相加的な遺伝的表現型(生物の表現型に影響を与える個体間での小さなかつ無数の遺伝的な差異)と変異性の負荷(個体が持っている変異の数)に関係している。これら二つの因子が次の世代の子孫に残る個々の能力にどの程度影響を及ぼすかは進化論の主要な課題の一つであるが、直接的な関係を示す証拠が乏しかった。種子を食べるササゲゾウムシに関して、近親交配のレベルでの変動を含む7世代の系統育種プログラムにおいて、部分的劣勢変異の相加的な遺伝的変異への寄与を推定することで、Tomkinsたち(p. 892)は、特にオスに対して、遺伝的な質と変異性の負荷の間での或る結びつきを実証した。(KU)
Additive Genetic Breeding Values Correlate with the Load of Partially Deleterious Mutations
p. 892-894.

硝酸塩は私に、アンモニウムは君に(Nitrate for Me, Ammonium for You)

植物の窒素吸収と二酸化炭素に対する反応の相互依存性については、ほぼ完璧に理解できている。しかし、無機窒素の影響、即ち硝酸塩或いはアンモニウムによる影響は殆ど無視されてきた。Bloomたちは(p.899)、単子葉・双子葉の植物種の双方において5つの独立した手法をもって以下の証拠を明らかにした。つまり空気中二酸化炭素濃度の増加に対する植物の反応の中では、二酸化炭素による硝酸塩吸収の阻害が決定的要素である、という証拠である。この発見によれば、いくつかの現象についてうまく説明することができるようになる。例えば、二酸化炭素馴化と食物の質的劣化などである。植物種・生育地・時期等によってこのような現象が大きく変化するのは、それらの条件によって窒素源としての硝酸塩とアンモニウムに対する植物の相対的な依存性が大きく異なるからである。植物の窒素栄養源としてのアンモニウムと硝酸塩の相対的な重要度の高さは、将来の収穫システムでの食物の質や収穫量の決定的要因となりうるだろう。(Uc,KU,Ej,nk,kj)
Carbon Dioxide Enrichment Inhibits Nitrate Assimilation in Wheat and Arabidopsis
p. 899-903.

集団個体数の熔融(Population Meltdown)

鹿やムースを含む野生動物の個体数は、しばしば狩猟によって人為的に調節されている。このような狩猟の影響によって、いくつかの狩猟動物の種は死滅する可能性があるが、これを乗り越えて耐え忍ぶ種もある。このように種によって異なる応答の理由を理解するために、Fryxell たち(p. 903) は数学的モデルを作り、これによって、弱い制御が存在するときには、数十年にも達する減衰する個体数周期が予想されることを示した。このモデルは、ノルウェーとカナダで、ムースと鹿の3つの生態地域でテストされた。(Ej)
Resource Management Cycles and the Sustainability of Harvested Wildlife Populations
p. 903-906.

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