AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 26 2009, Vol.324


P顆粒の難問(P Granule Conundrum)

多くの生物において、精子や卵細胞となるべき生殖細胞には体細胞とは異なる特有な細胞質顆粒が存在する。線虫において、これらP顆粒は卵母細胞中や受精卵が単一細胞の段階では、ほぼ均一に分布している。しかし、最初の卵割段階が終了するまでには、前側細胞には基本的にP顆粒は存在せず、後側細胞が顆粒の主要な集団を示している。このプロセスがどのように起きるか、どこで顆粒が移動するか、詳細は不明である。Brangwynne たち(p.1729, および、5月21日号電子版、さらに、Le Goff and Lecuitによる展望記事参照)は、局所化が生じるのは顆粒成分の溶解と凝縮プロセスの制御によるという、きわめて特異的なメカニズムによって実現している証拠を示した。その結果、このような細胞質の再構築において、物理化学的メカニズムが、他の細胞や発生系でも存在する可能性が探索されるようになった。(Ej,hE)
Germline P Granules Are Liquid Droplets That Localize by Controlled Dissolution/Condensation
p. 1729-1732.

勝者はすべてを獲得するのか?(Winner Takes All?)

個々の細胞同士の競争は、通常の動物の発生や細胞の恒常性に重要な役割を果たしている。Johnston (p. 1679)は、ショウジョウバエの細胞間競争の二つのタイプを報告している。一つは羽の中の上皮細胞に関するもので、もう一つは生殖幹細胞や体性幹細胞に関するものである。「弱い」細胞の死や排除によって、細胞間競争における「負け」が明らかになる。一方、勝者となった細胞は敗者を飲み込んだり、更なる増殖を示すかもしれない。競争によって、細胞は発生期の間、クオリティの劣った他の細胞を知覚し排除することができるのだ。(Uc)
Competitive Interactions Between Cells: Death, Growth, and Geography
p. 1679-1682.

分子消化剤(Molecular Fire Quencher)

籠の形をした分子の集合体によって、このなかに捕まえたより小さな分子の反応を制御することができる。Mal たち(p. 1697) は、この手法を拡張し、酸素と接触すると容易に発火する白色リン元素P4を安全に保護することに成功した。水溶液中で6個のリガンドの配位した4つの鉄イオンの4面体の籠を自己構築し、懸濁液中のリンを効率よく捕まえた。水溶性のホスト−ゲスト構成物は少なくとも4ヶ月間は空気中で安定であるが、ベンゼンを加えると、完全な状態のP4を急速に放出した。(Ej,hE,KU)
White Phosphorus Is Air-Stable Within a Self-Assembled Tetrahedral Capsule
p. 1697-1699.

チップ上の一酸化炭素(CO on a Chip)

マイクロフルイディクス技術は、化学合成プラットフォームの小型化を著しく促進させた:電気的にゲートされる溶液の流れと混合によって、直径数センチのチップ上で分子反応が行なわれる。しかしながら、特異な量子力学的状態にある気相分子の調査を含む、もっと基礎的なダイナミクスの研究をするとなると、いまだに実験としてははるかに大きな相互作用の領域を必要としている。Meekたち(p. 1699)は、気相分子の研究において小型化に向けての第一ステップを示しているが、そこではマイクロ電極を持つチップ上にCO分子の冷却気相ビームの単離を実証している。この技術は、双極子相互作用により入ってくる分子をトラップし、そしてスローダウンするという高速の変調電場に依存している。一度停止すると、分子はある一定期間チップ上に保持され、それから検出器へリリースされる。(hk,KU)
Trapping Molecules on a Chip
p. 1699-1702.

花に機能を付与する(Flower Functionalization)

顕花植物に再生産するための雌の生殖機能を付与する特殊細胞の配偶体を発生させるには、オーキシンというホルモンが必要である。しかし、オーキシンの機能と運動性を発揮させるに必要なものが何であるかは不明なままであった。Pagnussat たち(p. 1684,および、6月4日付電子版、Friedmanによる展望記事も参照)は、オーキシンが雌性配偶体内の特定の部位で合成され、このオーキシンの位置と濃度勾配の効果を利用して、これら特殊細胞のパターン形成を制御している証拠を見つけた。(Ej,hE)
Auxin-Dependent Patterning and Gamete Specification in the Arabidopsis Female Gametophyte
p. 1684-1689.

もっと速く進む(Going Faster)

多くの対流圏の汚染物質や微量のガスの濃度は、それらのヒドロキシラジカル(OH)との反応によって抑制される。OH は短寿命の高い反応性の化学種であり、光化学プロセスによって大気中に生み出され、これらの分子の酸化反応による分解に続く、化学反応の連鎖によって再生産される。これらの再生産メカニズムは、かなり良く判っていると考えられているが、Hofzumahaus たち (p.1702, 6月4日号電子版) は、これまで認識されていないある反応経路に関して報告している。珠江デルタは中国のひどく汚染した地方であるが、その大気の組成研究によると、非常に高い OH 濃度が、現行のモデルではそれに対応して予想される高レベルのオゾンがないのに、観測されている。このように、OH 濃度は、オゾン生成の伴なわない OH の再生産速度を増すプロセスによって増加している可能性がある。(Wt,KU)
Amplified Trace Gas Removal in the Troposphere
p. 1702-1704.

ダブル交配は質が低下(Two's a Crowd)

オスとメスがそれぞれの適応度を最大にするために競い合うというこのプロセスは、彼らの子孫の適応度にも影響する。性の選択の多くは、一妻多夫(polyandry:メスによる複数の交配)に由来し、この一妻多夫の進化を説明する幾つかの拮抗する仮説が出されている。Bildeたち(p.1705)は、潜在的なメスの選択と性的拮抗作用の根底にある二つの理論を明白にするため、カブトムシ類(seed beetles)においてダブルの交配実験を行った。予想に反して、遺伝的な適応度が高いオス(メスと一回の交配をした時に生まれる子供の数に基づいた尺度による)は、メスが高、低の遺伝的適応度を持つオスの双方とダブルで交配すると子供の数が少なくなった。このように、交配後の性の選択は低い適応度を持つたオスの遺伝子型に有利となり、メスは複数のオスと交配する時には遺伝的な代償というリスクを負うことになる。(KU,Ej)
Postmating Sexual Selection Favors Males That Sire Offspring with Low Fitness
p. 1705-1706.

生命、肢、そして小さなRNAに関して(Of Life, Limb, and a Small RNA)

哺乳類における遺伝子発現はタンパク質だけでなく、マイクロRNAと呼ばれる小さな非翻訳RNAによって制御されている。このようなRNAの関与により、ヒト疾患の分子的起源や疾患の治療法に関する強力な解決の糸口が得られる。虚血症の病気は不適切な血液供給により生じる。Bonauerたち(p.1710,5月21号電子版)は、血管を裏打ちしている細胞中に発現する特異的なマイクロRNA(miR-92aと呼ばれる)が、新しい血管の増殖を抑えるような働きをしていることを見出した。miR-92aは、おそらく細胞の接着と遊走に関係するタンパク質、インテグリン発現の影響を通して作用している。マウスモデルにおいて(そのマウスは、不適切な血液供給により心筋と肢の筋肉の双方に損傷を持っている)、miR-92aの治療的抑制により、損傷した組織において血管密度が増加し、機能回復が促進された。(KU)
MicroRNA-92a Controls Angiogenesis and Functional Recovery of Ischemic Tissues in Mice
p. 1710-1713.

Ras、STAT3、及び形質転換(Ras, STAT3, and Transformation)

STAT3(転写に関するシグナルトランスデューサで、かつ活性化因子)は、受容体刺激に応じて活性化され、核内で作用して遺伝子発現を制御する。Goughたち(p.1713)は、STAT3が癌遺伝子Rasによる細胞の形質転換に機能していることを見出した。しかしながら、この活性化はSTA3の変異体中に保持されており、この変異体は転写を活性化しない。その代わり、活性なSTAT3はミトコンドリアと関係しているらしい。更に、修飾されたSTAT3はRasにより転写を促進されたミトコンドリアをターゲットとしており、ミトコンドリアの機能はSTAT3を欠如したRas-形質転換細胞で破壊されている。STAT3のこのような形質転換-特異的な影響は抗癌性の治療開発における有用な標的となるはずである。(KU)
Mitochondrial STAT3 Supports Ras-Dependent Oncogenic Transformation
p. 1713-1716.

銅塩超伝導体の解析(Cuprate Analysis)

20年以上に渡る強力な研究にもかかわらず、銅塩に超伝導性を与えるメカニズムは、銅塩の不均質性により曖昧、かつ議論が絶えない。走査型トンネル効果分光法(STS)と高分解能の、角度-解像光電放出分光法により、高温超伝導体である銅塩の励起に関するエネルギーと運動量の情報が得られる。Pushpたち(p.1689,6月4日号電子版)は、一連のドーピングレベルと温度に関するBi2St2CaCu2O8のSTSの研究を報告している。スペクトル解析のためのこの方法は銅塩には不均質性があるが、これはTcには影響を及ぼさず、むしろFermi面と相関が高いことがわかり、元の絶縁状態から超伝導性の対形成の機構がどのように進化したかの洞察を与えるものである。(KU,Ej)
Extending Universal Nodal Excitations Optimizes Superconductivity in Bi2Sr2CaCu2O8+{delta}
p. 1689-1693.

珪藻の緑(Green for Diatoms)

全世界の炭素固定の約20%は珪藻によるものである。そして他のクロムアルベオラータ(Chromalveolata)(例えば、渦鞭毛虫(dinoflagellates)、円石藻(coccolithophorid)等)と共に、世界の海洋や生命の系統樹における数千の真核生物分類群を構成している。Moustafaたち(p. 1724; DaganとMartinによる展望記事参照)は、珪藻ゲノムの核遺伝子の約10%が外来の藻類を祖先としており、キメラ性(chimeric)が高いことを発見している。1272個の藻類の遺伝子セットの中で、253個の遺伝子は、予想されたとおり遠縁の紅藻類の2次的な内部共生に由来していたが、1000個以上の遺伝子は緑藻類に由来しており、そして紅藻類との関係に対して時期的に先立っている。これらの原生生物の分類群(protist taxa)は、発生起源やゲノムの調査のためだけでなく、生物燃料やナノテクノロジーの応用、そして気候変動と関係する世界的な一次生産性におけるそれらの潜在能力に対しても重要である。(TO,KU)
Genomic Footprints of a Cryptic Plastid Endosymbiosis in Diatoms
p. 1724-1726.

BDNFと薬剤依存性(BDNF and Drug Dependence)

脳由来神経栄養因子(BDNF)は、慢性的な薬剤乱用の後で発現するニューロンの可塑性に関与する増殖因子であり、これは慢性的オピエート効果(アヘンによる鎮静効果)に重大な影響を与えている可能性がある。Vargas-Perez たち(p. 1732,および、5月28日発行の電子版参照)は、腹側被蓋野内で、BDNFがオピエート-無処置でドーパミン非依存性薬剤報酬基質からオピエート依存性でドーパミン依存性動機づけ的基質へとスイッチングする機構に直接関与していることを見つけた。腹側被蓋野内において、BDNFはGABA-A受容体が抑制的状態から興奮性状態へと作用を変化させている。この変化によって、急性の薬物取得状態と中毒症状の間の神経生物学的境界を決定づける行動変化を起こしている。(Ej,hE)
Ventral Tegmental Area BDNF Induces an Opiate-Dependent--Like Reward State in Nai"ve Rats
p. 1732-1734.

嵐の中のNMR(NMR Under Stormy Conditions)

核磁気共鳴分光は分子特定に広く用いられている。しかし、小さな構造的な違いを発見できる十分な分解能を得るためには、測定中に空間的および時間的に僅かに変化する外部磁場からサンプルを隔離できるかにかかっている。このため容易に計測できる材料の種類には限界があった。Pelupessyらは(p.1693)、共役したスピン間のコヒーレント伝播を計測することで、磁場の空間的、時間的均一性を必要としない計測法を発明した。従来の手法は矯正磁場を与えることによって均一性を実現していたのに対し、この手法では観測されるコヒーレンスが元来局所磁場環境の変化に敏感ではないことを利用しているために外部磁場変化をあらかじめ把握する必要が無い。(NK)
High-Resolution NMR in Magnetic Fields with Unknown Spatiotemporal Variations
p. 1693-1697.

器官誘導の統合(Integrating Organ Induction)

動物の発生の際には、複数のシグナル経路が、膵臓や肝臓にみられるような器官の前駆体の誘導を特定している。WandziochとZaretは、それら器官の特定を行っている最初期の遺伝子上で3つのシグナル経路がどのようにしてひとつにまとまっていくかを調べた(p. 1707)。並行して働いている異なったシグナルによる誘導性ネットワークにおいて、何時間か経過するうちに、複数の変化が観察された。この知見は、さまざまな幹細胞分化プロトコルに見られる不完全なプログラム化を説明する助けとなるであろう。(KF)
Dynamic Signaling Network for the Specification of Embryonic Pancreas and Liver Progenitors
p. 1707-1710.

合成セントロメア(Synthetic Centromere)

真核生物の染色体はどれも、セントロメアをもっていなければならない。そこでは、細胞分裂機構が働いて、それぞれの染色体ペアを認識し、娘細胞間に遺伝子材料を平等に振り分けるよう保証している。ほとんどのセントロメアに付随している特徴的な(しかし保存されているわけではない)反復配列は、RNA干渉応答を誘発することと、それによってセントロメア機能に必要となる異質染色質の形成を促進するために必要だと考えられてきた。Kaganskyたちはこのたび、分裂酵母において、そうした外側の反復配列が、RNA干渉がない条件下で異質染色質の形成を促進する酵素、Clr4を補充する非常に短い配列によって全面的に置換できることを示している(p. 1716)。つまるところ、隣接している異質染色質こそが、その由来がいかなるものであれ、機能するセントロメアの形成にとって必要なすべてなのである。(KF)
Synthetic Heterochromatin Bypasses RNAi and Centromeric Repeats to Establish Functional Centromeres
p. 1716-1719.

転写制御はますます複雑に(Transcriptional Regulation Gets MoreComplicated)

DNA結合タンパク質の配列優先こそ、細胞がゲノムを解釈する一次機構である。ゲノム生物学の中心的目標はゲノム中の制御配列を同定することである。しかしながら、DNA結合特異性の特徴が包括的に明らかにされているタンパク質はほとんどない。Badisたちは、マウスゲノム中の、22種の構造上のクラスにわたって存在している、既知および予想されている104個の転写制御因子(TF)を調べた(p. 1720、5月14日号電子版)。TF結合部位に関する伝統的モデルは、高度に類似したDNA配列の単一の集合に基づいたものであるが、結合特性の方は複数のモチーフがあった方がよりよく表される。TFのおよそ半分は、互いに異なる別々の一次および二次モチーフを認識していた。少なくともそうした相互作用モードのいくつかは生物物理学的に別のタンパク質構造のせいで生じていて、これが転写制御の複雑さを増しているのである。(KF)
Diversity and Complexity in DNA Recognition by Transcription Factors
p. 1720-1723.

玄関を開く(Opening the Portico)

大腸菌のジアシルグリセロール・キナーゼ(DAGK)は、原核生物特有の代謝経路で機能する複合的な膜リン酸転移酵素のファミリーを代表するものである。Van Hornたちは、大腸菌DAGKの40-キロダルトンの機能的ホモ三量体の構造を、溶液核磁気共鳴分光法によって決定した(p. 1726)。各単量体は、3つの膜貫通ヘリックス(らせん体)を構成している。各サブユニットの第3の膜貫通ヘリックスは、最初と2番目の膜貫通ヘリックスに対して、隣接するサブユニットからドメインスワップによってパックされて作られる。これら3つのヘリックスは、折りたたみにとって重要な残基に非常によく似た、活動にとって重要な残基を含む、玄関様の膜に囲まれた空洞の骨組みを成している。この構造は、脂質の基質特異性とリン酸転移酵素活性の決定要因についての洞察を提供するものである。(KF)
Solution Nuclear Magnetic Resonance Structure of Membrane-Integral Diacylglycerol Kinase
p. 1726-1729.

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