AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 23, 2004, Vol.305


水が引っ張る(Fluid Attractor)

地球表面において、貯水庫の内部で、またお互いの貯水庫間での水の移動に伴い、 地球の重力場は絶えず変化している。通常の測定では5000kmか、それ以上の長さの スケールでしか重力場の年間変動を測定することが出来ず、あまりにも距離が長す ぎて地域的な変動の様子はほとんど見ることが出来なかった。Tapleyたち(p. 503) は衛星、The twin Gravity Recovery and Climate Experiment(GRACE) によって行 われた南アメリカの重力場の変動に関する測定結果を提供している。400Kmという空 間分解能での彼らのデータはアマゾンの主流域とその北側の領域において季節的な 質量のピークがあることを明らかにしている。このような測定は、又、海洋の熱貯 蔵、海面の上昇、極における氷の堆積量、及び地下水の埋蔵量といった他のプロセ スの理解に役立つものである。(KU,nk)
GRACE Measurements of Mass Variability in the Earth System
   Byron D. Tapley, Srinivas Bettadpur, John C. Ries, Paul F. Thompson, and Michael M. Watkins
p. 503-505.

Norzoanthamineの全合成(Norzoanthamine Total Synthesis)

Zoanthus属の群体イソギンチャクから得られる天然物のNorzoanthamineは骨粗しょ う症を抑える薬剤としてだけでなく、この誘導体は人の血小板凝集を抑制したり、 マウスの白血病細胞系の成長を抑制する。Miyashitaたち(p. 495)は、全体で3%の 収率でこの化合物を作る全39ステップの合成法を報告している。この複雑な縮合環 構造の合成には必要とする立体化学面での要求を扱いやすいステップに分解する必 要がある。(KU)
Total Synthesis of Norzoanthamine
   Masaaki Miyashita, Minoru Sasaki, Izumi Hattori, Mio Sakai, and Keiji Tanino
p. 495-499.

他人から学び取る(I Spy)

動物は、社会的学習、生息地選択(habitat selection)、配偶者真似(mate copying)、意思伝達、採餌等のような様々な状況下における他の個体の振る舞いか ら学び取った社会的情報(public information)を使っている。Danchinたち(p.487) によるレビューでは、新たに現れつつある社会的情報フレームワークは、動物(ヒ トも同じく)の振る舞いの多くの面についての進化論的研究における最も有力なア プローチになるであろうと予測している。(TO)
Public Information: From Nosy Neighbors to Cultural Evolution
   Étienne Danchin, Luc-Alain Giraldeau, Thomas J. Valone, and Richard H. Wagner
p. 487-491.

深海を観察する(Watching the Abyss)

深海の動物相(fauna)はよく知られておらず、気候と海床動物の現存量との関係、気 候と食物供給との関係、そして食物供給と深海の動物現存量との関係についての統 計的に意味のあるデータはほとんどない。RuhlとSmith(p.513)は、外洋そして陸上 環境と類似する時間スケールでの気候変化と相関がある生物群集構成の大きなシフ トを示した北東太平洋の深海底深度(abyssal depths)における 14年間にわたる時 系列的な傾向を紹介している。その結果から、気候の揺らぎは深海の生態系に影響 しているという兆候の確証を得た。(TO,Ej)
Shifts in Deep-Sea Community Structure Linked to Climate and Food Supply
   Henry A. Ruhl and Kenneth L. Smith, Jr.
p. 513-515.

鋭利な侵食作用(Incisive Action)

最も基礎的な地質学的プロセスの1つは川による岩盤の侵食であろう。しかし、ア メリカ合衆国の東海岸のような受動的大陸縁辺の侵食プロセスの速度や時期につい ては、ほとんど解ってなかった。Reusser たち(p. 499)は、氷河作用を受けた Susquehanna川と、氷河作用を受けなかったPotomac川における宇宙線起源の同位体 元素による河川岩盤段丘の年代測定結果を示し、どちらも河川底部の側面が凸形状 の、深く切れ込んだ渓谷を持っていることを示した。これら渓谷の形成は、35,000 年前から 12,000年前の間であり、以前推定されていた年代よりはずっと若い時代で あることが解った。これらの現象が生じた時代と時期が一致したことから、著者た ちは、氷河融解だけでなく局地的地形や気候変化も、岩盤侵食に影響を与えている と示唆している。(Ej)
Rapid Late Pleistocene Incision of Atlantic Passive-Margin River Gorges
   Luke J. Reusser, Paul R. Bierman, Milan J. Pavich, E-an Zen, Jennifer Larsen, and Robert Finkel
p. 499-502.

ちょっと、そいつを帯電して(Just Charge It)

量子ドットを作る原子の小さなクラスターは単一の電子を付加したり、失ったりす る。この効果は単一電子トランジスタのようなデバイスに利用することができる。 一つのクラスターはどれほどまでに小さくなり、そして付加した電子をなお安定化 しておくことができるのだろうか?Repp たち(p.493) は、その量子ドットが単一の 原子まで小さくすることができることを示している。彼らは走査型トンネル顕微鏡 のチップを用いて電圧パルスを印加することにより、銅の表面に成長させた絶縁性 のNaCl超薄膜上に吸着された一個の金の付加原子(adatom) 上に、単一の電子を付加 したり、除去したりすることができた。著者たちは、Au- の状態が塩薄 膜上の強いイオン性分極によって安定化されると論じている。Au- の帯 電状態にある付加原子(adatom) は、中性原子より容易に拡散して、負に帯電した チップから離れていってしまう。著者たちは、このような帯電状態のスイッチング が電子ビーム照射により達成可能であろうと示唆している。(wt)
Controlling the Charge State of Individual Gold Adatoms
   Jascha Repp, Gerhard Meyer, Fredrik E. Olsson, and Mats Persson
p. 493-495.
PHYSICS:
Charging Atoms, One by One

   Karsten Horn
p. 483-484.

なおざりにして苦悩すること(Suffering from Neglect)

中長期のタイムスケールで起きている森林の変化に関心がある生態学者にとって は、乱伐がないのになぜ森林が衰退するのか長い間不思議であった。Wardleたち(p. 509)は、オーストラリア, スウェーデン,アラスカ、ハワ イ、そしてニュージーラ ンドでのいわゆる森林の荒廃、あるいは荒廃しつつある森林の変化についての6つ の全く違った実例を調査した。森林の衰退はリン養分が不足していくことに関係し ていた。同様の衰退のパターンが熱帯地域や温帯地域、さらには北方地域にまた がった森の生態系で起きている。(hk)
Ecosystem Properties and Forest Decline in Contrasting Long-Term Chronosequences
   David A. Wardle, Lawrence R. Walker, and Richard D. Bardgett
p. 509-513.
PALEOECOLOGY:
The Rise and Fall of Forests

   H. J. B. Birks and Hilary H. Birks
p. 484-485.

BabAをあなたに(This BabA's for You)

胃内細菌のピロリ菌(Helicobacter pylori)は、ヒトに極めて特異的であり、そし て人口の半分近くがこれに感染している。10年単位の長期感染の結果、胃炎、消化 性潰瘍、そして癌まで引き起こす可能性がある。Aspholm-Hurtigたち(p. 519) は、H. pylori感染の重症度について知られている著しい生物地理学を、病原体がヒ ト血液型抗原の糖質に結合することができる点と関連して調べた。細菌の付着因子 BabAは、血液型結合性を決定し、そして疾患罹病率頻度を左右している。アメリカ インディアンの個体群は、そのほとんどがもっぱら血液型O型を保有しており、そし てこれらの人々に感染するH. pyloriの系統は、高い頻度でこの血液型により表示さ れる糖質にのみ結合する系統であることが示された。この知見により、これらの 人々において消化性潰瘍疾患の罹病率が高いことも説明される。アメリカインディ アンに感染する系統は、過去500年のあいだに、他の血液型抗原にも結合することが できる"万能型"細菌の衰退により、ヨーロッパ系統の変異によって派生したもので ある。(NF)
Functional Adaptation of BabA, the H. pylori ABO Blood Group Antigen Binding Adhesin
   Marina Aspholm-Hurtig, Giedrius Dailide, Martina Lahmann, Awdhesh Kalia, Dag Ilver, Niamh Roche, Susanne Vikström, Rolf Sjöström, Sara Lindén, Anna Bäckström, Carina Lundberg, Anna Arnqvist, Jafar Mahdavi, Ulf J. Nilsson, Billie Velapatiño, Robert H. Gilman, Markus Gerhard, Teresa Alarcon, Manuel López-Brea, Teruko Nakazawa, James G. Fox, Pelayo Correa, Maria Gloria Dominguez-Bello, Guillermo I. Perez-Perez, Martin J. Blaser, Staffan Normark, Ingemar Carlstedt, Stefan Oscarson, Susann Teneberg, Douglas E. Berg, and Thomas Borén
p. 519-522.

お砂糖をデザイン(Sweet Design)

組換えタンパク質に基づくワクチン、およびDNAに基づくワクチンの利点は、多くの ところ、それらを製造することが比較的容易であり、そしてコストが安いという点 にある。同様に、化学合成により、細菌感染に対する糖質(carbohydrate)に基づ くワクチンを安価に、そして大規模に製造することが可能になった。Verez-Bencomo たち(p. 522)は、細菌性髄膜炎の原因の一つであるインフルエンザ 菌(Haemophilus influenza)b型(Hib)に対する合成オリゴ糖ワクチンを生成し、 そして試験した。Hib夾膜多糖の繰り返し単糖単位の誘導体を使用することにより、 特定の長さを有するオリゴマーをまず作製した。これらのオリゴ糖は、破傷風トキ ソイドと共有結合し、それが免疫応答のあいだの効率的なT細胞の作用を生み出すタ ンパク質キャリアとして作用する。臨床試験において、合成ワクチンにより、既存 のワクチンと同程度のレベルでHib感染に対する免疫が引き起こされた。(NF)
A Synthetic Conjugate Polysaccharide Vaccine Against Haemophilus influenzae Type b
   V. Verez-Bencomo, V. Fernández-Santana, Eugenio Hardy, Maria E. Toledo, Maria C. Rodríguez, Lazaro Heynngnezz, Arlene Rodriguez, Alberto Baly, Luis Herrera, Mabel Izquierdo, Annette Villar, Yury Valdés, Karelia Cosme, Mercedes L. Deler, Manuel Montane, Ernesto Garcia, Alexis Ramos, Aristides Aguilar, Ernesto Medina, Gilda Toraño, Iván Sosa, Ibis Hernandez, Raydel Martínez, Alexis Muzachio, Ania Carmenates, Lourdes Costa, Félix Cardoso, Concepción Campa, Manuel Diaz, and René Roy
p. 522-525.

遺伝的変異の場所(The Where and Where of Genetic Variation)

ヒトの個々の遺伝子コピー数には変異があるが、そうした変異のマップは病 気につ いてのゲノム研究にとっては重要になるであろう。Sebatたちは、リプレゼンテー ショナル・オリゴヌクレオチド・マイクロアレー分析(ROMA: representational oligonucleotide microarray analysis)を用いて、そうしたマップを作成し、大規 模なコピー数多型(CNP)がヒトのゲノムにおいてはごく普通のものであり、広く分布 していることを示している(p. 525)。最大のものは、大きさが2メガ塩基を超えるも のであった。多様な地理的バックグラウンドをもつ20人を分析したところ、変異 は、少なくとも70遺伝子につき1つ以上生じていた。(KF,hE)
Large-Scale Copy Number Polymorphism in the Human Genome
   Jonathan Sebat, B. Lakshmi, Jennifer Troge, Joan Alexander, Janet Young, Pär Lundin, Susanne Månér, Hillary Massa, Megan Walker, Maoyen Chi, Nicholas Navin, Robert Lucito, John Healy, James Hicks, Kenny Ye, Andrew Reiner, T. Conrad Gilliam, Barbara Trask, Nick Patterson, Anders Zetterberg, and Michael Wigler
p. 525-528.

HIV-1組み込みの阻害(Inhibiting HIV-1 Integration)

ヒト免疫不全症ウイルス-1型の感染に対する治療として主となっている方法の中 で、2つの方法がウイルスによってコードされた逆転写酵素、およびタンパク質分解 酵素を邪魔することによって、ウイルスのライフサイクルを妨げることに成功して きた。第3のさらにつかまえにくい標的はウイルスのインテグラーゼであったが、こ れはウイルス性のDNAを宿主のゲノムに取り込むのに必要なものである。Hazudaたち は、新規なインテグラーゼ阻害薬を用いて、サルとヒトのハイブリッド型免疫不全 症ウイルスのハイブリッドによる感染からマカクザルを保護することに成功し た(p.528)。サルが急性にせよ慢性にせよ、そのウイルスに感染すると、その阻害薬 はウイルスに対するT細胞免疫応答を大きく高め、ウイルスの負荷を強く抑制したの である。(KF,hE)  
Integrase Inhibitors and Cellular Immunity Suppress Retroviral Replication in Rhesus Macaques
   Daria J. Hazuda, Steven D. Young, James P. Guare, Neville J. Anthony, Robert P. Gomez, John S. Wai, Joseph P. Vacca, Larry Handt, Sherri L. Motzel, Hilton J. Klein, Geethanjali Dornadula, Robert M. Danovich, Marc V. Witmer, Keith A. A. Wilson, Lynda Tussey, William A. Schleif, Lori S. Gabryelski, Lixia Jin, Michael D. Miller, Danilo R. Casimiro, Emilio A. Emini, and John W. Shiver
p. 528-532.

てんかんと樹状イオンチチャネル(Epilepsy and Dendritic Ion Channels)

脳領域がてんかん病に冒された後のニューロン膜のイオンチャネル機能の変化につ いてはあまり知られていない。Bernardたち(p. 532;Staleyによる展望記事参照) は、側頭葉てんかんのラットモデルにおいて、海馬の錐体細胞樹状突起の電気的性 質が変化することを示している。このモデルでは、A型のK+チャネル機 能が失われたため、樹状活動電位の逆伝搬が増強される。最終的に、この変化が樹 状突起の入出力の特性を変化させ、てんかん発作に対する感受性と興奮性を増強さ せているようである。(An)
Acquired Dendritic Channelopathy in Temporal Lobe Epilepsy
   Christophe Bernard, Anne Anderson, Albert Becker, Nicholas P. Poolos, Heinz Beck, and Daniel Johnston
p. 532-535.
NEUROSCIENCE:
Epileptic Neurons Go Wireless

   Kevin Staley
p. 482-483.

有糸分裂の終了(Getting Out of Mitosis)

Cdc14というタンパク質ホスファターゼは有糸分裂後期に起こる数多くの事象を制御 する。Cdc14は核小体内に隔離されているが、有糸分裂後期には遊離して、細胞中を 動きながら有糸分裂の終了を調整する。Net1というタンパク質との相互作用によっ て、Cdc14は核の中に保持される。Azzamたち(p 516)は、Cdc14の遊離には、サイク リンB-サイクリン依存キナーゼ複合体という主要な有糸分裂制御因子によるNet1の リン酸化に依存している可能性をしめしている。(An)   
Phosphorylation by Cyclin B-Cdk Underlies Release of Mitotic Exit Activator Cdc14 from the Nucleolus
   Ramzi Azzam, Susan L. Chen, Wenying Shou, Angie S. Mah, Gabriela Alexandru, Kim Nasmyth, Roland S. Annan, Steven A. Carr, and Raymond J. Deshaies
p. 516-519.

揺れ動く炭素循環(Carbon-Cycle Jitters)

ペルム紀の終わり(2億5100万年前)に、地球の歴史上最大の絶滅イベントによって、 海にいた種の90%が消滅した。海洋の炭酸塩と有機物質の炭素同位体組成の測定に よって、そのイベントには過酷な環境擾乱が伴っていたことが明らかになってき た。絶滅によって生物の多様性が小くなった状態は三畳紀に入るまで何百万年間も 続いたが、この緩慢な回復が生物学的更新の自然なペースによるのか、それとも好 ましくない環境条件のせいなのかは、未解決の問題であった。Payneたちは、海洋の 炭酸塩に関する炭素同位体記録を提示しているが、これは、三畳紀前期には炭素循 環の不安定な時期が長く続き、それに続いて三畳紀中期から三畳紀後期にかけて炭 素同位体の安定した状態への急激な移行があったことを明らかにするにするもので ある(p. 506)。つまり、ペルム紀終わりの絶滅は、持続する生物の回復を遅らせた 一連の擾乱の最初のものに過ぎなかったのである。(KF,Ej,nk)
Large Perturbations of the Carbon Cycle During Recovery from the End-Permian Extinction
   Jonathan L. Payne, Daniel J. Lehrmann, Jiayong Wei, Michael J. Orchard, Daniel P. Schrag, and Andrew H. Knoll
p. 506-509.

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