AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 30, 2004, Vol.305


界面のスピンを制御すること(Controlling Interface Spin)

磁性薄膜と絶縁層間に形成されるヘテロ接合の磁気的・電気的特性は、潜在的なデ バイス応用にとって魅力的である。しかしながら、このような構造の振舞いはいま まで予測不可能であり、界面領域の影響を計測できる技術が必要とされている。山 田ら(p.646)は磁気誘導第2高調波成分を用いて、マンガン酸化物と絶縁薄膜間に形 成されている埋もれた界面の磁化を計測し、特性を明らかにできることを示してい る。さらに、彼らはドーピングレベルを変化させることにより、どのように制御さ れた方法で界面領域の特性が変化するかをを示している。(hk)
Engineered Interface of Magnetic Oxides
   Hiroyuki Yamada, Yoshihiro Ogawa, Yuji Ishii, Hiroshi Sato, Masashi Kawasaki, Hiroshi Akoh, and Yoshinori Tokura
p. 646-648.

引っ張られ、そして、伸ばされたナノ粒子(Strained and Stretched Nanoparticles)

ある物質の電子的、および光学的な特性はバルクな材料からナノスケールへと移行 するさいに変化する可能性がある。Gilbert たち (p.651) は、閉じ込め効果が、ど のように原子の結合とパッキングとに影響を与えうるかを示している。彼らは様々 な方法を用いて、3ナノメートルの硫化亜鉛の粒子における格子構造や内部歪みを 測定している。粒子の表面エネルギーをより低い状態になるにつれ、複雑な内部歪 みのパターンが発生する。これらの歪みは全体的な秩序の減少と格子の硬化を生ず る。金属が変形すると、結晶粒子は回転して再配置を起こす。キャンバスに描かれ た図形をキャンパスのある特定の方向に引っ張ると、伸びて歪むのとよく似てい る。Shan たち (p.654) は、ニッケルのナノ結晶においては、より粗い粒子からな る金属とは異なり、このタイプの変形が支配的であることを見いだした。粗い粒子 金属においては、粒界の欠陥や転位の発生により変形エネルギーの殆どを蓄積す る。これらの結果は計算シミュレーションから得られる多くの観測を立証するもの であり、最適な金属や合金を設計するガイドとして役に立つであろう。(Wt)
Nanoparticles: Strained and Stiff
   Benjamin Gilbert, Feng Huang, Hengzhong Zhang, Glenn A. Waychunas, and Jillian F. Banfield
p. 651-654.
Grain Boundary-Mediated Plasticity in Nanocrystalline Nickel
   Zhiwei Shan, E. A. Stach, J. M. K. Wiezorek, J. A. Knapp, D. M. Follstaedt, and S. X. Mao
p. 654-657.
MATERIALS SCIENCE:
Watching the Nanograins Roll

   E. Ma
p. 623-624.

月の隕石が語りかけること(Lunar Meteorite Phones Home)

オマーンの砂漠で見つけられた月の隕石(Sayh al Uhaymir 169と命名された)は、4 つの異なる衝突による角レキ石からなり、カリウムや希土類元素、及びリンに豊富 に含まれている。Gnosたち(p. 657)は系統的な同位体年代決定法を用いて、このよ うな岩石が月の表面やその傍に存在していたときに起こった4つの衝突事象の年代を 決定した。化学成分の濃縮度合いとともに、このような衝突事象が30億年前、28億 年前、2億年前、そして34万年以降に起こったものであり、月におけるLalande衝突 クレータ中の隕石源の位置を正確に示すのに役立つ。衝撃事象の年代推定により、 月に関係する地質学者にとって月の進化に関するよりグローバルなモデルの中でこ の隕石に関連する様々な層位学的地層の年代を精緻にすることが可能とな る。(KU,Ej,tk,nk)
Pinpointing the Source of a Lunar Meteorite: Implications for the Evolution of the Moon
   Edwin Gnos, Beda A. Hofmann, Ali Al-Kathiri, Silvio Lorenzetti, Otto Eugster, Martin J. Whitehouse, Igor M. Villa, A. J. Timothy Jull, Jost Eikenberg, Bernhard Spettel, Urs Krähenbühl, Ian A. Franchi, and Richard C. Greenwood
p. 657-659.
PLANETARY SCIENCE:
A Unique Chunk of the Moon

   Randy L. Korotev
p. 622-623.

植物の防御を取り除く(Removing Plant Defenses)

草食動物からの攻撃に対抗するため、植物は植物群生の構成要素に影響するような 間接的な防御(例えば天敵や病気)と同じく、毒物や消化不良剤といった直接的な防 御を用いている。病原体や草食動物の攻撃に対応して、植物防御が本来的に発現し たり,形成されたりする。Kesslerたち(p. 665)は、野生のタバコ種であるNicotiana attenuataの形質転換を行い、誘発的な植物防御に関与するジャスモン酸シグナル伝 達経路における酵素をコードしている3つの遺伝子を抑制した。本来の自然生息地に 植えると、形質転換されたタバコは元々の特異的な草食動物のみならず、他の草食 動物に対しても更に攻撃を受けやすくなった。(KU)
Silencing the Jasmonate Cascade: Induced Plant Defenses and Insect Populations
   André Kessler, Rayko Halitschke, and Ian T. Baldwin
p. 665-668.
ECOLOGY:
Enhanced: Ecogenomics Benefits Community Ecology

   Marcel Dicke, Joop J. A. van Loon, and Peter W. de Jong
p. 618-619.

ミトコンドリアがポンと開く(Pop Goes the Mitochondrion)

アポトーシスや細胞死をこうむっている細胞において、細胞エネルギー生産の場 であるミトコンドリアが重要な役割を果たしている。ミトコンドリアは細胞の代 謝を閉じるだけでなく、細胞質に更なる細胞死を促進する分子を遊離する。この ようなプロセスが起こるメカニズムに関して多々論議がなされている。Greenと Kroemer(p.626)は、細胞死におけるミトコンドリアの役割をレビューしている。 ミトコンドリアの膜透過処理が細胞の運命を決定する帰還不能なものであり、癌 や心不全から神経変性に至る一連の病を患っている患者にとって、このプロセス を治療に役立つものにするような多くの方法を創造することが出来る。(KU)
The Pathophysiology of Mitochondrial Cell Death
   Douglas R. Green and Guido Kroemer
p. 626-629.

草食動物が多様性を加速する(Herbivores Drive Diversity)

土壌に依存した植生やβ多様性(場所による種の構成の違い)によって、熱帯林の多 様性の大部分は説明できるであろう。しかし、どうして熱帯のβ多様性が大きいか、 との疑問は依然として残る。草食動物が特異的植生を促進していると言う仮説をテ ストするため、Fineたち(p. 663)はペルーのアマゾンにおいて、特定の土壌に特異 化した木の苗木を、異なる土壌の間で相互移植実験を実施した。そのとき、同時に 草食動物も制御してみた。その結果、植物が動物から保護された状態と,保護されな い状態では、土壌による植生は大きく異なり,植生の特殊化は、草食動物によってβ 多様性の促進が行われていることが推察できた。(Ej)
Herbivores Promote Habitat Specialization by Trees in Amazonian Forests
   Paul V. A. Fine, Italo Mesones, and Phyllis D. Coley
p. 663-665.
ECOLOGY:
Herbivores Rule

   Robert J. Marquis
p. 619-621.

拡散作用で電子制御(Diffusion Goes Electronic)

フェムト秒のレーザーパルスと、原子サイズの分解能を有する走査トンネル顕微鏡 の両方を一対にして、電子的励起による分子拡散と、熱的励起による分子拡散を分 離した。Bartelsたち(p. 648)は、異方性の銅(110)表面上のCO分子を405ナノメート ル波長のレーザーで、パルス幅200fsecで励起した。CU表面上の原子列に沿って移動 する熱拡散や平衡状態での拡散運動と異なり,非平衡の電子的励起CO分子は、原子列 を超えて拡散した。この結果は、現象論的モデルの解析によって、COと基盤の振動 状態の電子的励起に起因させることができた。(Ej)
Real-Space Observation of Molecular Motion Induced by Femtosecond Laser Pulses
   Ludwig Bartels, Feng Wang, Dietmar Möller, Ernst Knoesel, and Tony F. Heinz
p. 648-651.

鯨の骨に虫がつく(Worming into Whale Bones)

熱水排出口にいるベントワームに近縁の環形動物の新しい属が、カリフォルニア沖 の数千メートルの海底に横たわる灰色クジラ(gray whale)の死体から見つかっ た。Rouseたち(p. 668)は、この属をOsedaxと名付けた。このメスは管を持ってお り,この管から赤色の液体を噴射し、また、管には多数の非摂食性で矮性のオスの ワームが住み着いている。ベントワームのように、Osedaxは腸が無く、細菌性の共 生生物を持っている。このワームはクジラの骨に穴をあけ、相利共生の臓器栄養細 菌を根のような樹形構造にして、クジラの骨から栄養分を取り出す。(Ej,hE)
Osedax: Bone-Eating Marine Worms with Dwarf Males
   G. W. Rouse, S. K. Goffredi, and R. C. Vrijenhoek
p. 668-671.

ニキビ菌の遺伝学(The Genomics Underlying Acne)

ニキビ菌(Propionibacterium acnes)は、ニキビの病理に関与する、ヒトの皮膚の 皮脂濾胞内に棲息する偏在性の生物である。Brueggemannたち(p. 671) は、P.acnesの全ゲノムの配列決定を行い、あわせてその解析を行った。このグラム 陽性細菌の全ゲノム配列は2333個の推定遺伝子をコードしており、ゲノムデータか ら、疾患のプロセスの原因となる炎症性反応を引き起こす可能性がある細菌性抗原 についての情報と、シアリダーゼ、ノイラミニダーゼ、エンドグリコセラミダー ゼ、リパーゼ、そして孔形成性因子などを含む、宿主の分子分解に関与する多数の 遺伝子産物の組織-破壊性酵素についての情報が分かった。(NF)
The Complete Genome Sequence of Propionibacterium Acnes, a Commensal of Human Skin
   Holger Brüggemann, Anke Henne, Frank Hoster, Heiko Liesegang, Arnim Wiezer, Axel Strittmatter, Sandra Hujer, Peter Dürre, and Gerhard Gottschalk
p. 671-673.

モーター移動の分解写真(Freeze-Frames of Motor Movement)

キネシン運動性タンパク質は、緊密な結合状態と分離状態とをすばやく交代させな がら、微小管にそって移動する。その運動はアデノシン三りん酸(ATP)依存的なもの で、結合親和性の変化がATP分解酵素サイクルと関連している。Nittaたちは、3つの 遷移状態類似体を有する単量体キネシンKIF1Aの結晶構造について報告している(p. 678)。キネシンは2つのループを交互に使って微小管に結合するが、中間状態ではど ちらのループも結合していない。KIF1Aが働くときは、前方のチューブリン・サブユ ニットに向かう親和性の偏りを有する緊密な結合状態と、1次元拡散を可能にする弱 い結合状態との間を交代しているようである。(KF,hE)
KIF1A Alternately Uses Two Loops to Bind Microtubules
   Ryo Nitta, Masahide Kikkawa, Yasushi Okada, and Nobutaka Hirokawa
p. 678-683.

マウスでプリオン病を作る(Reconstituting Prion Disease in Mice)

プリオン仮説は疾患を伝播する感染性タンパク質の存在を前提としている。Legname たち(p. 673)はここで、大腸菌中で産生させた組換えマウスプリオンタンパク 質(recMoPrP)をアミロイドフィブリル中で重合し、recMoPrP(89-230)からなる フィブリルを、MoPrP(89-231)を発現するトランスジェニックマウスの脳内に注射 したところ、このマウスにおいて、新しいタイプのプリオン疾患を誘導できるとい う証拠を示した。その後、これらのマウスから採取した脳抽出物を使用して他のマ ウスに接種したところ、他の既 知のタイプのプリオン疾患とは異なるタイプの神経 病理学的症状を引き起こした。(NF)
Synthetic Mammalian Prions
   Giuseppe Legname, Ilia V. Baskakov, Hoang-Oanh B. Nguyen, Detlev Riesner, Fred E. Cohen, Stephen J. DeArmond, and Stanley B. Prusiner
p. 673-676.

宿主植物-寄生植物間の遺伝子転移(Host-Parasite Gene Transfer in Plants)

内部寄生植物のヤッコソウ科(Rafflesiaceae)は、2世紀ほど前に初めて記述され たときから、確定した分類学的地位を与えられずにきた。最近、ミトコンドリア遺 伝子matRに関するある研究に基づいて、この寄生植物はMalpighiales 目に位置付け られた。DavisとWurdack(p. 676)は、核ゲノムおよびミトコンドリアゲノム全体 にわたる4つの遺伝子座にわたってMalpighiales目のすべての科の典型を追加するこ とにより、この問題を再検討した。核DNA(18Sリボゾー ムDNAおよびPHYC)および 一つのミトコンドリア遺伝子座(matR)からは、Malpighiales目の中に Rafflesiaceae科が位置付けられることが証明された。しかしながら、その他のミト コンドリア遺伝子座であるnad1B-Cからは、Rafflesiaceae科が別の目に属する Vitaceae科の中に位置することが示され、偏性宿主であるTetrastigmaに近いことが わかった。これらの矛盾する系統発生的結果から、種間での水平的な遺伝子転移-- すなわち植物宿主-寄生植物システムにより媒介される水平的な遺伝子転移--の新し い事例が示されるようである。(NF)
Host-to-Parasite Gene Transfer in Flowering Plants: Phylogenetic Evidence from Malpighiales
   Charles C. Davis and Kenneth J. Wurdack
p. 676-678.

外被の脱離(Crustal Detachment)

カリフォルニアのシエラネバダ山脈は、山の高さの割には比較的薄い外殻上に乗っ ているが、このことから、外殻深部が取り除かれてしまったのではないか、という 仮説が導かれる。Boydたちは人工地震によるイメージングを用いて、山々の下にあ る外殻形状と組成を決定した(p. 660)。彼らは、上部外殻から分離してマントルに 向かって下向きに曲げられている、より古い外殻の残存物の証拠を発見した。外殻 のこの剥離は、山々の上昇や大陸外被の成長と進化についての説明の助けになるも のである。(KF,Ej)
Foundering Lithosphere Imaged Beneath the Southern Sierra Nevada, California, USA
   Oliver S. Boyd, Craig H. Jones, and Anne F. Sheehan
p. 660-662.

小さな変化、大きな効果(Small Change, Big Effect)

チトクロムP450(CYP)のイソ型はヒトにおける90%以上の薬剤の酸化的代謝において 役割を果たし、またイソ型の1つ、CYP 3A4は肝臓における薬物代謝の50%以上の役割 を果たしている。このたびWilliamsたちは、基質や阻害剤に結合したCYP 3A4、或い はリガンドを持たないCYP 3A4の結晶構造を決定した(p. 683)。基質や阻害剤のいず れが結合しても、その構造はほんのわずかしか違いを示さない。基質は外側の結合 部位で結合するが、この部位は初期の基質結合、あるいはアロステリックなエフェ クターへの結合に関与するものである。基質の活性部位への移動には立体配置的変 化が必要とされる。(KF)
Crystal Structures of Human Cytochrome P450 3A4 Bound to Metyrapone and Progesterone
   Pamela A. Williams, Jose Cosme, Dijana Matak Vinkovic, Alison Ward, Hayley C. Angove, Philip J. Day, Clemens Vonrhein, Ian J. Tickle, and Harren Jhoti
p. 683-686.

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