AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 29, 2007, Vol.316


古代の造礁生物(Early Reef Builders)

生細胞が無機質の構造体を分泌する多様な方法が、分子的な、化学的な、かつ物理的な解析の統合によって解明されつつある。中生代以降生き延びた造礁生物、coralline demosponge Astrosclera willeyanaを用いて、Jacksonたち(p.1893,5月31日のオンライン出版;Taylorたちによる展望記事参照)は生物学的な石灰質形成機構の進化を研究した。彼らは、生物学的な石灰質形成に関与するα-炭酸脱水酵素(α-CA)を単離し、かつ他の既知のα-CAの姉妹グループであるこのタンパク質のサブクラスを同定した。最後の共通の後生動物の先祖はこの遺伝子の単一のコピーを持っていた可能性があり、これが次に海面動物や他の動物において複製され、今日のような多様な生理学プロセスの遺伝的な基礎を与えている。(KU)
Sponge Paleogenomics Reveals an Ancient Role for Carbonic Anhydrase in Skeletogenesis
p. 1893-1895.
GENETICS: Evolutionary Insights from Sponges
p. 1854-1855.

地球コアの構造(Core Structure)

地球コアの高圧と高温は鉄-ニッケル物質の構造を変化させ、地震観測によって検知できるその物理的特性に作用する。Dubrovinskyたち(p.1880)はX線回折を使い、内部的に加熱されるダイヤモンドアンビルセル(diamond anvil cell) 内で高温高圧下におかれた鉄90%-ニッケル10%合金の転移を観察した。その結果、225ギガパスカル以上で、かつ3400ケルビン以上では、面心立方格子を持つ最密充填構造(closepacked structure) よりもむしろ単純格子の中央に格子点がある体心立方構造(bodycentered cubic structure)をとることを示している。このような変化は、異なった構造を持っている領域間での軽元素の分配と同様に、コアの密度や流動性(rheology)に影響する。(TO,tk)
Body-Centered Cubic Iron-Nickel Alloy in Earth's Core
p. 1880-1883.

銀河系が衝突するとき(When Galaxies Collide)

巨大な銀河は多くのより小さな銀河の衝突により成長する(Coppi による展望記事を参照のこと)。二つの銀河が衝突すると、それらの中心にある巨大な大質量ブラックホールは、ついには、遭遇し、連星系として相互にそのまわりを回転する。なんらかの制動力がなければ、それらのブラックホールは、少なくとも数十億年の間、互いのまわりを回り続けるであろう。しかしながら、巨大な銀河のコアにあるブラックホールはただ一つであり、それゆえ、他のなんらかの天文学的なプロセスが一対のブラックホールのより速い合体を助けているに違いない。Mayer たち(p.1874, 6月7日のオンライン出版) は、流体力学シミュレーションを行った。それによると、合体する銀河内部のガスがブラックホールを減速させ、そのため、そのブラックホールは、ほんの100万年以内に一つに束縛される可能性があることを示している。二つの比較的小さな渦状腕の合併から最近形成された豊富なガスを有する銀河の、内部のブラックホールの連星系の崩壊をシミュレートするにあたり、著者たちは、ブラックホール合体前でお互いの距離が数光年以内になるまでのブラックホールを追跡した。Max たち (p.1877, 5月17日にオンラインで出版) は、NGC 6240 と呼ばれる既に衝突した一対の渦状銀河の超高解像度の赤外像を撮影した。その NGC 6240 の星と包み込んでいるガスは互いの周りに存在している。彼らは、ハワイにある Keck 望遠鏡に補償光学技術を活用して、もとの銀河の中心にかつては点在していた二つのブラックホールの位置を正確に示した。ブラックホールの周りには、円錐状のガスと新しい星が見られる。それらは、お互いの銀河に向けてブラックホールが渦を巻きながら内側に向かうとき、ブラックホールの伴流の中で形成された可能性がある。この距離は、両者のガスが混合するときに、ガスをかき回すことによる力学的な摩擦の効果を示している。(Wt)
ASTRONOMY: Inside a Cosmic Train Wreck
p. 1852-1854.
Rapid Formation of Supermassive Black Hole Binaries in Galaxy Mergers with Gas
p. 1874-1877.
Locating the Two Black Holes in NGC 6240
p. 1877-1880.

表面での選択的な脱水素(Selective Dehydrogenation at Surfaces)

走査トンネル顕微鏡の探針からの電圧パルスを用いて、導電性の表面に吸着された化合物の化学反応が行われた。Katanoたち(p.1883)は、4.7ケルビンの低温下でPt(111)面に吸着されたメチルーアミノカルビン(CNHCH3)の選択的な脱水素化と再水素化という可逆的なサイクル反応に関して報告している。3ボルト前後の電圧パルスにより、水素原子が除去されてメチルイソシアナイドが形成されたが、隣接するメチル基のC-H結合には影響を与えなかった。室温下で水素に曝すと、再びCNHCH3が生成した。より高い電圧パルスでは不可逆的な結合切断が生じた。(KU)
Reversible Control of Hydrogenation of a Single Molecule
p. 1883-1886.

大昔の農耕の移り変わり( Ancient Farm Transitions)

新世界における初期の農業発達には、アンデス山脈の高地に定着した初期の農作を含めなければならないが、その記録は乏しい。Dillehayたち(p.1890;Balterによるニュース記事参照)はペルー中央部の数多くの農作地に基づき、1万年前に始まったこの地域における複数の作物の集約的農業の変化について記述している。新しく得た放射性炭素年代のデータは、カボチャの栽培は1万年前頃に始まり、約8500年前にピーナッツが続き、そして6000年前に綿花が栽培されたことを示している。(TO)
Preceramic Adoption of Peanut, Squash, and Cotton in Northern Peru
p. 1890-1893.
PLANT SCIENCE: Seeking Agriculture's Ancient Roots
p. 1830-1835.

栽培の過去と現在(Domestication Past and Present)

小麦のもともとの野生の原種は耕作が難しく、食するにも厄介なものであったろう。しかしながら、10,000年ほど前に作物としての小麦の栽培により、穀粒の大きさや脱穀性および穂への保持性において有益な変化を獲得した。DubcovskyとDvorak(p.1862)は分子遺伝学やゲノム科学における最近の洞察をレビューし、遺伝子変異やゲノムの倍数性がどのようにして今日耕作されている多様な小麦に関する満足のいくような栽培への道を切り開いたかを説明している。Kareivaたち(p.1866)は、地球規模での生態系に対する人為的な影響をレビューし、人間が世界を順化する過程にあると示唆している。結局のところ、人間による環境変更は、歴史的には正味の恩恵をもたらしてきたが、しかしながら有害なる影響がこの恩恵を覆すような時点が、既に到来している可能性がある。(KU)
Genome Plasticity a Key Factor in the Success of Polyploid Wheat Under Domestication
p. 1862-1866.
Domesticated Nature: Shaping Landscapes and Ecosystems for Human Welfare
p. 1866-1869.

体内時計遺伝子の変動(Timeless Changes)

昆虫において発生活動上の休止である休眠は、冬季に起きることが多く、これは温度と光の条件によって誘発される。この現象は、ショウジョウバエDrosophilaのヨーロッパでの分布によっても大きく異なる、( BradshawとBradshaw による展望記事参照 )。ショウジョウバエにおいて概日リズム遺伝子のtimelessは休眠に影響を及ぼす。Tauberたち(p.1895)は、このタンパク質の2つの形態のうち1方だけを作るtimelessの変異を同定した。コード領域の変異体は、昆虫が休眠状態に入るときの時間に影響を及ぼすが、この変異体は原種と思われている地域では高頻度で見られ、この場所から緯度に沿って離れるに従って、方向によらず、緯度線に依存した頻度減少がヨーロッパ全般に見られることから、環境による選択が推測される。Sandrelli たち(p. 1898)は、この変異体はより安定なタンパク質同士のTIMELESSタンパク質と、その相手の相互作用の結果であることを示した。このことから、異なる遺伝子型をもつ個体間での休眠のタイミングの選択性を説明できるかもしれない。(Ej,hE)
EVOLUTION: Tantalizing timeless
p. 1851-1852.
Natural Selection Favors a Newly Derived timeless Allele in Drosophila melanogaster
p. 1895-1898.
A Molecular Basis for Natural Selection at the timeless Locus in Drosophila melanogaster
p. 1898-1900.

資産の貯え(Pooling Assets)

個々人の間での集団的な努力には、往々にしてリスクが伴う。ずるがしこい人たち(協力しないが見返りだけは得ようとする人たち)が、協力者(コストをかけて協力する人たち)よりうまく立ち回ることもあるのだが、第3のタイプの関係者である懲らしめ役の人たちが、ずるがしこい人たちに対して働きかけることで、個々人からなる協同的グループは安定するようになるわけである。Hauertたちはこのたび、そうした懲らしめ役の人たちの出現を説明する理論的基礎を提示している(p. 1905; またBoydとMathewによる展望記事参照のこと)。懲らしめ役は、協力者しかいないと背負うことができなくなり、とどのつまり被害を蒙ることになってしまうと予期されるコストを、引き受けているのである。第4のタイプの個人である棄権する人の存在を許すと、懲らしめ役がさらに大勢出てくる人口動態が導かれる。約めて言えば、社会的規範を自ら進んで受け入れることが、社会をよくするための行為になるのである。(KF,Ej)
Via Freedom to Coercion: The Emergence of Costly Punishment
p. 1905-1907.
BEHAVIOR: A Narrow Road to Cooperation
p. 1858-1859.

細胞質分裂からウイルスの発芽へとESCRTされる(ESCRTed from Cytokinesis to Viral Budding)

中央体器官脱離(midbody abscission)は、細胞分裂の間に物理的に娘細胞を分離する。レトロウイルスの発芽には、エンドサイトーシスあるいはエキソサイトーシス(開口分泌)のようなプロセスに関わる融合イベントと形態的には同一だが実際は異なる、ある膜分裂イベントが必要である。CarltonとMartin-Serranoは、レトロウイルスの発芽と器官脱離との間にある機能のアナロジーを確立しており、それによるとウイルスの発芽に関与することが知られている、いわゆるESCRT機構(輸送に必要なエンドソームのソーティング複合体)の2つのタンパク質の破壊に関して観察される細胞質分裂の欠損を解釈することが鍵となる(p. 1908、6月7日オンライン出版)。つまり、ESCRT機構は中央体に補充され、そこで、細胞分裂の完了に必要とされる膜分裂イベントを促進している可能性がある。(KF)
Parallels Between Cytokinesis and Retroviral Budding: A Role for the ESCRT Machinery
p. 1908-1912.

正確な切除(Precision Excision)

細胞に感染した後、ヒト免疫不全ウイルスは宿主のDNA中にプロウイルスとして組み込まれる。治療方法の中には、このステップを防ぐ狙いをもっていたものも幾つかあるが、ほとんどは、ウイルスによる細胞侵入を防ぐことに焦点を合わせてきた。Sarkarたちは、レトロウイルスの標的配列を認識し、組み込まれたヒト免疫不全ウイルスのプロウイルスを感染細胞のゲノムから効率的に切除する特異的なリコンビナーゼタンパク質の、実験室での進展について記述している(p. 1912; またEngelmanによる展望記事参照のこと)。そうしたアプローチをHIV治療に実際に適用するにはまだまだ長い道のりが必要だが、この研究は、組み込まれたウイルスをゲノム全体の規模で切除することは可能だとする原理の証拠を提示するものであり、他の応用においても役に立つ可能性がある。(KF)
HIV-1 Proviral DNA Excision Using an Evolved Recombinase
p. 1912-1915.
AIDS/HIV: A Reversal of Fortune in HIV-1 Integration
p. 1855-1857.

外来電子の秩序の元を探す(Probing Exotic Electronic Order)

ほとんどの金属系においては、電子はエネルギーレベルが低い通常状態では電子同士の相互作用は弱く、フェルミ液体として扱うことができる。しかし、低次元の物質のような外来性の電子秩序を有する多くの物質においては、電子は非フェルミ液体的な振る舞いを示し、伝導率のような物性はフェルミ液体とは異なる温度依存性を示す。3次元非フェルミ液体系では、その非フェルミ液体的振る舞いは臨界点付近で現れると想像されていた。この量子臨界点は、温度ゼロの極限や、圧力のような調整パラメータにおける二次相転移点である。Pfleiderer たち(p. 1871) は、3次元非フェルミ液体系の1つであるMnSiを中性子Larmor回折によって、量子臨界点の性質を調べた。その結果、以前の見込みと異なり、14.6キロバール以上の圧力においては、非フェルミ液体的性質は量子臨界点に近かったために生じたわけではなく、一次転移を起こす新しい金属相の性質によるものである。(Ej,hE,KU)
Non-Fermi Liquid Metal Without Quantum Criticality
p. 1871-1874.

弱いフィードバック、強い応答 (Weak Feedback, Strong Response)

単純なリズム性の発信器が非線形結合を通して相互作用すると、複雑なパターンと信号が発生する。エレメント間のフィードバックにより、お互いのエレメント間の位相整合の程度が変化する。心拍用ペースメーカあるいは病理学的信号を乱す脳刺激用のアンチペースメーカのようなシステムを制御するために、理想的には、適用されるフィードバック信号が狙いの応答を調整できると共に、メインのシステムダイナミクスを乱さない程度の弱いレベルになっていなければならない。Kissたち(p. 1886、5月24日にオンラインで出版、KathとOttinoによる展望記事参照)は位相モデルを用いて、それらの応答を結合する遅延非線形フィードバックを使うことで簡単な電気化学的発信器から複雑なダイナミクスを作り上げた。この電気化学的発信器は“硫酸中にニッケル電極を溶解したもの”で、数秒毎に周期的に電位を変化させることができる。1グループ4個の発信器に関して、彼らはそのシステムがゆっくり不安定状態間を遷移する予め決められたパターンを生成させることができ、また全部で64個の発信器に関して、彼らはその周期的変動を非同期化し、高次のクラスター形成をすることができた。(hk,KU)
Engineering Complex Dynamical Structures: Sequential Patterns and Desynchronization
p. 1886-1889.
CHEMISTRY: Rhythm Engineering
p. 1857-1858.

ハエの意思決定(Decision-Making in the Fly)

つつましいショウジョウバエにも意思決定しなけらばならないことがあって、その過程では、きのこ体として知られる未発達の脳のような器官を用いている。Zhangたちは、ショウジョウバエが競合する視覚的手がかりに直面した際に行なう選択について研究した(p. 1901)。意思決定は2つのプロセスに基づいていて、1つは線形の、もう1つは非線形のプロセスである。線形な意思決定から非線形なものへの切り替えには、きのこ体におけるドーパミン機能が関わっている。ドーパミン-きのこ体回路の統合がないと、ハエは対立する手がかり(色対位置)の特徴の引き算に基づいた単純な知覚的決定は行なえても、いくつかの重要な点における対立を増幅する能力を失った。(KF)
Dopamine-Mushroom Body Circuit Regulates Saliency-Based Decision-Making in Drosophila
p. 1901-1904.

同期する酵母(Yeast In Sync)

実験室環境では、酵母は普通グルコースがたくさん存在する環境で成長させられていて、実験室の酵母はそうした条件に適応している。もし、野生酵母の典型的な系統が栄養のより少ない条件下で育てられたら、それらは呼吸代謝と解糖代謝を交互に行う同期的周期を示すだろう。そこでの細胞分裂は、解糖相(還元的な相)に限定されて現れる。Chenたちは、これが、変異の原因となりうる酸化環境での複製が生じるのを防ぐために起きていると仮説を立てている(p. 1916)。いくつかある細胞周期変異の1つを導入したり、HOで処置したりすることによって、細胞が代謝サイクルの酸化相にある間に分裂を強制されると、DNA変異のレベルが増大することが実際に観察された。さらに加えて、他の菌類において細胞と慨日性周期を結びつけているDNAチェックポイント・キナーゼに変異があると、細胞の同調性が破壊されることになり、これは代謝と慨日性周期の間にある類似性を示唆するものである。(KF)
Restriction of DNA Replication to the Reductive Phase of the Metabolic Cycle Protects Genome Integrity
p. 1916-1919.

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