AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 5 2009, Vol.324


in Situでのシグナル伝達のサイン(Signaling Signature in Situ)

活性化により、シグナル伝達タンパク質は応答経路を触発するが、動物体内で何時、何処でこれらのタンパク質が活性化されるかを知ることは難しかった。KamiyamaとChiba(p.1338)は、in vivoでのバイオプローブ(bioprobe)イメージング技術を用いて、個々の細胞内に、そして動物全体に偏在的に発現するシグナル伝達タンパク質Cdc42の内在性の特定の活性状態に制約を与えた発現パターンを明らかにしている。遺伝的研究により、タンパク質の存在だけでなく、個々の細胞や組織内部での活性化が確認され、発生中のそれらタンパク質の機能を明らかにしている。(KU,Ej)
Endogenous Activation Patterns of Cdc42 GTPase Within Drosophila Embryos
p. 1338-1340.

レドックス制御への二つの道のり(Two Ways to Redox Regulation)

真核細胞は細胞質内のレドックス環境を制御しており、通常は還元状態となっている。しかしながら、小胞体は分泌や膜のタンパク質のために酸化的な環境を与えている。加えて、細胞のエネルギ生産所であるミトコンドリアの小さな分画の仕切りもまた、成分タンパク質や巡回タンパク質のために酸化的な環境を作っている。Riemerたち(p.1284)は、真核細胞の二つのレドックス機構に関する最近の知見をレビューし、タンパク質機能の生物発生と制御に関するその意味するところに注目し、健康と病気におけるこれらのレドックス系の影響に焦点を当てている。(KU,Ej)
Disulfide Formation in the ER and Mitochondria: Two Solutions to a Common Process
p. 1284-1287.

ストレスへの協調的応答(Coordinating Response to Stress)

Sirtuin 1(Sirt1)(加齢に関係するタンパク質脱アセチル化酵素)は、細胞の代謝状態を検知し、次に細胞の転写反応を制御している基質タンパク質の活性を調節する。低酸素に応答して、細胞は適応応答を促進する転写因子、低酸素-誘導性因子2α(HIF-2)を活性化する。Dioumたち(p.1289;Guarenteによる展望記事参照)は、これら二つの重要な細胞ストレス応答系の間の結びつきを発見した--即ち、HIF-2はSirt1の基質である。Sirt1とHIF-2の間の直接的な相互作用はHIF-2の脱アセチル化に由来し、転写活性を強める。Sirt1の欠如したマウスにおいて、増殖因子エリスロポエチンの合成を促進するHIF-2の能力が減少した。このように、HIF-2の制御は様々なストレスへの細胞の協調的な応答に役立っている。(KU)
Regulation of Hypoxia-Inducible Factor 2{alpha} Signaling by the Stress-Responsive Deacetylase Sirtuin 1
p. 1289-1293.

進展する白金触媒(Extending Platinum Catalysts)

白金は、水素イオン交換膜燃料電池の高酸性条件下で反応する酸素還元反応触媒として十分な働きをするが、高価である。コストを下げるための一つの戦略は白金の表面積を増すことである。Limたち(p. 1302,5月14日号電子版)は、溶液中の白金イオンがパラジウムの種結晶上で還元されるという簡単な化学的方法について述べている。その方法は、樹状構造による高い表面積をもつファセット(小さな面を多数持つ)白金ナノ結晶を作り上げる。白金の質量基準で比較すると、これらの触媒はいままでの白金触媒より数倍以上反応が高い。(hk,KU)
Pd-Pt Bimetallic Nanodendrites with High Activity for Oxygen Reduction
p. 1302-1305.

戦争と平和?(War and Peace?)

進んだ道具や楽器、芸術などの発達を含む現在の人類の行動様式は、人類に段階を追って出現してきたように見える。最も初期の手がかりは、7万年から9万年前のアフリカにおいて見られるが、ヨーロッパでは4万5千年前ぐらいと遅れて出現している。最近の議論の的となっているテーマは人類の社会性の起源とその意義である。人類の初期の発展期中において、利他主義的な振舞いの利益は、その損失を上回ったのであろうか (Mace による展望記事を参照のこと)? Bowles (p.1293) は、人間グループ間の紛争のモデルを構築し、考古学的および民族学的なデータから結果が分かれる境界となるパラメータ値を大まかに算出した。物議をかもすものではあるが、戦争状態は、利他的振舞いが現れ、永続することを強化したかのように見える。Powell たち(p.1298) は、ひとつの人口モデルを与えており、それでは、現代的な行動の発達は、臨界的な人口密度への到達と、安定な文化の伝播に求められる移動性の行動様式に依存する可能性があることを示している。このモデルは、アフリカとヨーロッパにおける人口ダイナミクスに関する遺伝的な推測と整合しており、これらの文化的な変化は、単に認識的進化の進展を反映しているのではない可能性があることを示唆している。(Wt,Ej,nk)
Did Warfare Among Ancestral Hunter-Gatherers Affect the Evolution of Human Social Behaviors?
p. 1293-1298.
Late Pleistocene Demography and the Appearance of Modern Human Behavior
p. 1298-1301.

併合と獲得(Mergers and Acquisitions)

小さな分子やポリマーの結晶化は、しばしば核形成のステップによって記述されるが、このとき初期の核形成に続いて、個別の成長ステップに入る。浮遊分子の付着または、熱力学的効果により小さな結晶が消滅し大きな結晶が成長する"オストワルド熟成"を経て、粒子は成長する。Zheng たち(p.1309) は、白金コロイド溶液を密封した特殊な容器を透過電子顕微鏡内部に設置して、白金のナノ結晶が生長する様子を観察した。このとき、成長粒子にモノマーが付加する様子とともに、2つの粒子が癒着しながら成長する様子も同時に観察された。個々の場合にどんな成長機構が働くかは、粒子のサイズによって決定されているようだ。成長機構の組み合わせによって、当初、広がった粒径分布であった粒子が、最終的にはほとんど均一なサイズに揃ってくる。(Ej,hE,nk)
Observation of Single Colloidal Platinum Nanocrystal Growth Trajectories
p. 1309-1312.

巨大グラフェンを成長させる(Growing Graphene)

炭素の単層膜であるグラフェンの最高品質試料は、グラファイトから剥離されて浮遊状態にある微小な破片である。このサイズは極めて小さく、マイクロメートル平方程度である。電子工学への用途にはもっと大きな面積のものが必要となる。Li たち(p. 1312,および、5月7日発行の電子版参照)は、メタンの化学蒸着によって銅の表面に数センチメートルのサイズの単層グラフェンを成長させた。ただし、数%の領域は数個の炭素層となっている。カーボンが銅に溶けにくいことがこの成長を制限しているらしい。これを他のサブストレート上に移動し、電子移動度を計測したら4300平方センチ/ボルト・秒であった。(Ej,hE,nk)
Large-Area Synthesis of High-Quality and Uniform Graphene Films on Copper Foils
p. 1312-1314.

カッコーをやっつける(Defeating the Cuckoo)

托卵における寄生生物と宿主の相互作用において、拮抗しながら共に進化している様子が伺える。遺伝的変化を伴わない急速な変化は何が仲介しているのだろう?Davies and Welbergen (p. 1318) は、ムシクイの仲間(reed warbler)が、托卵するカッコーに対する攻撃的態度を、近くの仲間のムシクイから学習していることを示した。さらに、ムシクイにはカッコーに対してはそれを敵と見なすように学習しやすい傾向があるようだ:ムシクイの周りの鳥が無害なオウムの模型を攻撃するのを見ても、そのムシクイのカッコーに対する攻撃性は増加しなかったから。このことから、鳥には脅威に対する雛形を持っており、関連した脅威への敵対行動は社会的経験の有無でスイッチが入ったり入らなかったりするらしい。(Ej,hE,nk)
Social Transmission of a Host Defense Against Cuckoo Parasitism
p. 1318-1320.

Hox時計(Hox Clocks)

ホメオボックス(homeobox)、或いはHox遺伝子は、発生上の重要な遺伝子における進化的保存や相同性を実証する上で歴史的に重要である。更に加えて、多くの種において、Hox遺伝子は胚の組織化に基本的なものである。逐次的、時間的なこれらの活性化に関する制御の変化により、発現パターンを変えたり、進化の間でボディプランを作るための一つの方法を示している。SoshnikovaとDuboule(p.1320)は、マウスにおける身体の中心軸伸長中の進行性のHox遺伝子の活性化と共に染色質マークの高度に動的な変化について報告している。この研究は、「Hox時計」が少なくても部分的に、後成的な機構で制御されているという提案を支持している。(KU)
Epigenetic Temporal Control of Mouse Hox Genes in Vivo
p. 1320-1323.

飢えるT細胞(Starving T Cells)

CD4+ヘルパーT細胞のTH17系列は、IL-17(インターロイキン-17)を分泌する能力があるという点で特徴付けられており、炎症や自己免疫の重要な仲介者である。そうした細胞の応答を弱めたり、その分化を抑制することは、治療という観点から大きな興味の対象である。Sundrudたちはこのたび、小分子ハロフジノンが、多発性硬化症の試験管内およびマウスモデルの双方において、CD4+ヘルパーT細胞系列のうちのTH17細胞の分化だけを抑制することを示している(p. 1334; またBlanderとAmsenによる展望記事参照のこと)。この選択的阻害は、アミノ酸飢餓応答の活性化によって仲介されていた。アミノ酸過剰がTH17の分化をもたらすことになるのに対し、アミノ酸が枯渇するとハロフジノンの効果と同様の結果になったのである。こうした結果は、炎症の制御におけるアミノ酸代謝の重要性に光を当てるものである。(KF)
Halofuginone Inhibits TH17 Cell Differentiation by Activating the Amino Acid Starvation Response
p. 1334-1338.

ハンチントン病の解決(Rhes-olving Huntington's Disease?)

ハンチントン病(HD)は、身体のすべての組織に生じ、脳全体にわたって均一に分布しているタンパク質、ハンチンチン(Htt)の単一の優性突然変異が原因となって引き起こされる。変異したHtt(mHtt)が、その他にはめだった変化ももたらさず、選択的に線条体ニューロンだけにどのようにダメージを与えているかは謎である。Subramaniamたちは、線条体に高濃度で局在化している小さなGタンパク質であるRhesがmHttに結合し、その神経毒性を増大させていることを示している(p.1327)。RhesはmHttのSUMO化(Small Ubiquitin-related(like) Modifier:タンパク質の翻訳後修飾)を促進し、その脱凝集をもたらし、細胞傷害性を増大させていた。この知見は、mHttがいかにして選択的に線条体中の細胞を殺すかを明確にし、Rhes-Htt結合が治療標的になりうるのではないかと示唆するものである。(KF,KU)
Rhes, a Striatal Specific Protein, Mediates Mutant-Huntingtin Cytotoxicity
p. 1327-1330.

VWFの血栓形成能力を解き明かす(Dissecting VWF's Thrombogenic Potential)

フォンウィルブランド因子(VWF)は、超巨大型(ULVWF)の細胞から、血栓形成の刺激への応答として分泌される。ずり応力(shear forces)が血小板への結合部位を曝露することで、止血性の栓の形成が可能になる。VWFのこうした血栓形成の潜在能力はその長さと相関していて、A2領域のタンパク質切断によって制御されている。Zhangたちはこのたび、単一分子データと重合体の動力学理論を組み合わせて、A2領域をほどいて、およそ200個以上の単量体を有する多量体の切断を可能にするのに、循環中のずり応力だけで十分であるということを示している(p.1330; またGebhardtとRiefによる展望記事参照のこと)。このA2領域はつまるところ、VWFの「剪断ボルト」に相当するものであって、多量体が強い力を受けたときにほどけて、切断され、血栓形成の潜在能力の下方制御を許すものなのである。(KF)
Mechanoenzymatic Cleavage of the Ultralarge Vascular Protein von Willebrand Factor
p. 1330-1334.

ありえない結晶(Forbidden Crystals)

結晶として存在する物質は、単位格子が回転や反転・反射などの対称操作を有している。この操作が空間を埋め尽くすためには回転対称の種類は限られている。準結晶とよばれる特殊な構造では、1つ、または、2つの種類の準周期的なタイルによる敷き詰めが可能であり、その結果、ありえない回転対称性を有している。いくつかのアルミ合金を含む、多数の準結晶が実験室で作られた。Bindi たち(p. 1306) は、khatyrkiteと称する(Cu,Zn)Al2の組成を有する鉱物を調べた。その結果、合成物質と類似した成分の準結晶粒子が多数観察された。したがって、自然界における地質学的環境においても準結晶が生成される可能性がある。(Ej,hE)
Natural Quasicrystals
p. 1306-1309.

超伝導の限界(Superconducting Limits)

電子波動関数は3次元空間に広がっている。クーパー対をつくり温度を下げることで材料中で超伝導を達成することができる。空間を制限した場合、通常3次元空間で発生する超伝導効果はどの程度安定なのだろうか?Qinらは(p.1314、4月30日号電子版)鉛薄膜を用いて、超伝導特性の膜厚依存性を調べた。これまでの間接的な観測例とは異なり、超伝導状態は2原子層まで薄くしても安定であるという結果を報告している。(NK)
Superconductivity at the Two-Dimensional Limit
p. 1314-1317.

解剖された転写抑制因子(Transcriptional Repressor Dissected)

生きている生物は、環境ストレスによって損傷したタンパク質を除去する品質管理機構を備えている。モデル生物の枯草菌においては、転写抑制因子CtsRが熱ショック応答にとって鍵となる遺伝子の発現を制御している。CtsRはMcsBキナーゼによって活性化され、ストレス応答遺伝子の転写を可能にしているが、活性化の仕組みは不明なままである。Fuhrmannたちはこのたび、McsBが、DNA結合領域にあるアルギニン残基を特異的にリン酸化することによって、CtsRのDNA結合を抑制していることを示す構造研究および生化学的研究結果を記述している(p. 1323) 。この研究は、原核生物および真核生物の転写制御におけるアルギニンのリン酸化に関するこれまで以上に幅広い潜在的な役割を探求していく基礎を提供するものである。(KF)
McsB Is a Protein Arginine Kinase That Phosphorylates and Inhibits the Heat-Shock Regulator CtsR
p. 1323-1327.

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