AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 7, 2001, Vol.293


ガス欠銀河(Galaxies Running Out of Gas)

銀河団に落下する銀河からは、冷たい中性水素ガスが引き剥がされる。Zwaanたち (P.1800)は最近性能向上したオランダのWesterborkにある電波干渉計を使い、古い銀 河団(02の赤方偏移をしている)の中心に向かって落下する銀河の中性水素 ガスを探った。彼等はAbell 2218銀河団に落ちていく銀河の中で、水素ガスが検出され たのはたった1つの渦巻き状銀河だけであった。この結果はガスの剥ぎ取りが極めて効 率的であることを示している。これの技術的に困難な検出で得られた結果は、低密度宇 宙モデルと一致する。(TO,Nk)

小さな体積での扱い(Dealing in Small Volumes)

圧力で誘起される固体の変化は、地質学的にもまた材料科学の点からも重要であるが、そ れらの動力学は非常に不均一であり、また、欠陥が遷移過程を再現性がなくならせる役割 を果たすため、基礎的なレベルで理解することは困難である。Jacobs たち (p.1803) は 、均一性を高め、また、欠陥を取り除くため、試料の大きさを小さくしてこの問題に取り 組んだ。かれらは、CdSe のナノメートルサイズの粒子における、低圧力条件下の四面体 状に結合している相と、高圧条件下における6配位相との間の遷移について研究した。前 進方向および後退方向の遷移に対する活性化体積(activation volume)は、符号が逆であ り、これは、中間体が4および6の配位相の間における体積(両者よりむしろ大きな体積) を有していることを示唆している。この発見は、方向依存性の核形成が起きていることを 示唆している。これは、結晶面に沿った剪断運動と整合している。(Wt)

水を燃す抗体(Antibodies That Burn Water)

光に曝すと、抗体は光によってつくられる一重項酸素の転化により過酸化水素をつくる ということが、最近示された。Wentworthたち(p.1806;Serviceによるニュース記事参 照)は、この反応が触媒反応であり、反応への電子ソースがトリプトファンなどの光-酸 化性残基や金属イオン類ではなく、或いは塩素イオンではなく水の可能性が高いことを 示している。水が一重項酸素により酸化されて、最初の中間生成物として H2O3をつくる。結合サイトを推定するために、キセノンを用い た結晶学的研究により、一重項酸素が抗体内に保持されているトリプトファンとチロシ ン残基近傍に結合していることを示唆している。(KU,An)

企業数(Firm Numbers)

小企業の数よりも大企業の数の方が少ないと想定するのは構わないだろう。しかし、企 業の規模と資本金の関係や、小規模企業の相対的重要度のような経済学的な問題のため には、企業数が従業員数のどんな関数であるか知る必要がある。経済学者は一般に、企 業規模についてある限界があるべきこと、分布は対数正規(log-normal)であることを仮 定していた。Axtellたち(p.1818)は、米国の経済データを再分析し企業規模はZipf分布 (訳註)、つまり企業規模が10倍に増加する毎に1/10づつ企業数が減っていくこと、さ らにこの分布が時を経ても成り立つことを発見した。また、企業規模に下限は存在せず 、企業分布は従業員1〜2名という極限まで延びている。(TO,Nk)
訳註:Zipfの法則は、言語データについて最初提案された。それによると、ある単語の 出現頻度Pは、その、出現順位rと反比例関係を保つ。すなわち、p×r=一定。その後、 Zipfは、人間の努力最小化原理と結びつけて主張した。この関係は、言語の種類に依ら ず成立し、言語処理において、広く利用されている。参考文献:Zipf, G.K. Human behavior and the principle of least effort. Addison-Wesley, Reading, MA (1949)

地震後のマントルの動き(Moving Mantle After the Shock)

大規模な地震は大陸地殻を変形させる。しかし、この変形が局所的な剪断に限定される のか、それとも広範囲のマントルの流れにも影響を与えるのかは依然明確でない 。Pollitzたちは(p. 1814)、カリフォルニアで発生したマグニチュード7.1のHector Mine地震のGPSを用いて測定した測地データ9ヶ月分を研究した。観測された変形は、よ り高い粘性を持ち堅い低部地殻ともろい上部地殻と相互作用している比較的低い粘性の 上部マントルの流れによってモデル化出来た。(Na)

ポンプで押し上げる(Pumping Uphill)

細胞は細胞質の化学組成を保つために、細胞膜を通過させて分子を運搬する必要がある 。能動輸送(エネルギー的に高い方向への運搬)に関わっている膜タンパク質の最大ク ラスの1つはABC(ATP結合カセット)輸送体であるが、このタンパク質はあらゆる種類 の生物に存在し、また、エネルギー源として、ATP加水分解を利用し、膜貫通ラセン体 束であろうと予想されていたATP結合カセットに結びついている。このABC輸送体によっ て輸送される物質の化学的性質は極めて広範囲であり、無機イオンや糖から大きなポリ ペプチドまでを含む。それでもABC輸送体そのものは変化しない( Higgins とLintonに よる展望記事参照)。多剤耐性(MDR)を有する輸送体の一部は、ATP加水分解エネルギ ーを使って多様な疎水性薬剤を細胞外に押し出す。Chang と Roth (p. 1793;および表 紙)は、MDRタンパク質と類似配列を有する細菌性ABC輸送体であるMsbAの結晶構造を 4.5オングストロームの精度で決定した。6ランセンの2つの束は逆V形状の膜内輸送チ ャンバーを作り出す。著者たちは、2つの球状ABC領域における、このチャンバーへの アクセス可否がATP加水分解を経由して循環的に制御されていると提案している 。(Ej,hE)

ヒトの神経幹細胞(Human Neural Stem Cells)

成人の中枢神経系に見い出されている或る種の細胞の発生能力は、その起源に関する問 題を提起する。このような幹細胞は、初期発生の間活動を停止しているのだろうか、或 いはその増殖能力は実験的揺らぎの結果なのだろうか?Ourednikたち(p.1820)は、ボン ネットモンキー(bonnet monkeys)胎児の発生段階の脳の中に標識されたヒトニューロン の幹細胞を移植することにより、この疑問に対する方向を示している。移植細胞は即時 的な脳の発生に、或いは二次胚ゾーン中へのクラスター形成という両者に寄与している 。(KU)

いとおしい生命にすがる細(Cells Hang On for Dear Life)

ガン細胞の発生が比較的少ないのはなぜかとの疑問に対する説明として、基質への付着 失敗と、これに伴うインテグリン情報伝達によって、多くの場合細胞死、すなわち、ア ポトーシスを経験することになる、というのがある。Puthalakath(p. 1829;  および HuntとEvanによる展望記事参照)はこの説明として、付着しなかった細胞は細胞骨格に おいて変化を感知し、アポトーシス処理を開始するというメカニズムを示している 。Bmfと呼ばれる新たな哺乳類Bcl-2ファミリーの1つは、ガン遺伝子として単離され 、細胞死抑制活性を有する Bcl-2タンパク質に結合し、阻害することで、アポトーシス の働きを促進する。Bmfはダイニン軽鎖2と相互作用し、フィラメント状アクチン上で 、ミオシンV運動性複合体に局在化させられる。アクチン脱重合剤による処置とか、浮 遊状態で細胞を培養することによって(基質に付着させることなく)、アクチン細胞骨 格化が崩壊される細胞内では、Bmfが細胞骨格から遊離し、Bcl-2との相互作用が自由に 行われるようになる。このように、Bmfは、細胞骨格の変化と、細胞死機構の活性化と を結びつけるセンサーとして機能するように見える。(Ej,hE)

 シアン化物を下さい(Pass the Cyanide)

ますます進行しているゲノムの技術のため、ひとつの酵素をコードするひとつの遺伝子 だけではなく、代謝経路全体を移植することが考えらるようになった。Tattersallたち (p 1826)は、この方法を植物と害虫との相互作用に適用した。シアン発生のグルコシド を合成する代謝経路をモロコシ属からシロイヌナズナへ移植することによって、ノミハ ムシの通常の宿主植物であるシロイヌナズナの嗜好性を削減し、有毒性を追加した。こ のような代謝の人為操作は、他の植物の防御武器を改良することあるいは植物と害虫と の生態学の実験研究に役に立つかもしれない。(An)

神経系における分散した制御(Distributed Control in a Nervous System)

我々の関節は限定された動きしかできないが、これには中枢神経系による精密な制御が 必要である。タコのような他の動物は、より自由に動く柔軟な腕をもつ。Sumbreたち(p 1845)は、腕の末梢神経系と脳との間の接続が切断されたタコの腕の運動の発生と制御 を研究した。腕の神経系の電気刺激あるいは腕の皮膚を触ることで腕の伸展を誘発でき た。誘発した運動は、正常なタコにおける自然な伸展とほぼ同一だった。タコの複雑で 柔軟な腕の制御は、計画した運動における全体方向を制御する中枢神経系と、詳細な運 動を実現する末梢神経系との間に分散されているようである。(An)

2回調べて、1回切断(Measure Twice, Cut Once)

遺伝子には、アミノ酸配列をコードするエクソンと、アミノ酸配列をコードしないイン トロンとが含まれる。イントロンは、プレ-メッセンジャーRNA(mRNA)転写物から正確 に取り除かれなければならない--一塩基のエラーであっても、読み枠のシフトを生じる ことにより、時ならぬ翻訳の終了を結果として生じるであろう。短縮され有害である可 能性のあるタンパク質を合成することを防止するため、hUpf3やY14などの複数のサブユ ニットからなる複合体(後-スプライシングmRNA複合体)を使用して、エクソンが連結 した場所の上流約20ヌクレオチドの所にhUpf3が特異的に結合することにより“マーク ”する。もし、このようなマークのいずれかのうちの上流で翻訳が終了していれば、そ の場合にはmRNAは、ナンセンス-媒介性消失(nonsense-mediated decay;NMD)と呼ば れる分解経路に導入される。Kimたち(p. 1832)およびLykke-Andersenたち(p. 1836)はここで、マークの構成要素とNMDの構成要素との物理的相互作用について初め て証拠を示す。すなわち、このNMDは、ナンセンス変異の結果としての翻訳の停止コド ンを含有するmRNAの選択的分解に中心的なプロセスであり、プレ-mRNAのスプライシン グと翻訳の両方に依存し、そしてエクソン-エクソン連結部に対する終止コドンの位置 を認識することが必要であることを示す。(NF)

致死的インフルエンザへの手がかり(Clues to Lethal Flus)

20世紀のA型インフルエンザの何回かの大発生の死亡率についての分子的基礎における 道標が、2つの報告の主題である(LayneたちによるEditorialおよびWebsterによる展望 記事とLaverとGarmanによる展望記事とを参照)。1918年のインフルエンザ汎発流行は 米国陸軍じゅうを吹き荒れ、そして第一次世界大戦のときのインフルエンザ汎発流行と 比較して、より若い成人がこのインフルエンザによる大量虐殺を免れた。Gibbsたち (p. 1842)による遺伝子配列の再解析の結果、ウィルスの血球凝集素(ヘムアグルチ ニン)遺伝子において、ブタ系統およびヒト系統の間での組換え現象が生じたために汎 発流行が引き起こされたことを示す。この現象は、抗原性を変化させることを意味し 、インフルエンザのかつての人口統計学によれば、免疫学的にナイーブな人口集団が 、一見して正確に下部気道の重度な浮腫および出血に起因する高い致死率を示した年齢 群であった。1997には香港において、ニワトリから感染したA型インフルエンザ株によ り、18人の感染者のうち6人が死亡した。Hattaたち(p. 1840)は、マウスに対してヒ トウィルス単離ウィルスを感染させ、そしてポリメラーゼ1の位置627での変異と血球凝 集素糖タンパク質の切断能力が、病原性に対して最大の効果を有することを見出した 。(NF)

隣の貴金属(Noble Neighbors)

いくつかの応用において、バイメタル触媒は、単一金属にとって代わってきた。ある場 合には、合金の方が有利なのだが、それは、それぞれの金属が異なった反応段階の触媒 となるせいだったり、一方の金属の電気的構造が2番目の金属によってうまい具合にか き乱されるためだったりする。しかし、量の少ない貴金属の特定の配列(二重体、三重 体やその他のグループ構造の形成)もまた、触媒作用を促進する場合がある。Marounた ちは、走査トンネル効果顕微鏡で電子触媒として用いられるパラジウム-金合金 [Au(111)上にパラジウム原子が載ったもの]の表面を調べた(p. 1811)。彼らは、Hと COの電気化学的な吸着と脱離にとって臨界アンサンブルサイズを同定した。(KF)

花粉を避ける1つの方法(One Way to Avoid Pollen)

ある種の植物は、生化学的手段によって、集団内の交差受精を助長する。花粉粒子上の 多形性要素と紅斑によって、その植物は自分自身の花粉を認識し、それに反応するのを 回避することができるのである。この自家不和合性は、紅斑表面上のSRKすなわち受容 体様リン酸化酵素(receptor-like kinase)と、花粉表面上のタンパク質SCRとによって 仲介される。Kachrooたちは、このたびSRKとSCRが、分子的に相互作用する受容体-リガ ンドを形成することを証明した(p. 1824)。(KF)

純一次産生量と降雨量の年毎の変異(Interannual Variability in Net Primary Production and Precipitation)

KnappとSmithは、北米における11箇所の長期的生態学的研究で得られたデータに基づき 、地上における純一次産生(NPP: net primary production)の年毎の変異は、降雨量の 変異とは相関していないことを発見した(2001年1月19日号の報告 p. 481)。Fangたちは 、中国における傾向に関する自分たちの研究--リモート・センシングから得られた正規 化された差分植生指標(NDVI: normalized difference vegetation index)を歴史的な降 雨量データと比較したもの--では、調査対象にした5つのバイオーム集団に対する年毎 のNDVI変異と降雨量の変異との間には「有意に正の相関」があることがわかった、とコ メントしている。この知見に基づき、彼らは、「KnappとSmithの出した結論はより広く 検証すべきである」と示唆している。KnappとSmithは、これに応えて、リモート・セン シング・データが生態系の関係に関する「予測を頑健に検証できる」強みを認めつつ 、Fangたちの分析における「キーとなる仮定」、すなわちNDVIデータがすべてのバイオ ームにわたって同じ正確さと感度でNPPのダイナミクスを数量化できるという考え方に 、疑問を呈している。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/293/5536/1723a で読むことができる。(KF)
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