AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 6, 2006, Vol.314


負に帯電するホウ素センター(Boron Goes Negative)

ホウ素(B)は、一般的に電子欠乏により特徴付けられている。中性のホウ素化合物は強いルイス酸になりやすく、ホウ酸塩の陰イオンにおいてB-センターは典型的な電気陽性を示し、これにより水素化物イオン(H-)供与体としての水素化ホウ酸塩の有用性に反映される。Segawaたち(p. 113;Marderによる展望記事参照)は、このような反応性のパターンをひっくり返すような分子を合成した。環状化合物の前駆体におけるB-Br結合の還元的切断により、彼らはボリルリチウム化合物を単離した。この化合物において、負に帯電したB-センターは塩基性、かつ求核試薬として作用する。この化合物はB原子に隣接する電子供与性の窒素によって安定化され、最近リガンドとして合成された等電子構造のN-ヘテロサイクリックカルベンと類似している。(KU)
Boryllithium: Isolation, Characterization, and Reactivity as a Boryl Anion p. 113-115.
CHEMISTRY: Boron Goes On the Attack p. 69-70.

相対論のテスト(Relativity Tests)

二重パルサー系である PSR J0737-3039A/B は高速で、かつ、大きな加速度で相互に軌道を回っている二つの電波パルサーから構成されているが、その系は、一般相対性理論のテストに対してこれまで認識されてきた中では最良の系である。 Kramer たち (p.97, 9月14日のオンライン出版; Choによる9月15日のニュース解説を参照のこと) は、3年間に渡る精密な時間計測観察を報告している。理論に頼らずに決定できるパルサーの質量比を用いて、一般相対性理論の4つの独立な強重力場テストを行った。その結果、一般相対論が0.05%という高い精度で成立することを確認した。(Wt,nk)
Tests of General Relativity from Timing the Double Pulsar p. 97-102.

多様性の揺りかごから博物館まで(From Cradle to Museum)

生物の最も主要なグループに関して、多様性が熱帯地方から極へと進むにつれて減少していくが、これは熱帯地方における種の分化、或いは種の持続性のより高い割合を反映しているものであろう。Jablonskiたち(p. 102;Marshallによる展望記事参照)による海の二枚貝の化石記録に関する大規模な解析により、今日の生物多様性における緯度勾配が、熱帯地方におけるより高い種の発生と時間と共に生物群の分布限界の極方向への拡大と言う二つの事象を反映している事が示された。このように、熱帯地方は生物多様性が拡大していく揺りかごの役目と、その豊富な多様性が展示される博物館の役目の二つを担っている。 (KU,nk)
Out of the Tropics: Evolutionary Dynamics of the Latitudinal Diversity Gradient p. 102-106.
EVOLUTION: Fossil Record Reveals Tropics as Cradle and Museum p. 66-67.

タンパク質解析の解決(Unraveling Protein Analysis)

質量分析はプロテオミクスの解析や翻訳後の修飾を同定するための迅速な方法である。ガス相に完全なタンパク質を導入する「トップダウン」方式では、同定内容はより正確である(タンパク質分解性のフラグメントを解析するボトムアップ方式に比べ)。しかしながら、タンパク質の断片化はより大きなタンパク質ではもっと困難になり、トップダウン方式は通常50キロダルトン(kD)以下の質量のタンパク質に限定されている。Hanたち(p. 109;Chaitによる展望記事参照)はエレクトロスプレー溶液中に折りたたみを阻害する低分子を付加し、電圧加速によってもたらされる加熱と衝突によりイオンを活性化することで、トップダウン方式を200kDを越える質量のタンパク質解析へと拡大させた。このプロセスはタンパク質鎖のC末端とN末端で数百ものアミノ酸残基間の切断を行い、より大きなタンパク質の同定が可能となり、更にジスルフィド架橋といった特徴を同定するに十分の質量分解能を与えている。(KU)
Extending Top-Down Mass Spectrometry to Proteins with Masses Greater Than 200 Kilodaltons p. 109-112.
CHEMISTRY: Mass Spectrometry: Bottom-Up or Top-Down? p. 65-66.

モンスーンの予報(Monsoon Forecasting)

インドにおける農業生産高は、夏のモンスーンの強さに大きく依存している。季節的な予報の多くはモンスーンの強さをエルニーニョ-南方振動の強度で見積もっている。この考え方は、赤道太平洋の表面温度が冷たいときには激しい降雨の予報には十分に当てはまるが、しかしながら表面温度が暖かいときに旱魃を予報するには不十分である。Krishna Kumarたち(p.115,9月7日のオンライン出版)は、過去130年以上に遡るインドの降雨記録と大気の全体的循環モデルを用いて、中央インドにおける旱魃の発生が、最も暖かな海洋表面温度が赤道太平洋の中央部か、或いは東部で発生したかどうかに依存している事を示している。この結果をモンスーンの予報に組み込む事により、経済的な計画やリスク回避に大きな効果をもたらすであろう。(KU)
Unraveling the Mystery of Indian Monsoon Failure During El Niño p. 115-119.

磁性のループ(Magnetic Loops)

銀河の中心にはブラックホールが存在するだけでなく、内部の数百パーセク内に奇妙な形のガスフィラメントや非常に激しい動きのホット分子ガス領域等多くの異常な特色がある。Fukuiたち(p.106;Morrisによる展望記事参照)は、ミリメートルの波長で捉えられた領域における連続したCOスペクトル線の画像を得た。この画像により、高速に動いている分子ガスの巨大なループが明らかになった。彼らは、このループが太陽表面に類似の磁気浮力効果によって放出されている事を示唆している。この磁気モデルを検討した結果、このメカニズムで高温ガス領域の大きな速度分散も説明できることが分かった。(KU,nk)
Molecular Loops in the Galactic Center: Evidence for Magnetic Flotation p. 106-109.
ASTRONOMY: Galactic Prominences on the Rise p. 70-71.

進化は長期間かけて徐々に起きるのか、急速に断続的に起きるのか(Gradual Versus Punctuational Evolution)

進化が急速に断続的に起きるというアイデアは異論が多い。しかし最近、進化が徐々に進行したのか、急激に起きたのかを分子系統樹上で検出することが可能となった。Pagelたち(p. 119)は、広範囲の生物種に渡って、種分化を伴う短期間の急激な進化が、今までに報告された遺伝子配列のヌクレオチド置換の約20%を占めることを示し、残りは、もっとゆっくりした進化に起因していることを示した。動物と比べて、この短期間で急速な進化は植物や真菌においてより一般的であるが、多分、倍数性やハイブリダイゼーションの割合が多いことが原因しているのであろう。(Ej,hE,nk)
Large Punctuational Contribution of Speciation to Evolutionary Divergence at the Molecular Level p. 119-121.

2回のタイミングを制御する2種のタンパク質の物語り(Tale of Two Two-Timing Proteins)

細胞は、多くのタンパク質を1回以上利用するが、転写制御因子のTFII-Iなどがこれに該当する。Caraveo たち(p. 122; およびPark & Dolmetschによる展望記事参照) は、TFII-Iが、細胞内カルシウム濃度を制御するのにそれ自体が2面的役割を持っているもう一つのタンパク質--ホスホリバーゼC-γ(PLC-γ)--と相互作用することによって、カルシウムが細胞内に入ることを阻止しているらしいことを見出した。PLC-γは、細胞内貯蔵所からカルシウムを遊離するセカンドメッセンジャーであるイノシトール-1,4,5-三リン酸inositol-1,4,5-trisphosphate(IP3)の産生を促進するだけでなく、膜カルシウムチャネルTRPC3とも相互作用し、原形質膜中へのチャネル挿入を促進する。TFII-IがPLC-γと相互作用することはTFII-Iのリン酸化に依存しているように見える。このリン酸化によってPLC-γとTRPC3チャネルの相互作用を防ぎ、そうすることで、カルシウムが原形質膜を通過して入ることを制限しているようだ。(Ej,so)
Action of TFII-I Outside the Nucleus as an Inhibitor of Agonist-Induced Calcium Entry p. 122-125.
CELL SIGNALING: The Double Life of a Transcription Factor Takes It Outside the Nucleus p. 64-65.

免疫細胞とガンの予後(Immune Cells and Cancer Prognosis)

ガンの免疫治療は、ワクチン接種によるものであれ、ガンを殺す細胞の養子移植によるものであれ、時として働かない免疫系は煽てられる様にして効率的に腫瘍を殺すことができるという前提に基づいている。Morgan たち(p. 126, 2006-8-31オンライン出版、Offringaによる展望記事参照)は、T細胞を遺伝的に改変して、選択された黒色腫腫瘍抗原に強い特異性をもつ、T細胞受容体(TCR)を発現させた。進行性転移性黒色腫患者から単離した末梢血リンパ球を、TCRの2つの鎖の遺伝子を含むレトロウイルスベクターによって導入した。再注入された後は、遺伝子導入細胞はそのまま保持され、元の17人の患者の内の最大細胞数を保持する2人は、確立していた腫瘍が顕著に退縮した。(Ej,hE)
Cancer Regression in Patients After Transfer of Genetically Engineered Lymphocytes p. 126-129.
CANCER: Enhanced: Cancer Immunotherapy Is More Than a Numbers Game p. 68-69.

局所性翻訳をつなぐ (Channeling Local Translation)

局所性で、活性依存性のある興奮の変化は、神経調節の多様な側面を受け持っていると考えられている。樹状突起の終末に広く局在化しているメッセンジャーRNAの翻訳は、ニューロンが活性シナプスの近くで興奮やシグナル処理機構を修飾する1つの方法である。Raab-Grahamたち(p. 144) は光変換フルオロフォアを使って、カリウムチャネルが局所的に樹状突起(デンドライト)に翻訳されることを部分的に示した。この局所的翻訳はNメチルDアスパラギン酸(N-methyl-D-aspartate・【略】NMDA) 受容体の活性化によって、ラパマイシン/ホスファチジルイノシトール3キナーゼはシグナル伝達経路の動物標的によって制御されている。(Ej,hE,so)
Activity- and mTOR-Dependent Suppression of Kv1.1 Channel mRNA Translation in Dendrites p. 144-148.

慢性消耗病の伝染(Chronic Wasting Disease Transmission)

慢性消耗病(CWD)は、シカとヘラジカで発見された致死的なプリオン病である。動物間のその伝染は、ウシの間でのいわゆる狂牛病のそれより、ずっとたやすいらしい。Mathiasonたちは、CWDに感染したシカ科の動物の唾液や血液などの体液中に、CWDを伝染させる感染性プリオンが存在することを実証した(p. 133)。この結果は、感染した動物の体液との接触についての注意の必要性を強調するものである。(KF)
Infectious Prions in the Saliva and Blood of Deer with Chronic Wasting Disease p. 133-136.

不安なマウスと不安な人間(Anxious Mice and Men)

抑うつ症や不安障害に寄与する遺伝子は未だに知られていないが、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子に最近発見された一塩基変異多型(【略】SNP)Val66Metが、ヒト集団によくある気分障害や不安障害に関係しているかもしれない。Chenたちは、BDNF Met/Metバージョンを発現するトランスジェニックマウスに、ヒトで記述されていたのと同様の脳の解剖学的変化と記憶の変化があると報告している(p. 140)。この対立形質の変異体はまた、ヒトにおける不安に関する表現型の特徴を再現するが、これら変異マウスは一般的に広く使われている抗うつ薬には応答しなかった。(KF,so)
Genetic Variant BDNF (Val66Met) Polymorphism Alters Anxiety-Related Behavior p. 140-143.

犯人を同定する(Identifying Culprits)

さまざまな神経変性条件は、脳における異常なタンパク質凝集の蓄積と関係している。Neumannたちは、ユビキチン関連疾患と筋萎縮性側索硬化症(ALS)によって特徴付けられる前頭側頭認知症(frontotemporal dementia)にユビキチン化された封入体中に長い間捜し求められてきた病気のタンパク質としてTDP-43を同定した(p. 130; またMarxによるニュース記事参照のこと)。TDP-43は、神経変性疾患の病巣にみられる封入体中に見出された、従来の「失われた」ミスフォールドタンパク質(misfolded protein )の一つであり、それが同定されたことは、認知症と運動ニューロン疾患の研究の助けとなるに違いない。(KF,so)
Ubiquitinated TDP-43 in Frontotemporal Lobar Degeneration and Amyotrophic Lateral Sclerosis p. 130-133.

運動させ続ける(Keep It Moving)

アクチンを基盤にしたミオシン・ファミリーの分子モーターは、同義遺伝子によってコードされている。哺乳類は、長い尾をもつ「アメーバ様」のMyo1eとMyo1f型をコードする2つの遺伝子をもっている。Kimたちはこのたび、細菌を貪食して殺す免疫細胞である好中球の活性をMyo1fがネガティブに制御していることを発見した(p.136)。Myo1fは食作用活性、或いは細菌を最終的に殺す免疫細胞における細胞内の酸化的群発に直接的に影響を与えているのではない。しかし、Myo1fを欠くマウス由来の細胞は、運動性を減少させ、好中球の刺激によるインテグリンを含む顆粒の開口分泌によって引き起こされる接着を増加させる。Myo1f欠乏はまた、細菌感染への感受性の増加を導いた。つまり、Myo1fは、インテグリン-依存的接着の調節を介して食作用細胞の移動を保証することによって、感染に対する宿主応答を制御している。(KF)
Modulation of Cell Adhesion and Motility in the Immune System by Myo1f p. 136-139.

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