AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 13, 2006, Vol.314


古代の後生動物の胚 (Ancient Metazoan Embryos)

中国ドゥシャンツァオ累層(Doushantuo Formation)には、先カンブリア時代後期の原始後生動物(metazoans)の胚(embryos)を多く含んでいる。Hagadornたち(p.291)はX線画像を用いて、数個から1000個近くの細胞を含んでいるこれらの胚の内部構造を明らかにした。これらの胚のいくつかは、より高度な後生動物に似た非対称な細胞分割の証拠を示している。162個の胚の中に、海綿動物の特徴である上皮組織の発生したものは1つもない。その代わり、それらはおそらく幹-グループ(stem-group)の後生動物を表している。(TO)
Cellular and Subcellular Structure of Neoproterozoic Animal Embryos p. 291-294.

穏やかにシートに並べること(Gently Arranging the Sheets)

自己組織化により、適切な種類の表面相互作用を持つ成分を単に混合することで複雑なものを作ることが出来る。しかしながら、ナノサイズの小さい粒子に対しては、鋳型やパターン化された表面が特有の配列を得るために通常は必要とされる。Tangたち(p. 274)は、表面壁あるいは2つの溶媒の界面を用いずに、溶媒中でカドミウム・テルル化合物粒子をフリーに浮かぶシート状に組織化出来ることを示している。その代わりに、双極子モーメントと疎水性引力のような小さい駆動力の組合せによって組織化が加速される。(hk,KU)
Self-Assembly of CdTe Nanocrystals into Free-Floating Sheets p. 274-278.

異なる生成物をタイミングよく作る(Timing Different Outcomes)

触媒は反応軌跡の一方に沿った特殊な高次構造を得るに必要なエネルギーを減らす事で、別の生成物以上に一つの方向の生成物を選択的に作る。Sussmanたち(p. 278;Rabitzによる展望記事参照)は、似たような効果がIBrの光化学解離反応における強い赤外(IR)レーザ場によっても作られることを示している。この反応は可視光で開始される。時間遅延を用いることで、IRの場が反応座標に沿って移動する。そこではIRの場がシュタルクのスペクトルシフトを通してポテンシャルエネルギーの障壁を変化させ、二つの反応経路のいずれか一方を優先する。シュタルクパルスは反応分子の吸収バンドとの共鳴を必要とせず、それ故にこの技術は非常に広範囲の化学反応系において応用可能である。(KU)
Dynamic Stark Control of Photochemical Processes p. 278-281.
CHEMISTRY: Strong-Arming Molecular Dynamics p. 264-265.

ダイアモンドの欠陥中のスピンを制御する(Controlling Spins in Diamond Defects)

個々の量子状態を制御して操作するさまざまな手段は、量子情報処理への応用の可能性があるため、広く探索されている。Childress たち (p.281, 9月14日付のオンライン出版された) は、ダイアモンドの個々の欠陥中心に対する核磁気共鳴実験について記している。この欠陥中心は、単一電子の固体キュビットとして振舞う。観察されたスピンエコー信号と広範囲にわたる超微細相互作用のモデル化を用いて、著者たちはその中心の局所環境を再構成するとともに、その電子スピンのコヒーレンス特性が、周りを取り囲む炭素13の核スピンによって決定されることを示している。彼らは、電子と核のスピンを処理し、操作できれば、量子情報処理へのひとつの道筋となる可能性があると論じている。(Wt)
Coherent Dynamics of Coupled Electron and Nuclear Spin Qubits in Diamond p. 281-285.

本当の関係(The Real Deal)

細胞表面に発現した真の腫瘍特異的分子は、癌治療におけるモノクローナル抗体の理想的な標的である。Schietingerたち(p. 304)は、細胞表面の野生型タンパク質が腫瘍特異的な癌の標的分子へとどのように形質転換されるかを報告している。シャペロン遺伝子(Cosms)の変異により、糖転移酵素の活性が失われ、野生型の膜貫通タンパク質に新規な抗原性のエピトープ(抗原決定基)が作られる。単糖と野生型のタンパク質配列の結合により、同じ遺伝子型で、高親和性の、高度に特異的な、かつ強力な治療標的が作られる。シャペロン遺伝子の変異は、自己免疫疾患Tn症候群の患者にも見出されている。(KU)
A Mutant Chaperone Converts a Wild-Type Protein into a Tumor-Specific Antigen p. 304-308.

金の起源(Golden Origins)

多くの熱水性の金鉱床の起源(マグマと関連した鉱床)は、謎のままである;金がマグマに由来しているのか、或いは周囲の岩から濃縮されたものなのか、そしてどのぐらいの速さで金鉱床が堆積したのだろうか?SimmonsとBrown(p. 288;Heinrichによる展望記事参照)は、パプアニューギニアにおける世界で最も大きい熱水性の金鉱床の一つと関係したマグマから生じている塩水の直接的なサンプルを得た。深い掘削から得られたこのサンプルは15ppbの溶解した金を含んでいる。マグマからの塩水の流れと仮定すると、このマグマは50,000年以内に完全な堆積物を形成したのであろう。(KU)
Gold in Magmatic Hydrothermal Solutions and the Rapid Formation of a Giant Ore Deposit p. 288-291.
GEOCHEMISTRY: How Fast Does Gold Trickle Out of Volcanoes? p. 263-264.

癌は一度に一つの遺伝子で変異する(Cancer, One Gene at a Time)

癌細胞中でどの遺伝子が反復的な変異を受けているかを知ることは、腫瘍形成の基となる分子経路を解明することに役立つ。パイロット研究において、Sjoeblomたち(p. 268; Kaiserによるオンライン出版、2006-9-7;およびKaiserによるニュース記事参照)は ヒトの乳癌と大腸癌における13000個のタンパク質をコードする遺伝子の配列を決定し、癌の原因となる変異と無害な配列変異を区別する方法を開発した。およそ200個の候補となる癌遺伝子(CAN遺伝子)が有意な頻度で変異しており、その多くはこれまでに腫瘍形成に関与することが知られていなかったものである。乳癌と大腸癌でのガンでのオーバーラップはほとんど無かっただけでなく、同一組織に由来する異なる腫瘍検体にも大きなオーバーラップは無かった。(Ej,hE)
The Consensus Coding Sequences of Human Breast and Colorectal Cancers p. 268-274.

DNA損傷を処置する(Dealing with DNA Damage)

生物体が健康であるためには損傷を受けたDNAは修復のために細胞周期を休止するか、あるいは、アポトーシスで除去されるかしかない。Huang たち(p. 294; Bartek and Lukasによる展望記事参照)は、遺伝的損傷を受けた細胞が、このどちらの運命をたどるかを切り替えるメカニズムについて報告した。DNA損傷によってチェックポイントのシグナル伝達機構が活性化し、細胞周期の抑止のために、部分的にサイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の活性が抑制される。著者たちはCDK2が細胞死を制御する機構とも連動していることを見つけた。通常は転写制御因子FOXO1はCDK2によってリン酸化される。著しくDNA損傷を受けた細胞では、FOXO1のリン酸化が低下し、核に移行し、核でアポトーシス誘導性遺伝子の発現を増強した。(Ej,hE,so)
CDK2-Dependent Phosphorylation of FOXO1 as an Apoptotic Response to DNA Damage p. 294-297.
CELL BIOLOGY: Balancing Life-or-Death Decisions p. 261-262.

関連性の破綻(Failing Relationship)

植物の害虫であるアブラムシはbacteriomeと呼ばれる特異な器官中に共生生物を選択して保持する。共生生物フローラの組成はアブラムシの種と系統によって異なるが、このバクテリアは様々な範囲でゲノムの減少を生じさせる。Perez-Brocal たち(p. 312; Anderssonによる展望記事も参照)は、アブラムシCinara cedriに居住するだけでなく、二次的な共生生物セラチアsymbiotica と共生するBuchnera aphidicola BCのゲノムを研究した。彼らはゲノムサイズが小さくなり、ゲノム全長が420kbでコードされているタンパク質は362、他のBuchneraの系統の2/3のサイズである。その共生生物パートナーと比べて多くの機能を喪失している。対照的に、共生しているセラチアは喪失した代謝機能を代替しているようで、宿主同様に小さなゲノムも支援しており、Buchnera aphidicola BCcは絶滅へ向かっていることになる。Breviaの記事では、Najabuchiたち(p. 267) は、別種の 細菌性 内部共生体であるCarsonella ruddiiについて記述している。(E,hE,so)
A Small Microbial Genome: The End of a Long Symbiotic Relationship? p. 312-313.
GENETICS: The Bacterial World Gets Smaller p. 259-260.
The 160-Kilobase Genome of the Bacterial Endosymbiont Carsonella p. 267.

枝を広げる(Branching Out)

思春期には、メスの乳腺は、単純な上皮性細管から、精緻な樹状になった管(elaborate ductal tree)へと形質転換する。組織構造におけるこうした全体的変化の根底にあるものは、個々の細胞の振る舞いの変化である。細管内のある細胞は枝分かれするよう指令される一方、それに隣接する細胞は数細胞しか離れているに過ぎないのに、枝分かれしない。マイクロパターニング法を用いて、培養されたマウスの乳房の上皮性細管を操作することで、Nelsonたちはこのたび、枝分かれの位置が初期の細管の幾何学的配列に依存し、トランスフォーミング成長因子βを含む自己分泌抑制性モルフォゲンの濃度勾配の極小点によって決定される、ということを示している(p. 298)。(KF)
Tissue Geometry Determines Sites of Mammary Branching Morphogenesis in Organotypic Cultures p. 298-300.

ウイルスへの抵抗性を再考する(Rethinking Viral Resistance)

単純ヘルペス脳炎の研究において、Casrougeたちは、ある単一遺伝子の欠損によって、原因となる単純疱疹ウイルスへの抵抗性が損なわれるが、その他のウイルスに対してはそうならないことを見いだした(p. 308、9月14日にオンライン出版)。その珍しい常染色体劣性変異は、小胞体の膜タンパク質UNC-93Bをコードする保存された遺伝子中に存在しており、この膜タンパク質は細胞の抗ウイルス性免疫応答に関与すると考えられている。そうした対象(子供2人)から得た細胞は、いくつかのインターフェロン遺伝子への応答を失っていたが、これはウイルス複製の制御におけるそうした子どもたちの重大な欠陥を説明することになる。対照的に、対象の他の病原体へのみたところ頑強な免疫は、ある単一遺伝子の欠損が免疫不全の病原体-特異的形態を導くことがありうるということを、予想外にも、示唆するものである。(KF,hE)
Herpes Simplex Virus Encephalitis in Human UNC-93B Deficiency p. 308-312.

泥炭のために(For Peat's Sake)

メタンおよび二酸化炭素の大気中の濃度が最後の氷河退氷期から完新世にわたってどう変化したかについては、よい記録が存在しているが、なぜそういう変化をしたかは、いまだに謎である。とりわけメタンの変化について、潜在的に重要な要因として引き合いにだされる陸生の生物系は、泥炭地帯である。泥炭地帯の発生を、過去1万7千年にわたる大気中のメタンおよび二酸化炭素の量に関連付けるために、MacDonaldたちは、北ユーラシアおよび北米における1500以上の泥炭地帯始まりの炭素放射性年代を収集・分析した(p. 285)。彼らは、Bo/lling-Allero/d温暖期における急速なメタン増加と、初期完新世における上昇とピークの維持に類似した泥炭地帯拡大のパターンを見いだした。泥炭地帯の拡大はまた、完新世開始時の二酸化炭素の減少とも一致するものであった。(KF)
Rapid Early Development of Circumarctic Peatlands and Atmospheric CH4 and CO2 Variations p. 285-288.

さほど単純でないスイッチ(Not-So-Simple Switches)

リボスイッチとは、代謝産物に結び付く構造化されたRNAであって、その結合に依存して遺伝子発現を制御するものである。ほとんどの場合、この代謝産物-結合は、単純なオンオフ切り替えとして作用する。Sudarsanたちはこのたび、より洗練された制御を促進する直列型のリボスイッチについて報告している(p.300)。Bacillus clausii metE RNAの5'の非翻訳領域には、2つの異なった代謝産物に独立的に応答して2入力のBooleanNOR論理ゲートとして機能する2つのリボスイッチが含まれている。(KF,hE)
Tandem Riboswitch Architectures Exhibit Complex Gene Control Functions p. 300-304.

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