AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 22, 2007, Vol.316


持続可能な漁業へ向けて(Toward Sustainable Fisheries)

現在、漁業における需要容量を超える漁獲、過剰漁獲、これに伴う生息地破壊や混獲などの観察された問題点の原因は漁業の競争にある。Beddington たち(p. 1713)は、個々の漁師に保証金を与えるのではなく、全漁獲量に対する漁獲割合の権利を与えた場合には、持続可能な漁業が成り立つかどうかについてレビューした。漁獲競争を無くすことで、漁師は漁業全体にたいする持続性を持たせるよう促されるはずである。なぜなら、共有の漁業資源量が増加すれば個々の割当量も増加するからである。Persson たち(p. 1743) は、ノルウェー北部のTakvatn湖における研究において漁業価値のほとんどない発育不良の北極イワナの個体数が、結果的にはブラウントラウトと北極イワナの総数を置き換えてしまった。31トンの魚を除去した15年後、北極イワナの大きさ分布は変化し、新しい平衡点に達した。もっと小さな雑魚が生成され、これがブラウントラウトの良き餌となり、トラウトが増えた。このように、成熟した捕食性の魚を漁場に放して増やそうとするよりは、大きくてもはや餌とはならず量もゆっくりとしか増えない無駄な餌の魚を漁場から除去することは、明らかに崩壊した漁業蓄積量を増加させるには効果的かもしれない。(Ej,hE,nk)
Current Problems in the Management of Marine Fisheries
p. 1713-1716.
Culling Prey Promotes Predator Recovery—Alternative States in a Whole-Lake Experiment
p. 1743-1746.

効果的な並進(Effective Translation)

大きな分子においては、ある結合が振動励起しても、一般的に分子の骨格全体に振動エネルギーが広がる速さの方が結合を切断する反応より速いため、振動励起による結合切断には至らない。2原子分子や3原子分子のように、少数の振動モードしかない相対的に小さな分子では、振動励起による特定の結合切断が起こりやすい。Yan たち (p.1723; Crim による展望記事を参照のこと) は、このパラダイムに反して、CHD3 がCl 原子と衝突して、CD3 と HCl を形成する際、C-H 伸張振動の選択的励起と同じ様に効果的に、並進エネルギーがその反応を促進することを発見した。この研究は、気相における衝突エネルギーの精密な制御に依存しており、相対的に小さな分子でさえ、非常に複雑なエネルギー分布のダイナミクスを有していることを示唆している。(Wt,KU,nk)
Do Vibrational Excitations of CHD3 Preferentially Promote Reactivity Toward the Chlorine Atom?
p. 1723-1726.
CHEMISTRY: Making Energy Count
p. 1707-1708.

炭素の取得について再考する(Carbon Uptake Reconsidered)

化石燃料から放出されたCO2の約半分は空気中に留まり、残りは海洋に吸収されたり陸の生物圏によってほぼ同等量が取り込まれる。2つの研究がこれらの吸収源によるCO2の取得量を再評価している。炭素吸収源としての陸の生物圏の地域別の相対的役割を理解するためには、大気中のCO2濃度がどの程度取り込まれ、放出され、移動し、これが季節性、地域性変動をもたらすかを決定する逆モデル(従来のCO2拡散モデルに対して名付けられた)によって解釈される必要がある。従来の研究によれば、北半球には大きな炭素吸収源があるに違いないと思われており、熱帯地方は正味の炭素供給源となっている。Stephens たち(p. 1732)は、地球大気中のCO2の垂直分布はこの解釈と整合せず、むしろ、北半球には炭素吸収源が少なく、熱帯地方に強力な炭素取り込み源があるというモデルとより一致することを示している。CO2の取り込み割合は、大気中のCO2の分圧と、大気と大洋が平衡であるとした時の平衡分圧、の二つの値の差で決まる。Le Quere たち(p. 1735, および、5月17日号オンライン出版)は、CO2の最も重要な吸収源の1つである南洋において、1981年以降の大気中CO2量の増加から予想されたほどには取り込み量の割合が増えなかったことを報告した。彼らはその理由を、南洋で風が強まり海水中のCO2を大気に追い出したからだとしている。強風は人間活動にも起因するとされ、著者らは上記のような傾向は今後も続くであろうと予測している。(Ej,hE,nk)
CLIMATE CHANGE: Reassessing Carbon Sinks
p. 1708-1709.
Weak Northern and Strong Tropical Land Carbon Uptake from Vertical Profiles of Atmospheric CO2
p. 1732-1735.
Saturation of the Southern Ocean CO2 Sink Due to Recent Climate Change
p. 1735-1738.

フェリハイドライトの構造解明(Ferrihydrite Unfurled)

自然界の沈殿層で広範囲に見出されている鉄のオキシ水酸化物、フェリハイドライトは、生化学的な鉄の隔離手法との関係で興味深いが、廃水処理の重金属回収に効果的という点でも関心が持たれている。しかしながら、その超微粒子的形状により正確な構造決定が困難であった。Michelたち(p. 1726; Pennによる展望記事参照; 5月24日のオンライン出版)はx-線散乱データから導き出される対分布関数(pair distribution functions)をモデル化して、ナノメートルスケールの粒子の格子構造を得た。 彼らの解析は、理想的格子における八面体配位サイトを占有している鉄イオン80%を持つ六方晶系の単相であるということを支持している。(hk,KU,nk,tk)
The Structure of Ferrihydrite, a Nanocrystalline Material
p. 1726-1729.
CHEMISTRY: Resolving an Elusive Structure
p. 1704-1705.

熱帯病のベクターゲノム(Tropical Disease Vector Genome)

ネッタイシマカはデング熱や黄熱病を媒介し、合わせて毎年5千万人を越える人々に影響をもたらす。Neneたち(p.1718,表紙及びChadeeたちによる展望記事参照)はネッタイシマカのゲノム配列を報告しており、マラリアを媒介する蚊のハマダラカと広範囲に及ぶ遺伝子の保存を明らかにしている。代表的な二つの主たる蚊のサブファミリーとして、この観測された差異は血液-摂取の好み、宿主を探す挙動、及び特異的な病原体を感染させる能力を含めた固有の生物学的形質による。Waterhouseたち(p.1738)は、ネッタイシマカのゲノムをハマダラカと遺伝的にアウトグループであるキイロショウジョウバエのゲノムと比較する事で自然免疫の進化を調べた。免疫シグナルの伝達(認識、調節、シグナル伝達、転写活性、及びエフェクター産生)に関する異なる相は、様々な進化上の動態を明らかにしている。(KU)
Genome Sequence of Aedes aegypti, a Major Arbovirus Vector
p. 1718-1723.
GENETICS: A Breakthrough for Global Public Health
p. 1703-1704.
Evolutionary Dynamics of Immune-Related Genes and Pathways in Disease-Vector Mosquitoes
p. 1738-1743.

ダーウィンを擁護する(In Support of Darwin)

ダーウィンは、密接な近縁種は、必要とする資源が共通なので、群落内で共存する傾向が少ないことを示唆していた。モデル植物として菌根系を用いて、MaheraliとKironomos(p.1746)は、接種後1年存続した種の豊富さと、菌根の産生、及び宿主植物の生産性に関してオオバコの根の菌根の系統発生的な関連性の影響を調べた。予想通り、コミュニティーの生物多様性は菌腫がより遠く離れた関係であるときに最も大きかった。更に、このような種の豊富なコミュニティーは、密接に関係した分類群からなる種の貧困なコミュニティーよりもはるかに高い生産性を持っていた。(KU,nk)
Influence of Phylogeny on Fungal Community Assembly and Ecosystem Functioning
p. 1746-1748.

ホウ素が抗真菌薬作りを後押しする(Boron Boost to Antifungal Agents)

転移RNA(tRNA)は、異なったそれぞれのコドンに対して特異的なtRNAによって、メッセンジャーRNAに表されている遺伝暗号を認識している。それぞれのtRNAは、同族のアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)によって、適切なアミノ酸を担当している。この反応の正確さが遺伝暗号の忠実度維持にとって重大なため、多くのAARSは、不正確なアミノ酸によってアミノアシル化されたtRNAを加水分解する、いわゆる"編集"能力を進化させてきた。Rockたちは、benzoxaborole抗真菌薬が、この編集反応を用いて特異的に妨害することによって、酵母のLeuRSを抑制できることを示している(p. 1759)。oxaborole環中のホウ素原子がこの効果にとって決定的な役割を果たしていて、これは、小分子抗真菌薬に取り込まれたホウ素が治療薬の新たなクラスの産生をもたらしていることを示唆している。(KF)
An Antifungal Agent Inhibits an Aminoacyl-tRNA Synthetase by Trapping tRNA in the Editing Site
p. 1759-1761.

転写を保護するアクチン(Actin to Safeguard Transcription)

細胞骨格成分としての特徴のはっきりした機能に加えて、アクチンは転写などの核プロセスの制御因子としての役割も持つことが明らかになってきた。転写制御因子である血清応答因子(SRF)の補助活性因子であるMALは、単量体G-アクチンに直接的に結合し、単量体G-アクチンの細胞レベルを検知している。MALは、血清によって誘発された細胞のG-アクチン枯渇に対して、核内集積および血清応答因子の活性化でもって応答する。Vartiainenたちは、MALが休止細胞中では核と細胞質の間を急速にシャトル運動していることを報告している(p. 1749; またWuとCrabtreeによる展望記事参照のこと)。核におけるアクチン結合は効率的な核外輸送のためにMALを標的にし、さらに、MALが核で費やしている短時間のあいだの血清応答因子の活性化を防いでいる。増殖因子刺激がアクチン結合を妨害する際には、MAL活性に関するこのロックが解放されるのである。(KF)
Nuclear Actin Regulates Dynamic Subcellular Localization and Activity of the SRF Cofactor MAL
p. 1749-1752.
CELL SIGNALING: Nuclear Actin as Choreographer of Cell Morphology and Transcription
p. 1710-1711.

過去の感染を甦らせる(Resurrecting Infections Past)

われわれのゲノムには、過去の感染症の考古学的記録ともみなしうる内在性レトロウイルスが含まれている。Kaiserたちは、何故にチンパンジーとゴリラのゲノムがわれわれヒトのものと違って、ある特定の内在性レトロウイルスのコピーを何百も含んでいるかを探索するために遺伝的発掘をおこなった(p. 1756)。彼らは、チンパンジーのゲノムから得られたそのウイルスのコアタンパク質を生き返らせ、このタンパク質を含むキメラウイルスによる細胞の感染が、ヒトの抗ウイルス性因子、TRIM5αによって抑制されることを発見した。しかし、同じタンパク質は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)に対しては、霊長類TRIM5αの双方のウイルスに対する効果に対照してみると、相対的に活性が弱かった。ある古代のウイルスに対する抵抗を獲得することによって、ヒトはヒト免疫不全ウイルス1型に対して、より感受性が強くなったようだ。(KF)
Antiviral Protein
p. 1756-1758.

圧力による問題(A Pressing Problem)

地球の核とマントルの境界において、地震波の速度が変化するという事実は部分的溶融個所が存在し、深部の鉱物のペロウスカイトやポストペロウスカイトを含む格子変化や相変化が原因であろうとされてきた。Merkelたち(p. 1729)は多アンヴィルセルとX線を用いた高圧での変形実験によって、ポストペロウスカイトの格子の変形特性を測定した。高圧下で鉱物がどのように変形するかは、ある特定の格子面に沿ってのずれによって制御されている。これらの結果を核マントル境界に外挿することによって、ポストペロウスカイトに観察される地震波の異方性を説明することができる。(Ej,hE,nk)
Deformation of (Mg,Fe)SiO3 Post-Perovskite and D'' Anisotropy
p. 1729-1732.

形態学の本分(Morphology Central)

新しい技術によって、複雑な細胞制御系の系統だった特徴付けが可能になっている。Bakalたちは、遺伝子の過剰発現あるいは二本鎖RNAによるタンパク質枯渇を生じさせる249種の異なった条件のうちの1つに曝された細胞で生じる正確な形態変化をスクリーンすることを可能にする方法を記述している(p. 1753)。145種の定量的特徴の解析によって、クラスタリング技術で細胞の反応を特徴付けること、また、膜の突出や細胞膜上の張力、及び細胞接着を制御しているシグナル伝達ネットワークをマップ化すること、が可能になったのである。(KF)
Quantitative Morphological Signatures Define Local Signaling Networks Regulating Cell Morphology
p. 1753-1756.

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