AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 13, 2008, Vol.320


ユビキチンの立体構造による選択(Conformational Selection in Ubiquitin)

タンパク質の動的振る舞いが与える機能への影響は重要であるが、ナノ秒とかマイクロ秒とかのスケールでの動力学的研究は困難であった。Lange たち(p. 1471; Boehr and Wrightによる展望記事も参照)は、広範囲のNMRのデータと分子動力学手法を組合せ、この時間的枠組みにおけるユビキチンタンパク質の分子的なゆらぎを調べた。非結合ユビキチンは、46個の既知の結晶構造中で結合したユビキチンに見られるすべての立体配置が可能な集団的挙動を示す。この結晶構造の殆んどで、結合したユビキチンは他のタンパク質と複合体を形成していた。ユビキチンによる分子認識のメカニズムは、誘発されたはめ込み説よりも、このような立体構造の選択によって説明できる。(Ej,hE)
Recognition Dynamics Up to Microseconds Revealed from an RDC-Derived Ubiquitin Ensemble in Solution
p. 1471-1475.
BIOCHEMISTRY: How Do Proteins Interact?
p. 1429-1430.

分子内部のプローブ(An Internal Probe)

分子構造は、x線や電子線のビーム経路中に置かれた分子の散乱パターンによって大部分が決定される。Meckel たち(p. 1478) は、強力なレーザーの場で分子自身から放出され、跳ね飛ばされた電子の運動量を追跡することによっても構造上の情報が得られることを示した。特に、予め整列された気相のN2やO2を超短時間のレーザーパルス照射によってマルチフォトンによるイオン化した後、電子とイオンの軌跡がマップ化された。低運動量の電子は分子軌道の最高被占軌道の構造を明らかにし、一方、高運動量の電子は跳ね返って元のイオンに戻され、回折され、核の位置の情報を提供してくれることが解った。(Ej,hE,KU)
Laser-Induced Electron Tunneling and Diffraction
p. 1478-1482.

長い分子ワイヤー実現の可能性を考える(Considering Molecular Wires at Length)

通常の金属ワイヤーの抵抗は、長くなるとそれに比例して増加するが、もし、ワイヤーに小さな分子を利用すると、電子伝達を支配するメカニズムは分子が長くなるに従って変化し、伝導率が劇的変化を生じるまでになる。この効果を実験的に確認することは、分子と金属電極の接合状態や分子層の整合性が、ワイヤーが長くなるに従って変化するため困難であった。Choi たち(p. 1482)は、この複雑なプロセスを避けて、金の基板上に共役分子を、一段ずつ1から7ナノメートルの長さに伸ばしながら合成することに成功した。金属で被覆した原子間力顕微鏡のチップを利用して伝導率を測定し、トンネル効果伝導からホッピング効果伝導への予期された遷移が観察された。また、分子バックボーンに非共有型ユニットを導入したところ伝導率が予想通り落ちた。(Ej,hE,KU,nk)
Electrical Resistance of Long Conjugated Molecular Wires
p. 1482-1486.

別の相棒のほうがもっと強いきずな(Different Partners Are Stronger)

原子の核は陽子と中性子とを含有しているが、それらは核の中で独立に振舞ってはいない。ある粒子は対を作る傾向があり、実質的には、核の内部では局所的により大きな実効密度を生み出している。Subedi たち (p.1476, 5月29日にオンライン出版) は、炭素12の箔に高エネルギー電子ビームの照射により陽子や中性子を追い出すことで、これらの核子の対の性質を調べた。追い出された核子のタイプと運動量を検討することにより、著者たちは、多くの対が混合した中性子-陽子対であったことを明らかにしている。この発見は、粒子密度が特に高い中性子星を理解する上でいくつかの示唆を与えるものであろう。(Wt)
Probing Cold Dense Nuclear Matter
p. 1476-1478.

オゾンの影響(Ozone’s Influence)

ここ数十年間、南半球のジェット気流の偏西風がこのジェット気流の南極側で加速されている;この加速は温室効果ガス濃度の増加と成層圏のオゾン量の減少という二つの影響の組み合わせに起因され、そしてこの加速は続くものと予想されている。Sonたち(p.1486)は、これと異なる見解を見出している。最近の一連のモデル--これらのモデルは成層圏の化学物質に関する包括的な相互作用の影響を含んでいる--から、南半球における夏場での対流圏における偏西風は、2050年までのオゾンホールの穏やかな減少によりジェット気流の南極側で弱まるものと予想している。このことは南半球の気候に重要な結果をもたらし、そして気候変動に関する要因の一つとして成層圏のオゾン回復の重要性に光を当てるものである。(KU)
The Impact of Stratospheric Ozone Recovery on the Southern Hemisphere Westerly Jet
p. 1486-1489.

酸のテスト(Acid Tests)

今も進行中の大気中二酸化炭素濃度の人為的な上昇によるやや無視されがちな、しかし極めて重要な影響の一つは、海洋の二酸化炭素吸収の増加による酸性化である。この酸性化は、多くの海洋生物体の外骨格を作っている炭酸カルシュウムの溶解性を高めることになる。Feelyたち(p.1490,5月22日のオンライン出版)は、南カナダから北メキシコにいたる13の水界地理学的横断面からの結果を報告している。2007年において、この潜在的な腐食性の強い海水が大陸棚のかなりの部分で湧昇していた。大陸棚におけるこのような海水の季節的な湧昇は自然現象的なものであるが、しかしながら人為的発生による二酸化炭素の海洋の取り込みは大陸棚の更なる地域に危険なダメージを与えることになる。(KU)
Evidence for Upwelling of Corrosive "Acidified" Water onto the Continental Shelf
p. 1490-1492.

脂肪のコントローラ(Fat Controller)

肝臓における脂質の合成は、炭水化物摂取の影響下にある転写経路に依存している。Leeたち(p.1492,Hortonによる展望記事参照)は、脂質代謝に関与する転写制御因子のリストに予想外のXBP1という因子の追加に関する証拠を提供している。XBP1は、小胞体中で折り畳まれていないタンパク質応答(UPR)を制御していることが既に知られており、様々な細胞型の分泌能力に影響している。出生後の肝臓におけるXBP1発現欠如のマウスは、肝臓での脂質合成の低下によりコレストロールとトリグリセドの減少を示した。野生型のマウスにおいて、XBP1は炭水化物の摂取により誘導され、脂肪酸合成に関与する幾つかの他の遺伝子発現と対応している。XBP1のヘルプが炭水化物の摂取に応答して複雑な脂質生成の転写ネットワークをどのように制御しているかは定かではない。(KU)
Regulation of Hepatic Lipogenesis by the Transcription Factor XBP1
p. 1492-1496.
PHYSIOLOGY: Unfolding Lipid Metabolism
p. 1433-1434.

場所が重要(Location Matters)

細胞がアミノ酸に応答してタンパク質の合成や細胞増殖を調節するそのシグナル伝達経路は、解決すべき厄介な課題である。Sancakたち(p.1496,5月22日のオンライン出版)は、実験によりこのパズルを解くキーとなる要素を与えているが、それはRagタンパク質(RagA,-B,-C,-D)として知られている低分子グアノシン三リン酸分解酵素のグループに関する役割を明らかにしたものである。RagCは、細胞増殖の主要制御因子であるmTORC1タンパク質キナーゼ複合体と結びついている。Ragタンパク質とmTORC1とのこの相互作用は、細胞がアミノ酸に触れた際に栄養有効シグナルを伝達するのに必要、かつ十分な条件であるらしい。Ragタンパク質とmTORC1との物理的な相互作用はmTORの活性化を制御するだけでなく、細胞の内膜系内部でのその局在化に影響をもたらしているらしい。(KU)
The Rag GTPases Bind Raptor and Mediate Amino Acid Signaling to mTORC1
p. 1496-1501.

森と木々(The Wood and the Trees)

現実の生態系において、生息地の破壊が個々の種に及ぼす影響を予想することは、環境保全の計画立案にとってのキーである。スペイン本国の森林地帯全体にわたって9万8千箇所以上の区画から構成されているスペイン森林目録(the SpanishForestInventory)は、樹木のさまざまな種がそこにある、あるいはない、ということを数量化してある最大の樹木データセットを示したものである。このデータセットを用いて、Montoyaたちは、34種のイベリアの樹木種について、生息地の損失と種の維持との関連を大きな空間的規模で分析した(p. 1502) 。森林伐採への反応の違い(登録されている場所での種の持続、という観点で)は、種子の分散の機構に強く影響されている。種子が動物によって分散される樹木種は、種子が風によって分散されるものよりも森林伐採に抵抗性が高く、6つの事例では、個々の樹木種は実際、樹木によって覆われた部分の局所的減少に対してポジティブに反応したのである。こうした関連は、しかしながら、分散のベクターが次に森林伐採そのものの影響をこうむるほどの影響を受け始めることになれば、持続しないことになるだろう。(KF)
Animal Versus Wind Dispersal and the Robustness of Tree Species to Deforestation
p. 1502-1504.

損傷の検出(Damage Detection)

DNA二重らせんの両方の鎖の損傷は、生物体にとって潜在的に非常に危険なものである。というのは、自由になった鎖の末端がゲノムの別の部分と不適切に組み合わさって、重要なるダメージを引き起こすことになるかもしれないからである。真核細胞は、そうした損傷をすばやく感知し、損傷箇所にDNA修復タンパク質を補充して、核修復複合体(repair foci)を形成して修復しようとする。SoutoglouとMisteliは、多様な修復因子を個別にヒトの組織培養細胞中の壊れていないDNAへとつなぎとめることによって、驚いたことに、DNA損傷がなくとも、つなぎとめられた場所に修復複合体が形成することを見出した(p.1507、5月15日オンライン出版)。こうしたDNA損傷への応答は、つまり、損傷シグナルカスケードの増幅を含んでいるということであり、また、損傷感知タンパク質は損傷箇所周辺の染色質の高次構造の変化を検出している可能性がある。(KF)
Activation of the Cellular DNA Damage Response in the Absence of DNA Lesions
p. 1507-1510.

訓練と学習の転移と線条体(Training, Transfer, and the Striatum)

訓練によって特定のタスクのパフォーマンスを向上させたり、脳活動のパターンを変えたりすることができる。また、訓練により関連性が高いが訓練を受けたことの無いタスクや転移タスクのパフォーマンスを向上させることもできる。Dahlinたち(p.1510)は、被験者にたいして文字を記憶させる訓練を数週間行った。対照グループに比べ、これら被験者は著しいパフォーマンス向上を達成し、また未訓練ではあるが関連するタスクに関しても向上した。関連性の無いタスクに関しては転移の向上が見られなかった。試験時に撮影した脳スキャンにより、訓練の後に起こる転移活動が線条体に仲介されていることが明らかとなった。この結果は線条体が記憶をアップデートする際に重要な役割を果たしているというコンピューターモデル予測と一致している。(NK)
Transfer of Learning After Updating Training Mediated by the Striatum
p. 1510-1512.

酵母のタンパク質相互作用ネットワークのマッピング(Mapping the Yeast Protein Interaction Network)

遺伝子を越えて、ネットワークを理解するに至るためには、生体内でのタンパク質-タンパク質相互作用を追跡することが必要である。Tarassovたちは、タンパク質-断片相補性アッセイを用いて--この方法は問題のタンパク質に融合させられたジヒドロ葉酸還元酵素の2つの領域の再構築に基づく--、酵母におけるタンパク質相互作用ネットワーク、interactomeを調べた(p. 1465、5月8日オンライン出版)。複合体中での既知の相互作用の確認に加えて、細胞が飢餓への応答として自身の成分を消化する、長く保存されてきたプロセスである自己貪食の根底にあるネットワークと、細胞周期の際の細胞極性化の根底にあるネットワークとについての洞察が得られた。(KF)
An in Vivo Map of the Yeast Protein Interactome
p. 1465-1470.

暗い話(The Dark Side )

発生や分化の際に、ある種の糸状菌は、二次的代謝産物として抗生物質や毒素を産生する。Bayramたちは、velvet複合体と呼ばれる三量体のVelB/VeA/LaeA複合体が光応答性の菌の発生と二次代謝を制御している、と報告している(p. 1504; またFischerによる展望記事参照のこと)。暗い場所ではVeAが、核の二次代謝の制御因子であるLaeAを性発達に必要なタンパク質であるVelBへと架橋している。光があると核中のVeAが減少し、結果として三量体の複合体が破壊され、それに引き続いての二次的代謝産物の産生減少をもたらす。(KF,KU)
VelB/VeA/LaeA Complex Coordinates Light Signal with Fungal Development and Secondary Metabolism
p. 1504-1506.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Sex and Poison in the Dark
p. 1430-1431.

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