AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 23, 2008, Vol.320


ナノの松ノ木を作る(Building Nano-Pine Trees)

ナノスケールのワイヤーやロッドは、電子工学や光学、触媒において、非常に大きな可能性を秘めているが、ひとつの制限はパターン形成、すなわち階層的な構造の生長にある。分岐したワイヤーは金属のナノ粒子を用いたり、あるいは、ワイヤーの成分や成長条件を変えることによって成長させることができるが、Bierman たち (p.1060, オンラインにて5月1日に出版された) は、ナノワイヤーの長軸方向に沿った単一の転位のらせん転位成分のみで引き起こされる分岐の成長メカニズムを示している。そのナノワイヤーは松の木状の形態を有しており、太い幹から大量に生じた規則的な枝を有しており、そして、その成長は、いかにらせん転位が表面で緩和するかに関する理論と一致している。(Wt,nk)
Dislocation-Driven Nanowire Growth and Eshelby Twist
p. 1060-1063.

鋼の剛性を高める(Improving the Strength of Steel)

鉄は低温領域においては剛性と延性が低くなり、弱くもろくなってしまう。この現象がタイタニック沈没に関与しているかもしれない。この課題を解決するには合金化元素を追加する必要があるが、コスト高になってしまう。Kimuraたち(p.1057、Morrisの展望記事参照)は、細長い粒状構造を有する低合金鋼を開発した。開発された鉄の剛性と延性は逆温度依存性を示し、低温になるにつれて材料特性が向上する。(NK,nk)
Inverse Temperature Dependence of Toughness in an Ultrafine Grain-Structure Steel
p. 1057-1060.
MATERIALS SCIENCE: Stronger, Tougher Steels
p. 1022-1023.

S-ニトロシル化の制御(Regulating S-Nitrosylation)

S-ニトロシル化によるタンパク質の共有結合的修飾は、細胞における生化学的な活性制御に関する重要なメカニズムの一つである。しかしながら、タンパク質の脱ニトロシル化のメカニズムはあまり解明されていない。アポトーシスを促進するタンパク質分解酵素カスパーゼ-3はS-ニトロシル化により抑制され、そして細胞死-促進受容体Fasが活性化されている細胞において脱ニトロシル化される。Benharたち(p.1050,Holmgrenによる展望記事参照)は、カスパーゼ3の脱ニトロシル化を触媒するタンパク質分画を精製し、そして脱ニトロシル化の活性を引き起こす最も有望なタンパク質としてチオレドキシン-1(Trx1)を同定した。Trx1の枯渇により、培養細胞においてS-ニトロシル化カスパーゼ-3と他のS-ニトロシル化タンパク質の蓄積をもたらし、そしてカスパーゼ-3のFas-誘導の脱ニトロシル化がチオレドキシン還元酵素2の枯渇により抑制された。このように、Trx1によるターゲットタンパク質の脱ニトロシル化の制御が、S-ニトロシル化によるカスパーゼ-3と恐らく他のタンパク質の酵素的な制御の主要なる要素であろう。(KU)
Regulated Protein Denitrosylation by Cytosolic and Mitochondrial Thioredoxins
p. 1050-1054.
BIOCHEMISTRY: SNO Removal
p. 1019-1020.

洪水がやって来る( Here Comes the Flood)

過去に火星には地下水が存在したことを示す証拠の一つは、切り立った円形劇場の形状から始まっている大峡谷である。類似した大峡谷は地球にもあり、これまでは、地下水の浸透や流れの痕跡を残す地域として説明されてきた。しかし、Lambたち(p.1067)は、それらの1つ、アイダホ州スネークリバー平原(SnakeRiver Plain)にあるボックスキャニオン(Box Canyon)はおそらく氷河時代の巨大洪水の際に形成されたもので、地下水の浸透により徐々に浸食されてできたのではないことを示した。その峡谷にある巨礫(boulders)の宇宙線起源による年代測定(Cosmogenic dating)では、洪水は約4万5000年前にあったことを示唆している。(TO,nk)
Formation of Box Canyon, Idaho, by Megaflood: Implications for Seepage Erosion on Earth and Mars
p. 1067-1070.

ナトリウムの高圧下における複雑な構造(Sodium Gets Complex Under Pressure)

最近まで、ナトリウム元素の圧力-温度-状態図は、高圧で融点の奇妙な極小値を示すものの、完全に理解されたと思われていた。最新の高圧x線シンクロトロン放射による単結晶解析法により溶融点の最小点付近に注目して、Gregoryanz たち(p. 1054) は、理論的には予測されてなかった4GPaの範囲に6つの異なる結晶相が集まっていることを見つけた。このような複雑な挙動を示すメカニズムは、まだはっきりしないが、水素のような単純な元素でもこのような構造的複雑性を示すことは、当たり前なのかも知れない。(Ej,hE)
Structural Diversity of Sodium
p. 1054-1057.

ウイルスを釣り上げて(Fishing for Viruses)

ウイルスのような微生物が、自然環境に与える影響についての我々の知識はほとんど無いに等しい。Andersson and Banfield (p. 1047) は、酸性の鉱山にいる微生物の遺伝子配列のデータを利用し、培養操作を加えないバイオフィルム(固体表面に細菌が集積してできるぬらぬらとした膜)中の野生ウイルスを同定して、原核生物がウイルスに対抗してとる防御メカニズムと思われるものを発見した。ウイルスのいくつかの分類が同定され、解析の結果、急速に変化しているウイルス集団と宿主の微生物は、防衛のために配列をシフトすることを利用した防衛軍拡競争を演じている。(Ej,hE,nk)
Virus Population Dynamics and Acquired Virus Resistance in Natural Microbial Communities
p. 1047-1050.

火星のオパール(Martian Opal)

火星表面の一部に、ほぼ純粋なシリカが、石英の形か、あるいは、オパールの形で大量に堆積していることから、流体を含む複雑な二次堆積作用が生じたことが推察される。Squyres たち(p. 1063) は、火星探索車Spiritによる火星上のオパーリンシリカ堆積物を発見したことを述べている。熱電子放出データからは、この堆積物は露頭のノジュールや、岩石、それに、探索車の車輪で引っ掻きまわされた淡色の土壌を含み、これらはオパールであり、石英やクリストバライトではない。この形成には低pHでの熱水流が関与し、多分、この地域での過去の火山活動が関与していると思われる。(Ej,hE)
Detection of Silica-Rich Deposits on Mars
p. 1063-1067.

一個よりも二個の時計のほうがもベターである(Two Clocks Are Better Than One)

哺乳類の概日時計は視床下部の視交叉上核にあり、光に同調する。もう一つ別の概日時計--食べ物に同調している--が脳内に、多分視床下部のどこかに存在しているという証拠がある。missing clock component(Bmal1)の欠如したマウスの選択された視床下部核におけるBmal を置換することで、Fullerたち(p.1074)は、視床下部の背内側核を食べ物-同調時計の部位として同定した。Bmal1を視交叉上核に選択的に再導入すると、それ以前は無応答性のマウスが自発運動活性と体温リズムを12:12の明暗サイクルに同調する能力を回復した。背内側核へのBmalの再導入により、マウスは限られた時間での食料入手に同調する能力を回復したが、しかしながら光への同調は無かった。このように、背内側核は第二の概日時計を含んでおり、この時計は食べ物が制限されたときに誘発され、活性化のレベルといった機能面のコントロールを引き継ぎ、動物が付加的な食料源を首尾よく得る機会を増している。(KU)
Differential Rescue of Light- and Food-Entrainable Circadian Rhythms
p. 1074-1077.

RNA干渉の機能拡大(Widening RNA Interference Functions)

植物や菌類、及び虫において、RNA干渉(RNAi)はトランスポゾンを含む内在性の反復DNAや寄生虫のDNAのサイレンスに機能している。ハエや哺乳類において、Piwi-相互作用のRNA(piRNA)を含む別のRNAに基づくサイレンシング経路が生殖系列で作用しており、そこで寄生虫のDNAをサイレンスしている。Ghildiyalたち(p.1077,4月10日のオンライン出版;5月8日のオンラインで出版されたBirchlerとKaviによる展望記事参照)は、ショウジョウバエの体細胞が内在性の低分子干渉RNA(siRNA)を産生していることを示している。piRNAと同じく、内在性のsiRNAの多くはトランスポゾンや反復配列を含む大きなゲノムクラスターだけでなく、メッセンジャRNA(mRNA)にもマップ化されており、このことは内在性のsiRNAがmRNA発現を制御している可能性を示唆している。(KU)
Endogenous siRNAs Derived from Transposons and mRNAs in Drosophila Somatic Cells
p. 1077-1081.
MOLECULAR BIOLOGY: Slicing and Dicing for Small RNAs
p. 1023-1024.

遺伝子追求の甘いお話(A Sweet Tale of Gene Hunting)

疫学調査によって、空腹時血糖値(FPG)レベルのもっとも穏やかな上昇ですら、たとえそのレベルが「正常」範囲に収まっていて、2型糖尿病に伴うものでなかったにせよ、循環器疾患のリスクの上昇を示すということが示されている。ヒトにおけるFPGレベルを制御する分子機構は、不完全にしかわかっていない。ゲノム全体にわたっての連合研究で得られたデータを用いて、Bouatia-Najiたちは、血糖が正常な個人におけるFPGレベルの個人差に寄与している一塩基多型(SNP)を同定した(p.1085)。このSNPは、グルコース-6-ホスファターゼ・触媒サブユニット関連タンパク質(IGRPという名でも知られる)をコードしているG6PC2遺伝子のイントロンの中にある。このタンパク質は膵島に選択的に発現し、グルコースによって刺激されたインスリン分泌のセットポイントを調節することによって機能していると考えられている。(KF)
A Polymorphism Within the G6PC2 Gene Is Associated with Fasting Plasma Glucose Levels
p. 1085-1088.

鉄欠乏のセンサーのマスクを剥ぐ(Unmasking the Sensor of Iron Deficiency)

鉄欠乏は、動物においてよくあることである。ヒト細胞は、食物から体内に取り込まれた鉄を感知し、利用することができる。しかしながら、利用できる鉄分が少ないことを知る仕組みは、不明瞭なままである。鉄欠乏による貧血および(顔の毛ではなく)体毛の進行性損失によって特徴付けられる「マスク(mask)」表現型マウスの原因となっている遺伝子変異を位置的にクローニングすることによって、Duたちは、「鉄分の少なさ」を検出する仕組みの重要な構成要素を同定した(p. 1088、5月1日オンライン出版)。細胞表面タンパク質分解酵素の膜貫通セリンプロテアーゼ6が、腸の鉄吸収の主要リプレッサーであるhepcidinの産生を抑制するよう機能しているのである。マスク表現型に関与する膜貫通セリンプロテアーゼ6の変異が、特異的に食事性鉄吸収の障害となっていて、この恒常性経路の重要性に光を当てることになる。(KF)
The Serine Protease TMPRSS6 Is Required to Sense Iron Deficiency
p. 1088-1092.

親切か公平か(Kindness or Fairness?)

希少な資源の割り当ては、グループ全体にとって最大の利益になるようになされなければならず、グループのメンバー個々に対してできる限り公平でなければならない、と提唱するのはたやすいが、この2つの目的が同時に最適化できないとしたら、どうすればよいのだろう? Hsuたちは機能的脳イメージングを用いて、このジレンマを解決するためではなく、一方の視点(たとえば、平等を優先する)を他方(効果を最大にする)よりも支持する際の根底にある認知および情動のプロセスを調べた(p. 1092、5月8日オンライン出版; また5月9日のMillerによるニュース記事参照のこと)。報酬のコード化に関与する脳領域は総利得の計算にも関わっているが、一方、公平さと有用性の均衡を図ることは、情動の処理を行う神経系に結び付いている島(insula)の区域で行われているらしい。つまり、公平性の判断というものは、純粋な合理性ではなく、情動をベースにした優先度に由来しているのである。(KF)
The Right and the Good: Distributive Justice and Neural Encoding of Equity and Efficiency
p. 1092-1095.

ポスト-ペロブスカイトのサイン(A Signature for Post-Perovskite)

マントルの主要な無機質、ペロブスカイト(perovskite)は、マントルの底部近傍でより高圧の相であるポスト-ペロブスカイト(post-perovskite)に姿を変える。この転移移はマントル深部における多くの興味深い特徴を説明できるが、この領域においてより大きな信号を有するS波を主に含む地震の研究は、いくつかの重要な制約を提供してきた。Hutkoたちは、およそ1万もの波形を考慮し重ね合わせることで、中央アメリカのマントル深部のP波の信号を解明することができた(p. 1070)。不連続は核との境界のおよそ300キロメートル上に見られ、そこではP波の速度は減少するが、S波の速度は増加している。これこそポスト-ペロブスカイトへの相転移に付随したまさにサインと考えられ、マントル深部のある領域の特徴(を示す指紋)を提供するものである。(KF)
Anticorrelated Seismic Velocity Anomalies from Post-Perovskite in the Lowermost Mantle
p. 1070-1074.

ゲノム生態学(Genome Ecology)

微生物がいかに種分化するかという問いは、現在熱く議論されているが、環境に関する知見は欠けていることが多い。Huntたちは、ビブリオ属細菌の生態学的に凝集性のある集団における生息地についての選好性と系統発生構造とを一緒にモデル化することによって、進化生物学と生態学を結びつけている(p. 1081)。水平な遺伝子流動によって引き起こされる均質化傾向にも関わらず、生息地ごとに生態学的にはっきり異なる集団へと種分化が生じているらしい。つまり、環境の選択は、ゲノムが遺伝的隔離を増加させる変化を蓄積できるほどに強いのである。このアプローチは、特定の環境機能を担う集団の数と動力学についての洞察を提供してくれるだろう。(KF,nk)
Resource Partitioning and Sympatric Differentiation Among Closely Related Bacterioplankton
p. 1081-1085.

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