AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 16, 2008, Vol.320


神経突起成長のメカニズム(The Logic of Neurite Outgrowth)

カンナビノイド受容体1(CB1R)は、神経突起の成長を制御しており、中枢神経系の発達に重要な機能を果たしているだけでなく、いくつかの病気に関連して薬剤の標的ともなっている。Bromberg たち(p. 903)は、DNA配列上の転写のプロファイル分析と、既知のシグナル伝達ネットワークのグラフ理論解析を併用して、CB1Rによるシグナル伝達の影響を調べた。予想外だったのは、乳ガンの感受性遺伝子であるBRCA1の生成物は、 CB1Rが刺激した神経突起の成長の期間中、活性化された転写制御因子を制御しているらしい。更に、BRCA1が枯渇すると、CB1R-刺激による神経突起の成長が実際に抑制された。転写制御因子PAX6もまた、カンナビノイド シグナル伝達(cannabinoid signaling)に応答して制御されていた。このような形式のネットワーク解析は、複雑なシグナル伝達の決定論理を決めるのに役に立つ。(Ej, hE)
Design Logic of a Cannabinoid Receptor Signaling Network That Triggers Neurite Outgrowth
p. 903-909.

窒素の人為的流出(Manmade Sources of Nitrogen)

生態系で循環している窒素を人為的に流出することで、海洋が二酸化炭素を吸収する能力を高めるかもしれない。しかし、この炭酸ガス吸収能力向上は別の温室効果ガスである窒素酸化物を発生させることで相殺されてしまう可能性が高い。Duceら(p.893)は、窒素化合物の大気排出および堆積の現状と生態系における窒素循環への影響について述べている。世界中で人間による窒素の利用が増えるにつれて、環境への悪影響も明らかになりつつある。悩ましいパラドックス(矛盾)は、世界の一部では食料生産を維持するための窒素が不足しているということである。我々社会が直面している窒素に関連する課題は、巨大で複雑に絡み合っているのである。Gallowayら(p.889)は最も重要な因子の幾つかについて概説し、我々社会が窒素を如何にして管理していくかについての方策を提案している(NK,nk)
Impacts of Atmospheric Anthropogenic Nitrogen on the Open Ocean
p. 893-897.
Transformation of the Nitrogen Cycle: Recent Trends, Questions, and Potential Solutions
p. 889-892.

折り目から皺に(From Folds to Wrinkles)

流体や弾性体上の薄膜は色々な場面や色々なスケールにおいて生じ、加圧されれば平坦な形状から変形する。このとき、折り畳まれることもあるし、皺が寄ることもあるが、両者間の遷移については良く解ってなかった。Pocivavsek たち(p.912)は、弾性膜をもっと柔らかい固体や流体で支持し圧力をこの皺の周期の1/3の長さの曲率で膜を加圧すると折れ曲がる。(Ej,hE,nk)
Stress and Fold Localization in Thin Elastic Membranes
p. 912-916.

宇宙的な衝撃波(Cosmic Shock Waves)

銀河間空間は、磁場や宇宙線、乱流プラズマの切れ端などで満ちている。これらの磁場が宇宙進化の間でどのように生じてきたかは、まだ十分には理解されていない。Ryu たち (p.909) は、コンピュータシミュレーションを行って、衝撃波は大規模構造が形成される間に、乱流混合をもたらすような渦巻いた領域を生み出すことを示した。初期の宇宙における非常に小さな磁場が、この乱流によって増幅され、現在われわれが見ている場の大きさと構造となる可能性がある。これらの予測は、Square Kilometer Array のような新世代の電波望遠鏡を用いることで検証可能となるであろう。(Wt)
Turbulence and Magnetic Fields in the Large-Scale Structure of the Universe
p. 909-912.

溶けて混ざり合うマントル(Melting and Mixing the Mantle)

地球化学的観点から、ナトリウムやカリウムが豊富でカルシウムが比較的乏しい玄武岩の多くのタイプは、循環する海洋地殻を含んだ地球のマントルが起源であろうと考えられている。だが、Piletたち(p. 916; Niuによる展望記事参照)は、玄武岩の組成と時間のトレンド(trends with time)との両方で多くの同じ特徴が、以前に含水溶融体(hydrou smelt)或いは含水鉱物の岩脈を形成している液体(fluid)と相互作用した溶融マントルによってつくらることを実験的に示している。これらの含水相(hydrous phases)は初期の溶融体の組成を決定し、またマントル融解温度を緩衝する。(TO)
Metasomatized Lithosphere and the Origin of Alkaline Lavas
p. 916-919.
GEOCHEMISTRY: The Origin of Alkaline Lavas
p. 883-884.

同時に2箇所 (Two Places at Once)

水素より重い分子は、常に再配列される外殻-原子価電子よりももっと密に個々の核に保持されている内殻電子、或いは核電子を持っている。このような一つの核電子が高エネルギーの光子によって放出されるときに作られる空孔には、一体何が起きるのか?原子価電子が落ちてきて正孔を満たすまで、正孔は核のそばで局在化したままなのか、あるいは分子軸に沿って広がるのであろうか?Schoefflerたち(p. 920; Uedaによる展望記事参照)は、イオン画像を用いて窒素におけるこの疑問を探り、緩和後に放出されるオージェ電子の軌道に基づく正孔状態の対称性を得た。検出されるオージェ電子の角度に依存して、正孔の状態は、量子もつれ(量子エンタングルメント)の結果により局在化か非局在化のいずれかになる。(hk,KU,nk)
Ultrafast Probing of Core Hole Localization in N2
p. 920-923.
CHEMISTRY: To Be or Not to Be Localized
p. 884-885.

急いでマイクロウェーブ(Microwaves in a Hurry)

回転分光分析法は気相での分子構造を解析するのに広く利用されている。しかし、バンド幅の制限により、この分析法は安定な基底状態の幾何学的形状の解析に限定されている。Dian たち(p. 924; および、Melnik and Millerによる展望記事参照)は、フーリエ変換マイクロ波分光分析法を考案した。これは増幅チャープパルスを利用して11ギガヘルツを超えるスペクトル範囲のデータを取得する。その結果、振動励起された分子の回転力学特性が短時間に得られる。特に、彼らは,cyclopropane carboxaldehydeのそのアルデヒドのC-H伸縮振動の励起後、C-C単結合についての回転異性について調べ、そして回転スペクトル線の形状解析法から速度モードに特異的なスペクトル線の抽出により、統計理論から予測される速度の1/10以下のピコ秒の反応速度であることを明らかにした(Ej,hE,KU)
Measuring Picosecond Isomerization Kinetics via Broadband Microwave Spectroscopy
p. 924-928.
CHEMISTRY: The Changing Shapes of Molecules
p. 881-882.

似てはいるが同じではない(Similar But Not the Same)

熱帯地方における種の多様性のレベル--特に、隠れた種(cryptic species)という遺伝的には異なるが他は密接なる近縁種に似ている--は、明らかでない。新世界の熱帯地方を横断するキュウリファミリーの花や種で見出された形態学的に類似の幼虫の総てを収集し、分子マーカーを用いて識別することで、Condonたち(p.928,表紙参照)は、これらの植物から予想される昆虫の多様性を遥かに越える種の多様性を実証している。この昆虫たちは単一の植物種だけではなく、その植物種内での雌花や雄花といったその植物の一部分にも特異的となっている。(KU)
Hidden Neotropical Diversity: Greater Than the Sum of Its Parts
p. 928-931.

ピンセットを用いてひとすすり(Sipping with Tweezers)

ピペット中の水の表面は中央部より端部で高くなるが、これは水同士に比べてガラスに対する水分子の相対的な親和力が強いからである。Prakashたち(p.931,Dennyによる展望記事参照)は、表面張力と嘴の開閉によりイソシギが液滴を口の中へと上昇させて移動させる方法を実証している。イソサギの嘴のピンセット形状に似た上下の下顎骨の間に留まっている液滴は、下顎骨の上下が密に接近するとピンセットの支えの末端へと移動する--ピンセットが開くと僅かに後ろにずれるが、正味の動きは未だ前方向である。何回かの嘴の開閉により、シギトリは液滴中に含まれる小さな無脊椎動物と共に経口摂取する。(KU)
Surface Tension Transport of Prey by Feeding Shorebirds: The Capillary Ratchet
p. 931-934.
BIOPHYSICS: The Intrigue of the Interface
p. 886.

外来のDNAを黙らせておく(Keeping Foreign DNA Silent)

細菌のゲノムは高密度で詰め込まれているので、オペロンの転写が正確に終結することが、下流の遺伝子の(誤った)転写を防ぐために重要である。多くの大腸菌遺伝子の制御では、3つの因子、Rho、NusAとNusGが利用されていて、それらは正確な転写の終結を一緒に促進するものである。Cardinaleたちはこのたび、この終結が、クリプティック(cryptic:潜在性)プロファージ由来の有害遺伝子の発現抑制にも必要とされることを示している(p. 935)。そうしたプロファージおよびそれ以外の系統的にユニークな遺伝子を欠いた大腸菌派生系統MDS42は、Rho阻害剤に対して高い抵抗性があり、必須のnusAおよびnusG遺伝子を必要としない。つまり、Rhoは、下流オペロンまで読み進んでしまうことを防ぐよう、また翻訳の必要性と転写の量が見合うよう、さらに外来性のDNAの発現を抑制するよう、グローバルに作用していているのである。(KF)
Termination Factor Rho and Its Cofactors NusA and NusG Silence Foreign DNA in E. coli
p. 935-938.

不完全な予測を改善する(Improving Imperfect Predictions)

ゲノムはさまざまのタンパク質をコードしているが、ゲノムをプロテオームへと翻訳する際に利用できる調節選択には、多様なものがある。Baerenfallerたちは、シロイヌナズナのプロテオームを解析し、それを既知のゲノムと比較した(p. 938、4月24日オンライン出版)。予期したとおり、タンパク質は、ゲノムから予想された遺伝子の多くから同定された。しかしながら、いくつかのタンパク質は、予想されていなかった遺伝子、たとえばイントロンないし偽遺伝子と考えられた配列、の存在に光を当てることになった。別の器官や別の発生段階をさらに解析することで、ゲノムは定常性を保っているが、プロテオームは発生の進行につれてシフトしていくことが確認されたのである。(KF)
Genome-Scale Proteomics Reveals Arabidopsis thaliana Gene Models and Proteome Dynamics
p. 938-941.

塩分ストレスに対する植物の反応(Plant Responses to Salt Stress)

農耕が、土地の周縁地域(海岸沿い)まで拡大したり、灌漑に頼るようになると、塩が有害なレベルになる場合がある。シロイヌナズナの根端を用いて、Dinnenyたちは、組織内の異なった細胞が塩分による生理的ストレスにどう応答しているか検討した(p. 942,4月24日オンライン出版; またVoesenekとPierikによる展望記事参照)。細胞の異なった層は、それが根の表面にあるか、より内部にあるかで、多すぎる塩分による環境ストレスに対して違った応答をする。さらに、ストレスを受けた細胞はその隣にある細胞に対して影響を与えることもあり、ストレスが継続しているうちに、遺伝子発現パターンが変化したのである。(KF)
Cell Identity Mediates the Response of Arabidopsis Roots to Abiotic Stress
p. 942-945.
PLANT SCIENCE: Plant Stress Profiles
p. 880-881.

カドヘリンと道しるべニューロン(Cadherins and Guidepost Neurons)

細胞表面のカドヘリン分子をコードするCelsr3遺伝子は、発生中の脳のニューロンにおいて、それらニューロン同士の結合を精妙にしていくにあたって遊走した後で、広く発現している。Zhouたちは、発生中のマウス脳のさまざまな特異的領域におけるCelsr3遺伝子の発現を妨害してみた(p. 946)。Celsr3の発現は、発生中の軸索が行き先を見つけるのに利用する旗の役目をするガイドポスト(道しるべ)ニューロンの機能にとって決定的であった。とりわけ、視床と皮質を結び付ける軸索路は、その発生の際にCelsr3の相互作用に依存しているのである。(KF)
Early Forebrain Wiring: Genetic Dissection Using Conditional Celsr3 Mutant Mice
p. 946-949.

電荷が分数となる(Charge Learns Its fractions)

電流は、通常では電荷e*の単位で量子化されると考えられている。しかしながら、二次元の電子ガス( 2DEG)が大きな磁場に置かれ、そして電流が2DEGの端部近傍で伝導チャネル中に輸送される時に生じる分数量子ホール効果において、その電流のキャリアは分数の電荷単位を有する。この電荷の分数化は電子-電子の相互作用に由来する。フォーミュラ占有状態(ν=5/2)と呼ばれる特殊な条件下で、その電荷はe/4であると予想されている。この特殊なフォーミュラ状態は関心の高いものであり、最近の理論から、この状態が他のエキゾチックな性質と同様に、量子計算に適したロバストな量子状態であることが予想されている。Rauたち(p.899,2007年4月17日のオンライン出版)は、この状態の反対方向へ伝播する導電チャネル間のトンネル効果の測定を行い、e/4の単位での電荷の分数を確認する強い証拠を提供している。(KU)
Fractional Quantum Hall State
p. 899-902.

時計のタイミングを伝達する(Signaling Clock Timing)

転写フィードバックループは、哺乳類やその他の生物の概日時計の(仕組みの)中心であるが、それ以外のシグナル伝達機構もまた、その時計の基礎的機能にとって重要な役割を果たしているということを示唆する証拠が現れつつある。O'Neillたちは、アデノシン3',5'一リン酸(cAMP)を介してのサイトゾルのシグナル伝達が、転写タイミング機構に統合されて、それを維持し、哺乳類の概日性ペースメーカーの基本的な特性(振幅や相、期間)を決定していることを示している(p. 949; またHarrisinghとNitabachによる展望記事参照)。これは、転写フィードバックループによる細胞の日周振動の制御の概念図式を拡張し、哺乳類ではcAMP、哺乳類および昆虫ではCa2+、植物では環状ADPリボース、というように種間で異なる小分子細胞質のシグナルをその図式に含めるものである。(KF)
cAMP-Dependent Signaling as a Core Component of the Mammalian Circadian Pacemaker
p. 949-953.
CIRCADIAN RHYTHMS: Integrating Circadian Timekeeping with Cellular Physiology
p. 879-880.

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