AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 20, 2006, Vol.314


趣のあるCEST(CEST with Zest)

生物系の磁気共鳴イメージング(MRIやNMR)は、一般に水といった高度に豊富な化合物の局所的な濃度勾配を検知する。様々な分子プローブがイメージングのためのより特異的な領域や基質を標的にして用いられているが、往々にして感度を大きく犠牲にしている。Schroederたち(p. 446;Driehuysによる展望記事参照)は二つの技術を結び付けて、特異性と感度の双方をかなりの精度で達成した。彼らは、選択的に結合した標的のごく近傍に超分極したキセノン(Xe)をカプセル化した分子状の籠を作った。相対的に低いプローブ濃度を補償するために、彼らは、結合した原子と非結合の原子が位置を交換する際に、大量の非結合Xe原子のプールに由来する信号変化により結合したXeを検知している--化学交換飽和移動(chemical exchange saturation transfer;CEST) と名付けられた技術。著者たちは、プローブの籠へビオチンを付け、in vitroでのアビジン試料を選択的にイメージングする事でこの方法を実証している。(KU,so)
Molecular Imaging Using a Targeted Magnetic Resonance Hyperpolarized Biosensor p. 446-449.
CHEMISTRY: Enhanced: Toward Molecular Imaging with Xenon MRI p. 432-433.

もつれ量子エラー訂正(Entangled Quantum Error-Correction)

量子エラー訂正コードは、デコヒーレンスの問題を解決するために10年以上前に導入された。その時点では、量子情報処理の発展にとって克服できそうにもない障害と考えられていた。今日の量子エラー訂正コードは有効ではあるが、何分応用面が限られており、更に処理が遅い。Brunたち(p. 436,9月28日のオンライン出版、Gottesmanによる展望記事参照)は、もつれ-アシスト量子エラー訂正の理論を発表している。この理論は既存の安定化コード理論を一般化し、かつ単純化すると共に、デコヒーレンスからの量子情報を保護するための非常に効率的な符号化を可能にする全く新しい体系の可能性を開く技術である。既存のクラスの量子エラー訂正コードは、もつれ-アシスト量子エラー訂正コードという遥かに大きなクラスの特殊なクラスと見なされる。(KU,Ej)
Correcting Quantum Errors with Entanglement p. 436-439.
PHYSICS: Jump-Starting Quantum Error Correction with Entanglement p. 427-428.

偉大なる回転のなかで(In a Big Spin)

宇宙線となる粒子が高エネルギーを獲得しうる一つの道筋は、衝撃波による加速である。この衝撃波は、たとえば、超新星によって作り出されるものであり、これらには、我々の銀河系内部にある近くのものも含まれる。しかしながら、宇宙線の取る軌道は星間磁場によってごちゃ混ぜにさせられ、このため、それらの発生源は覆い隠される。Amenomori たち (p.439; Duldig による展望記事を参照のこと)はTibet Air Shower Array からの16年間のデータを用いて、天空の宇宙線分布をマッピングした。彼らは、天の川の白鳥座の渦状腕に付随する成分を含めて、明白な非等方性を見出した。その非等方性は、数十テラエレクトロンボルト(TeV) のエネルギーまで存在するのだが、非等方なスポットは300TeV 近くのエネルギーで消失する。この結果は、そのスポットが太陽圏よりは銀河系の磁場により発生し、天の川の中ではガスや星とともに回転していることを示唆している。(Wt)
Anisotropy and Corotation of Galactic Cosmic Rays p. 439-443.
ASTRONOMY: Cosmic Rays Track the Rotation of the Milky Way p. 429-430.

単一サイクルのアト秒パルス(Single-Cycle Attosecond Pulse)

単一サイクルの孤立したパルスが利用できれば、原子や分子中の超高速の電子の振る舞いを調べる事が可能となる。原子や分子において、強い場のプロセスがパルス強度プロフィルでの応答ではなく、アト秒パルスの電場によってもたらされる。Sansoneたち(p. 443)は、極紫外領域(〜36電子ボルト)のエネルギーを持つ孤立した単一サイクルの130アト秒のパルスを発生させた。偏光状態を変調した位相安定な5フェムト秒の赤外駆動パルスをアルゴンに満ちた気体セル中に放射すると、より高次の高調波が発生した。(KU)
Isolated Single-Cycle Attosecond Pulses p. 443-446.

曇りがちな未来(Cloudy Future)

大気中の二酸化炭素の濃度上昇により、地球温暖化と海洋の酸性化と言う二つの主要な影響がもたらされる。起こりえる悲惨な結果を回避するために、この人為的な二酸化炭素の放出を如何に迅速に減らす事ができるか、そして大気中二酸化炭素の増大による惨めな影響をいくらかでも緩和できるよう気候を「人為的に変える(geoengineer)」他の選択肢があるのかどうかは定かではない。Wigley(p.452、9月14日のオンライン出版;Kerrによるニュース記事参照)は、ある一つの方策を調べている。それは、成層圏内に硫酸エアロゾルの前駆体を放出し、これが雲の濃縮核となって、雲の被覆率を高めるエアロゾル粒子数の増加をもたらす。このことは、1991年のピナツボ火山の大噴火の後に起こったケースと同じである。正味の効果は、宇宙への太陽光の反射を増すことになるが、この方法は海洋の酸性化への対策としてのプラスの効果は期待できない。(KU,Ej)
A Combined Mitigation/Geoengineering Approach to Climate Stabilization p. 452-454.

風と水と湿地帯(Winds, Water, and Wetlands)

メキシコ湾岸に沿った湿地帯は、嵐による高潮から内陸地域を保護する助けとなっている。湿地帯の浸食がどんな結果に導くかは、ハリケーン、カトリーナやリタが2005年に上陸した後に痛ましい形で実証された。海岸の湿地帯は、洪水の発生期間中に川が氾濫した時に生じた堆積物によって、質量(mass)を増加させ、維持していると考えられてきた。Turnerたち(p. 449, 9月21日オンライン出版)は、ハリケーンがもたらす堆積物が、実際には主要なプロセスであることを示している。この発見は、この地域における湿地帯の再生プロジェクトの実行に対して大きな影響を与えるにちがいない。(TO,nk)
Wetland Sedimentation from Hurricanes Katrina and Rita p. 449-452.

ウイルスの宿主活用(Viral Host Exploitation)

ヒト免疫不全ウイルス1型 (HIV-1)はレトロウイルスの一種で、逆転写によってDNAを産生し、これが核に入って宿主のDNAに組み込まれる。この後者のプロセスはウィルス(のゲノム)にコードされる酵素インテグラーゼによって触媒されるが、宿主のゲノム上のどこに潜伏しているかわからない事が治療の主な障害となっている。転写コアクティベーターであるLEDGF/p75 (p75)はHIV-1 インテグラーゼタンパク質に結合することで細胞のプロテアソーム機構による分解から身を守る。Llano たち(p. 461, 2006年9月7日、オンライン出版)は、ウイルスの組み込みにおいて、p75がインテグラーゼ と染色質を繋ぎ止めることによって重要な役割をしていることを示した。バキュロウイルス(baculovirus) Autographa californica複製の場合、Goleyたち(p. 464) は、このプロセスにはアクチン細胞骨格が感染細胞の核へ再分布されることが必要であることを明らかにした。Autographa californicaは、宿主のアクチンの核形成をするArp2/3複合体を核に取り込み、これをウィスコット・オールドリッチ症候群 (WASP)様 ウイルスタンパク質であるp78/83によって活性化することで核アクチンの組立てを誘発する。核の中でのアクチンの組立てのためのこの予期しない役割が他の病原体の作用となっているのであろう。(Ej,hE,so)
An Essential Role for LEDGF/p75 in HIV Integration p. 461-464.

タンパク質分解と増殖制御(Protein Degradation and Growth Rerulation)

タンパク質の制御された分解は細胞の制御機構においては根本的に重要な機能である。Dorrello たち(p. 467;およびSonenberg と Pauseによる展望記事参照)はユビキチンリガーゼSCFβTRCPの結合パートナーを探し、プログラム化された細胞死タンパク質4(PDCD4)を検出した。成長因子刺激タンパク質キナーゼS6K1はPDCD4をリン酸化し、SCFβTRCPによってユビキチン結合を促進することで結果として分解される。PDCD4の分解は翻訳開始因子の抑制効果を解除し、タンパク質合成を増強する。このように、PDCD4の制御された分解によって細胞増殖と細胞サイズを制御しているように見える。(Ej,hE)
Dynamic Nuclear Actin Assembly by Arp2/3 Complex and a Baculovirus WASP-Like Protein p. 464-467.
S6K1- and ßTRCP-Mediated Degradation of PDCD4 Promotes Protein Translation and Cell Growth p. 467-471.
SIGNAL TRANSDUCTION: Protein Synthesis and Oncogenesis Meet Again p. 428-429.

欠陥ミトコンドリアの修理(Fixing Faulty Mitochondria)

ミトコンドリアの機能障害はヒトの多くの病気や加齢による病因の鍵を握っている。病気の原因となるミトコンドリアの転移RNA (tRNA)変異は治療戦略の基本的な目標である。Mahata たち(p.471)は、原生動物である寄生虫のリーシュマニア(Leishmania)に見られるtRNAの効果的移入器官が、サイトゾルtRNA補体のヒト・ミトコンドリア内への移入を誘発するために利用され、変異細胞中のミトコンドリアの機能を救出することを見出した。(Ej,hE)
Functional Delivery of a Cytosolic tRNA into Mutant Mitochondria of Human Cells p. 471-474.

記憶に対する遺伝子の寄与(Genetic Contribution to Memory)

ヒトの記憶は多遺伝子性の形質である。Papassotiropoulosたちは、スイスに住む対象者のグループに対して、記憶テストにおける成績と関連付けるために、50万以上の遺伝子多型に関するゲノム-ワイドパネルを分析した(p. 475)。KIBRAと呼ばれるニューロン・タンパク質の多形性において、ある関連が見出されたが、このKIBRAは、シナプスの機能に関わっているとされてきたものである。この関連はまた、米国のあるグループとスイスの第2のグループにおいても存在していた。KIBRAは記憶を制御する脳の領域において発現するもので、記憶検索の際の脳の活性はKIBRA対立遺伝子と相関している。(KF)
Common Kibra Alleles Are Associated with Human Memory Performance p. 475-478.

日の当たらない深海に生きる(Living Deep in the Sunless Sea)

硫酸塩を還元する細菌が、深さ2.8キロメートルの金鉱を掘削中に発見された水脈から単離された。この微生物は数千万年もの間、光合成に由来した栄養分なしに、地質からの水素と硫酸塩の資源だけによって生き延びてきたらしい。Linたちは、この地下水の化学組成について、その明らかな微生物学的組成や関与していた地質学的また生物学的プロセス、さらにそうした地下のコミュニティーが持続しうる率について、報告している(p. 479)。(KF)
Long-Term Sustainability of a High-Energy, Low-Diversity Crustal Biome p. 479-482.

免疫応答の制御(Immune Response Regulation)

放線菌の熱ショックタンパク質は、放線菌感染への宿主応答が免疫病理を防ぎつつ病原体の播種を制御するよう精密にバランスをとるというそのやり方に関係している。放線菌のタンパク質Hsp70(myHsp70)の恒常的な過剰発現は、マウスモデルにおいて放線菌の除去を増強し、Hspsは抗腫瘍性と抗ウイルス性免疫応答を促進する。myHsp70を適用されたヒトの樹状細胞は、強力な抗原特異的な細胞障害性のT細胞応答を生み出すが、これはカルシウムシグナリングカスケードに依存するものである。Flotoたちはこのたび、このmyHsp70の重要な機能がHIV共同受容体CCR5を介したシグナル伝達に依存することを示している(p. 454)。(KF)
Dendritic Cell Stimulation by Mycobacterial Hsp70 Is Mediated Through CCR5 p. 454-458.

最適者の酵素学(Enzymology of the Fittest)

isopropylmalate脱水素酵素(IMDH)は、必須アミノ酸ロイシンの合成にとって必要とされる。すべてのIMDHsは補酵素として、NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドの酸化型)を利用する。NADリン酸(NADP)を用いるように作り出された大腸菌IMDHのある変異体バージョンは、野生型酵素よりも適応度が少なかっが、それは細胞内に高濃度に存在している還元型のNADP(NADPH)による副生品による強度の阻害のためである。Millerたちは、この制約を打ち破り、適応度を高めるNADP利用IMDHのバージョンを求めてスクリーニングを行なった(p. 458)。適応度の高い変異体のうち、NADPの速度定数k[cat]を高め、NADPとNADPHの親和性の相関をなくし、NAD-NADP性能のトレードオフを破るものは一つもなかった。代わりに、変異体IMDHの発現を増加させ、NADPとNADPHに対するその親和性を減少させることによって、適応度は増加した。(KF,hE)
Direct Demonstration of an Adaptive Constraint p. 458-461.

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