AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 16, 2004, Vol.305


パルサーのホットスポット(Pulsar Hot Spot)

Geminga パルサー表面からのX線を、その回転に合わせてMultimirror Mission-Newton衛星で観測した結果、一つの極にホットスポットが存在する証拠が 示された。Caraveo たち (p.376) は、このホットスポットは、加速された磁気圏粒 子の熱によって維持されていることを示唆している。このホットスポットは、X線 放射が、パルサーからのガンマ線放射とどのように結び付いているか説明するのに 役立つ
Phase-Resolved Spectroscopy of Geminga Shows Rotating Hot Spot(s)
   P. A. Caraveo, A. De Luca, S. Mereghetti, A. Pellizzoni, and G. F. Bignami
p. 376-379.

CO2はどこにいった( Where CO2 Goes)

大気CO濃度の増加は、産業革命以降に燃やされた化石燃料の総量に基づく期待値の 半分しかない。今回2つの研究記事において、残りの50%のCO2は、海洋 あるいは陸上の生物圏中での行方に焦点を当ている。Feelyたち(p.362)は、トータ ルなアルカリ度とクロロフルオロカーボン測定結果についての新たなデータセット を用いて、CaCOの溶解速度を推定し全海洋中の炭素種形成(carbonspeciation)への 長期間にわたる影響を調べた。彼らは、サンゴ、有孔虫(foraminifera)、翼足 類(pteropods)、円石藻(coccolithophorid)などのカルシウム-炭酸塩-貯蔵有機体 に対するこれらの変化の影響について議論している。Sabineたち(p.367)は、1990年 代に実施された2つの全世界的な海洋調査で得られた海洋無機炭素の計測結果を用い て、1800年から1994年までの期間に海洋で貯蔵された量を推定した。彼らは、その 期間中に化石燃料の燃焼やセメント製造によって放出されたCO2の48% を海洋が吸収してきたことを発見した。大気中のCO2レベルは、人為生 成されたCO2の約2/3と等しいため、陸上生物圏はその期間は CO2の正味供給源(a net source)であったに違いない。(TO)
OCEAN SCIENCE:
Enhanced: The Fate of Industrial Carbon Dioxide

   Taro Takahashi
p. 352-353.
Impact of Anthropogenic CO2 on the CaCO3 System in the Oceans
   Richard A. Feely, Christopher L. Sabine, Kitack Lee, Will Berelson, Joanie Kleypas, Victoria J. Fabry, and Frank J. Millero
p. 362-366.
The Oceanic Sink for Anthropogenic CO2
   Christopher L. Sabine, Richard A. Feely, Nicolas Gruber, Robert M. Key, Kitack Lee, John L. Bullister, Rik Wanninkhof, C. S. Wong, Douglas W. R. Wallace, Bronte Tilbrook, Frank J. Millero, Tsung-Hung Peng, Alexander Kozyr, Tsueno Ono, and Aida F. Rios
p. 367-371.

グリベック、その続編(Gleevec: The Sequel)

チロシンキナーゼ阻害剤、イマチニブ(STI571あるいはグリベック)は現在、慢性 骨髄性白血病(CML)の最先端の治療薬である。しかしながら、ほとんどの癌療法と 同様に、患者の一部にイマチニブに対する耐性が生じたが、この問題は、薬物の標 的となる腫瘍形成性のBCR-ABLキナーゼにおける特定の変異が発生し、その結果薬物 の結合が阻害されたことに起因していた。これらの変異に関するデータならびにイ マチニブがどのようにしてABLキナーゼドメインに結合しているかを詳細に示す結晶 解析データに基づいて、Shahたち(p. 399)は、新規のチロシンキナーゼ阻害 剤、BMS-354825を単離したが、このBMS-354825は、イマチニブの好ましい特性の全 てだけでなく、それ以上の特性を有しているようである。この第二世代薬(経口的 に投与できるチアゾールカルボキサミド)についての前臨床試験がマウスモデルに おいてそしてCML患者由来の培養骨髄細胞において行われ、この阻害剤がイマチニブ よりも強力であり、そして重要なことには、大部分のイマチニブ-耐性BCR-ABL変異 体に対する活性を保持し、そして深刻な毒性もないことが示された。(NF)
Overriding Imatinib Resistance with a Novel ABL Kinase Inhibitor
   Neil P. Shah, Chris Tran, Francis Y. Lee, Ping Chen, Derek Norris, and Charles L. Sawyers
p. 399-401.

堅いチップを低く保持する(Keeping a Stiff Lower Tip)

物質表面のフェルミレベルの近傍状態を調べる走査トンネル顕微鏡と異なり、原子 間力顕微鏡は原理的には、強い方向性特徴を持つ深部レイヤー状態に対する感度を 有している。しかし、原子間力顕微鏡において必要な感度の確保にはチップの性質 が決定的影響を及ぼす。Hembacherたち(p.380)は必要な解像度を得るために、通常 とは逆に、軽元素(グラファイト中の炭素原子)をチップとして利用し、タングス テンチップを試料として用いた。彼らは力の高次導関数を低温で計測し、タングス テン金属の共有結合を画像化することに成功した。(Ej)
Force Microscopy with Light-Atom Probes
   Stefan Hembacher, Franz J. Giessibl, and Jochen Mannhart
p. 380-383.
PHYSICS:
Music of the Spheres at the Atomic Scale

   Alex de Lozanne
p. 348-349.

サイズが問題になる(Size Matters)

発生において大きさがどのようにして決まるのかの問題は、特に脊椎動物において はほとんどわかってない。体の部位によって、その相対的な大きさや絶対的大きさ が決まり、そこで成長が止まるのは何故なのか? 肢の場合、胚性芽の継続的成長 とパターン形成には、Sonic hedgehogと線維芽細胞増殖因子の間の正のフィード バックループが維持されていることが条件となる。Scherzたち(p. 396)は、指の長 さと指節骨の数を制御している正のフィードバックループが終了するタイミングに ついて報告している。時間がたつにつれて、後肢芽の細胞数が増加するのだが、こ の後肢芽はSonic hedgehogの下流にあるフィードバックループの中間ステップのサ ポートはできない。この非応答性ゾーンの大きさがSonic hedgehog拡散範囲よりも 大きくなるとループが破壊されるのである。(Ej,hE)
The Limb Bud Shh-Fgf Feedback Loop Is Terminated by Expansion of Former ZPA Cells
   Paul J. Scherz, Brian D. Harfe, Andrew P. McMahon, and Clifford J. Tabin
p. 396-399.

マントル対流を妨げるもの(Mantle Convection Inhibitors)

マグネシウムや鉄が豊富な珪酸塩(silicate)であるペロブスカイト(Perovskite)は 下層マントルにおける主要構成物質である。下層マントルの高温高圧条件化におけ るこの鉱物の特性を測定することでマントルの流動性に関する情報が得られ る。Badroたち(p.383)は、ペロブスカイト中の鉄のスピン状態を調べる高圧実験を 実施し、下層マントルの低部において、高スピン状態から低スピン状態への遷移を 見つけた。地震学の測定から、そこにはD''層と呼ばれる明瞭な層(distinctlayer) が存在している低スピン状態が存在すれば、熱伝導率が変化するし、その結果マン トル対流はよりゆっくりとし、D''層はより安定することになる。(TO)
Electronic Transitions in Perovskite: Possible Nonconvecting Layers in the Lower Mantle
   James Badro, Jean-Pascal Rueff, György Vankó, Giulio Monaco, Guillaume Fiquet, and François Guyot
p. 383-386.

インフルエンザの分子進化(Molecular Evolution of Influenza)

ウイルス進化の分析において抗原についてのデータを繰り入れることは、ウイルス の進化が一般に抗原の特性によって駆動されていると考えられていることから、重 要である。Smithたちは、インフルエンザA型ウイルスのサブタイプH3N2の、1968年 の世界的流行から2003年までの35年間にわたる抗原の進化について調べた(p. 371)。インフルエンザ・ウイルスの抗原の進化とその遺伝的進化とを比較対照する ことで、彼らは、遺伝的進化は連続的であるのに、抗原の進化はクラスター化され る、ということを示している。著者たちはまた、インフルエンザの赤血球凝集素遺 伝子におけるアミノ酸置換による抗原の効果を計算することができた。この方法 は、抗原の変化しうる種々の病原体に対する診断法や監視政策、そしてワクチンの 開発にも応用することができる。(KF,hE)
Mapping the Antigenic and Genetic Evolution of Influenza Virus
   Derek J. Smith, Alan S. Lapedes, Jan C. de Jong, Theo M. Bestebroer, Guus F. Rimmelzwaan, Albert D. M. E. Osterhaus, and Ron A. M. Fouchier
p. 371-376.

緑色の海から紅色の海へ(Green Ocean Turns to Red)

真核植物プランクトンは、原生代の海洋において15億年以上前に進化し、現在は世 界的な炭素サイクルおよび海洋生態系構造に極めて重要な働きをしてい る。Falkowskiたち(p. 354)は、祖先にあたる紅藻由来の色素体を共生の結果とし て含有する渦鞭毛藻類、珪藻類、および鱗鞭毛虫類が、中生代のあいだに著しい放 散を行ったことに特に着目して、過去10億年ほどの植物プランクトンの進化履歴を 精査した。著者たちは、この放散が地球の酸素量の増加がきっかけとなっているこ とを主張している。この結果、地質時代のあいだ、海洋がますます酸素化されるに 従って、還元性条件を好む"緑色"植物プランクトンから、酸化性の環境で生育する" 赤色"植物プランクトンへと、移行していったのである。(NF)
The Evolution of Modern Eukaryotic Phytoplankton
   Paul G. Falkowski, Miriam E. Katz, Andrew H. Knoll, Antonietta Quigg, John A. Raven, Oscar Schofield, and F. J. R. Taylor
p. 354-360.

巣箱の中は快適に(Staying Cool in the Hive)

ミツバチの社会では女王バチが複数のオスと交配することにより遺伝的多様性を 保っている。ミツバチの社会には、仕事の振り分けを行う管理者はいないが、それ ぞれのミツバチが行うべき仕事を感じとっている。このような状況下における、遺 伝的多様性の利点は何なのか? Jonesたち(p. 402)は、遺伝的に均質な集団であ るミツバチの巣では、異常な温度変化を示しているのに対して、遺伝的に多様な組 合せを有するミツバチは、巣の温度をより一定に保っていることを見いだした。遺 伝的に不均一な働きバチは、温度が変化すると羽で風を起こしはじめ、それにより コロニーは温度変化に対する反応をよりよく調節することができる。(NF)
Honey Bee Nest Thermoregulation: Diversity Promotes Stability
   Julia C. Jones, Mary R. Myerscough, Sonia Graham, and Benjamin P. Oldroyd
p. 402-404.

繁殖における聴覚のはたらき(Selective Hearing in One's Mate)

他の多くの脊椎動物と同様に、太平洋のガマアンコウ(midshipman fish)は、繁殖 期に行動を変化させる。オスは自分の巣のテリトリーに移動し、そしてハミングを 始め、メスが狂おしく思う音を発生する(もっとも、ヒトの耳には、モーターボー トの音の様に聞こえるのだが)。Sisnerosたち(p.404)はここで、メスの内耳での 聴覚感受性が、循環性ステロイドホルモン、エストロゲンの季節的変化に反応し て、オスの繁殖期ハミングによって発生する周波数によりよく適合する様に実際に 調節されていることを示した。つまり、オスの魅惑的な歌声の効果は、季節的に調 節されるメスの聴覚により、高められているのである。(NF)
Steroid-Dependent Auditory Plasticity Leads to Adaptive Coupling of Sender and Receiver
   Joseph A. Sisneros, Paul M. Forlano, David L. Deitcher, and Andrew H. Bass
p. 404-407.
PHYSIOLOGY:
Heeding the Hormonal Call

   Harold Zakon
p. 349-350.

見る、やる、教える(Watch One, Do One, Teach One)

真似は社会的学習の単純な形式の一つであるが、行動の研究と神経生理学の研究に よって、動物が観察した行動を真似できることが確認されている。しかしサルは、 連続した動作手順そのものだけではなく、なぜそういう動作をしているかという ルールも学ぶことができるのであろうか? Subiaulたち(p 407)は、タッチスク リーン上の4つの任意の項目を触るというタスクで、訓練済みのサルがそばのコン ピュータ画面で行なっている同じタスクを観察した後で、2匹のサルが、唯一報酬が 得られる手順を学習することができた、と論じている。(An)
Cognitive Imitation in Rhesus Macaques
   Francys Subiaul, Jessica F. Cantlon, Ralph L. Holloway, and Herbert S. Terrace
p. 407-410.

DNA結合を非特異的結合から特異的結合へ切り換える(Switching from Nonspecific to Specific DNA Binding)

DNA結合タンパク質のほとんどは、まず非特異的に結合し、そしてDNAに沿って特定 のDNA結合部位に転位置する。タンパク質は、どのようにして非特異的結合を特異的 結合に切り換えるのだろうか?この問題を解決するために、Kalodimosたち(p 386; von Hippelによる展望記事参照)は、二量体のlacリプレッサDNA結合領域(DBD)に非 特異的DNAが結び付いた複合体の溶液構造と動力学を確定し、それを、二量体のDBD とそのオペレータが結合した構造と比較した。同じ残基セットを使って、DNAバック ボーンとの非特異的静電気的相互作用から、標的DNA配列の塩基対との特異的結合に 切り換わった。非特異的複合体では、タンパク質とDNAの界面が柔軟のままである が、この特徴によって潜在的な結合部位を探すことができるのかもしれな い。(An,hE)
Structure and Flexibility Adaptation in Nonspecific and Specific Protein-DNA Complexes
   Charalampos G. Kalodimos, Nikolaos Biris, Alexandre M. J. J. Bonvin, Marc M. Levandoski, Marc Guennuegues, Rolf Boelens, and Robert Kaptein
p. 386-389.
BIOCHEMISTRY:
Completing the View of Transcriptional Regulation

   Peter H. von Hippel
p. 350-352.

少食長寿(Eat Less, Live Longer)

高齢者の健康問題は、加齢に伴う累積的な細胞損失の効果の結果だと考えられてい る。カロリー制限と、寿命を延ばすための遺伝的操作は、典型的に、ストレス誘発 性のアポトーシス性細胞死を減少させる。酵母では、カロリー制限によって、Sir2 脱アセチル基酵素が活性化され、寿命が延びることになる。Cohenたちは、カロリー 制限されたラットやこのようなラットからの血清が投与されたヒトの細胞におい て、細胞防御のための制御装置が誘発されることを示している(p. 390)。カロリー 制限が哺乳類の寿命を延ばすひとつの方法は、SIRT1の発現を増加させ、キー細胞の 生存を増すことであろう可能性がある。(KF)
Calorie Restriction Promotes Mammalian Cell Survival by Inducing the SIRT1 Deacetylase
   Haim Y. Cohen, Christine Miller, Kevin J. Bitterman, Nathan R. Wall, Brian Hekking, Benedikt Kessler, Konrad T. Howitz, Myriam Gorospe, Rafael de Cabo, and David A. Sinclair
p. 390-392.

分裂を助ける(Easing the Break Up)

細胞質分裂、すなわち有糸分裂後に2つの娘細胞を分ける作用は、アクトミオシン環 の組立てと収縮、小胞融合、原形質膜分裂などを含む複雑な分子的イベントのカス ケードである。DobbelaereとBarralは、発芽酵母において、セプチン(septin)とし て知られているタンパク質が収縮環のそれぞれの側に拡散バリアーを形成する、と いうことを示している(p. 393)。セプチンは、小胞融合やアクトミオシン環収縮、 膜分裂に関わるさまざまな拡散性の要素が、収縮性装置のそばにとどまるよう、局 在化を維持するのである。セプチンのこの活性は、アクトミオシン環が適切に働 き、細胞切断が完璧に終わるために必要なのである。(KF)
Spatial Coordination of Cytokinetic Events by Compartmentalization of the Cell Cortex
   Jeroen Dobbelaere and Yves Barral
p. 393-396.

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