AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 1, 2006, Vol.313


廊下の効果の確認(Corridor Confirmation)

生息地域が細かく分離される現象が最近多数生じているが、これは生物多様性に対する最大の脅威の一つである。これを緩和する方法として、分離された生息地を「廊下」で結ぶという提案がある。この考えは理論的には以前から言われているが大規模な実験は行われたことが無かった。長い葉の松林中にオープンスペースが点在する50ヘクタールの再現実験地を利用し、これを類似のオープンな廊下で繋ぎ、Damschen たち (p. 1284)は、廊下によって草本植物の種類が豊富になることを示した。この発見は、廊下による種の保存や景観管理の道具としての効果を確認するものである。(Ej,hE)
Corridors Increase Plant Species Richness at Large Scales p. 1284-1286.

レチナールを操作する(Steering Retinal)

量子力学に固有の波動性と粒子性という2面性により、弦の振動と同じように分子転位の反応経路に沿っての様々な状態がお互いに干渉する。光化学反応を引き起こす光パルスにおけるスペクトル成分の位相と振幅を変調することで、状態中の波の干渉を強めたり、壊すことで種々の反応軌跡に沿っての低分子を今や操作することが可能である。Prokhorenkoたち(p.1257, Cherguiによる展望記事参照)はこの方法により、タンパク質バクテリオロドプシン中のレチナールの異性化反応(視覚応答と密接に関連する転位)の効率を20%程度高めたり、減らしたりすることが出来ることを示している。タンパク質は無数の自由度の中をランダムに摂動しており、これが波の位相をランダム化して干渉効果をキャンセルするものと考えられるが、このレチナールに見られる変化の大きさは著しいものである。(KU)
Coherent Control of Retinal Isomerization in Bacteriorhodopsin p. 1257-1261.
CHEMISTRY: Controlling Biological Functions p. 1246-1247.

リン(P2)を穏やかに作る(P2 Gently Generated)

窒素と酸素の原子は2原子分子として最も安定であるが、より重い同属種であるリンとイオウは中心の電子の反発により多重結合が阻害され、その代わりに多原子クラスターとして存在しがちである。Piroたち(p. 1276)は65℃でP2を遊離するニオブ前躯体を合成し、これを用いる事でこの異常な分子の溶液層での化学研究が容易となった。さもないと、1,000℃を越えるP4クラスターの分解条件でしかP2を研究することが出来ない。著者たちは、二つのシクロヘキサジエン分子をカップリングさせる一連のデイールズ-アルダー反応により、P2が捕獲できること、そしてこのP2が反応性の三重結合の存在と一致することを示している。(KU,Ej)
Triple-Bond Reactivity of Diphosphorus Molecules p. 1276-1279.

作用条件化での触媒のスナップショット(Snapshots of Working Catalysts)

リン酸バナジウム(VPO)は、n-ブタンの無水マレイン酸への部分酸化の触媒として工業的に利用されている。この無水マレイン酸は樹脂や潤滑剤といった製品の出発物質として用いられている。しかしながら、この反応は高温(400℃を越える)で進行し、このような高温条件で安定なVPO相は室温条件とは異なる別の相に変化し、それ故にこの触媒を理解するには触媒の作用条件近傍で研究する必要がある。Conteたち(p. 1270)はレーザラマン分光や電子常磁性共鳴分光と同時に粉末x-線回折を用いて、温度の関数としてVPO相の変化と、触媒上に存在する種々の反応物と生成物とを一緒に測定した。彼らは、反応物の存在により、ω-VOPO4が急激にδ- VOPO4へと変化するが、初期のω-VOPO4相の形成が触媒活性の増加と関連するV5+の反応部位を作っていると結論している。(KU)
-VOPO4 in Vanadium Phosphate Catalysts p. 1270-1273.

小さなフッ化炭素のフラスコ(Tiny Fluorous Flasks)

フッ化炭素は、それらの可溶化特性が水や従来からの有機溶媒のどちらの特性ともまったく異なるため、化学反応や分離の溶剤として、ますます適用されてきている。Sato たち (p.1273; Gladysz による展望記事を参照のこと) は、極性を有する有機溶媒内にナノメートルのスケールのフッ化炭素の環境を作り出した。パーフルオロアルキルの尾部を持つ矢の形をしたリガンドが、ジメチルスルホキシド中でパラジウムイオンと共に自己組織化してシェルを形成し、フッ素化されたた鎖が中心へと内向きに配置している。これらの鎖の長さを変えることにより、そのシェルのサイズを調整することで、液体状の乱れた2〜6個のパーフルオロオクタンの分子相を閉じ込めることが出来る。このシェル構造は分光学的に、また、結晶学的に特徴付けることができた。(Wt)
Fluorous Nanodroplets Structurally Confined in an Organopalladium Sphere p. 1273-1276.
CHEMISTRY: Fluorous to the Core p. 1249-1250.

屈曲の周り(Round the Bend)

火山性ハワイ列島は、太平洋をまたがる約6000kmに伸びた海山の長い列の中に位置する。ハワイ火山は、南方に向かって動いているマントル中のマグマの軌跡(locus)に対する太平洋プレートの相対的な動きによって生成されたと考えられてきた。キラウエア山から西の方向約3500kmに海山列が大きく折れ曲がっている箇所がある。SharpとClague たち(p.1281;Stockによる展望記事参照)は、 8つの火山の40Ar/39Arの年代を計測することで、ハワイ・エンペラー海山列が形成された時間列を推論した。それら海山の年代から、屈曲地点の平均年代は5000万年±100万年(50±1 Ma)であり、以前の推定値よりも古いことがわかった。北方に向かって増加している年代は、移動の速度がかなり変化してきたことを示している。これらの結果から、太平洋プレートの動きはこのときに確かに変化したことを示しており、それは太平洋プレートの境界周りの沈み込みゾーンの発達と同時に起こった。(TO)
50-Ma Initiation of Hawaiian-Emperor Bend Records Major Change in Pacific Plate Motion p. 1281-1284.
GEOCHEMISTRY: The Hawaiian-Emperor Bend: Older Than Expected p. 1250-1251.

直接配達(Direct Delivery)

マラリア寄生虫の哺乳類宿主中でのライフサイクルは、肝臓が特異的開始段階となる。ここでは蚊によって運ばれたスポロゾイト(sporozoites)が肝細胞に侵入し、ここで赤血球に侵入するメロゾイト(merozoites)に発育する。メロゾイトは結果的に血流に入ることになるが、肝細胞から肝臓類洞の管腔へと、どのように移動するかは推測の域を出なかった。寄生虫のげっ歯類での形態を研究する中で、Sturm たち(p. 1287; Cowman and Kappeによる展望記事参照)は、メロゾイトが肝細胞の死を誘発すると同時に、瀕死細胞の食作用の信号を出す可能性のある正常な合図を抑制することを見出した。この変化によって膜に結合した感染細胞の拡張が可能となり、著者がメロゾーム(merosome)と称するこの細胞の芽を摘み、メロゾイトを直接血流に送り届ける。このように、寄生者は、瀕死の感染細胞への宿主の応答を修飾し、生存と複製を、より確実にする。(Ej,hE)
Manipulation of Host Hepatocytes by the Malaria Parasite for Delivery into Liver Sinusoids p. 1287-1290.
MICROBIOLOGY: Malaria's Stealth Shuttle p. 1245-1246.

二つの螺旋の物語

結晶成長が簡単にできるルートの一つとしては、螺旋転位で表面に原子が付着する場合である。Hannonたち(p.1266; Voorheesによる展望参照)は低エネルギー電子顕微鏡を用いて、1100℃で二つのシリコン面、(111)面と(001)面の原子成長を研究した。(111)面上においては、古典的モデルである螺旋状パターンに従って成長はスムーズに進行していた。しかしながら、(001)面においては、成長はS型に波打ったプロファイルで螺旋状に沿って進行し、そのステップ状のエッジが、ほぼラチェットのような動作をして回転していた。この違いは、(001)面の二つの可能な面でできる界面によって作られる不均一なひずみ場が原因となって起き、その成長プロファイルが連続体ステップ・モデルで詳細に解析された。(hk,Ej)
Anomalous Spiral Motion of Steps Near Dislocations on Silicon Surfaces p. 1266-1269.
MATERIALS SCIENCE: Step Dances on Silicon p. 1247-1249.

日のあたるところへ(Out of the Shadows)

疫病菌属の種はOoemycetesであり、植物界、動物界、および真菌界とは進化的に異なるストラメノパイル(Stramenopila)下界に属する。重要なことは、Ooemycetesを含む非光合成ストラメノパイルが、進化のある時点において、その細胞質遺伝子を喪失したものと考えられている点である。Tylerたち(p. 1261)により提示された2種の疫病菌属ゲノム配列から、それらの祖先が、実際に光合成内部共生体を保持していたことを示す説得力のある証拠が示された。ゲノムはまた、それぞれのゲノムが約350個の遺伝子からなり、そしてこれらの寄生種とそれらの宿主とのあいだで発生する強い共進化のプロセスを反映する感染-関連遺伝子についての驚くべき多様性を示した。(NF)
Phytophthora Genome Sequences Uncover Evolutionary Origins and Mechanisms of Pathogenesis p. 1261-1266.

ヒトの進化的近接性を遺伝的に測定(Genetic Measures of Human Evolutionary Proximity)

ヒト系統-特異的なコピー数の顕著な増加を示し、多コピーの未知の機能ドメイン(DUF1220)をコードする遺伝子配列が、Popescoたち(p. 1304)により同定された。これらのドメインはヒト系統において顕著な増幅過剰を示し、一般的にはヒトに対する霊長類の種の進化的な近接性の関数としてコピー数が増加する。抗体の研究から、DUF1220配列は新皮質構造と特定のニューロンサブセット中において、多量に発現されていることが示された。これらの配列は認知経路とシナプス機能について重要なものであろう。 (NF)
Human Lineage–Specific Amplification, Selection, and Neuronal Expression of DUF1220 Domains p. 1304-1307.

偏見の重さ(An Ounce of Prevention)

固定観念にとらわれ易い人は、固定観念が顕著であれば余計これに同調し易い;例えば、この種の人たちは、問題解決型のテストではなく、数学のテストであると判ったとき、男性よりも女性の方の得点が低い、と思い易い。Cohen たち(p. 1307; Wilsonによる展望記事参照)は、 2つの野外調査の結果を報告している。ここでは、学年の初めに、ちょっとした価値の再確認を行うことで、負のイメージの固定観念を正し、この影響を調べた。7年生のクラス内で15分間の先入観を除くための再確認(reaffirm)課題をさせる。この作業を行ったクラスのアフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人の生徒との平均得点ギャップは40%も減少し、このレベルをずっと保持し続けた。アメリカでの社会的問題となっている人種間のテストの差は、適切な時期に社会心理的介入を行うことで、改善できることを示している。(Ej,hE)
Reducing the Racial Achievement Gap: A Social-Psychological Intervention p. 1307-1310.
BEHAVIOR: The Power of Social Psychological Interventions p. 1251-1252.

脳領域と社会組織化(Brain Regions and Social Organization)

ヒトが他者の精神状態を理解できること(心の理論、theory of mind)については、一般的に合意が得られており、そして現在のコンセンサスでは、我々はこの点において独特な存在であるということである。それにもかかわらず、他の動物が、社会的知性のいくつかの側面を有していることが示されてきたが、しかしながら、何が明らかでないのかについては正確には誰にも分からない。Rudebeckたち(p. 1310)は、前帯状領域と眼窩前頭領域という2箇所の隣接した皮質領域の機能的な寄与を調べるため、サルにおいて損傷実験を行った。眼窩前頭領域で処理される、たとえば動いているヘビなどの他の強力な刺激とは異なり、他のサルの顔などの明確な社会的刺激に対して順応するためには前帯状領域の脳回が必要とされることを、彼らは見いだした。(NF)
A Role for the Macaque Anterior Cingulate Gyrus in Social Valuation p. 1310-1312.

心をともに保つ(Holding the Heart Together)

心臓発生における分子機構を解明するために、Yiたちは、ショウジョウバエ変異体に対する遺伝的スクリーンを用いた(p. 1301、7月20日にオンライン出版)。心臓の心臓芽細胞層が心臓周囲細胞の隣り合う層に接着していない5つの変異体が観察された。この表現型は「壊れた心臓(broken hearted)」という標識を付けられた。遺伝子クローニングによって、この表現型が、HMG-CoA還元酵素の下流、ゲラニルゲラニル合成経路の要素をコードする遺伝子の変異から生じるということが示された。スタチンはこの経路を抑制するもので、発生の間にスタチンによって処置すると同様の表現型が生み出された。ゆえに、イソプレノイド生合成機能は、心臓芽細胞の心臓周囲細胞への異常な接着のゆえに心臓形成における重篤な欠損を引き起こすGタンパク質Gγ1のゲラニルゲラニル化における欠損と一緒になって、心臓発生において機能している。心臓形成のさまざまな機構は保存されているので、こうした知見は、哺乳類の心臓発生と先天性心疾患、さらには心臓機能に対するスタチンの影響について説明を与えてくれる。(KF)
1 p. 1301-1303.

いまや双方向に(Both Ways Now)

糖転移酵素は、炭水化物を生物学的分子に付着させると知られているが、一方向性の触媒であると考えられてきた。このたび、Zhangたちは、抗がん性化合物calicheamicinおよび抗生物質バンコマイシンの生合成に関与する糖転移酵素がまた、それら天然生成物からヌクレオチド糖を除去することもできるということを示している(p. 1291)。糖転移酵素反応のこの可逆性は一般的であるらしく、薬剤抵抗性などの問題に取り組むために複雑な天然生成物に付着した重大な糖残基を変化させる、新たな方向を示唆するものである。(KF)
Exploiting the Reversibility of Natural Product Glycosyltransferase-Catalyzed Reactions p. 1291-1294.

一対のPlanemo(Planemo Pair)

褐色矮星とは、燃える水素によって輝くには小さ過ぎる極度に薄暗い星である。いくつかは低質量であるため、木星のような巨大なガス惑星にかなり似ている。こうした惑星のような質量物体―すなわち「planemo」は、自由に浮遊しており、いかにして形成したかは知られていない。それらは星と同じように、収縮ガス雲が分裂して凝縮したものなのか、それとも惑星系からはじき出されたものなのだろうか? 手がかりの1つが、JayawardhanaとIvanovによるplanemo対の発見によって得られた(p. 1279)。この2つの星は重力によって互いに弱く結ばれて2星間の間隔が大きな連星を形成しており、つまり、動的なプロセスによってできあがったというより、原位置でガス雲から形成されたという方がふさわしい。この2つのplanemoのスペクトルと色は似ていて、これもまたそれらが一緒に形成されたことを支持している。(KF,nk)
Discovery of a Young Planetary-Mass Binary p. 1279-1281.

右はきつく、左はゆるく(Righty Tighty, Lefty Loosey)

微生物(また腫瘍細胞)が薬剤の効果をそぐために利用する主要な機構の1つは、薬剤を細胞から排出することである。多種薬剤流出に関与する細菌の膜タンパク質の最大なグループの1つは、抵抗性結節形成分裂(RND)ファミリーである。それらタンパク質は水素イオンの膜貫通の勾配に依存して、薬剤を排出する。Seegerたちは、三量体のRNDタンパク質AcrBの新しい2つの結晶形を記述している(p. 1295)。3つの単量体が対称であるようモデル化されていた従来のAcrB構造とは違って、それら結晶は、loose、tight、openと呼ばれる3つの異なった単量体高次構造の見方を提供してくれる。これら高次構造の内部にある疎水性の腔は、それぞれの単量体が水素イオンの流れによって駆動されて各状態をめぐりつつ、膜から薬剤分子を取り込み、それらを細胞外間隙へと押し出すポンプ機構を示唆する。(KF)
Structural Asymmetry of AcrB Trimer Suggests a Peristaltic Pump Mechanism p. 1295-1298.

ついにこうなる(This End Up)

初期の胚発生において、極性は、精子の侵入によってタンパク質の非対称性の分布が引き起こされ、前後軸が生み出される一個の細胞期に早くも確立される。Jenkinsたちはこのたび、初期の線形動物の胚の中でタンパク質の極性とアクトミオシン細胞骨格に影響する、精子による因子のアイデンティティーを報告している(p. 1298、7月27日にオンライン出版)。受精の際、精子は卵に対しCYK-4タンパク質を寄与する。CYK-4と共に極性の開始に関与するタンパク質には、rho-1/RhoAやcyk-4/GTP加水分解活性化タンパク質、ect-2/グアニン・ヌクレオチド交換因子が含まれる。ECT-2とRHO-1タンパク質は、活性化されたミオシン軽鎖およびアクトミオシンの収縮性を促進するが、CYK-4はそれを抑制する。CYK-4は他の種の精子にも発現するので、この極性機構がアクトミオシン収縮を示す他の種の間にも保存されているかどうかを知ることは、興味深いことであろう。(KF)
CYK-4/GAP Provides a Localized Cue to Initiate Anteroposterior Polarity upon Fertilization p. 1298-1301.

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