AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 6, 2008, Vol.320


より長生きするための衝突(Collisions for a Longer Lifetime)

低次元に閉じ込められた冷却原子は、たとえばボゾンがフェルミオンのように振舞う結果互いに反発するといった、驚くべき効果を生じることがある。弾性衝突はこのような効果の必要条件と見なされるため、弾性衝突が達成される条件に多大な関心が寄せられてきた。これに比べ、非弾性衝突には関心が向けられない傾向があった。しかし、Syassen たち(p.1329; Portoによる展望記事も参照)は、粒子間の非弾性衝突も相関性があることを示した。1次元円筒に閉じ込められた分子は、分子の縮退状態から始まって、軸に沿って弱い周期的ポテンシャルエネルギーを付与すると、円筒中の分子の寿命が一桁以上も延びた。このことから、かつて注目されなかった非弾性衝突が主役のパラメータ空間の研究が有用であるに違いないことが証明されたことになる。(Ej,hE)
Strong Dissipation Inhibits Losses and Induces Correlations in Cold Molecular Gases
p. 1329-1331.
PHYSICS: Improving Correlations Despite Particle Loss
p. 1300-1301.

山のように(Mountain High)

アンデス山脈は、世界でもっとも長大で高い山脈の1つである。その地形は南アメリカの大部分の気候を大きく左右し、その隆起の移り変わりは南アメリカ大陸の生態学的な発生に影響を与える。Garzioneたち(p.1304)は、隆起の移り変わりについての新しい証拠を再調査している。約1000万年前、アンデスは穏やかに隆起していた。1000万年前から600万年前の間、アンデスの隆起は急激に増加した。おそらく地殻底辺にある高密度な物質が分離して、マントルの中に沈んでいったことが原因であろう。(TO,nk)
Rise of the Andes
p. 1304-1307.

地震は音速で駆け抜ける(Earthquake Running at the Speed of Sound)

特に破壊的ないくつかの地震では地殻中を破断が進行する速度が、それが生み出す音波の局所的速度(local speed ofsound)を、上回るらしい。その結果、超音速機からの衝撃波と似た現象が生じ地震による破壊をさらに拡大するのである。BouchonとKarabulut (p.1323)は、それらの破壊的な震動による余震も違ったものであることを示している。一般に知られているような、断層面上に余震が集中するのではなく、二次的な亀裂構造体(secondary secondary)上に余震が集中している。断層面上の余震の欠如は、断層面自体の摩擦が比較的均一であることを示している。(TO,KU,nk)
The Aftershock Signature of Supershear Earthquakes
p. 1323-1325.

大腸菌の予見性(Foresight Among E. coli)

自然界では出来事の予兆は多くの場合、容易に予想できる順に起きる。例えば、バクテリアは食べられると、急激な温度上昇と、それに続く酸素レベルの低下を予知する。Tagkopoulosたち(p. 1313, オンライン発行の5月8日号、および、Baligaによる展望記事参照) は、コンピュータシミュレーションとケモスタット実験によって、大腸菌(E. coli)が持つ予測能力を調べた。大きな温度差に晒すと、18%の酸素濃度の環境においても、大腸菌は好気生活 モードから 嫌気生活モードに切り替えた。これは一見適応不順のように見えるが、嫌気性になった細菌は、酸素が不足している腸の奥底でひしめき合う微生物に遭遇するや否や、生存競争上で有利となることを意味する。さらに、著者たちは細菌を訓練して、高温の後、酸素濃度が高くなるような「細菌にとっては不自然な」順序に適応させたと述べている。(Ej,hE,KU,nk)
Predictive Behavior Within Microbial Genetic Networks
p. 1313-1317.
SYSTEMS BIOLOGY: The Scale of Prediction
p. 1297-1298.

代替触媒の開発(Exploring Alternatives in Catalysis)

工業用触媒系の多くは貴金属のメタルに基づいており、より安価な、そしてより豊富に存在する金属や合金に基づく代替の触媒研究がなされている。Studtたち(p. 1320)は、アセチレンの選択的な水素添加反応調べ、そして密度汎関数理論の考察から有力候補を同定する方法を示している。工業的に有用なエチレン中に含まれる微量の不純物であるアセチレンは白金触媒によってエチレンへと水素付加されるが、この触媒はエチレンをエタンへと更に水素付加することは無い。金属や合金における炭化水素化合物の吸着熱の傾向を調べることで、著者たちは可能な代替触媒としてZn-Ni合金を同定し、酸化物担持体上に分散されたこれら合金の実験研究により、選択的な水素付加の反応活性を実証した。(KU)
Identification of Non-Precious Metal Alloy Catalysts for Selective Hydrogenation of Acetylene
p. 1320-1322.

大きく偏心したパルサーの振舞(Eccentric Pulsar Performance)

連星パルサーは、伴星とともに回転する電波ビームを放射する、高速に回転する中性子星である。これまで、主に二つのタイプが知られている。ひとつは自転速度が遅く、伴星を巡る軌道は細長い楕円である。 もうひとつは円形の軌道で高速に回転しているものである。Champion たち (p.1309, 5月15日にオンラインで出版; van den Heuvel の展望記事を参照のこと)は、大きく偏心した軌道で高速に回転するパルサーを発見した。これは、これらのクラスにはあてはまらないもので、パルサー形成のモデルへの挑戦となるものである。このパルサー形成の別の可能なモデルとしては、3重連星系も候補に含まれる。(Wt,nk)
An Eccentric Binary Millisecond Pulsar in the Galactic Plane
p. 1309-1312.
ASTRONOMY: An Eccentric Pulsar: Result of a Threesome?
p. 1298-1299.

激変星を観測する(Observing Cataclysmic Variables)

連星のような天体の中には、一つの星がもう片方の星からの物質を降り積もらせているものがある。多くの場合、集められた物質は加熱され、強力なジェットの形態でその物質を放出する。しかし、ある降着天体、特に、いわゆる激変星は、ジェットとしての活動性を示さないように見える。Koerding たち (p.1318) は典型的な矮新星であるSS Cygに対して電波観測を行い、天体ジェットの特徴のすべてを示すデータを得た。アメリカ変光星観測者連合(The American Association of Variable StarObservers) が発する警報に合わせて、Very Large Array 電波望遠鏡によりデータ収集が開始されたのである。その結果は、ジェットの活動とその基礎をなすメカニズムは、すべての降着天体で類似であることを示唆している。(Wt,nk)
A Transient Radio Jet in an Erupting Dwarf Nova
p. 1318-1320.

もつれたダイヤモンド(Entangling Diamond )

量子もつれは、量子情報処理や量子コンピューターにおいて重要な構成要素である。光子、冷却原子系 あるいは極低温下の量子ドット量子もつれが実現されてきた一方で、室温でも量子もつれを実現できる固体材料を探す研究も続けられている。Neumannたち(p.1326)は、 ダイヤモンド中の光学活性な窒素欠陥で、2つのあるいは3つのキュービットがもつれた状態を生成・検出できることを実証し、ダイヤモンドがこの要求を満たすことを示した。(NK)
Multipartite Entanglement Among Single Spins in Diamond
p. 1326-1329.

核膜孔を細かく見る(Poring over the Nuclear Pore)

光学顕微鏡は細胞生物学における有力な武器であり、その画質は200-300nmの解像度の障壁を破る「超解像:super-resolution」技術により改良されつつある。Schermellehたち(p. 1332)は、三次元構造照明顕微鏡(3D-SIM)の応用に関して記述しているが、この画像処理技術は水平方向と深さ方向の双方において解像度が高まり、細胞全体の多色カラー画像が得られる。彼らはこの技術を用いて、核膜孔と核のラミン、及び染色質をほぼ100nmの解像度で持って同時にマップ化し、通常の顕微鏡では検出されない幾つかの特徴を観察している。(KU,nk)
Subdiffraction Multicolor Imaging of the Nuclear Periphery with 3D Structured Illumination Microscopy
p. 1332-1336.

ブロック積みの柔軟性のある器官(Flexible Organ Building Blocks)

様々な器官を持つ動物を作るには、胚形成の期間に細胞のアイデンティティと細胞挙動の協調が必要である。Christiaenたち(p.1349)は、ユウレイホヤの心臓前駆細胞の遊走を制御している遺伝子の発現を追跡した。前方に移動するために、遊走細胞は分極し、膜の突出を伸ばし、基質に接着し、そしてその後脱離する。心臓制御因子は遺伝子のサブセットのみを制御することでこれらの事象を調節し、遊走に必要な細胞活性の組み合わせを特定している。制御と挙動のインターフェースに関するこの特性が、発生と進化において観測された形態形成の多様性を説明するものであろう。(KU)
The Transcription/Migration Interface in Heart Precursors of Ciona intestinalis
p. 1349-1352.

X不活性化を解き明かす(Dissecting X Inactivation)

哺乳類のメスの2つのX染色体の一方のサイレンシングは、非翻訳RNAであるXistとTsixによって制御されている。これらのRNAは、少なくとも、その長さの一部で重なっており、そのことから、二本鎖RNAを標的にした、広く利用される遺伝子サイレンシング機構であるRNA干渉が、X不活性化にも関与している可能性があるという推測がなされている。Ogawaたちは、マウス細胞において、XistとTsixが実際にRNA二本鎖を形成し、このRNAがRNA干渉機構の中心にあるRNAエンドヌクレアーゼというダイサーの標的となり、小さなRNA種が生じることを示している(p. 1336)。ダイサーをノックダウンすると、不活性な染色体をXistがコーティングすることが妨げられ、異質染色質マークが生み出されることになる。つまり、X不活性化とRNA干渉とは、仕組みとして結び付いているのである。(KF,KU)
Intersection of the RNA Interference and X-Inactivation Pathways
p. 1336-1341.

衝動から強迫へ(From Impulsive to Compulsive)

衝動性と興奮の追求における個体差は、薬剤の使用および乱用に関する脆弱性と関係している。強迫性のコカイン使用は、不適応的な習慣の学習についてのトップダウンの遂行制御の失敗からくるものだと考えられてきた。しかしながら、薬剤中毒者にみられる増強された衝動性が、強迫的な薬剤使用の開始に先立つのか、薬剤にさらされた後の結果なのかは、はっきりしていない。Belinたちはこのたび、ラットにおいて、側坐核におけるドーパミン受容体の減少を伴っているある衝動性の行動形質が、強迫的なコカイン使用および嗜癖へのスイッチとして予測できることを示している(p. 1352)。(KF)
High Impulsivity Predicts the Switch to Compulsive Cocaine-Taking
p. 1352-1355.

顔にはいったい何が?(What's In a Face?)

マカクザルのほとんどは、脳の側頭葉全体にわたって、顔-選択性皮質の6つのパッチが分布している。これら6つの顔パッチ(face patches)は、対象認識についての機能的アーキテクチャを解き明かすための理想的な枠組みを提供している。6つの顔パッチそれぞれの入力と出力は何か? それらは機能的に相互接続したネットワークを形成しているのか? あるいは、それらは独立なノードであって、顔に関するまったく異なった側面を処理しているのか? Moellerたちは、マカクザルの顔パッチの結びつきを、生体内での微小刺激と脳イメージングを併用することで、直接的に画像化した(p. 1355)。外側中央部(lateral middle)の顔パッチを刺激すると、他の5つの顔パッチすべてが、強く特異的に活性化されることになった。それ以外の顔パッチを刺激すると、これまた顔パッチのサブセットが特異的に活性化することになった。顔パッチは、つまるところ相互接続したネットワークの一部であり、これが顔処理の段階の階層化を生み出している可能性がある。(KF)
Patches with Links: A Unified System for Processing Faces in the Macaque Temporal Lobe
p. 1355-1359.

テロメアを保護する(Protecting Telomeres)

テロメアは、真核生物染色体の端に蓋をして、それが損傷したDNAとして検知されるのを防いでいる。損傷したDNAとして検知されると、染色体終端が分解されたり、誤って修復されることにつながり、さらにはカタストロフィー的なゲノムの再編成までもたらされてしまいかねない。Pot1タンパク質はテロメアに結合して保護し、さらに同時に、テロメアの反応を制御しているらしい。Miyoshiたちは、Pot1と複合体を形成する3つの分裂酵母タンパク質、Ccq1、Poz1、そしてTpz1を同定した(p. 1341; またBianchiとShoreによる展望記事参照のこと)。このPot1複合体は、染色体の端と端の融合を防ぐのに必須のもので、哺乳類におけるその役割と似たものである。Ccq1はPot1複合体へのテロメラーゼ補充において決定的な役割を果たしていて、テロメアの伸長を促進しており、Poz1は、テロメラーゼをネガティブに制御するよう作用している。(KF)
Fission Yeast Pot1-Tpp1 Protects Telomeres and Regulates Telomere Length
p. 1341-1344.
MOLECULAR BIOLOGY: Refined View of the Ends
p. 1301-1302.

トランスクリプトームのマッピング(Transcriptome Mapping)

全ゲノム配列決定には一般にコストがかかり、実際に検出された配列の量と位置についての精度も比較的低い。Nagalakshmiたちは、酵母のpoly-A+トランスクリプトーム全体の解析を、高効率の配列決定方法であるRNA-Seqと呼ばれる方法で実施した(p. 1344、5月1日オンライン出版)。RNA-Seqにおいては、相補的DNA断片についての非常に大量の短配列の読みが、計算的にゲノムにマップされるのである。この直接的配列決定は、転写単位の境界に関する詳細な情報を提供し、以前は見逃されていた境界を明らかにし、イントロンと3'末端についての情報を増加させてくれたのである。(KF)
The Transcriptional Landscape of the Yeast Genome Defined by RNA Sequencing
p. 1344-1349.

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