AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 15, 2007, Vol.316


不完全な内核(Imperfect Inner Core)

地球の内核は、予想されているようなしっかりした固体の鉄合金ではない。その説明としては、内核は部分的に溶融しているとされる。Belonoshko たち(p. 1603) は分子動態シミュレーションを行い、結晶欠陥もまた、内核の剛性を減少させ、せん断波の速度を減少させるのに貢献していることを示した。この結果は地震波の観測と厳密に一致し、地球内核の低い剛性は粒界が粘性を持つこと、高温での鉄結晶内の高い拡散性によるものであることが推測される。(Ej,hE,nk)
Origin of the Low Rigidity of the Earth's Inner Core
p. 1603-1605.

太陽中心が見えてきた(Signatures of the Sun's Center)

太陽の振動はその内部構造の詳細を明らかにする。圧力に起因するモードは長い間観測されてきたが、太陽の中心部について制約された情報しか得られなかった。太陽の中心部は太陽質量の半分を越え、また核融合が起きている領域である。重力に起因するモードは、太陽の高密度な内核の浮力における変化についてもっと明らかにできるポテンシャルを持っているが、太陽の表面では非常に弱く、検知することが大変難しかった。Garciaたち(5月3日のオンラインで公開されたp.1591、また表紙とKerrによる5月4日のニュース、およびHillによる展望記事を参照)は、SOHO(太陽・太陽圏観測衛星)搭載のGOLF測定器(太陽面を像分解せずにドップラー速度を測定する測定器)で採られた10年間のデータを用いて、太陽表面のドップラー速度変動のパワースペクトルを解析し、重力モード振動の特性である周期的構造を発見した。これらの特徴は、太陽の中心核は外側の放射外層より速く回転していることを示唆している。(hk,Ej,nk)
Tracking Solar Gravity Modes: The Dynamics of the Solar Core
p. 1591-1593.
ASTRONOMY: Waves in the Sun's Core
p. 1573-1574.

量子的安定性を制御する(Controlling Quantum Stability)

薄膜を薄くしていくと、しばしば膜が破れていくつもの液滴になってしまう。この形態変化により表面張力が減少し、表面エネルギーが下がるからである。しかしながら最近の研究によると、金属薄膜において連続するある奇数と偶数の厚さの単分子層では、薄膜が著しく安定であることが示されている。この量子的な安定性は、表面張力と薄膜中に閉じ込められた電子のエネルギーとの競争的な効果から発生するものと考えられている。このような量子的な閉じ込めは、超伝導の転移温度のような特性にも影響を与える。Oezer たち (p.1594) は、ビスマスとの合金形成によって鉛の薄膜中の電子密度を変えることで、量子的安定性と超伝導的挙動が共に制御できることを示している。(Wt,nk)
Tuning the Quantum Stability and Superconductivity of Ultrathin Metal Alloys
p. 1594-1597.

ナノ粒子の分散を制限する(Limiting Nanoparticle Dispersal)

硫酸塩を還元する細菌は還元プロセスの一部として、金属由来のナノ粒子を生成することが知られており、そのお陰で無酸素水中の金属濃度が下がる。しかし、結果としてできた金属ナノ粒子が環境中でどのくらい遠くまで広がっていくかについてはよく知られていなかった。Moreau たち(p. 1600) は、微生物由来のタンパク質がバイオフィルム中に硫化亜鉛粒子を生成するためにどのような役割を果たしているかを研究した。金属に結合するポリペプチドとタンパク質は細胞外の金属-硫化物生体内鉱物形成の重要な因子であり、これらは自然環境でのナノ粒子拡散を制限する凝集プロセスを助ける重要な役割を演じているらしい。(Ej,hE,nk)
Extracellular Proteins Limit the Dispersal of Biogenic Nanoparticles
p. 1600-1603.

北極の植物の分散(Arctic Plant Dispersal)

植物種の長距離飛散の頻度をきちんと評価することは困難である。このために気候の変化に対応して植物種の分布境界がどのように移動するかの理解が妨げられている。北極の Svalbardおよび近隣の列島における9つの異なる顕花植物種を代表する4000以上の植物サンプルの遺伝的変異を解析することで、Alsos (p.1606) たちは、 最終氷期極大期の後Svalbard列島への植物侵入の期間には北極の様々な供給地域からの長距離伝播が起きたことを示した。長距離に渡る分散は、以前信じられた以上に普遍的なことと見られ、したがって、北方への植生シフトは地球温暖化の後、急速に起きる可能性がある。(Ej,hE,nk)
Frequent Long-Distance Plant Colonization in the Changing Arctic
p. 1606-1609.

局地的なエコロジーから地球規模のエコロジーへ(From Local to Global Ecology)

マクロエコロジーは広域的な規模や更に大陸的な規模での生物の分布と存在量に関する定量的な予測を得る事が目的であり、気候変化の結果として生じる生物相の変化を理解するのに適切な研究手法である。Kerrたち(p.1581)は、マクロエコロジーの研究プログラムにおける最近の進展をレビューし、そして地球規模で生じるであろう変化の結果を管理する上でのその潜在的な、実際的な利点を評価している。(KU,Ej,nk)
The Macroecological Contribution to Global Change Solutions
p. 1581-1584.

ハエの異質染色質に注目(Focus on Fly Heterochromatin)

真核生物のゲノムのDNAは染色質中にパッケージされている。真性染色質は、通常遺伝子の豊富な、かつ転写活性な領域を特徴としている。一方、異質染色質(ハエやヒトのゲノムのおよそ30%を含む)は、通常転写が抑制され、かつ往々にして密な反復配列を含むような領域である。このような反復配列は、現在のDNAマッピング法や配列決定法で解析することが本質的に困難であった。Smithたち(p.1586)とHoskinsたち(p.1625)は、キイロショウジョウバエの動原体周囲の領域から、およそ15〜25メガベースの異質染色質DNAに関する卓越した解析法を記述している。この領域のマッピング、配列決定、及びアノテーションから、この配列の大部分が、数百のタンパク質コーディング遺伝子とより少数の非タンパク質コーディング遺伝子を含む9%のユニークな配列と共に、レトロトランスポゾン、DNAトランスポゾン、タンデムリピートやサテライトリピートからなっていることが判明した。(KU)
The Release 5.1 Annotation of Drosophila melanogaster Heterochromatin
p. 1586-1591.
Sequence Finishing and Mapping of Drosophila melanogaster Heterochromatin
p. 1625-1628.

知覚における注意とリズム(Attention and Rhythm in Perception)

神経系はいかにして、異なった脳領域間あるいは異なった神経細胞グループ間のコミュニケーションを可能にしているのだろう(Knightによる展望記事参照のこと)?Saalmannたちは、サルが遅延サンプル照合記憶課題を遂行している際の、視覚路の背側ストリームにある2つの領域、側部頭頂内領域(LIP: thelateral intraparietal area: LIP)および中央側頭領域(MT: the medial temporal area)の状態について同時に記録した(p. 1612)。LIPとMTのニューロンの受容野が同じ場所にあって、サルがその場所に注意を払っている限りにおいては、LIPにおける活性はMTにおける活性を予測することができた。LIPのフィードバックは、つまり、注意によって増強されるMT応答を説明できる。Womelsdorfたちは、3つの異なった実験標本からの多電極記録データを組み合わせて、ニューロンの複数のグループのリズム性活性の間の位相関係がそれらの相互の影響の強さを決定しているという仮説を検証し、位相に関する相関に強い依存のあることを発見した(p.1609)。そうした結果は、複雑な知覚的また認知的操作の過程において、シグナルが同調し、結びつく仕組みが存在していることを示唆するものである。(KF)
NEUROSCIENCE: Neural Networks Debunk Phrenology
p. 1578-1579.
Neural Mechanisms of Visual Attention: How Top-Down Feedback Highlights Relevant Locations
p. 1612-1615.
Modulation of Neuronal Interactions Through Neuronal Synchronization
p. 1609-1612.

贈与(The Gift of Giving)

ヨーロッパにおいては、課税率が高く、公共サービスは政府のお金でまかなわれているが、一方合衆国では税金が安く、より多くの慈善事業への寄付が一般的である。Harbaughたち(p.1622)は神経経済学的な(neuroeconomic)研究を行い、チャリティーへの義務的な寄付(課税を通しての)と自発的な寄付に対応した個人の満足度(報酬に関連した脳領域のニューロン活性化を指標として用いた)を評価した。課税によりチャリティーに配分された際に被験者は喜びの反応を示した。この方法でのより大きなニューロン活性を示した被験者は、チャリティーへの寄付を自発的に行う際に更に気前がよくなった。自発的な寄付行為での幸福感は、課税で見出されたものより勝っていた。(KU)
Neural Responses to Taxation and Voluntary Giving Reveal Motives for Charitable Donations
p. 1622-1625.

免疫の刺激を調節する(Tuning Immune Stimulation)

ワクチン接種の際に、免疫応答のためには付加的な刺激がしばしば必要となり、それはアジュバントと呼ばれる物質によって供給される。グラム陰性菌の外膜に存在するリポ多糖(LPS)は自然免疫反応の強力な刺激役であるが、潜在的毒素ショックの可能性があるので、ヒトにそれを用いることは許されていない。最近認められたアジュバント、一リン酸化脂質A(MPLA)は、それのもととなったリポ多糖(LPS)に比較して有害な作用がずっと小さく、制限されたものになっている(FitzgeraldとGolenbockによる展望記事参照のこと)。Mata-Haroたちは、MPLAがToll様受容体4(TLR4)経路の特異的なシグナル伝達成分だけを活性化し、LPSの関わるずっと強い毒性の原因であるTLR4シグナル伝達の骨髄性分化因子88腕(arm)を回避していることを示している(p. 1628)。Ohtoたちは、TLR4共同受容体MD-2単独の場合の結晶構造と、それがLPSの抗エンドトキシン性テトラ-アシル化脂質Aコアと複合体を作る場合の結晶構造を決定した(p. 1632)。MD-2は深い疎水性の腔をもっていて、脂質コアの4つのアシル鎖を収容する。(KF)
IMMUNOLOGY: The Shape of Things to Come
p. 1574-1576.
The Vaccine Adjuvant Monophosphoryl Lipid A as a TRIF-Biased Agonist of TLR4
p. 1628-1632.
Crystal Structures of Human MD-2 and Its Complex with Antiendotoxic Lipid IVa
p. 1632-1634.

シグナル伝達の中心(Signaling Central)

Wnt増殖因子は、動物の発生や幹細胞生物学、さらにはヒトの癌においてキーとなる役割を果たすシグナルカスケードを活性化する。このカスケード成分の多くは既に同定されているが、それらがまとまって、原形質膜から細胞内へとどのようにシグナルを伝達するかは明白ではない。Bilicたちは、原形質膜において低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質6(LRP6)シグナロソームと呼ばれる大きなリボソーム・サイズの複合体の形成を、Wntリガンドが誘発していることを示している(p. 1619)。この巨大なたんぱく質の集合体は、活性化されたWnt複合体と細胞質アダプタタンパク質を含んでいる。裏打ちタンパク質DishevelledとWnt共同受容体LPR6とがLRP6-シグナロソーム形成における中心的役割を果たし、それに引き続いての、核のβカテニンのレベルを制御する分子性相互作用の引き金を引いている。(KF)
Wnt Induces LRP6 Signalosomes and Promotes Dishevelled-Dependent LRP6 Phosphorylation
p. 1619-1622.

糖の変換(Sugar Shake-Up)

伝統的な石油化学原料の代替物としてのバイオマスの効率的な利用は、糖を用いての多様な化学的中間体を作ることによって可能となる。このような有望な化合物の一つがヒドロキシメチルフルフラル(HMF)であり、この化合物は酸触媒により果糖から合成される。Zhaoたち(p.1597)は、果糖のHMFへの効率的な変換がイオン性の液体溶媒中で酸の無い条件下で金属ハロゲン化物の触媒を用いても可能である事を見出した。更に、二塩化クロムはグルコースに関しての類似の変換を70%の収率で触媒する。メカニズムの研究から、クロムはグルコースの果糖への異性化反応を促進する事でこのような予期しない選択的な変換を促進している事を示唆している。(KU)
Metal Chlorides in Ionic Liquid Solvents Convert Sugars to 5-Hydroxymethylfurfural
p. 1597-1600.

Klothoからカルシウムへ(From Klotho to Calcium)

グリコシターゼに似た膜タンパク質であるKlothoは、TRPチャネル上の糖残基を修飾し、線維芽細胞増殖因子23の受容体と相互作用し、そして過剰発現した場合には寿命を延ばすことにつながるものであると提唱されてきた。このたびImuraたちは、α-Klothoがマウス細胞中のNa+,K+アデノシン三リン酸加水分解酵素(Na+,K+ATPase)のα1サブユニットと相互作用すると報告している(p. 1615)。原形質膜におけるNa+,K+ATPaseの量は、高濃度Ca2+に曝された細胞中では減少し、これはα-Klothoを欠く細胞においては鈍る反応であった。α-Klothoを欠くマウスの脳脊髄液中のCa2+濃度は、野生型のマウスのそれよりわずかに低かった。つまり、α-Klothoは原形質膜中のNa+,K+ATPase輸送体の存在量に影響を与えることによって、Ca+濃度を制御する機能を果たしている可能性がある。(KF)
-Klotho as a Regulator of Calcium Homeostasis
p. 1615-1618.

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