AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 19 2009, Vol.324


絶滅の違い(Extinction Distinction)

三畳紀-ジュラ紀の絶滅は約2億年前に起きたが、これは地球史における5大絶滅の一つに挙げられる。初めに海洋生物の絶滅が生じ、恐竜の出現が続いたが、陸と海洋での変化のスピードは良く解ってなかった。McElwain たち(p. 1554) は、東グリーンランドの岩石中の植物化石の記録からその証拠を報告した。後期ジュラ紀の分類群の減少は植物種全般に及んでおり、その減少速度はかなり急激であり、大気中のCO2の濃度上昇や地球温暖化と同期しているように見える。(Ej,hE)
Fossil Plant Relative Abundances Indicate Sudden Loss of Late Triassic Biodiversity in East Greenland
p. 1554-1556.

センサリン・レポーター(Sensorin Reporter)

長期記憶とシナプスの可塑性には遺伝子発現の変化が必要であり、しかもシナプス特異的に起きている。Messenger RNA (mRNA)のシナプスにおける局在化と制御された翻訳の存在が、転写依存性でシナプス特異的なシナプス可塑性の存在する期間に遺伝子発現を空間的に限定するメカニズムとして提案されていた。学習と記憶のモデルシステムとしてしばしば利用されているウミウシの仲間のアメフラシにおいて、センサリン(sensorin)はセンサー細胞特異的なペプチド神経伝達物質である。センサリンコード化mRNAは遠位感覚性神経突起に局在化しており、更に感覚性ニューロンと運動性ニューロンの間のシナプス結合部位に濃縮している。Wang たち(p. 1536, 5月14日号電子版およびKorteによる展望記事参照) は、個別に培養したアメフラシの感覚性と運動性ニューロンで発現したセンサリンmRNAの翻訳レポーターを利用して、局所的翻訳はシナプスが転写依存性で学習に関与している可塑性を有する期間に生じることを実証した。(Ej,hE,KU)
Synapse- and Stimulus-Specific Local Translation During Long-Term Neuronal Plasticity
p. 1536-1540.

星を眺めて(Star Gazing)

恒星の地震学は、それらの内部で起きている物理的なメカニズムに対する独特の洞察を与えてくれる。太陽のようなある種の星は、それらの外層における乱流状態にある対流によって励起された振幅の小さな脈動を有している。Belkacem たち(p.1540) は、CoRoT 衛星によって集められたデータを用いて、大質量星内部において振幅が小さく太陽のような振動が存在することを報告している。この星の内部では膨張したり収縮したりする層が存在して、星の半径が周期的に大きく脈動しているが、今回発見されたのはその上に重なる小振幅の振動である。この知見は、超新星の祖先の可能性のある、このようなタイプ(ベータセファイ型)の大質量変光星の星の内部を探査する可能性を開くものである。(Wt,nk)
Solar-Like Oscillations in a Massive Star
p. 1540-1542.

最小サイズの酸性状態(Minimally Acidic)

酸性度は、通常バルクの液状溶媒に関する概念である:たとえば、HClのような分子1021個を、水分子1023個に加えたもの。もし分子がもっと希薄な条件ではどうなるか、たとえばHClの単分子がちょうど3個か4個の水分子と相互作用する大気中や宇宙空間のような条件では?Gutberletたち (p. 1545; および Zwierによる展望記事参照) は、この疑問点について、極低温のヘリウム液滴で微小なHCl液滴クラスターを分離して振動スペクトル分析と理論的シミュレーションを併用して調べた。1つの水分子、2つの水分子、3つの水分子による溶媒和ではHClは変化しなかった。バルクの水中で生じるように、イオン対に解離するには4番目の水分子が必要で、(H2O)3クラスターの幾何学的構造の存在によって、解離が促進した。(Ej,hE)
Aggregation-Induced Dissociation of HCl(H2O)4 Below 1 K: The Smallest Droplet of Acid
p. 1545-1548.

緩和によりゲインを高める(Reaping Gain from Decay)

太陽電池では、光吸収により電子が伝導帯に励起されることにより電流が発生する。しかしながら、入射光のエネルギーがバンドギャップよりも高い場合、余剰エネルギーは無駄になってしまう。バンドギャップよりも数倍高いエネルギーを持つ光は複数の電子を発生させることができるが、それら電子のほとんどは回路を駆け巡る前にトラップサイトに捕捉され、“オージェ緩和”と呼ばれる過程を経て単一のキャリアに融合されてしまうからである。Sukhovatkinらは(p1542)オージェ緩和を利用して、紫外域の感度を高めた光伝導デバイスを提案している。硫化鉛量子ドットからなる薄膜光検出器は、バンドギャップよりも数倍高いエネルギーを持つ入射光に対して4倍の感度を示すという。(NK)
Colloidal Quantum-Dot Photodetectors Exploiting Multiexciton Generation
p. 1542-1544.

拡大する2次元空間(Expanding Flatland)

約5年前にグラフェンが発見され、それが単離されて以来、グラフェンに関する研究が急に盛んになった。原子一個分の厚みしか持たない炭素原子のシートは、機械的、光学的、及び電気的な幅広い特性を示し、広範囲の応用に対するポートフォリオと同様に、物理の基礎的課題を探るための理想的なテストベッドである。この注目されている材料の発見者であるGeim (p. 1530)は、最近の進展をレビューし、この物質には今後新しくどのような発展が期待できるかを考察している。(hk,KU,nk)
Graphene: Status and Prospects
p. 1530-1534.

大気中の二酸化炭素濃度の変化は?(A Change in the Air?)

120万年前と50万年前ぐらいの間、地球の氷河サイクルが4万年ほどのサイクルから10万年ぐらいのサイクルへと変化した。何故にこのような遷移が起こったのかに関して多くの推察がなされてきたが、大気中のCO2濃度の減少によるという以外のもっともらしい説明は見当たらない。Honischたち(p.1551)は、プランクトン有孔虫のホウ素同位体から得られた、過去210万年に渡る海水表面でのCO2の分圧(pCO2)の記録に関して報告している。彼らは、大気中のCO2の量がこの期間に比較的一定だったことを示している。確かに氷河期のCO2分圧は更新世中期における遷移の後よりも遷移の始まる前の方が30ppm程度高かったが、間氷期の大気中のCO2は遷移を促進する場合に期待される穏やかな減少は示さなかった。(KU,Ej,nk)
Atmospheric Carbon Dioxide Concentration Across the Mid-Pleistocene Transition
p. 1551-1554.

対向輸送体の滑稽な形(Antiporter Antics)

強い酸性環境にある胃の中で生存している細菌は、高い細胞内pHを維持する機構を持っている。大腸菌において、グルタミン酸(Glu)とアルギニン(Arg)は細胞内で脱炭酸化され、その反応生成物は細胞外のGluとArgと交換される。Gaoたち(p.1565,5月28日号電子版)は、大腸菌由来のアルギニン:アグマチン対向輸送体であるAdiCの結晶構造に関して報告している。AdiCはLeuTを含むNa+-結合共輸送体のそれと同じ折りたたみ構造を示している。その構造は12個の膜貫通領域を持ち、更にホモ二量体を形成し、かつ結晶中に外向きの開構造が存在している。生化学的データと共に、この構造はどのようにして対向輸送体がpHを検知し、かつ反応生成物のアグマチンを細胞の外に出して細胞内へのArg輸送に応答しているかを示している。(KU)
Structure and Mechanism of an Amino Acid Antiporter
p. 1565-1568.

慢性ウイルス感染症の制御(Controlling Chronic Viral Infections)

HIVやB型肝炎、C型肝炎ウイルスなどの慢性ウイルス感染症は、公衆衛生上の大きな課題となっている。T細胞によって仲介される免疫応答は、そうしたウイルス感染症の制御にとって決定的に重要である。急性感染症とは対照的に、慢性のウイルス感染症は、増殖能力やサイトカイン分泌、さらには細胞傷害性の減少を示す「消耗した」細胞傷害性CD8+ T細胞によって特徴付けられる。そうした消耗をもとに戻す治療が、結果としてウイルスの制御につながるのである。消耗にも関わらず、それらCD8+T細胞は、ウイルスに感染した細胞を殺すことによって、最終的には慢性感染症の制御を助け、またそのためにCD4+T細胞の助けを必要とすることになる。CD4+T細胞はいかにして、慢性感染症に際してCD8+ T細胞を助けているのだろうか(JohnsonとJamesonによる展望記事参照のこと) ?Elsaesserたち(p. 1569、5月7日号電子版)や、Yiたち、(p. 1572、5月14日号電子版)、さらにFrohlichたち(p. 1576、5月28日号電子版)はこのたび、ある種のCD4+T細胞エフェクターサブセットの分化にとって決定的に重要であると知られているサイトカイン、インターロイキン-21(IL-21)がCD4+T細胞によって産生される必須因子であり、CD8+T細胞がマウスの慢性リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス感染症を制御するのを助けている。急性感染症および慢性感染症は、ウイルス特異的なCD4+T細胞によるIL-21の産生量の違いによる。CD8+T 細胞は直接IL-21を必要とするが、CD8+T細胞がIL-21を介してシグナル伝達できない場合やIL-21が利用できない場合には、細胞の数は減少し、より消耗した表現型を示すようになり、ウイルスを制御できなくなる。対照的に、IL-21に依存したシグナル伝達がそもそも非存在の場合には、CD8+T 細胞による急性感染症、あるいはウイルス再負荷に対する主要な応答には影響がない。このことはメモリーCD8+T 細胞の分化がIL-21とは独立であることを示唆するものである。(KF)
IL-21 Is Required to Control Chronic Viral Infection
p. 1569-1572.
A Vital Role for Interleukin-21 in the Control of a Chronic Viral Infection
p. 1572-1576.
IL-21R on T Cells Is Critical for Sustained Functionality and Control of Chronic Viral Infection
p. 1576-1580.

謎めいたメルケル細胞(Mysterious Merkel cells)

解剖学者は、われわれの皮膚中にメルケル細胞が存在していることを1世紀以上も前から知っていた。しかしながら、その細胞の機能ははっきりしておらず、議論の余地があった。この謎を解決するため、Maricichたちはメルケル細胞の遺伝的欠失を作り出した(p. 1580)。メルケル細胞によって発現する転写制御因子Atoh1を条件的に皮膚から除去すると、そのAtoh1CKOマウスからはメルケル細胞が完全になくなった。その動物から得た皮膚と神経標本を生体外で使うことによって、メルケル細胞が皮膚の軽いタッチの感知を適切にコードするのに必要であることが明らかになったのである。(KF)
Merkel Cells Are Essential for Light-Touch Responses
p. 1580-1582.

足し算は右へ、引き算は左へ(Addition to the Right, Subtraction to the Left)

文章を書くことや数学などの高レベルの認知的達成は、明暗の境界の知覚などの低レベルのスキルに比較して、進化の記録の上ではずっと最近になって現れてきたものである。後者は視覚野の中心にあるニューロンのコード特性から生じたことが実証されてきたが、前者はどこに由来するのだろうか? Knopsたちは、加算と減算が、左右への眼球運動に携わっているのと同じ皮質領域にコードされ、加算に関係する神経活動と減算に関係するそれとは、右方向と左方向への眼球運動を識別するよう訓練された計算的識別機構によって区別されている、ということを示す証拠を提示している(p. 1583、5月7日号電子版)。(KF,Ej)
Recruitment of an Area Involved in Eye Movements During Mental Arithmetic
p. 1583-1585.

ベリリウム二量体は存在するや否や?(2 Be or Not 2 Be?)

ベリリウム二量体は非常に単純そうな化合物であり、4番目に軽い元素の2個の原子の架橋したものである。しかしながら、長い間この二量体は理論家たちに頭を悩ます課題を提供しており、初期の量子化学的近似による化学結合モデルでは存在するはずが無いということが示されているからである。ここ10年間、精緻さの増した計算により、2個の原子の謎めいた相互引力に関する理論的根拠が提供された。Merrittたち(p.1548,5月21日号電子版;Bernathによる展望記事参照)は高分解能の分光法を用いて、Be2の基底電子状態を記述する、遂に、実験だけからBe2の基底電子状態を示す高精度のポテンシャルエネルギー関数を求めた。その曲線は、伝統的な分子に関するMorseポテンシャル曲線とは異なり、長い結合長において異常なほど浅くなっており、今後の理論的な結合フレームワークに関する比較の詳細な基礎を提供するものである。(KU,Ej)
Beryllium Dimer―Caught in the Act of Bonding
p. 1548-1551.

すばやい系統樹の構築(Rapid Tree Building)

系統発生の再構築は生物間の関係を決定するのに用いられ、複数の分子配列の正確なアライメントと解析を必要とする。系統発生上の推定におけるエラーを防ぐために、DNAアライメントや系統樹構築に関する何回もの繰り返しがしばしば必要となる。このような課題を解決する一つの方法は、一段階でDNAアライメントと系統樹を評価することである。しかしながら、合理的なサイズのデータセットを解析する効率的なアルゴリズムが欠如していた。Liuたち(p.1561;Loytynoja and Goldmanによる展望記事参照)は、DNAアライメントと系統発生の二つを同時に取り込み、最も確からしいアルゴリズムをその系統樹構築部位に適用するような反復性のアプローチに関して記述している。この方法でこの方式の成分を組み上げることで、正確な結果が1000個の配列まで得られた。かくして、速く、かつ正確な配列アライメントと系統発生の同時推定をすることが可能となる。(KU)
Rapid and Accurate Large-Scale Coestimation of Sequence Alignments and Phylogenetic Trees
p. 1561-1564.

ブタインフルエンザのベンチマーク(Swine Flu Benchmark)

世界保健機関(WHO)は2009年4月29日、メキシコのブタで発生し、いくついかの国で人から人への感染をしているH1N1インフルエンザの1系統について、レベル5のパンデミック警報を発表した。Fraserたちは、メキシコとWHOに専門家のチームを集め、将来の政策をガイドするための視点からアウトブレイクの初期の影響評価を行った(p. 1557,5月11日号電子版; また表紙参照)。このアウトブレイクはVeracruz州、La Gloriaの村落で2月中旬に始まったらしいが、そこでは人口の半分以上が急性の呼吸器疾患に罹り、コミュニティー内の15歳以下の61%以上が影響を受けていた。患者1人当たりの2次感染者数はおよそ1.5程度で、1918年、1957年、1968年のパンデミックのそれと同等以下であった。このアウトブレイクの重症度については不確定さがはっきりと残されていて、このことが、人命を救うための介入の経済的、社会的コストと、抗ウイルス抵抗性を産み出すリスクとを比較するのを難しくしているのである。(KF,Ej)
Pandemic Potential of a Strain of Influenza A (H1N1): Early Findings
p. 1557-1561.

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