AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 12 2009, Vol.324


問題点はすべて配送系にある(It's All in the Delivery)

すい臓ガンはほとんどの場合予後診断不良を伴うが、その理由の一つはこの腫瘍が化学療法剤に対して抵抗を持っているためである。ヒト腫瘍と多くの特徴を共有するマウスの腫瘍モデルによる研究において Oliveたち(p. 1457, 5月21日発行の電子版参照、および Olson and Hanahanによる展望記事参照) は、この腫瘍においては血管の新生がほとんど生じて無く、そのため薬剤の配送が妨害されているためであることを発見した。マウスの治療において、腫瘍に伴う間質性組織を枯渇させる化学療法剤のゲムシタビンと一緒に処置すると、腫瘍脈管構造が増強され、ゲムシタビンの輸送が増加し、その結果病気の悪化が遅くなった。このように、腫瘍の間質を標的とする薬剤研究は、通常のすい臓ガンの化学療法に対する有効性を増強する利点があると思われる。(Ej,hE)
Inhibition of Hedgehog Signaling Enhances Delivery of Chemotherapy in a Mouse Model of Pancreatic Cancer
p. 1457-1461.

恒星の砂時計状の姿(Stellar Hourglass Figure)

恒星を形成する星雲は、向きが揃った星間磁場によって、重力に抗して支えられていると考えられている。その磁場は、重力崩壊を減速するには十分に強いが、しかし、それを妨げるほどではない。Girart たち (p.1408) は、生まれつつある大質量星のまわりのダスト粒子からの偏光した電波を測定し、ダスト粒子の示す偏光のパターンが砂時計状の形をしていることを示している。このデータは、磁場強度が乱流強度を上回っていることを意味している。それは、磁場に制御された星形成の紛れもない印である。これらの条件は小質量の星形成領域で見出されるものに似たものであり、磁場は質量の差異には関わりなく、星形成において重要な役割を演ずじていることを示唆している。(Wt,nk)
Magnetic Fields in the Formation of Massive Stars
p. 1408-1411.

X線連星からパルサーへ(From X-ray Binary to Pulsar)

回転周期がミリ秒のパルサーは低質量の連星系の中性子星に起源をもつと考えられており、伴星から長期間かけて質量が主星に移動し自転速度が増加したと考えられている。電波によるパルサー探査においてArchibald たち(p. 1411, 5月21日号電子版、および、 Kramerによる展望記事参照)は、低質量X線連星系においてミリ秒の電波パルサーに変化しつつある中性子星を発見した。この系は太陽に似た恒星と1.69ミリ秒の電波パルサーから成り、低質量X線連星の特徴である降着プロセスを最近経過したが、現在は降着円盤はすでに失っており、ミリ秒電波パルサーと低質量X線連星の間の進化過程にあることが確認された。(Ej,nk)
A Radio Pulsar/X-ray Binary Link
p. 1411-1414.

ダイアモンド中にキャリアーを閉じ込める(Confining Carriers in Diamond)

荷電キャリアーは量子井戸で出来た薄層内に閉じ込めることが可能である。これらの多層構造では、AlGaAs と GaAsのようにわずかに異なるバンドギャップエネルギーを持つナノスケールの薄層を交互に重ねて、閉じ込めポテンシャル壁を築いている。Watanabe たち(p. 1425)は、炭素12と炭素13の同位体の多層が持つ、わずか12ミリ電子ボルトのダイヤモンドのバンドギャップ中に電子を量子的に閉じ込めることを実証した。温度80ケルビンにおける互層中でのカソードルミネッセンス実験によって(実際30ナノメートルの薄さから350ナノメートルの厚さまで)、低いバンドギャップを有する炭素12の層で再結合する荷電キャリアーの発光が観測された。炭素13の層から炭素12中へ移動するキャリアーは、ほとんどエネルギー損失して無いように見える。(Ej,hE,nk)
Isotopic Homojunction Band Engineering from Diamond
p. 1425-1428.

全原子の冷却(Cooling All Atoms)

レーザ冷却法は、原子を極低温冷却するために使われる。しかしながら、原子の特性とレーザの特性により、この技術は周期表のうちの特別な数元素に限られている。それゆえ、技術がもっと一般的に適用されるように調査研究が行われている。Raizen (p.1403)は、連続する磁気パルスを原子雲あるいは分子雲に与え、それらをミリケルビン温度に冷却できる磁気コイル銃冷却技術に関する最近の研究をレビューしている。唯一原子に求められる特性は、周期表の大抵の元素が持っている常磁性特性である。(hk,KU,Ej)
Comprehensive Control of Atomic Motion
p. 1403-1406.

電荷を精密に同定する(Spotting Charges)

多くのナノスケールの物理系は孤立電荷の影響を受け易いが、その例として単電子トランジスターや、光子で発生したエネルギーから電荷を分離する分子部品などがある。荷電原子の位置を検出するための最も一般的方法は絶縁体表面での操作であろう。Gross たち(p. 1428; および、MeyerとGlatzelによる展望記事参照)は、Kelvin Probe Force Microscopy(ケルビン原子間力顕微鏡;物質表面に近接するプローブにレーザー光を当て、その反射光の変化を検知してプローブと表面の間に働く力を検出する)を使って、温度5ケルビンにおけるNaCl表面に吸着された金と銀の荷電状態を測定した。これによって、中性原子では存在しない荷電原子だけが及ぼす静電力を測定できた。(Ej,hE,Ku)
Measuring the Charge State of an Adatom with Noncontact Atomic Force Microscopy
p. 1428-1431.

植えられた証拠(Planted Evidence)

過去の気候変化について、場所によるパターンや因果関係を把握するためには、所定の場所の気温や降雨量の変化に特有なアスペクトを反映した信頼できるプロキシ(代用物)を認定する必要がある。また、勿論メタン生成や二酸化炭素の発生源の変化のような、さらに幅広いカテゴリに対するプロキシも重要である。Severinghausたち(p.1431)は、極地のアイスコア中の空気から取り出した、大気中の質量数18の酸素同位体組成(δ18Oatm)に関する10万年間の記録を示している。δ18Oatmは、低緯度における陸上での光合成や局所的な降雨の強さの概括的なメジャーの1つである。なぜなら、植物の代謝は水の入手が容易かどうかによって決まるからである。δ18Oatmの組成変化は、この期間によく起こった2〜3千年周期の急激な気候変動の2つのモード、ハインリッヒイベント(Heinrich Event)とダンスガード−オシュガーイベント(Dansgaard-Oeschger Event)と関係していた。そして、δ18Oatmは、アジアモンスーンや北アフリカモンスーンの強さによって強く影響を受けていた。観測された急速な変化は、アイスコア記録との時期を合わせることに役立つ。(TO,KU,Ej)
Oxygen-18 of O2 Records the Impact of Abrupt Climate Change on the Terrestrial Biosphere
p. 1431-1434.

ヘリコプター種子の上昇(Helicopter Seed Lift)

カエデの「ヘリコプター」種子や、それと同様の自動回転する種子は、風の強い条件のもとで親である樹木から離脱し、旋回しながら風によって吹き散らされていく。樹木の生殖の成功はその種子の飛行性能に依存している。自動回転する種子は、空気中をゆっくり下降していく際にも上昇力を生み出す場合があると知られているが、どうやってそういうことができるか、はっきりしていない。Lentinkたちは、自動回転する種子の上昇のための空気力学的仕組みを、モデル種子ロボットと3次元の流れ測定技術を用いて解き明かしている(p. 1438, また表紙参照のこと)。カエデの種子とシデの種子は、空中に浮かぶ昆虫やコウモリの羽によって産み出される上昇力の原因となる流れ構造に類似した、翼先端の顕著な渦巻きを作り出している。つまり、動物も植物も、上昇力を生み出すために同じ空気力学的解決策に依存するようになっていたのである。(KF)
Leading-Edge Vortices Elevate Lift of Autorotating Plant Seeds
p. 1438-1440.

ブームとその破綻(Boom and Bust)

ブラジルのアマゾン地域は、生物多様性と、気候調節や地球化学的周期への影響の大きさとで有名であるが、そこはまた、その国の最も貧しい地域の1つでもある。何十年もにわたって、農業や畜産のための森林の転換を介して、多くの経済開発が追求されてきた。Rodriguesたちは、この手の土地利用が長続きする繁栄をもたらすかどうかを、森林伐採の最前線にある300近くの地方自治体の経済開発についてのデータを分析することで調査した(p. 1435)。 平均余命やリテラシー(識字率)、生活水準などに基づく相対的開発レベルは、森林伐採が始まると増加するが、開発の最前線が通り過ぎていくと再び減退していく。その結果、開発の前と後でのレベルは同じように低くなっており、ブームが来た後でそれが弾けるパターンを示していたのである。(KF)
Boom-and-Bust Development Patterns Across the Amazon Deforestation Frontier
p. 1435-1437.

生々しく見る神経伝達(Neurotransmission in Living Color)

神経伝達には、1つのニューロンから別のニューロンへのシナプスを介しての小さな分子性神経伝達物質の放出が関わっている。Gubernatorたちは、光学的に神経伝達物質放出を観察する手段を導入している(p.1441、5月7日号電子版)。それは、シナプス小胞のモノアミン輸送体の基質として作用する蛍光性の偽神経伝達物質を設計することによるものである。その内在性モノアミン光トレーサーは、個々のシナプス終末からの神経伝達物質の取り込みと放出の可視化を可能にするものであり、線条体中のドパミン神経伝達の評価に用いられた。刺激によって神経伝達物質を放出するシナプス小胞の断片は頻度依存的であり、シナプス前終末の頻度依存の選択が観察された。(KF)
Fluorescent False Neurotransmitters Visualize Dopamine Release from Individual Presynaptic Terminals
p. 1441-1444.

見破られたロタウイルス(Rotavirus Rumbled)

ロタウイルス感染症は乳児における重篤な下痢の主要な原因である。そのウイルスが細胞に入るには、外層タンパク質VP7のCa2+-安定化三量体が解離されていなければならない。Aokiたちは、中和化させる単クローン抗体のFabフラグメントと複合体をなしているこのVP7三量体の構造を報告している(p. 1444)。その構造と中和を逃れる変異体の位置の解析に基づいて、著者たちは、多くの中和抗体はVP7三量体を安定化させることによって、低いカルシウム濃度においてすら、細胞への侵入を抑制していると提唱している。そのとき、潜在的なサブユニット免疫原であるジスルフィド-連結三量体が産生されるのである。(KF)
Structure of Rotavirus Outer-Layer Protein VP7 Bound with a Neutralizing Fab
p. 1444-1447.

ダイナミックな刷り込み(Dynamic Imprinting)

遺伝子刷り込み、すなわち母系由来あるいは父系由来の対立遺伝子のどちらか一方をサイレンシングすることは、大部分がDNAメチル化によって制御されている。植物では、刷り込みは胚乳中で生じていて、その胚乳が胚性植物を養うのである。Gehringたち(p. 1447)とHsiehたち(p. 1451)は、シロイヌナズナの胚乳および胚におけるDNAメチル化の動力学を分析し、胚乳における広範な脱メチル化を発見したが、これは刷り込まれた多くの遺伝子が存在するであろう可能性を示唆するものであった。Gehringたちは5つの刷り込み遺伝子について、詳細に特徴を明らかにしている。10種の知られた刷り込み遺伝子のうち4つは、ホメオドメイン転写制御因子に関連するものだった。さらに、いくつかの遺伝子における脱メチル化された5'配列が転位因子に由来するものだったことが見出されたが、これは刷り込みが、侵入してくるDNAをサイレンシングする際の副産物として生じるという考えを支持するものである。(KF)
Extensive Demethylation of Repetitive Elements During Seed Development Underlies Gene Imprinting
p. 1447-1451.
Genome-Wide Demethylation of Arabidopsis Endosperm
p. 1451-1454.

もつれの進化(Evolving Entanglement)

量子力学的もつれは量子情報処理にとって強力ではあるが、壊れやすい因子である。このもつれ自身、古典的なコンピュータを上回る計算能力を与えるものではある。しかしながら、量子系は周囲の環境と相互作用すると、コヒーレンスが壊れる前に、このもつれが失われてしまう。Jimenez Fariasたち(p.1414,5月14日号電子版)は、もつれたフォノン対に関する実験と理論的研究を報告しており、量子系が周囲の環境と相互作用する際に、もつれがどのように進化するかを、彼らは測定し、かつ理解できることを示している。(KU)
Determining the Dynamics of Entanglement
p. 1414-1417.

コロイドナノ結晶化合物(Colloidal Nanocrystal Compounds)

コロイドナノ結晶は、個々の原子に似たような、しかしながら閉じ込め効果によりバルクな化合物とも異なる特性を持っている。この結晶は原子に類似した物と考えられており、原子と同じく、隣接する粒子と結合し、その特性に影響する。合成中に、コロイドナノ結晶が余りにも大きくなりすぎたり、凝集を抑えるために有機リガンドが用いられる。しかしながら、このようなリガンドの使用により、ナノ粒子相互のカップリングや連結が弱くなる。Kovalenkoたち(p.1417)は、カルコゲン系錯体(S,Se,Teに基づく化合物)が隣接する粒子と効果的に結合することを示している。おだやかな加熱により、このリガンドはナノ結晶の性質を変えることなく絶縁性から半導体性へと変化した。(KU)
Colloidal Nanocrystals with Molecular Metal Chalcogenide Surface Ligands
p. 1417-1420.

高電場による強誘電体のパターン形成(Ferroelectric Patterning with High Fields)

強誘電性酸化物にかなり高い電場をかけると、正味の分極は向きを変える。基本的に、強誘電体の薄膜は極性スイッチとして作用するはずである--薄膜を通過するトンネル効果の電子が分極の方向に依存して効果的にオン、オフの切り替えをするであろう。実際に、十分に小さなトンネル効果の障壁に必要な距離は、薄膜がもはや強誘電性を示さない厚さとほぼ同じとなる。Maksymovychたち(p.1421)は原子間力顕微鏡のチップを用いて、電界放出型チップと同様な高電場におけるチタン酸ジルコン酸鉛薄膜中での分極ドメインのパターンを形成した。(KU)
Polarization Control of Electron Tunneling into Ferroelectric Surfaces
p. 1421-1425.

組み換えによる薬剤耐性(Recombining Resistance)

多くの細菌において、相同的組み換えは頻繁に起こっているが、種内の亜集団でも多少ともこのようなプロセスが起こっているのか、そして彼らの進化に影響をもたらしているかどうかは余り研究されていない。肺炎連鎖球菌からの大量のデータセットを用いて、Hanageたち(p.1454)は、ハウスキーピング遺伝子の異常な配列によって特徴付けられるある系列のグループを見出した。この配列は他の肺炎連鎖球菌や近縁種から水平的に獲得されたらしく、そして入手可能なデータからすべてのクラスの抗生物質への耐性と関係していた。このように、高頻度組み換えは(高頻度変異とは対照的に)、進化と抗生物質耐性の伝播にとって重要であり、種クラスターの出現やクラスターと関連した表現型の決定に役割を果たしているらしい。(KU)
Hyper-Recombination, Diversity, and Antibiotic Resistance in Pneumococcus
p. 1454-1457.

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