AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 30, 2008, Vol.320


ワムシの遺伝子あさり(Rotifer Gene Scavenging)

Class Bdelloideaに属するワムシ(Rotifer)は、小さな淡水の無脊椎動物であり、一生のどの段階においても乾燥に対するその異常な耐性と、何百万年間も、明らかに有性生殖なしで進化を遂げてきた異常な能力で知られている。Gladyshev たち(p. 1210)は、Bdelloideaが、細菌、菌類、あるいは、植物などから、多様な外来性遺伝子を自らのゲノムに取り込んできたことを明らかにした。これらの外来性遺伝子は染色体の端部のテロメア領域に主として蓄積され、明らかに機能的には完全性を保持している。このような水平的に持ち込まれた遺伝子が遺伝子として取り込まれる能力は、Bdelloid のように有性生殖による遺伝子の変動源を持たない遺伝子の形成にとって重要であったらしい。(Ej,hE)
Massive Horizontal Gene Transfer in Bdelloid Rotifers
p. 1210-1213.

名詞を認識するソフトウエア(Noun Recognition Software)

脳の中で知識がどのように表現されているかを発見することは、たとえセロリと言うような単純な名詞が、色々な領域、例えば食べるとか味覚のような領域のニューロンを活性化することが期待されるとしても、極めて解明が困難な課題である。Mitchell たち(p. 1191)は、名詞が25次元のベクトルで表現され、各次元は、食べるとかの感覚性運動特性を表す理論に基づくコンピュータモデルについて述べている。このベクトルは、1012個の単語数のデータ集合中の共起単語数から計算される。そして、このモデルは60個の画像(例えばセロリ)で表せる対象と一緒にニューロン活性データを利用して学習される。以前、ある1つの主題のデータについて学習したモデルは、別の対象についてのニューロン活性パターンで表現される名詞を同定することが出来た。現在のモデルでは、学習集合に含まれてない名詞を同定し、新しい名詞の画像を見せられたとき、活性パターンを予想することができた。(Ej,hE)
Predicting Human Brain Activity Associated with the Meanings of Nouns
p. 1191-1195.

的外れの善意(Misguided Good Intentions?)

1991年噴火のピナツボ火山のように、大規模な火山噴火によって大量の硫酸塩のエアロゾルが大気中に放出され、顕著な気候の寒冷化をもたらす。この観測から、人工的に成層圏にイオウを注入すると、CO2や他の人工的な温暖化ガスの影響を相殺する可能性がある。この戦略はもちろん可能であろうが、その結果、どんな予測できない事態が生じるのか? Tilmes たち(p. 1201, および、4月24日号のオンライン出版;Robockによる展望記事参照)は、この潜在的な結論を探索した。高緯度地方で成層圏のオゾンが破壊されるのだ。成層圏にイオウを注入すると、北極地方のオゾンを劇的に減少させ、南極のオゾンの回復を30年から70年、遅らすことになるだろう。(Ej,hE)
The Sensitivity of Polar Ozone Depletion to Proposed Geoengineering Schemes
p. 1201-1204.
ATMOSPHERIC SCIENCE: Whither Geoengineering?
p. 1166-1167.

翻訳抑制を制御するマイクロRNA(Micro Managing Translational Repression)

マイクロRNA(miRNA)は低分子の非翻訳RNAで、一般に遺伝子発現を抑制している。miRNAとそのRNAターゲット間の相補性の程度が抑制モードを決定していると考えられている。植物において、最も良く解析されたmiRNAはそのターゲットと高度に相補性であり、ターゲットの切断(スライシング)をもたらすが、動物におけるmiRNAは相補性が減少し、代わりにメッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳を下方制御する。Brodersenたち(p.1185, 5月15日のオンライン出版)はシロイヌナズナを用いて、miRNA-介在の遺伝子制御に関与する因子のスクリーンを行い、そして切断の指令に加えて、高度に相補性のmiRNAが翻訳をも抑制していることを見出した。更に、低分子干渉RNA--このRNAはそのmRNAターゲットと正確に相補性であり、かつ通常はスライシングにより遺伝子発現を抑制すると考えられている--が、翻訳抑制成分をも持っていることを見出した。(KU)
Widespread Translational Inhibition by Plant miRNAs and siRNAs
p. 1185-1190.

星灯かり、星明かり(Star Light, Star Bright)

天空において最も明るい電波源であるカシオペアAは、約300年前に起こった超新星爆発の残骸である。超新星出現を記録した観測が欠けているため、それがどのような種類の超新星であるかについては、ほとんど情報が得られていない。Krause たち (p.1195; Fabian による展望記事を参照のこと) は、Spitzer宇宙望遠鏡により捉えられた光学エコー、つまり超新星の爆発光が周囲の星間ガスに当たり、超新星からの直接の光が地球を通過してから3世紀遅れてやっと現在地球にたどり着いた反射光、を観測したことを報告している。このエコーのスペクトル的な特徴は、Cassiopea A が赤色超巨星の崩壊の結果であることを示唆している。(Wt,nk)
The Cassiopeia A Supernova Was of Type IIb
p. 1195-1197.
ASTRONOMY: A Blast from the Past
p. 1167-1168.

火星岩の調査(Probing Martian Rocks)

火星探査車&探査衛星により、火星にある多くの最古の岩石は、おそらく水の蒸発により形成された種々の硫酸塩と他の鉱物を含んでいることが明らかにされた。Toscaたち(p. 1204) は熱力学的モデルから、蒸発の結果、濃縮されていく水の特性を計算し、そして観察された一連の鉱物を説明している。観察あるいは推定される鉱物と平衡状態にある水は、地球の既存のいかなる流体よりも極端に濃い塩水であり,またpHが低かったに違いない。これらの条件は地球の生物が生きる既知の限界を超えており、そして多くの河川が玄武岩地殻との平衡条件から生じたものと仮定すると、火星の水は生物が住むのに適さない荒涼とした状態で進化したのかもしれない。(hk,KU,tk,nk)
Water Activity and the Challenge for Life on Early Mars
p. 1204-1207.

サイトゾルの鉄シャペロン(Cytosolic Iron Chaperone)

鉄は殆んど総ての生物にとって必須の栄養素であるが、これは広範囲の必須の代謝過程を制御している鉄-依存性酵素の活性に鉄が必要とされるからである。還元された鉄は非常にレドックス活性があり、そして細胞内で損傷性の活性酸素種の形成を触媒している。この理由から、細胞はかなり低レベルでの「フリー」なサイトゾル鉄を保持していると考えられている。にもかかわらず、細胞内の鉄は利用と貯蔵の部位へ運ばれなければならず、そしてこの輸送は鉄シャペロンによって行われていると考えられており、このシャペロンは鉄に結合して酵素や輸送体といった他のターゲットタンパク質に鉄を運ぶものと予想されている。Shiたち(p.1207)は、ヒト細胞におけるサイトゾルの鉄シャペロン、Poly r(C)-Binding Protein 1(PCBP1)の発見を報告しており、このタンパク質が鉄をフェリチン(動物や植物中に見出された主要な鉄貯蔵タンパク質)へ輸送している。(KU)
A Cytosolic Iron Chaperone That Delivers Iron to Ferritin
p. 1207-1210.

数を数える(Counting Counts)

人間にとって数や空間の概念は認知構造に深く組み込まれるほど重要なものである。一般的に、小学校前の子供は小さい数が左に大きい数が右にならぶ数直線を想像しながら数をマッピングしていく。このマッピングにおいては、線形ではなく対数スケールが用いられている。対数スケールとは、1と100のちょうど真ん中に10を配置するスケールである。学校に入学し、定規のような具現化されたものにふれるにつれて、スケールは線形のものに変わっていく。体系的な数システムを持たないアマゾン原住民Mundurucuを研究し、Dehaeneたち(p1217)は、原住民たちが幼少期に築いた対数表示を成人になっても用いているという証拠をえた。このように対数から線形への変化は、23,24のように増分単位によって区切られる整数の存在や加減法のような線形数学教育といった文化的要因に拠るところが大きい。(NK)
Log or Linear? Distinct Intuitions of the Number Scale in Western and Amazonian Indigene Cultures
p. 1217-1220.

素敵な泡立ち(Lovely Bubbly)

トラップされた気泡は、食べ物や化粧品の味や匂い、及び触感に影響するが、しかしながら気泡を長期にわたって液体中に安定に維持することは厄介な課題である。気泡のサイズがマイクロメートルぐらいになると、より小さな気泡が集まって急激に膨張する。Dressaireたち(p.1198)は、モノエステルとジエステルの界面活性剤の混合物を用いることで、一年以上も気泡を安定化することができることを示している。界面活性剤は気泡の表面で六角形のパターンの自己組織化し、このパッキングにより長期的な安定化がもたらされる。(KU)
Interfacial Polygonal Nanopatterning of Stable Microbubbles
p. 1198-1201.

適切なときに適切な場所に(Right Time, Right Place)

調節性T細胞というのは、自己免疫や過剰な免疫応答から身体が回避するのを助けている高度に免疫抑制性のあるリンパ球である。しかしながら、その存在はまた、免疫系にとってジレンマでもある。というのも、それらが病原体に対して特異的な、有益な免疫応答を不注意にも停止させてしまう可能性もあるからである。Lundたちは、調節性T細胞が感染の初期段階において、実際に免疫応答を最適化しているということを示唆する証拠を提示している(p.1220、4月24日オンライン出版; また、KassiotisとO'Garraによる展望記事参照のこと)。単純ヘルペスウイルス感染症のマウスモデルを用いて、調節性T細胞を枯渇させると、感染部位に免疫細胞の到着が遅くなった。同時に、炎症性ケモカインがリンパ節内で増えることとなった。つまり、正常な環境下では、調節性T細胞は、免疫細胞が感染部位にタイムリーに到着するよう差し向けるために、リンパ節におけるそうした可溶性因子の発現を最小にしている可能性がある。(KF)
Coordination of Early Protective Immunity to Viral Infection by Regulatory T Cells
p. 1220-1224.
IMMUNOLOGY: Immunity Benefits from a Little Suppression
p. 1168-1169.

転写制御因子の二重生活が明らかに(Transcription Factor's Double Life Exposed)

転写制御因子MeCP2(メチル-CpG結合タンパク質2)における変異は、自閉症、軽度な学習障害、精神遅滞など幅広い神経行動学的異常の原因となる。MeCP2は、脳内の少数の標的遺伝子の発現を抑制することにより制御していると広く信じられてきた。MeCP2を欠いた、あるいは過剰発現するマウスモデルに対してマイクロアレイ技術を適用することによって、Chahrourたちはこのたび、この転写制御因子が視床下部だけで2000にも及ぶ遺伝子を制御していること、またMeCP2が実際にそれら遺伝子のおよそ85%の発現を活性化しているらしいことを発見した(p. 1224; またCohenたちによる展望記事参照のこと)。MeCP2がそんなに多くの遺伝子を制御しているという発見は、MeCP2関連障害の治療方針として個々の遺伝子標的の機能の修正よりも、神経機能の回復に焦点を当てるべきである、ということを示唆するものである。(KF)
MeCP2, a Key Contributor to Neurological Disease, Activates and Represses Transcription
p. 1224-1229.
MEDICINE: Activating a Repressor
p. 1172-1173.

自分に似た他人(People Like Us)

我々は常に、他人が私たちを見るのとはまったく違ったように自分自身を見ている。Proninは、こうした知覚の非対称の理由についてのレビューを行っている(p.1177)。知覚の非対称は、自分についての情報について自分自身と外からの観察者とで得る情報のタイプが違うこと(自身の内省による感情や意図の気づきと、観察された行動から導かれる推測の対立)と、それら情報のタイプが我々自身の行動と他者の行動についての判断に際して、どのように優先順序付けられ用いられているか、ということから生じている。こうした内因性の不適合をよくよく認識することこそ、我々自身および他者についての理解の強化をもたらす可能性がある。(KF,nk)
How We See Ourselves and How We See Others
p. 1177-1180.

火星の氷の帽子を探査する(Probing the Martian Ice Cap)

火星の北極には、氷と塵からなる大きな極冠(polar cap)があり、これは過去5百万年にわたって、古い堆積物を覆って蓄積されてきたと考えられている。Phillipsたちはこのたび、マース・ルコネッサンス探査衛星からのレーダーによるマッピングを用い、氷冠(ice cap)内にある小さな層を解像することによって、その歴史を推定できるようになった(p.1182、5月15日オンライン出版;また表紙とGrottによる展望記事参照のこと)。その氷冠の深い部分には一連の4つの間隔があり、それぞれは、氷の層に含まれている塵によっておそらく生み出された反射の違いによる微細な層を複数含んでいる。これら4つのパケットは、より透明な氷によって分かたれているが、これは火星軌道の変動に関連している可能性がある。氷冠の重量はその底にある堆積物を変形させてはいないが、これは強い地殻層の深さを制約する知見であり、火星において地熱勾配に影響する熱を生み出す元素の存在量の存在量がコンドライト隕石におけるのと同等であるということを意味している。(KF,nk)
Mars North Polar Deposits: Stratigraphy, Age, and Geodynamical Response
p. 1182-1185.
PLANETARY SCIENCE: Is Mars Geodynamically Dead?
p. 1171-1172.

一夫一婦婚から真社会性が生じる(From Monogamy to Eusociality)

多様な昆虫によって実証された真社会性(eusociality)とは、種の中のほんの一部の個体だけが生殖という点で活動的であるということを意味している。血縁である率が高いということは、真社会性の結果か、或いは原因のいずれかであろうで。267種ものミツバチ、スズメバチ、アリを比較分析することによって、Hughesたちは、真社会性のそれぞれ独立した起源が、厳密な一夫一婦婚と関連していることを示している(p. 1213)。この交配システムが血縁性を最大化するので、これによって、先祖伝来の真社会性の種は、一妻多夫よりはむしろ一夫一婦であり、生態学的なドライバーというより、血縁選択こそが真社会性の進化の背後にある力であった可能性を示唆している。(KF)
Ancestral Monogamy Shows Kin Selection Is Key to the Evolution of Eusociality
p. 1213-1216.

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