AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 28 2010, Vol.328


胸腺細胞の放出(Thymocyte Egress)

免疫系の発生段階における重要なステップは発生中のTリンパ球 (或いは胸腺細胞) の胸腺から末梢器官への放出であり、そこで胸腺細胞は感染性の微生物に対して防御する。放出には胸腺細胞による脂質メディエーターであるスフィンゴシン一リン酸 (SIP) の検知が必要であるが、放出に対してSIPの検知のみで十分なのか、或いはSIPの源は、そしてTリンパ球が胸腺を出る場所等は不明であった。Zachariah and Cyster(p. 1129,4月22日号電子版) は、マウスの胸腺細胞において、導入したSIP受容体-1遺伝子の選択的発現が胸腺細胞の放出にとって十分なものであることを見出した。胸腺細胞の放出は、リンパ管ではなく血管を通して皮質骨髄 (corticomedullary) 接合部で生じていた。血管を鞘で覆っている周皮細胞 (神経堤-由来細胞) が出てくる胸腺細胞に対してそのSIPを提供する。(KU,kj)
Neural Crest-Derived Pericytes Promote Egress of Mature Thymocytes at the Corticomedullary Junction
p. 1129-1135.

ざらざらもつるつるも(Taking the Rough with the Smooth)

大抵の多結晶物質は、高温で広くアニーリングしても完全な単結晶 (熱力学的に好ましい状態) にはならない。多結晶状態の安定性は、粒界に蓄積する不純物の存在に起因されていた。しかしながら、高度に純粋な物質でさえ粒成長が停滞状態となる。HolmとFoiles (p. 1138) はシミュレーションを行って、粒界が“粗面”と“滑面”として分類できることを示している。粗面境界は決まった活性化エネルギーによって連続的に動き、一方滑面境界は低移動度で、不規則な、ステップワイズの様式で動く。加熱により、境界は滑面から粗面へと変化するが、ある粒界と次の粒界とで転移温度は数百度も変化する。このように、不純物が無い状態でさえ、これらの滑らかで、移動度の低い境界が多結晶構造を束縛している。(hk,KU,nk)
How Grain Growth Stops: A Mechanism for Grain-Growth Stagnation in Pure Materials
p. 1138-1141.

アジアにおける砒素(Arsenic in Asia)

南および東南アジアに暮らす何百万もの人が、毎日、飲料水を介して発癌物質である砒素の潜在的危険水準にさらされている。高い砒素の水準は周知の問題ではあるが、増大する飲料水需要がこれらの地域での新規な井戸の継続的建設を推し進めている。Fendorfたち(p. 1123) は、飲料水や灌漑用水として用いられる地下水の帯水層の砒素分布を含む、南および東南アジアの地下水での砒素の放出を制御する化学的および水文学的因子を検討した。これらの地域全体としては不十分なサンプリングおよび因子の評価ではあるが、水質改善に向けたいくつかの重要な方向性が示された。(Sk,KU)
【訳注】水文学(すいもんがく/hydrology) : 降水による淡水の動態を扱う学問
Spatial and Temporal Variations of Groundwater Arsenic in South and Southeast Asia
p. 1123-1127.

エッジ部での触媒作用(Catalysis at the Edge)

金属酵素や均質な金属錯体等、溶液中において多くの触媒は活性な部位を作り、そこでは金属イオンが反応物に結合し、活性化するのに役立っている。このような配位的に不飽和な二価鉄の部位 (coordinately unsaturated ferrous sites:CUFs) が、Fuたち (p. 1141) により担持された不均一触媒中に作られた。白金の単結晶表面上に成長した二価鉄酸化物の島 (island) は、より酸化された第二鉄の島よりも低温下でCOの酸化に対して遥かに活性が高かった。この差異は、酸素を活性化する島とPt表面との間の界面における部位に由来している。シリカに担持されたPt-Fe触媒は水素気流からのCO除去に対して活性であり、これは燃料電池の活性を維持するための重要な反応である。(KU)
Interface-Confined Ferrous Centers for Catalytic Oxidation
p. 1141-1144.

二分子からなる球(Two Molecular Spheres)

ウイルスは複数のより低い対称性を持つタンパク質前駆体から高度に対称性のある被膜構造体、キャプシドを形成する。最近、化学者たちは、タンパク質ではなく有機分子の支柱と金属イオンにより、より小さなスケールでこのプロセスを模倣しようと試みている。Sunたち (p. 1144,4月29日号電子版;Stefankiewicz and Sandersによる展望記事参照) は、24個のパラジウムイオン(M)と48個のV-形状の架橋リガンド(L)の混合体が自己組織化して中空体(M24L48)を形成し、24個の頂点と中心の直径4ナノメートルのほぼ球状の多面体を作ることを実証している。この自己組織化は架橋リガンドの折れ曲がりの角度に極めて敏感である;平均折れ曲がり角が僅かに減少しただけで、24個の頂点の多面体ではなく、12個の頂点の多面体を作ることになる。(KU,nk)
Self-Assembled M24L48 Polyhedra and Their Sharp Structural Switch upon Subtle Ligand Variation
p. 1144-1147.

下から上に向かって語る(Telling Up from Down)

二酸化炭素は、通常寒冷期を通して深海に蓄積され、氷河の後退期間中に急速にかつ莫大な量が開放されたと信じられている。しかし、深海に二酸化炭素が貯蔵されたという証拠ははっきりしていなかった。Skinner たち (p.1147; Anderson と Carr の展望記事を参照のこと) は、南海(Southern Ocean)からの放射性炭素のデータを与えており、南極大陸の周りを旋回する深海流は、今日の大気と比較しておよそ 2倍古いものであることを示している。これは二酸化炭素の蓄積と貯蔵を示すものと考えられる。(Wt)
Ventilation of the Deep Southern Ocean and Deglacial CO2 Rise
p. 1147-1151.

害虫被害の巻き添え(Collateral Damage)

Bacillus thuringiensis(Bt) 由来の殺虫性毒を発現するように遺伝子改変された綿作物は、自身が害虫駆除、特にワタアカミムシガの幼虫 (cotton bollworm) に対する駆除性質を持っているため、外部からの殺虫剤を少なくできる特徴がある。Lu たち (p. 1151, 4月13日号電子版参照) は、中国北部の綿花栽培地域での綿花用殺虫剤の使用量減少が、その地域の害虫の個体数のバランスを変化させたと報告している。Btを発現する綿花が草食性昆虫であるメクラカメムシ科(Miridae family)の発生源となっており、Bt処理してない従来の綿花が非特定の殺虫剤を使ったときのメクラカメムシ科の吸収源となったのとは異なる。これらの昆虫は多様な植物を食べる結果、ブドウ、リンゴ、モモ、ナシなど、他の作物の脅威となっているのである。(Ej,hE,KU)
Mirid Bug Outbreaks in Multiple Crops Correlated with Wide-Scale Adoption of Bt Cotton in China
p. 1151-1154.

光ナノエンジニアリング(Optical Nanoengineering)

光学と電子工学は大きく異なる長さスケールで動作している。表面プラズモンは光によって引き起こされる電子励起現象であり、スケールの違う現象を橋渡しし、光通信並みのプロセススピードと電子集積回路並みの小ささを持つシステム構築の可能性を秘めているために活発な研究が行われている。Fanらは(p.1135)、金で覆われた誘電体ナノ粒子の自己組織化について報告している。高分子配位子で金表面を機能化することで、ナノ粒子クラスターの生成を制御できる。自己組織化ナノ構造の光学特性はクラスターの構成要素数に依存し、構造を選ぶことで特定の光学特性を実現できる。このようなボトムアップ手法は思い通りのナノスケール光学回路を作るうえで有用である。(NK)
Self-Assembled Plasmonic Nanoparticle Clusters
p. 1135-1138.

慢性消耗性疾患系統の変動(CWD Strain Variation)

いわゆるプリオン病は、シカや他のシカ科(cervids)の動物に見られる慢性消耗性疾患 (CWD) を含む致死的な神経変生障害である。プリオン病は付随する感染性DNAの非存在下で感染性タンパク質 (プリオン) によって引き起こされると思われている。それにもかかわらず、核酸の非存在下でも変異することが可能なプリオン株が単離され、これらの株は種の境界を超える性質を持っている。Angersたち (p.1154,5月13日号電子版、および、Collingeによる展望記事も参照) は、CWDの範疇に含まれる系統の変動について述べている。この伝染性疾患の宿主域が拡大する一方で、CWDの優勢株が決定できないでいる。CWDの変動の理解は、ヒトの将来の健康リスクを防御するために重要なことと思われる。(Ej,hE,KU,kj)
Prion Strain Mutation Determined by Prion Protein Conformational Compatibility and Primary Structure
p. 1154-1158.

脂肪を燃やす脂肪(Fat-Burning Fat)

哺乳類において、脂肪は2つの形態で存在しており、その一つは良く知られた白色脂肪組織(WAT)であり、これはエネルギーを蓄え、肥満の原因となるが、他の一つはそれほど知られてない褐色脂肪組織(BAT)であり、これは熱を発生するためにエネルギー源を燃焼させる。ヒト生理学においては、かつて、BATの役割は新生児に限定されると考えられていたが、最近、大人も機能性BATを有していることが発見されたことから、BAT発生の制御因子が、その肥満対策への潜在的応用の可能性から興味を集めている。Vegiopoulos たち(p. 1158,5月6日号電子版、および、Ishibashi and Sealeによる展望記事参照)は、プロスタグランジンの合成に不可欠な酵素のシクロオキシゲナーゼ2 (cyclooxygenase-2 (COX-2)) が、マウスの脂肪前駆細胞の誘因となりWATではなく、BATを分化させることを明らかにした。COX-2を過剰発現するマウスはエルギー消費が増加し、食事による肥満を防いだ。(Ej,hE,nk)
Cyclooxygenase-2 Controls Energy Homeostasis in Mice by de Novo Recruitment of Brown Adipocytes
p. 1158-1161.

万物は変わる(Everything Changes)

ヌクレオソームはDNAをパッケージしていて、その組立と解体によって、ゲノムへのアクセスが制御されている。それら変化を追跡する手段は、酵母においては直接的な動力学的解析が使えるのだが、高等真核生物においては定常状態的方法に限定されている。この欠陥に取り組むため、Dealたちは、ヌクレオソームの組立と解体の、ゲノム全体にわたってのダイナミクスを追跡するための一般的方法を開発した(p. 1161)。ショウジョウバエの組織培養細胞において、高レベルのヌクレオソームの代謝回転が、遺伝子本体および後成的調節エレメント部位にわたって観察された。ヌクレオソームは20時間にわたる細胞周期それぞれにおいて複数回置換されていて、これは、ヒストン修飾それ自体が後成的情報の伝達をしてるのではなさそうだということを示唆する。さらに、複製開始点の解析によって、それが、配列の特色ではなく、染色質のダイナミクスによって決定されていることが示されている。(KF)
Genome-Wide Kinetics of Nucleosome Turnover Determined by Metabolic Labeling of Histones
p. 1161-1164.

公平か平等か(Fairness or Equality?)

不均一な分配は、本質的に不公平であるとも、それが異なる達成度を反映するなら適切であるともみなされるだろう。経済交換ゲームを通じて、Almasたちは (p.1176)、5年生から13年生にかけて、どのようにその判断基準が変化するかを調査した。5年生の子供は富を平等に分配することを好む傾向にあるが、13年生は明らかな証拠があれば、不平等な分配にも納得するという傾向を示した。これは、小さい子供は厳格な平等主義者であるが、成長にするに従い能力主義を受けいれていく、ということを示している。おそらくは、スポーツのような、成果に基づく多様な社会的活動を経験する結果だと考えられる。(Uc,KU,nk)
Fairness and the Development of Inequality Acceptance
p. 1176-1178.

世界生物多様性目標未達成(Global Biodiversity Target Missed)

2002年の生物多様性条約 (CBD) は、2010年までに生物多様性損失率を大幅に減少させるという目標を採択した。この目標は達成されなかった、という推測が広がっている。Butchartたちは(p.1164,4月29日号電子版)、CBDの枠組みで設定された30以上の指標を解析した。これらの指標には、多様性に関わる条件や状態 (例えば、生物種数や規模)、多様性を脅かす圧力 (例えば、森林破壊)、多様性を維持しようとする試み (例えば、地域保護) などが含まれ、1970年ごろから2005年の期間について評価された。これらを総合すると、実際には2010年までの目標達成ができなかったことが明らかになった。(Uc)
Global Biodiversity: Indicators of Recent Declines
p. 1164-1168.

デフェンシンの作用のモードを明確に(Defining Defensins' Mode of Action)

デフェンシン(defensin)とは、自然免疫で役割を果たしている抗菌性の宿主防御ペプチド類である。多くのそうしたペプチド類は、細菌の膜を破壊することによって作用している。しかしながら、Schneiderたちはこのたび、真菌のデフェンシンであるplecstasinが細胞壁の生合成を標的にしていることを明らかにしている(p. 1168)。生化学的研究によって、plecstasinの細胞性標的としてLipid IIが同定され、複合体形成に関与する残基が、核磁気共鳴分光法と計算によるモデリングで同定された。無脊椎動物からは、初期の研究において、これまたLipid IIを標的とする2つのデフェンシンが同定された。plecstasin はある種の薬剤抵抗性グラム陽性菌に対して活性があり、確証された標的に対するその作用から、さらなる薬剤開発に導くであろう。(KF)
Plectasin, a Fungal Defensin, Targets the Bacterial Cell Wall Precursor Lipid II
p. 1168-1172.

増殖の制御(Proliferation Control)

タンパク質複合体mTORC1は、哺乳類の、ラパマイシン標的タンパク質として知られるタンパク質キナーゼを含んでいるが、細胞増殖と細胞サイズの重要な制御因子である。多くの標的の中でも、mTORC1は真核細胞翻訳開始因子であるeIF4E-結合タンパク質(4E-BP)をリン酸化し、それによって、増殖を制御しているタンパク質の翻訳を制御している。Dowlingたちは4E-BPの発現を欠くマウスを用いて、そのンパク質が、mTORC1による細胞増殖の活性化には寄与しているが、細胞成長へのmTORC1の効果にとっては不要である、ということを明らかにした(p. 1172)。後者にはmTORC1のもう一つの標的であるリボソームタンパク質S6キナーゼが必要である。mTORC1阻害剤は抗癌剤としての可能性があるとして探求されているが、mTORC1阻害剤が、形質転換されたマウス細胞によって形成されたコロニーの数とサイズを減少させるために、4E-BPの存在は必要であった。(KF,kj)
mTORC1-Mediated Cell Proliferation, But Not Cell Growth, Controlled by the 4E-BPs
p. 1172-1176.

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