AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 6, 2007, Vol.317


小さな棒、巨大な揺らぎ(Small Rods, Giant Fluctuation)

自然界においては、例えば鳥の群れで一羽がきっかけとなって群れ全体の動きが変わるように、局所的な動きや相互作用がきっかけとなって大規模な整列が生じることがある。遥かに小さな規模でも、溶液中での長い棒状分子がネマティック液晶相を形成し、そこでは棒の配列は等方的ではなく、お互いに平行に配列している。Narayanたち(p. 105, Van Heckeによる展望記事参照)は、銅の棒(長さ5mm程度、直径0.8mmで、かつ両端がエッチングにより薄くなっている)を研究し、これらを2次元に閉じ込め、攪拌すると液体のような挙動をする。その整列の動きはネマティック液晶に類似した挙動をするが、その系が平衡から外れているにもかかわらず生じた--整列(寄せ集まったり群がったりする動き)の変化によって起こる密度の揺らぎは粒子の数Nと共に増加しており、密度揺らぎがN1/2と共に増加する平衡状態とは異なっている。自然界において、このような持続性の揺らぎは「巨大」なものである--局所的な密度が系全体の密度に反映しない。(KU,nk)
Long-Lived Giant Number Fluctuations in a Swarming Granular Nematic
p. 105-108.
MATERIALS SCIENCE: Shape Matters
p. 49-50.

ワイヤレス送電(Wireless Power Transfer)

もつれというと量子もつれもあるが、私たちが使用するラップトップコンピュータ、携帯電話その他の携帯デバイスを充電するために用いられる無数のコードやケーブルにおいても起こる。Kursたち(p. 83, 6月7日のオンライン出版;Stewartによる展望記事参照)は、電力をワイヤレスで送る原理的な実証を報告している。二つの強く共役した誘導コイル間に近接場の磁気応答共鳴を用いて、彼らは2m離れた所を40%の効率で60ワットの電力を送ることができた。この送電プロセスでは、外部には主に磁場が漏れるが、健康へのリスクは電場を放出するシステムより少ないはずである。(KU,na)
Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances
p. 83-86.
APPLIED PHYSICS: The Power to Set You Free
p. 55-56.

冷たいが速い(Cold but Quick)

溶液中での化学反応は、通常温度上昇と共に促進されるが、最近の研究では、小さな中性分子間のあるクラスの気相反応が逆の傾向を示すことが明らかになった。低温での速い反応に関するこの現象は、実験的に検証困難な冷たい星間雲で起こっている化学反応の理解に役立つものである。Sabbahたち(p.102)は実験室内で、絶対温度20ー300度の間での中性酸素原子と気相アルケンとの反応速度を精密に測定した。彼らは、異常に速い低温での反応速度を理論的な体系を用いてモデル化した。その体系には二つの遷移状態を含んでおり、その一つは過渡的な安定な反応前の複合体に関する低エネルギーの再配列が関与している。この結果は、宇宙化学的に興味のある他の反応系へも、この方法が拡張可能であることを示している。(KU,nk)
Understanding Reactivity at Very Low Temperatures: The Reactions of Oxygen Atoms with Alkenes
p. 102-105.

Myxozoaを定義する(Nailing the Myxozoa)

本来的に単細胞の寄生虫であるMyxozoaは、長年にわたり系統発生上の位置づけが曖昧であり、原生生物界或いは動物界のメンバーのいずれかに分類されてきた。Jimenezたち(p.116)はアミノ酸の整列化に関する系統発生的解析を行い、myxozoan Buddenbrockia plumatellat--100年以上前に発見された奇妙な寄生虫--が、実際に活動的な、筋肉質性の、曲がった、寄生虫形状の刺胞動物であることを見出した。クラゲやサンゴを含む刺胞動物内での寄生虫の存在は、ボディプランの進化に関する見解に一石投じるものである。(KU)
Buddenbrockia Is a Cnidarian Worm
p. 116-118.

もっと緑だった頃のグリーンランドからの証拠(Evidence from a Greener Greenland)

現在では地球の陸地の約10%は氷河に覆われているが、これらの広大な地域が氷に覆われる前の生物相については限られた知識しか無い。ほとんどの化石の証拠は地中深く隠れているか、氷河が拡大した時期にかき取られてしまった。Willerslev たち(p. 111; および、Curryによるニュース記事も参照)は、ベッドロック(基盤岩)のすぐ上のアイスコア(切り出した氷コア)底部の沈殿物の豊富な部分から得られた植物や昆虫の残存物から古代のDNAを抽出し、増幅することに成功した。この氷が形成された頃、南部グリーンランドは多様な寒帯林で覆われており、その中には、マツ、エゾマツ、ハンノキ、イチイが存在し、チョウやガのような昆虫が存在していた。これらの研究結果は、最終間氷期 (Eemian)に南部グリーンランドで広範な退氷が起きた、あるいは、百万年にも及ぶ期間でのDNAの生存を推測させるものである。(Ej,hE,nk)
Ancient Biomolecules from Deep Ice Cores Reveal a Forested Southern Greenland
p. 111-114.
PROFILE: ESKE WILLERSLEV: Ancient DNA's Intrepid Explorer
p. 36-37.

トバ火山の火山灰石の中のツール(Tools in the Toba Ash Tuff)

7万7千年前にインドネシアのトバ火山で起こった噴火は、地球全体で更新世以降に起こった履歴の中でも最大級である。この噴火は、地球全体の気候の劇的な寒冷化を引き起こし、そしておそらくは人類の進化、特にアジア東部の初期人類に影響を及ぼしたが、その影響を評価する証拠はほとんど見つかっていない。Petragliaたち(p.144)は、インドにおける考古学的な地層序列中にトバ火山灰の地層を同定し、それが石器を豊富に含むことを発見した。その道具は、火山灰層をまたがってわずかに進化しているが、かなり連続的である。この記録は、この地域にいた住民が噴火後もこの地に残ったこと、またその道具の精巧さから現生人類がトバ火山の噴火の時点にはインドに到達していたかもしれないことを示している。(TO,nk)
Middle Paleolithic Assemblages from the Indian Subcontinent Before and After the Toba Super-Eruption
p. 114-116.

多様性と安定性とに関する議論(Diversity, Stability, and Controversy)

多様性と安定性の関係は生態系において最も議論の多い問題である。理論は互いに矛盾するし、実験的な結果はしばしば矛盾し、理論家と経験論者は噛み合わない。Ives と Carpenter (p. 58)はこれらの論争を見直し、生態系の異なる特性を示す多くの安定性が存在すること、その結果、多様性と安定性の間に多くの関連があることを指摘した。経験的研究は、しかし、これらの関係のうちの断片的な事実しか強調してなく、しばしば環境において最も危惧すべきことを無視していることが多い。したがって、これら実証的研究の全般的視野と焦点の両方を拡張し、多様性と安定性の普遍的な関係性の中でどのメカニズムが働いているかを明確にする必要がある。(Ej,hE,nk)
Stability and Diversity of Ecosystems
p. 58-62.

スポットライトを浴びるイソギンチャク(Sea Anemone in the Spotlight)

星型のイソギンチャクのNematostella vectensis は、現在出現しつつある刺胞動物モデルである。イソギンチャクや、クラゲ、サンゴ、あるいは、その他の刺胞動物は、形態的には単純であるにも関わらず、Putnam たち(p.86; Pennisiによるニュース記事も参照)は、イソギンチャクのかなり複雑なゲノムについて報告している。Nematostellaのゲノムは多くのゲノムの古代型を示しており、以前は脊椎動物に特有なものと思われていたが、動物の新規遺伝子の起源に関する異なる展望をもたらした。(Ej,hE)
Sea Anemone Genome Reveals Ancestral Eumetazoan Gene Repertoire and Genomic Organization
p. 86-94.
GENOMICS: Sea Anemone Provides a New View of Animal Evolution
p. 27.

微細な違いを記憶するには(Remembering the Fine Details)

パターン分離というのは、似たような2つの入力表現を、違いのより大きな別の表現に変換して、それらが続けて記憶内に蓄積される際に干渉し合うのを減らすプロセスである。長い間信じられてきたが、その実ほとんど検証されてこなかった仮説は、パターン分離には海馬の歯状回が関与しているというものである。McHughたちは、歯状回顆粒細胞中にN-メチル-D-アスパラギン酸受容体を特異的に欠くマウス系統を作り出した(p. 94、6月7日にオンライン出版; また、BannermannとSprengelによる展望記事参照のこと)。そのマウスは、標準的な文脈付き恐怖条件付けでは影響を受けなかったが、2つの似たような条件付けのチャンバーを識別することはできなかったのである。(KF)
Dentate Gyrus NMDA Receptors Mediate Rapid Pattern Separation in the Hippocampal Network
p. 94-99.
NEUROSCIENCE: Remembering the Subtle Differences
p. 50-51.

炎症と腫瘍の進行(Inflammation and Tumor Progression)

肝細胞癌は、ありふれた、死に至らしめる肝癌であるが、女性よりも男性において3ないし5倍多く生じる(Lawrenceたちによる展望記事参照のこと)。発癌物質に曝されて誘発された肝癌をもつマウスモデルを研究するなかで、Nauglerたちは、この現象を女性ホルモンのエストロゲンと、肝臓での炎症反応を抑制するその能力によって説明する分子基盤を提唱している(p. 121)。エストロゲンは、クッパー細胞として知られる肝臓マクロファージによるインターロイキン6(IL-6)の分泌を抑制するよう作用している。IL-6の産生はシグナル伝達するアダプタータンパク質MyD88に依存しており、このMyD88はさらに、損傷した肝臓の瀕死の細胞が生み出すものによって活性化されている。Rakoff-NahoumとMedzhitovはMyD88を、別の癌、腸癌を促進するものとしても位置づけている(p. 124)。炎症は大腸腫瘍の危険因子として知られている。腸に腫瘍形成のあるマウスモデルにおいて、MyD88を欠くマウスは腫瘍の成長と進行の抑制を示した。(KF)
CANCER: Sex, Cytokines, and Cancer
p. 51-52.
Gender Disparity in Liver Cancer Due to Sex Differences in MyD88-Dependent IL-6 Production
p. 121-124.
Regulation of Spontaneous Intestinal Tumorigenesis Through the Adaptor Protein MyD88
p. 124-127.

細菌への感受性:誰のための金庫なのか(Bacterial Susceptibility: Whose Vault Is It?)

肺の上皮というのは、外にある微生物世界と宿主の間の主要な界面の1つであるので、効率的に病原体を除去する特別の機構を進化させてきている。そうしたプロセスの重要性は、嚢胞性線維症患者の肺ではっきりした証拠があって、彼らは、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)遺伝子における変異の結果として、緑膿菌による感染を非常に受けやすくなっている。Kowalskiたちは、vaultとして知られている謎にみちた細胞内構造の要素が、その病原体に対する防御において主要な役割を果たしている証拠を提示している(p. 130)。CFTRを上皮細胞上に結合した後で、緑膿菌(P. aeruginosa)により、細胞表面での脂質ラフトへのmajor vault protein (MVP)の補充とそれに続く細菌の内部移行が引き起こされた。マウスでは、このMVP依存的プロセスが感染症への抵抗にとって必要であり、これはヒトにおいても同様のプロセスが重要である可能性を示唆するものである。(KF)
Host Resistance to Lung Infection Mediated by Major Vault Protein in Epithelial Cells
p. 130-132.

エッジで反応する(Reacting on the Edge)

不均一触媒の改良は経験的な仕事となりがちで、部分的には、活性部位、つまり反応が起こる場所を同定するような基礎的なメカニズムに関する情報ですら知られていないことによる。Jaramillo たち (p.100) は、金の基板の上に成長したナノスケールの MoS2 粒子上での水素発生反応について研究した。この触媒は、白金のような貴金属の代替として、興味深いものである。これらの MoS2 のナノ粒子の電気化学的な活性は、露出したエッジ部位の数と相関があった。この露出エッジは走査型トンネル顕微鏡によって決定されたものである。(Wt,nk)
Identification of Active Edge Sites for Electrochemical H2 Evolution from MoS2 Nanocatalysts
p. 100-102.

地殻の沈み込み(Crustal Foundering)

地球の上部マントルにおける地震波速度の系統的パターンは、応力によってカンラン石結晶が特定方向に圧縮された結果であると思われている。沈み込み帯での地震波速度の異方性は、海溝や弧状火山帯方向に整列しているが、この地震波速度が整列しているメカニズムは良く判ってない。Behn たち(p. 108)は、底部地殻の積層構造の乱れが、沈み込み帯の海溝に沿った地震波速度の系統的な変動を生じさせているのであろうと提案した。沈みつつある底部地殻のシミュレーションでは、密度が僅かに大きく下向きの動きを持つ物質が指状に伸びて、小規模な対流によって落下して行き、横方向に広がる。このモデルは、横方向のマントル流が無い正常な沈み込み帯においても、海溝に平行な地震波パターンの説明が可能である。(Ej,hE,tk,nk)
Trench-Parallel Anisotropy Produced by Foundering of Arc Lower Crust
p. 108-111.

変化に対してより感受性が高い(More Sensitive to Change)

変異によって引き起こされる、タンパク質翻訳領域遺伝子における構造と機能の変化が、進化を支えている。遺伝子発現制御における変化もまた、表現型の変化を引き起こすのに決定的な役割を果たしている可能性がある。Landryたちは、野生集団に通常見られる、困惑させる自然選択の影響を除去することで、酵母の遺伝子発現の変動範囲に対する自然突然変異の寄与を同定した(p. 118)。TATAボックス・シス因子エレメント(cis-regulator elements)をもつ遺伝子の発現は、より多くのトランス因子をもつ遺伝子と同様に、遺伝子的動揺に対してとくに感受性が高い。そうした特色をもつ遺伝子がより大きな進化の潜在力をもっていて、集団の進化的変化を引っ張っている可能性がある。(KF)
Genetic Properties Influencing the Evolvability of Gene Expression
p. 118-121.

DNAリーディング鎖におけるリーダー役(The Lead Role in the Leading DNA Strand)

真核生物の核のゲノムは、いくつかのDNAポリメラーゼによって複製される。DNAポリメラーゼ-αはDNA複製開始点の位置と、二重らせん状のDNAのラギング鎖上の岡崎フラグメント上で合成を開始する。ラギング鎖の大部分は、DNAポリメラーゼ-δによって合成される。リーディング鎖を複製するDNAポリメラーゼは不明である。Pursellたちは、DNAを複製する際に特異なエラー特性のあるDNAポリメラーゼ変異体-εを用いた(p. 127)。複製された標識DNAにおけるミスを、酵母の複製開始点のどちらの側についても、つまりリーディング鎖とラギング鎖のどちらについても、解析することで、彼らは、DNAポリメラーゼεこそがとらえどころのなかったリーディング鎖ポリメラーゼであったことを実証できたのである。(KF)
Participates in Leading-Strand DNA Replication
p. 127-130.

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