AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 20, 2008, Vol.320


アト秒技術に向かって(Toward Attosecond Technology)

高強度光パルスと希ガス原子の相互作用により、原子はイオン化され、その後より波長の短い(紫外域に達する)短パルス光を放出する。この過程を制御することはアト秒技術を開拓する上で不可欠である。oulielmakisたち(p1614)は、単一サイクル、すなわち極めて短くて1波長分しかない、高強度赤外パルスによりネオン原子の単一サイクル時間のイオン化を誘起し、その結果、100アト秒以下の極紫外パルスをいくつか発生させることに成功した。この短パルスにより原子の時間スケールに到達したことになり、原子に捕捉された電子の振る舞いや電子−電子作用の観測が可能になる。(NK,nk)
Single-Cycle Nonlinear Optics
p. 1614-1617.

謎に満ちたコンドルール(Enigmatic Chondrules)

コンドルールという名前で知られている初期太陽系を構成する最も豊富な固体については謎が多い。コンドルールには太陽系星雲の高エネルギープロセスが記録されており、物質分布やより大きな微惑星の形成など、その誕生からその後の進化を理解するために重要となる初期条件を表している。コンドルールは従来、中から低密度の領域で蒸発が起きたというモデルで説明されてきたが、Alexander たち(p. 1617; 表紙も参照) は、コンドルールのナトリウム濃度はそれでは説明できないほど高いことを示した。 現実のナトリウム元素の成分がコンドルールの生成を通じて比較的一定であり、ナトリウムの蒸発が少なかったということを説明するためには、これまでの原始太陽系星雲集積モデルが予言していたよりずっと高い密度領域が局所的に存在し、そこでコンドルールの生成が起きたとする必要がある。このような高密度領域を想定すると、他の多くの化学的特徴も説明が可能で、さらに微惑星の生成とも関連してくるが、ではどうやってそのような高密度領域を実現するかが次の研究課題である。(Ej,hE,nk)
The Formation Conditions of Chondrules and Chondrites
p. 1617-1619.

動機付け、倫理、そして行動(Motivation, Morals, and Behavior)

社会的プログラムの設計に当たっては、しばしばアダム・スミスの「見えざる手」の原理に頼ることになるが、この原理によれば個人的行動は自己の利益に従って選択されると仮定されている。従って、全体として利益が得られるような形で構成員に行動を促すために、しばしば経済的な利益で個人を誘導するような社会制度を構築しがちである。他方、経験的観察や実験的研究によれば、個人的行動には利他主義のような社会的利益を優先するような行動も示されている。Bowles (p. 1605)は、これら最近の研究をレビューし、動機付けの設計において、このような多様な行動を考慮しない場合には、全く予想外の逆の結果に陥るかについて述べている。(Ej,hE,nk)
Policies Designed for Self-Interested Citizens May Undermine "The Moral Sentiments": Evidence from Economic Experiments
p. 1605-1609.

定数って定数?(Constant Constants?)

光の速度や重力定数、あるいは、電子の質量のような基礎物理定数は、宇宙の物理的な描像にとって基本的なものであり、時間と空間に渡って不変であると考えられている。測定がだんだんと精密になるとともに、それらの定数の一定性をチェックすることができる。ひとつの方法は、これまでより正確な原子時計に関わるものであるが、これらは地球上の実験室での測定に限定されている。長大な距離における、あるいは、ビッグバン直後の物理定数の変化の可能性はどうであろうか?Murphy たち (p.1611) は、われわれの太陽系と遠くはなれたクエーサーとの間の分子雲による光吸収を用いて、陽子と電子の質量比の考えられうる変化範囲を明確した。(Wt)
Strong Limit on a Variable Proton-to-Electron Mass Ratio from Molecules in the Distant Universe
p. 1611-1613.

緑がもっと多かった昔のグリーンランド(A Greener Greenland)

世界的な気温の上昇が続けば、グリーンランドの氷床が融け、海表面が上昇することが予想されているが、気温の上昇でどの程度の氷床が消滅するかはまだ良くは解ってない。この気温変化に対する氷床の影響の大きさを推測する方法の一つとして、過去に生じた気温変化による氷床への影響を決定する方法がある。De Vernal と Hillaire-Marcel (p.1622;およびSteig & Wolfeによる展望記事参照)は、南部グリーンランドの海岸近くの海底堆積層の掘削コアの調査で、過去数百万年間の花粉の記録を作った。気温の変化に伴って氷や植生の範囲が大きく変化していたことから、氷床の気温に対する影響の受け易さが示され、将来の温暖化に伴って何が起きるかを予想する際の参考にもなった。(Ej,hE,tk,nk)
Natural Variability of Greenland Climate, Vegetation, and Ice Volume During the Past Million Years
p. 1622-1625.
ATMOSPHERIC SCIENCE: Sprucing Up Greenland
p. 1595-1596.

高さの変化(Changes in Altitude)

グリーンランドや南極の氷床の質量変化の速度は、海岸線沿いの氷の消滅速度と中心部における氷の増加速度の間の差異によって決定されるが、その両者ともかなり不確かである。南極の内陸における質量増加に関しては、特に決定が困難であり、それは積雪量が複数の時間スケールにわたって変化し、氷河の粒状雪(降雪によって形成された氷床の上部の層で、未だ完全な氷になっていない多孔性の雪)のその厚さを南極の広い領域で実証することが困難なことに起因する。将来の温暖化に伴って何が起きるかを予想する際の参考にもなった。(KU,nk)
Elevation Changes in Antarctica Mainly Determined by Accumulation Variability
p. 1626-1629.
CLIMATE CHANGE: A Matter of Firn
p. 1596-1597.

脂肪のコントローラ(Fat Controller)

驚くべき数の微生物が哺乳類の腸内に生存しており、宿主の重要なる栄養機能を手助けしている。Leyたち(p. 1647、5月22日のオンライン出版)は、ヒトと動物園や野生の場に生きている60種の哺乳動物の糞便中の菌叢に関する比較メタゲノム研究を行い、分類学上の位置と食餌が腸内微生物叢の成分にどのように影響し、そしてこのような関係がどのように共進化したかを調べた。草食動物は最も多様なコミュニティーを宿し、一方肉食動物が最低のコミュニティーを宿しているという一般的な傾向が見られたが、全体的に見ると、微生物叢とその宿主との関係は特異的なものである:St.Louis動物園のヒヒはナミビアの野生のヒヒと殆んど同じ腸内微生物叢を持っている。(KU)
Evolution of Mammals and Their Gut Microbes
p. 1647-1651.

系統発生の誤り訂正(Phylogenetic Error Correction)

分子配列アライメント方法は、進化の関連を解析するための鍵となる手段である。しかしながら、LoeytynojaとGoldman(p. 1632)は、現行の方法では系統誤差が生じること、例えば、比較ゲノム解析において進化の推論の結果にかたよりが生じることを示している。これらの誤差はより多くの配列データをサンプリング(標本化)しても訂正されない--実際に、この誤差はサンプリングが多くなると益々増える。系統発生と配列の進化の研究において、マルチプルアライメント(多重アライメント)を行うことで、これらの系統誤差を避けることができる。(hk,KU)
Phylogeny-Aware Gap Placement Prevents Errors in Sequence Alignment and Evolutionary Analysis
p. 1632-1635.

鞭毛を止める(Clutching the Flagellum)

細菌の鞭毛は生物における珍しい回転モーターの一つであり、その組み立てや機能に関して広範囲に研究されてきた。様々な転写制御因子が鞭毛の遺伝子発現を制御しており、そして走化系が鞭毛の回転方向と細胞の動きの方向を制御している。Blairたち(p. 1636、BerryとArmitageによる展望記事参照)は、新たなモーターの機能成分、即ち細胞が鞭毛の回転を停止させるクラッチ成分を同定した。細菌が動きを止める際に、このクラッチタンパク質は運動制御においての役割とバイオフィルムの形成とを同時制御しているらしい。(KU)
A Molecular Clutch Disables Flagella in the Bacillus subtilis Biofilm
p. 1636-1638.
MICROBIOLOGY: How Bacteria Change Gear
p. 1599-1600.

グリア細胞の調整(Glial Cell Tuning)

アストロサイト(astrocyte)は、脳にある非神経性細胞の主要なクラスであって、哺乳類の大脳皮質の半分近くがそれで成り立っているのだが、その機能は実質的にはわかっていなかった。脳機能におけるアストロサイトの活動的役割の1つに関する証拠がいま蓄積されつつある。Schummersたちは、ケナガイタチ(ferret)の視覚野におけるアストログリアのカルシウム応答を、2光子レーザー走査顕微法によって調べた(p. 1638; またWolfとKirchhoffによる展望記事参照のこと)。視覚的手がかりによって誘発されたカルシウム・シグナルが、ニューロンおよびアストロサイトにおいて、高い時間および細胞分解能で同時にモニターされた。アストログリアのネットワークの受容野の性質(応答の動態、向き、局在性)は、一貫して神経活動に従っていた。血行力学的シグナルおよびニューロンとアストログリアにおけるカルシウム応答を同時に記録することによって、アストロサイトが、非侵襲性の脳イメージングにとって決定的に重要な血管シグナルと神経活動を結び付ける鍵となる役割を果たしていることが明らかにされた。(KF)
Tuned Responses of Astrocytes and Their Influence on Hemodynamic Signals in the Visual Cortex
p. 1638-1643.
NEUROSCIENCE: Imaging Astrocyte Activity
p. 1597-1599.

増殖する細胞における短いメッセージ(Shorter Messages in Proliferating Cells)

メッセンジャーRNA(mRNA)の3'非翻訳領域(UTRs)にある配列は、mRNAの安定性や翻訳、そして細胞内局在を制御している。Sandbergたちは、Tリンパ球の活性化に応答する際の、3'UTRが異なっている複数のmRNAアイソフォームの発現の変化を分析した(p. 1643)。活性化した細胞は、タンパク質の発現を一般に抑制するマイクロRNA標的部位などの制御配列を欠く短い3'UTRをもつアイソフォームを高い比率で発現する傾向がある。短い3'UTRの発現に向けたこうしたシフトは、ヒトとマウスの双方の活性化された免疫細胞において生じ、多くの細胞型や組織にわたる細胞増殖と相関するものである。(KF)
Proliferating Cells Express mRNAs with Shortened 3' Untranslated Regions and Fewer MicroRNA Target Sites
p. 1643-1647.

細胞内の破壊戦略(Intracellular Subversion Strategy)

推定上の細菌タンパク質の多くは、真核生物のアンキリン(ankyrin;赤血球細胞膜の表面タンパク質)リピート相同領域(ank)を含んでいる。これら同じ細菌はまた、細菌性のエフェクタータンパク質を真核生物の宿主細胞のサイトゾルに注入できる潜在的なIV型分泌系をもっている。つまり、これらankを含む遺伝子はそうしたエフェクタータンパク質をコードしている可能性があるということである。Panたちは、条件的(facultative)細胞内病原体であるレジオネラ菌(Legionella pneumophila)および偏性(obligate)細胞内病原体であるQ熱コクシエラ菌の双方にあるankを含む遺伝子が、複数のタンパク質をコードしており、これらのタンパク質が実際に細菌性のDot/Icm IV型分泌系を必要とするプロセスによって感染の際に宿主細胞中に転位置されることを示している(p. 1651)。レジオネラ菌のankを含むタンパク質の1つ、AnkXは微小管依存の小胞輸送を妨げ、レジオネラ菌が食胞-リソソーム融合を逃れて宿主細胞へと内部移行するのを助けている。(KF,KU)
Ankyrin Repeat Proteins Comprise a Diverse Family of Bacterial Type IV Effectors
p. 1651-1654.

火山性溶岩湖の深い所を調べる(Probing a Volcanic Lava Lake’s Depths)

マグマは高温(ほぼ1000℃近い)なので、溶融体と新たに形成された結晶との間で安定同位体の顕著な分別作用は起きないと考えられている。Tengたち(p.1620;Weyerによる展望記事参照)は、良くコントロールされた環境下にある、キラウエア・イキ溶岩湖においてこの考えを調べた。この湖は1959年の噴火で作られ、そしてゆっくりと冷却されてきた。湖の中心部に残る部分的熔融層から湖の底部に堆積している結晶までの一連の試料を掘削により収集した。MgやLiでは見られないこの同位体分別作用は、鉄の酸化状態の変化を反映しており、マグマ内に起きた変化を追跡するのに用いることができる。(KU,tk,nk)
Iron Isotope Fractionation During Magmatic Differentiation in Kilauea Iki Lava Lake
p. 1620-1622.
GEOCHEMISTRY: What Drives Iron Isotope Fractionation in Magma?
p. 1600-1601.

ハエのゲノム進化(Fly Genome Evolution)

コピー数の変動、とりわけ遺伝子全体の重複に作用している進化の力は殆んどわかっていない。全ゲノムのタイリング配列と隠れマルコフモデルを用いて、Emersonたちは、キイロショウジョウバエの15の自然系統において、遺伝子重複および欠失に関わる多形性を検出した(p. 1629、6月5日にオンライン出版)。一般的に言って、コピー数の多形性は有害であった。欠失は重複に比べ、一般に頻度が少なく小規模で、翻訳領域では特に稀であった。重複の中では、翻訳領域をオーバーラップするタイプの変異が、完全な遺伝子重複や遺伝子間領域における重複よりも有害であった。更に、X染色体において生じる重複が、常染色体におけるそれよりもずっと有害であり、これはX染色体の進化が常染色体のそれとは異なった進行をしていることを示すものである。(KF)
Natural Selection Shapes Genome-Wide Patterns of Copy-Number Polymorphism in Drosophila melanogaster
p. 1629-1631.

制御するものを制御する(Regulating the Regulators)

細胞分裂の制御の大部分は、サイクリン依存性キナーゼの活性のオン、オフの切り替えに関わっている。Sekiたちは、哺乳類の体細胞における細胞周期のG相から有糸分裂への遷移がいかに制御されているかを明らかにしている(p.1655)。細胞周期のG相において、活発に転写される遺伝子Boraが枯渇すると、細胞周期における別の重要なキナーゼであるポロ(Polo)様キナーゼ1(Plk1)の活性化が妨げられた。BoraはPlk1と直接的に相互作用して、細胞周期の制御において役割を果たしている別のキナーゼ、オーロラ(Aurora)AによるPlk1のリン酸化を増強しているのである。(KF)
Bora and the Kinase Aurora A Cooperatively Activate the Kinase Plk1 and Control Mitotic Entry
p. 1655-1658.

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