AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 25, 2006, Vol.313


植物と昆虫の生態学的な過去と現在(Ecology Then and Now)

植物とそれを食べる昆虫は複雑な、かつ進化的な生態系を形成している(Kitchingによる展望記事参照)。Wilfたち(p. 1112)は、白亜紀-古第三紀の絶滅により、おそらく数百万年の間植物-昆虫の共進化が複雑に込み入ったものになった事を示している。植物の絶滅後のある場所では、種が限られて多様な昆虫がその葉を食べる。一方、植物の種が豊富だと限られた種の昆虫の食となる。このように、ある場所では植物は多様な昆虫の餌とならずに進化し、他方では、昆虫は植物の多様性が少ないにもかかわらず進化したらしい。これとは対照的に、Novotnyたち(p. 1115)は、熱帯森林と温帯森林での系統学的には類似の一連の植物に関して、現在の昆虫のホスト特異性と多様性を比較検討した。熱帯森林における多数の草食昆虫種の共存は、より狭いニッチな関係を反映しておらず、その代わりに草食昆虫種の豊富さが植物の多様性によってもたらされている事が明らかになった。(KU,Ej)
ECOLOGY: Crafting the Pieces of the Diversity Jigsaw Puzzle p. 1055-1057.
Decoupled Plant and Insect Diversity After the End-Cretaceous Extinction p. 1112-1115.
Why Are There So Many Species of Herbivorous Insects in Tropical Rainforests? p. 1115-1118.

過剰のパラジウムを持つサンドイッチ化合物(A Sandwich with Extra Palladium)

ウィルキンソンがフェロセンの構造解析を行ってからこの50年間に、化学者たちは周期律表のほぼ全ての金属を平面状の環式芳香族の炭化水素化合物の間にサンドイッチ形状に取り込むことが出来た。しかしながら、隣接する環の間に有効スペースがあるにもかかわらず、このサンドイッチ化合物に1個以上の金属センターを取り込むことが出来なかった。Murahashiたち(p. 1104)は、トロピリウム環の間にサンドイッチされた3個のパラジウム原子を持つ化合物と、他にナフタセン環の間にサンドイッチされた5個のパラジウム原子を持つ化合物を合成して、その構造を解析した。その構造は分離した環状の分子と層状の金属原子間の興味ある境界事象を示している。(KU)
Discrete Sandwich Compounds of Monolayer Palladium Sheets p. 1104-1107.

粒界における超流動固体の流れ?(Supersolid Flow in Grain Boundaries?)

液体の二つの貯槽が一緒にされると、それらの水面は共通の水面を持つ平衡状態になるであろう。最近の実験では、固体の 4He において、「超流動固体」の挙動の証拠が見出されている。この挙動においては、4He の固体を通しての超流動体のような物質の流れが観測されている。いかにしてある固体が超流動体のように流れうるのかは、論争の的となってきた。Sasaki たち (p.1098, 8月3日のオンライン出版;8月4日の Cho によるニュース解説をも参照のこと) は、固体ヘリウムの障壁で隔てられた超流動体4He の二つの貯槽間の物質の流れを再調査して、固体中の粒界に沿っての超流動が、観察された物質輸送を説明できるというモデルを提案している。(Wt)
[訳注]超流動固体状態[supersolid state]
結晶状態は物質の実空間での秩序であるのに対し,超流動状態は運動量空間での秩序である。したがって1つの物質中で両者が共存することはないように思われる。しかし原子が結晶格子点の間を頻繁に飛び移りできる場合は,結晶でありながら超流動性を示す可能性が理論的に指摘されている。この共存状態を超流動固体状態,あるいは超固体状態とよぶ。超流動固体状態は,原子質量が軽く零点振動効果の大きい結晶で起こりやすいとされ,固体ヘリウム4がその最有力候補である。
Superfluidity of Grain Boundaries and Supersolid Behavior p. 1098-1100.

塩気を抜く(Freshen This)

北半球のノルディック亜極海および大西洋亜極海は、過去半世紀の間に塩分が少なくなっており、それに対しての必要な淡水の供給源における問題について、Petersonたち(p.1061)は述べている。彼らは、海洋上の降水、河川からの流出、氷河の融解、そして海氷の融解が、1936年から1955年の基準値と近年とを比較してどの程度変化してきたのかを調べた。この知識は、北緯の高緯度地方における降水量の継続的な増加を予測する観点、および海洋循環と地球規模の気候とを調整するというこの地域が果たしている重大な役割の観点から大変重要である。(TO)
Trajectory Shifts in the Arctic and Subarctic Freshwater Cycle p. 1061-1066.

ニューロンの刺激と記録(Neuronal Stimulation and Recording)

ニューロンの電気生理学について見直したり、手直しすることは時に有用であろう。有望な方法の一つに小さな電界効果トランジスタ(FET)の利用がある。Patolsky たち(p.1100)はp-型とn-型のシリコンナノワイヤを並べ、ポリリジン(polylysine)のパターン形成を利用して、ワイヤ上にラットの皮質ニューロンが、単一のニューロンの樹状突起や軸索が生理的培地内で軸索に沿って50箇所に至るまで刺激や問合せを受けたりできるように、配列を構成した。通常のガラス電極やナノワイヤトランジスタによって誘発される活動電位はほぼ同等であり、ナノワイア接合部を利用して信号を抑制したり伝播速度を測定した。(Ej,hE)
Detection, Stimulation, and Inhibition of Neuronal Signals with High-Density Nanowire Transistor Arrays p. 1100-1104.

遊走する月たち(Migrating Moons)

最近発見された冥王星(Pluto)の2つの月は、最大の衛星であるカロン(Charon)の影響を受けて軌道内を遊走しているようだ。2つの月の軌道は円形で、カロンの軌道と共通の平面内にあることから、これらが別々に捕らえられたのではなく、衝突によって一緒に出来たことが推察される。しかし、これら3つの衛星はみんな冥王星から遠距離にあり、これらが衝突で一緒に出来たとしても、外側に向かって遊走していったに違いない。Ward と Canup (p. 1107, 2006年7月6日オンライン出版、および、Lissauerによる展望記事参照)は、カロンを作った衝突によって、2つの月も同時に出来たと提案した。この系が拡大するとき破壊を免れるために、2つの小さな月はカロンと同時回転共鳴(corotation resonance)状態にあった。同時回転型の共鳴は、海王星の環弧(arc)の束縛条件と類似しており、捕獲された後の衛星の離心率は変化してないであろう。(Ej)
Forced Resonant Migration of Pluto's Outer Satellites by Charon p. 1107-1109.
ASTRONOMY: Growing Apart in Lock Step p. 1054-1055.

緩慢なメタン中の炭素同位体成分の変化(Moderate Methane Change)

地球規模での炭素サイクルの有用なトレーサの一つであり、強力な温室効果ガスであるメタンの大気中濃度は、過去80万年にわたる地球の歴史の寒冷期と温暖期の間で劇的に変化したが、その変化の原因はいまだ不明である。Schaeferたち(p. 1109)は 西グリーンランドの氷を解析して、最終氷期の終末における大気中メタンの安定な炭素同位体成分に関する記録を研究した。この最終氷期の終末においては、200年に満たない間に大気中のメタン濃度が500ppb(part per billion)から750ppbへと増加した時期である。メタンの炭素同位体成分は驚くほど変化が小さく、この事はメタンが海洋のメタンクラスレートからではなく、熱帯の湿地帯から遊離したものである事を暗示している。(KU)
13C for Atmospheric CH4 Across the Younger Dryas-Preboreal Transition p. 1109-1112.

学習と記憶をLTPと関連づける(Linking LTP with Learning and Memory)

シナプス長期増強(LTP)の現象は、海馬において30年以上も前に発見された。海馬でのLTPは、学習により誘導されるものと一般的には考えられているが、直接的には何ら証明されていない(Blissたちによる展望記事を参照)。Whitlockたち(p.1093)は、一回試行の抑制性回避学習の前後で、海馬の領域CA1の複数の部位からの電場電位を記録した。電場電位が電極上で上昇し、これらが学習現象と特異的に関連している可能性が示された。Pastalkovaたち(p. 1141)は、細胞浸透性のタンパク質キナーゼ阻害剤を使用して、自由行動動物における海馬LTPを逆転させた。キナーゼ阻害剤が強化の中間期にのみ注入された場合であっても、逆転により、場所回避タスクにおいて事前に獲得された長期記憶の完全な破壊が付随して生じた。この結果から、LTPは空間的な情報を蓄積するために必要なものであることが示唆される。(NF)
NEUROSCIENCE: Enhanced: ZAP and ZIP, a Story to Forget p. 1058-1059.
Learning Induces Long-Term Potentiation in the Hippocampus p. 1093-1097.
Storage of Spatial Information by the Maintenance Mechanism of LTP p. 1141-1144.

DNA損傷に対処する(Dealing with DNA Damage)

細胞は、生物全体に対して与えるDNA損傷の影響を少なくするため、DNA損傷に対応できる必要がある。Dornanたち(p. 1122)は、タンパク質キナーゼATMに対する新規の標的を見いだした。このタンパク質キナーゼATMが変異した場合に、患者が電離放射線に対して感受性になり、そして癌のリスクが高まる疾患である毛細血管拡張性運動失調を引き起こす。ATMはDNA損傷に応答して活性化され、そして中心的な腫瘍抑制タンパク質p53のユビキチン化および分解を調節するE3ユビキチンリガーゼであるCOP1をリン酸化する。このリン酸化は、COP1の自己活性化を引き起こし、それ自体の自己ユビキチン化および結果として生じる分解を媒介し、p53の蓄積を引き起こすようである。組織培養においては、このリン酸化現象は、DNA損傷剤に反応するp53依存性腫瘍抑制活性のために必要らしい。(NF)
ATM Engages Autodegradation of the E3 Ubiquitin Ligase COP1 After DNA Damage p. 1122-1126.

腸内フローラを把握する(Getting to Grips with Gut Flora)

すべての哺乳動物は、栄養素を利用できる形に処理するための助けを受けるため、腸管内に棲息する共生微生物のフローラに依存しているが、これらのバクテリアが腸管内の封じ込めから逃れると、それらのバクテリアは有害な炎症性反応を引き起こす可能性がある。哺乳動物は腸内フローラを監視するため、殺菌性ペプチドのディフェンシン、ライソザイム、およびレクチンを含むいくつかの適応性システムおよび生得性システムを利用する。Cashたち(p.1126;Stroberによる展望記事を参照)は、炭水化物-結合タンパク質--レクチン--の発現が、陰窩中のパネート細胞に由来する腸管微生物個体群により誘導されることを見いだした。このレクチンは小腸において最も高頻度で発現されるタンパク質の一つであり、ペプチドグリカンを認識し、そして直接的に殺菌性の性質を有する。実際に、炎症性腸疾患の患者は、C-型レクチンレベルの発現が上昇する傾向にある。(NF)
Symbiotic Bacteria Direct Expression of an Intestinal Bactericidal Lectin p. 1126-1130.
IMMUNOLOGY: Unraveling Gut Inflammation p. 1052-1054.

魚の眼(Fish Eyes)

細胞運動と分子的要因が器官の発生を方向付けている。Remboldたちは高解像度の生体内イメージングを用いて、野生型、変異型およびモザイク型の魚における眼の形態形成を単細胞レベルで再構成した(p. 1130)。レチナール前駆細胞および前脳細胞と推定される細胞を表す数百の細胞が、同時に追跡された。この解析によって、レチナール前駆細胞が眼胞外反の間、活発に遊走していること、また眼胞は組織の移動によってではなく個々の細胞運動によって形成されることが示された。(KF,hE)
Individual Cell Migration Serves as the Driving Force for Optic Vesicle Evagination p. 1130-1134.

糖尿病―解きほぐされる物語(Diabetes--An Unfolding Story)

肥満は、タンパク質のフォールディングと輸送に関与する細胞内膜ネットワークである小胞体(ER)におけるストレスの引き金となる。このERストレスが、次にインスリン・シグナル伝達を破壊する。Ozcanたちは、「化学シャペロン」と呼ばれる、ER機能を正常化させる小分子薬剤のあるクラスが、2型糖尿病に対する治療上の効果をもつかどうかを調査した(p. 1137)。そうした薬剤は、遺伝的に肥満で糖尿病性のあるマウスにおける高血糖を修正し、インスリン感受性を回復することが明らかになったが、このことは、さらなる研究によりヒト糖尿病に対する強力な治療法をもたらしうる利点があることを示唆するものである。(KF,hE)
Chemical Chaperones Reduce ER Stress and Restore Glucose Homeostasis in a Mouse Model of Type 2 Diabetes p. 1137-1140.

植物細胞のシグナル伝達(Plant Cell Signaling)

植物のステロイドホルモンであるブラシノステロイドは、膜結合型受容体との相互作用を介して細胞膜において認識される。これに引き続くシグナル伝達イベントが、そのシグナルを核へと輸送する。WangとChoryはこのたび、細胞膜での受容体の受容性を制御している、新しい相互作用パートナーを明らかにした(p. 1118,7月20日オンライン出版)。ブラシノステロイドが現れて系を活性化するまで、BKI1はシグナル伝達経路を比較的静かに保っている。(KF)
Brassinosteroids Regulate Dissociation of BKI1, a Negative Regulator of BRI1 Signaling, from the Plasma Membrane p. 1118-1122.

転写性遺伝子サイレンシングの仕組み(The Art of Transcriptional Gene Silencing)

RNA干渉(RNAi)は、相補的な小さな干渉(si)RNAを介して配列をサイレンスすることを狙う。siRNAはAgoタンパク質に結合されるが、そのうちのいくつかは標的RNAを「スライス」し、不活性化させることがある。RNAiは、転写後のレベルと転写レベルの双方で遺伝子発現をサイレンスする。転写後の遺伝子サイレンシングでは、siRNAがメッセンジャーRNAを標的にする。転写性遺伝子サイレンシング(TGS)におけるsiRNAの標的は、DNAでも、それによって産生されたRNAのどちらでもありえた。Irvineたちは、スライスされないよう保護され、孤立した分裂酵母のAgoタンパク質に変異を起こした(p. 1134)。この変異体タンパク質は、TGS活性を非常に減少させたが、これは、siRNAが転写を消すようコードするDNAよりも新生RNAと相互作用していることを示唆するものである。さらに、TGSの隣接遺伝子への伝播には、標的転写物および「スライス(切断)」された新生転写物の読み過ごし転写(read-through transcription)が必要なのである。(KF,hE)
Argonaute Slicing Is Required for Heterochromatic Silencing and Spreading p. 1134-1137.

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