AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 18, 2006, Vol.313


光と水素(Light and Hydrogen)

宇宙開始の直後に宇宙空間は水素原子で充たされた。しかし、銀河間空間の希薄水素のほとんどは現在では電離している。Barkana (p. 931)は、何時どのようにして最初の恒星やブラックホールが輝きだし、宇宙全体に原始水素ガスを電離したかについてレビューした。そのいくつかの知見はコンピュータシミュレーションによってその変化が得られている。イオン化は、当初、宇宙の最大密度領域中で、あちこちばらばらに始まったらしい。しかし、完全な理解を得るには次世代の電波望遠鏡がこの重要な時期の電離水素の分布図を作るまで待つ必要があるだろう。恒星は、あるサイズを超えないと水素の核融合燃焼は起きない。Richer たち(p. 936; および、Bhattacharjeeによるニュース記事参照)は、ハッブル宇宙望遠鏡により、我が銀河中の球状星団を非常に暗い星にいたるまで観測した結果、この基本的質量限界を同定した。同時に、星団内の白色矮星が特徴的な色の変化を示していることを見つけた。これは白色矮星が何十億年もかかって冷えてきた結果その大気中で水素分子の生成が開始するときに期待される変化である。両方の効果とも理論的には予測されていたものであるが、この実験的確認によって低質量星や白色矮星の物理に関しての理解が進展した。(Ej,hE,nk)
The First Stars in the Universe and Cosmic Reionization p. 931-934.
Probing the Faintest Stars in a Globular Star Cluster p. 936-940.

野火の発生に対する評価(Assessing Wildfire Activity)

アメリカ西部における過去数十年の野火増加の本質的原因を理解することは、野火が提起するリスク管理方法への少なからぬ影響があるだろう。Westering たち(p. 940, オンライン出版、2006年7月6日、および、Runningによる展望記事、そして、表紙)は、1970年から2003年までにおける大森林火災について包括的、時系列的な編纂を行い、このデータと、対応する気候、水理学、地表の状況観察と比較した。野火は1980年代中頃に突然多くなった。水理的気候と野火は強い相関があり、彼らの研究範囲では、気候の変動が野火増加の主要な原因であることが分かった。ただし、土地利用の変化も重要な要素である可能性がある。地球が温暖化する結果、春と夏の期間が長くなって火災シーズンを延ばし、大きな野火を発生させ続けるだろう。 (Ej,hE,nk)
Warming and Earlier Spring Increase Western U.S. Forest Wildfire Activity p. 940-943.
CLIMATE CHANGE: Is Global Warming Causing More, Larger Wildfires? p. 927-928.

誘導性原子ホッピング(Stimulated Atomic Hopping)

走査型トンネル顕微鏡の先端チップは、トンネリング電子による電子励起で運動を引き起こすだけでなく、原子を拾い上げ、それを固体表面上で移動させるためにも用いられる。Stroscio たち (p.948)は、Cu(111)表面上の Co原子で終端処理がされた短い Cu原子鎖を組み立て、その鎖の末端に位置する異なるサイト間のCo原子のトンネリング電子により誘起された、ホッピング現象を解析した。このホッピングは低周波数の「電信」ノイズとして知られている。密度汎関数計算は、なぜ、このホッピングを最大化するチップ位置が直接 Co原子上に存在しないのか、そして、Cu鎖の長さとともに対運動障壁がどのように増加するのかのより良い説明を与えるものである。 (Wt,Ej,nk)
Electronically Induced Atom Motion in Engineered CoCun Nanostructures p. 948-951.

開孔を有する配列(The Open Arrangement)

遷移金属の密に詰まった表面への有機分子の吸着により、しばしば表面全体に単層が形成されるが、水素結合といった分子間力により分子が横並びの列のような規則的な構造が形成され、被覆されない領域が後に残る。Pawinたち(p. 961)は一つの事例、そこでは競合する相互作用によって直径50オングストロームの開孔を持つ蜂の巣状の二次元ネットワークが出来ることを報告している。Cu(111)表面に吸着した非常に低い被覆率のアントラキノンによって形成されたこのネットワークは、直径5分子程度の開孔を持っている。分子の横並びの列形成をうながす一方で分子間反発力とは競合する水素結合力とこのネットワーク構造はバランスしているらしい。(KU,nk)
A Homomolecular Porous Network at a Cu(111) Surface p. 961-962.

2層のグラフェンシート(Graphene Sheets on the Double)

グラフェンの単一シートは異常な、かつ潜在的に有用な電気的な特性を示す。対になった2層系に関する理論的な研究により、層と層の間で非対称性が存在すると、バンドギャップが制御可能になるだろうと示唆されている。この非対称性は原子のドーピングか、或いは外部電圧印加により作られる。Ohtaたち(p. 951)は角度分解光電子分光法を用いて、グラフェンの片方に吸着したカリウム原子のドーピングにより非対称性を付与したグラフェン2層のバンド構造を決定した。著者たちは、価電子帯と伝導帯の間のエネルギーギャップの制御が可能である事を確かめている。(KU)
Controlling the Electronic Structure of Bilayer Graphene p. 951-954.

オンデマンドでのエマルジョン(Emulsions on Demand)

界面活性剤は化粧品といった工業製品に広範囲に用いられており、これが無いとうまく混合する事が出来ない。しかしながら、多くの工業プロセスには、反応後や輸送後にエマルジョン成分を分離する必要のある複数のステップを含んでいる。Liuたち(p. 958)は、疎水性の長鎖アルキル基を持つアミジン分子が界面活性剤的な分子形状と非界面活性剤的な分子形状を可逆的に行き来する事を示している。大気中のCO2とアミジンとの室温処理により、水-炭化水素系のエマルジョンを安定化する炭酸水素塩が形成される。65℃でこの系に空気を通すと、反応が逆転してエマルジョンが破壊される。CO2が存在しない条件において、アミジンは水-原油系の懸濁液の効果的な脱乳化剤として作用する。(KU)
Switchable Surfactants p. 958-960.
GEOPHYSICS: Toward "Supervolcano" Technology p. 768-769.

ベトナムの心理学的打撃を再考する(Revisiting Vietnam's Psychological Toll)

アメリカの兵士に対するベトナム戦争の心理学的打撃の程度は、1988年以来白熱した議論の対象となってきた。というのも、1988年に、政府基金による2件の大規模な研究により、ベトナム戦争退役軍人における心的外傷後ストレス障害(PTSD)の比率に関して、大幅に異なる結果が報告されたためである。現在、ベトナム戦争と現在も継続中のイラク紛争との比較がなされているため、この問題の関心が強まってきている。Dohrenwendたち(p. 978;McNallyによる展望記事を参照)は、ベトナム戦争退役軍人におけるPTSDの比率を、改良された診断方法と、軍の記録(個人的な報告ではなく)から定めた戦場ストレスへの被曝度を使用してPTSD比率を再調査した。彼らの解析では、一生のPTSD比率が18.7%であることを示したが、これは2件の過去の概算値(30.9%と14.7%)の中間の数値であった。戦争関連のストレス被曝度とPTSDとの間に見られる服用ー応答関係はさらにはっきりしており、戦争の心理学的打撃が実際に存在し、かつ深刻であったことが確認された。(NF,nk)
The Psychological Risks of Vietnam for U.S. Veterans: A Revisit with New Data and Methods p. 979-982.
PSYCHOLOGY: Psychiatric Casualties of War p. 923-924.

鞭毛軸糸を固定(Nailing the Axoneme)

繊毛および鞭毛は、様々な生物や組織において、細胞から突出して、運動および感知において役割を果たす運動性付属肢である。Nicastroたち(p.944)は、凍結水和した真核細胞の鞭毛を低温電子断層撮影し、鞭毛軸糸機能にとって重要な鞭毛軸糸の構造的特徴を約4ナノメートルの解像度で示した。(NF)
The Molecular Architecture of Axonemes Revealed by Cryoelectron Tomography p. 944-948.

ブーケの色(Mixed Bouquets)

植物の花の色はしばしば、受粉媒介者の好みを介して選択される。中間色は、2種の近縁種のあいだで交配が起こる際に生じる場合、しばしば不利に選択される。Whibleyたち(p. 963;KramerとDonohueによる展望記事を参照)は、キンギョソウの近縁種間での花色の差異の遺伝的基礎を調べた。2色の変異型が関与している交雑帯(hybrid zone)を解析することにより、彼らは色のバリエーションを生み出す3つの遺伝子座を特定した。色のバリエーションの遺伝子型空間をモデリングして、この空間内にそれらの種をマッピングした。交雑帯において見られる花色は、この空間の別の位置を占めており,おそらく適応性の小さい種であろう。これらの知見により、自然界の個体群における適応についての我々の知識が高まり、そして適応ピーク間での遷移についての新しい考え方が示唆される。(NF)
Evolutionary Paths Underlying Flower Color Variation in Antirrhinum p. 963-966.
EVOLUTION: Traversing the Adaptive Landscape in Snapdragons p. 924-925.

p53と腫瘍血管新生(p53 and Tumor Angiogenesis)

癌抑制タンパク質p53は、細胞周期の停止やアポトーシス、また腫瘍の発生を防ぐのを助けるその他の細胞プロセスを制御する遺伝子を転写的に活性化する。Teodoroたちはこのたび、p53が、α(II)コラーゲン・プロリル-4-水酸化酵素をコードしている遺伝子を活性化することで腫瘍をチェックし続けているらしい、ということを示している(p. 968)。この酵素は、コラーゲン由来のペプチド、たとえば腫瘍血管新生の強力な阻害薬であるエンドスタチンやタムスタチンの細胞外遊離にとって必要とされるものである。p53遺伝子はヒトの癌の多くにおいて不活性化され、そのことによって、腫瘍の増殖を防ぐ内在性の抗血管新生ペプチドの産生の減少をおそらく導いてしまう。(KF)
p53-Mediated Inhibition of Angiogenesis Through Up-Regulation of a Collagen Prolyl Hydroxylase p. 968-971.

加齢と癌(Aging and Cancer)

生物の加齢と癌との間には関連があるのだろうか? Pinkstonたちは、加齢と腫瘍発生についての虫モデル(worm model)を立ててこの問いに取り組み、加齢プロセスに関与するさまざまなシグナル伝達経路が腫瘍形成の制御をも行っているということを見いだした(p. 971)。虫の長寿命の変異体は、腫瘍内でのアポトーシス増加と細胞増殖の減少など、増強された防御機構のおかげで腫瘍の寿命短縮効果に対して免疫があるらしい。長寿をコントロールするシグナル伝達経路は、腫瘍抑制機構と共進化してきたのかもしれない。(KF)
Mutations That Increase the Life Span of C. elegans Inhibit Tumor Growth p. 971-975.

欠陥を用いてのコロイド粒子の配列(Out of Defects, Order)

ネマティック液晶における分子は、一般に同一方向に全体として配向している。しかしながら、第二の物質が存在すると全体的な配向が曲がったり、ゆがんだりする。液晶分子とこの第二の物質の相互作用により、Musevicたち(p. 954)はコロイド粒子を混ぜたネマティック液晶の規則的な配向を利用して、コロイド粒子の結晶化を行った。規則的な二次元コロイド構造の形成は、ネマティックーコロイド間の界面に存在する欠陥によってもたらされている。レーザピンセットを用いてコロイド粒子を所定の位置におく事で、著者たちは他の方法では得られた事のないような規則的に配列した構造を作ることが出来た。(KU)
Two-Dimensional Nematic Colloidal Crystals Self-Assembled by Topological Defects p. 954-958.

多様性が生産性を生む(Diversity Produces Productivity)

集団内の遺伝子型の多様性は、生態系における生物多様性や、生態系が機能するにあたって、いかなる意義をもつのであろうか? Crutsingerたちは、北米のold-field系にある植物種アキノキリンソウ(goldenrod)における遺伝子型多様性が、結果として正味の一次生産性の増加と節足動物の種多様性の増加をもたらしている、という実験的証拠を提示している(p. 966)。この野外での効果は、植物の種多様性についての実験的操作で見られるものと同程度の大きさである。(KF)
Plant Genotypic Diversity Predicts Community Structure and Governs an Ecosystem Process p. 966-968.
p53-Mediated Inhibition of Angiogenesis Through Up-Regulation of a Collagen Prolyl Hydroxylase p. 968-971.
Mutations That Increase the Life Span of C. elegans Inhibit Tumor Growth p. 971-975.

段階的なチャネルの変化(Gradual Channel Changes)

電位開口型カリウムチャネルKv2.1は、哺乳類の多くの中心部のニューロンにおいて大量に発現し、その機能亢進はてんかん性発作と虚血性発作に付随している。リン酸化と脱リン酸化によるこのチャネルの修飾は、そのゲート開閉を変化させるが、リン酸化部位候補を同定しようとする試みは、予想されるリン酸化部位の数が異常に多いために困惑させられことになる。Parkたちは、不偏性の質量分析アプローチを用いて、Kv2.1の生体内での複数のリン酸化部位を同定した(p.975)。変異体を用いたそうし部位の解析によって、そのチャネルの可変性のリン酸化が、Kv2.1イオン電流のゲート開閉における段階的な変化をもたらす、ということが明らかにされた。そうした段階的制御機構は、恒常性および神経の保護にとってキーとなる役割を果たしている可能性がある。(KF)
Graded Regulation of the Kv2.1 Potassium Channel by Variable Phosphorylation p. 976-979.
The Psychological Risks of Vietnam for U.S. Veterans: A Revisit with New Data and Methods p. 979-982.

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