AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 14, 2001, Vol.293


ライン川地溝における地震(Rhine Graben Earthquakes)

ライン川地溝は、ドイツとスイスを貫いて北から南へ伸びた活動中のリフトである。こ の系に沿った地震の災害を見積もるために、Meghraouiたち(p. 2070; Weissによるニュ ース記事を参照)は、地震の数と断層に沿った地すべり量を決定するためにバーゼル −ライナハ(Basel- Reinach)断層に沿って溝を掘った。彼らは、紀元前6480年から紀 元610年の間に起きた三つの歴史的な出来事を同定した。そのうちの一番新しい出来事 は、バゼル(Basel)市を破壊しバセル市西側にあるライン地溝沿いの約40の城にダメ ージを与えた1356年に起きたバゼル地震と関連している。地震の同定によって、バゼル 地震のような出来事は、2500年感覚で生じていることを示唆している。バーゼル−ライ ナハ断層に沿って掘った溝の中で測定された垂直方向1.8メートルの変移は、バーゼル −ライナハ断層に沿った地すべりが年当たり平均0.24ミリメートル移動していることを 示す。(hk)

分子の回転の向きを定める(Making Sense of Spinning Molecules)

電子的な状態、あるいは、振動や回転の状態が、精密に定義される状態となるよう準備さ れた交差分子ビームの散乱に関する多くの研究がなされてきた。これらの散乱の研究は 、理論家たちによる、その相互作用を記述するのに有用なポテンシャルエネルギー面を試 すことに役に立つ。Lorenz たち (p.2063; Crim による展望記事を参照のこと) は、NO分 子が、アルゴン原子ビームと交差して衝突したときに、NO分子に分け与えられた回転の向 きを測定することにより、これらの実験を大きく前進させた。生成物を励起するために 、円偏光した光を用い、また、完全なイオン速度マッピングにより、回転ベクトルの向き を決定することができた。最も選択される回転の一つの方向は、最も高い回転順位に励起 された状態により、説明できる。(Wt)

カタストロフから秩序へ(Out of Catastrophe Comes Order)

化学反応はポテンシャルエネルギー曲面で記述され、その曲面は分子が衝突して反応物 が生成物へと再編成するさいのエネルギー変化を反映している。ポテンシャルエネルギ ー曲面の形状--ポテンシャルエネルギー地形--は、反応系の構造や動力学、そして熱力 学を決定する。Wales(p.2067;Learyによる展望参照)は、新たな解折手法を用いて、ポ テンシャルエネルギー曲面の研究を行った。カタストロフ理論から導かれた一般関数が 、Hammondの仮説に対する理論的根拠を与えることを、彼は示している。その仮説とは 、遷移状態がもっと密接に生成物と反応物のエネルギー高さにおいて類似していること を示す経験則である。著作はエネルギー障壁、振動数や経路に関係する定量的法則をも 導いている。(KU)

Wの作り方はダブらない(A Different Trip for Making Trp)

大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などの原核生物は、タン パク質合成のために、自分でアミノ酸の産生を制御している。トリプトファン (Trp)の合成において、これらのバクテリアは両方とも、Trpと、荷電していないその トランスファーRNA(tRNA)とを、制御シグナルとして認識する。Valbuzziと Yanofsky(p. 2057;LosickとSonensheinによる展望記事を参照)は、これらのシグナ ルが古典的な大腸菌(E. coli)モデルの系統とは異なり、枯草菌(B. subtilis)にお いては使用されていないことを示す。枯草菌(B. subtilis)において、Trpがタンパク 質TRAP(trpオペロン減弱プロモーター)を活性化し、続いてそれがtrpリーダーRNAに 結合して転写終止構造の形成を促進し、それによりTrp産生を制限している。荷電して いないtRNATrpにより提供されるシグナルが、タンパク質AT(抗-TRAP)の産生を促進し 、それがTrp-活性化TRAPに対して直接的に結合する。このように、TRAPがRNAに対して 結合することを妨害され、そして不活性化されることにより、アンチ終止が引き起こさ れそしてtrpオペロンの発現が増大する。(NF)

基本的な転写よりさらに(More than Basal Transcription)

様々なTAF(TATA-結合タンパク質-関連因子)が組織特異的様式で発現されていると観 察されて以来、一般的な転写因子の機能の一般性は疑問視されてきた。Freimanたち (p. 2084;Verrijzerによる展望記事を参照)は、TAFのうちの一つであるTAFII105の 発現をしないようにし、そしてその結果としての“ノックアウト”マウスは生存するも のの、メスが不妊であることを示す。これらのメスを調べると、このTAFII105が卵巣の 顆粒層細胞において発現され、卵胞形成に必要であることが示される。このように、基 本的な転写機構には、メスの配偶子形成の間の特異的な遺伝子セットに作用することが できる、組織特異的要素が含まれる。(NF)

低緯度地方の古気象(Paleoclimate at Lower Latitudes)

氷や堆積岩の掘削コアは、10万年以上にわたる詳細な気象データを提供してくれる。現 在では、ゆっくりと変化する氷河期の周期が、たった数十年間ではあるが 10℃〜20℃/年という急激な変化が、定期的に起きたことがわかっている。しかし、こ れらの変化が起きた証拠データは、グリーンランド氷床、南極氷床、北大西洋底に限ら れていた。2つの報告が、このような記録から、中緯度海表面温度を推定値を求める方 法について述べている。最終氷期において、大気温度が温暖から寒冷へと逆の変化が南 北の高緯度地方で起きているが、南極地域の方が北極地域より1000年以上先行している 。Stenniたち(p. 2074)は東部南極地域の氷中の重水素同位体の記録を紹介し、インド 洋でも冷却現象が生じており、南極冷却逆転現象の800年後においては、ここが主な湿 度の供給元であった。降雪(降雨)中の同位体と氷中のナトリウムの濃度の比較から 、南極とインド洋の温度勾配が大気循環に強く関連していることが示唆されている 。2万1000年前の最終最大氷期になったとき、大陸氷河が成長するに従い、大洋温度は 一般的に低下した。Sachs たち(p. 2077)の報告によると、アフリカ南端沖の南東南極 海の海表温度は、4万1000年前から2万5000年前の間、著しく上昇した。より詳しい解析 によると、この現象は単なる局地的な現象ではないことが推察される。(Ej)

酵母のタンパク質チップ(Yeast Protein Chips)

遺伝子の同定が重要であり必要であるにもかかわらず、遺伝子の機能を理解するために はタンパク質の分析も必要である。Zhuたち(p 2101)は、酵母 Saccharomycescerevisiaeゲノムの読み枠の80%に対応する精製タンパク質(グルタチオ ンS転移酵素との融合体として)をガラススライド上にディスプレイするマイクロアレイ を作ることによって、この分析を推進させた。このマイクロアレイを用いて、カルモジ ュリンあるいはリン脂質に結合できるタンパク質を同定した。(An)

ゲノムの比較分析と遺伝子の進化(Comparative Genomics and Gene Evolution)

ゲノムの減少は、寄生虫の細菌や細胞内細菌の進化のための重大な要素であると考えら れてきた。Ogataたち(p 2093;Couzinによる記事参照)は、リケッチア (Rickettsiaconoriiというヒトの地中海斑点熱(Mediterranean spotted fever)の病原 菌の配列を解明し、以前に解明されたリケッチア(シラミ媒介性発疹チフスの病因 R.prowazekii)の配列と比較した。R. conoriiは、552の遺伝子を含み、R. prowazekiiに視られないような高密度の反復を示す。2つの生物体の遺伝子を並べるこ とによって、ゲノム減少のいくつかの特徴を観察することができた。例えば、分割され たけれども全体が転写された遺伝子、分割されて一部だけが転写された遺伝子、完全に 崩壊した読み枠、R. prowazekkiにおいて完全に消失した遺伝子が観察された。他のリ ケッチア種からのゲノムDNAの増幅によれば、リケッチアでは遺伝子の分解が頻繁に起 きる。(An)

 トロイのマラリア(Trojan Malaria)

マラリアが妊婦に感染すると、しばしば胎盤における感染赤血球の劇的な増加を引き起 こして、妊婦の発病や死に導いたり、未熟児出産や流産、そして低体重児に導いたりす る。Flickたち(p.2098;DuffyとFriedによる展望参照)は、マラリア寄生虫の表面タンパ ク質の一つ、PfEMP1が非免疫の免疫グロブリンに結合している様子を記述している。被 膜された寄生虫は、その後胎盤の免疫グロブリン受容体を通して胎盤細胞に付着する 。(KU)

情動と倫理的ジレンマ(Emotions and Moral Dilemmas)

倫理的に困難な判断をする必要があるとき、「理性的」な、あるいは、「目的志向 」の考え方は、「感情的」、あるいは、「主観的」考え方と衝突する。これに関す るよく研究された2つの問題は「トロリー」ジレンマと「歩道橋」ジレンマであり 、一人の命と引き換えに5人の命を救うためにどのような行動を採るかの問題であ る(注)。これらのジレンマを解析するための整合的な倫理的枠組みは無いが、ほ とんどの人は、前者の問題では5人を救うために1人を犠牲にし、後者の問題では1 人のために5人を犠牲にする。ヒトが多様なジレンマに対してどのような選択する かの、行動と脳画像分析によると、Greeneたち(p. 2105; Helmuthによるニュース 記事参照)は、行動に伴うコストであるか、受動的に生じたものであるかの程度に よって、また、どの程度情動が生じたのかによってその人が到達する倫理的判定や 、到達経路に影響すると結論づけている。(Ej,hE)

注:レール上を走るトロリーがある。これには5人の乗客が乗っている。トロリ ーが下り坂にさしかかったとき、その制御系が故障し、暴走を始めた。道路にいた 通行人がこれに気づいたが、そのとき2つの選択肢がある。1つは、登り支線へポ イントを切り換えることであるが、あいにく登り支線には通行人が、これに気づか ないで立っている。ポイントを切り換えればこの人は死亡するだろうが、5人は助 かる。もう1つの選択肢は、現在のレール前方脇に太った人が立っている。この人 を線路上に突き飛ばせば、軽量のトロッコは止まるだろうが、太った人は死亡する 確率が高い。

困惑は、もうたくさん(BAFFling No More)

多くの腫瘍壊死因子(TNF)関連リガンドと受容体が、B細胞発生と機能を制御しているこ とがわかってきた。その1つがB細胞活性化因子、BAFF、であり、2つの受容体 [膜貫 通活性化因子とカルシウム変調サイクロフィリン  リガンド相互作用タンパク質 (TACI)とB細胞成熟抗原(BCMA)]と相互作用して脾臓B細胞の生存と増殖を促進する (WaldschmidtとNoelleの展望記事参照)。Sciemannたち(p. 2111)は、BAFF-欠失マウス とBCMA-欠失マウスを用いて、B細胞の発生要件を試験し、BAFFがB細胞の発生に決定的 な役割を果たしており、またBCMA以外の受容体を介して機能することを見つけた。 Thompson たち(p. 2108)は、BAFFに結合するが、他の既知のTNF-様リガンドには結合し ない受容体候補を記述している。A/WySnJマウス系統は、BAFF-R遺伝子が短くなってお り、このためBAFF-欠失マウスに見られるのと類似したB細胞欠失を引き起こす。これら の事実から、BAFFとBAFF-Rの相互作用が、B細胞発生に大きな影響を持つことが示され た。(Ej,hE)

量子メモリを保護する(Protecting Quantum Memory)

量子情報処理の主たる問題は(Gershenfeld の視点を参照のこと)、非可干渉化と系のメ モリの実効的な損失となる、量子系と環境との間の結合である。量子誤り訂正コードと 非可干渉化の発生しない部分空間(これは、特殊な環境下で系を保護する)という処理方 法は、有用ではあるが、任意の雑音に対して保護できる定式化は、まだ、なお得られて はいない。Viola たち (p.2059) は、誤差のない部分系の実験的な実現結果 を与えている。この誤差のない部分系とは、強い対称性の制限を受けない、非可干渉化 の起こらない部分空間の実装の一般化である。その結果は、全系の保護は(非可干渉化 の起こらない部分空間によるアプローチのようには)必ずしも必要ではないかもしれな いが、一般的でより有効な方法が代わりに用いられる可能性があるということを示唆し ている。(Wt)

Skinny hedgehogが脂肪を身につける(Skinny hedgehog Puts on Fat)

Hedgehog(Hh)信号伝達経路は、哺乳類と昆虫、双方の発生過程においてキーとなる役割 を果たしている。それに加え、変異によってその経路が不適切に活性化されると、よく あるヒト皮膚癌の発生がもたらされることになる。Chamounたちは、ショウジョウバエ において分泌されたHhタンパク質が、そのアミノ末端においてバルミトイル化されるこ と、またこの修飾が胚性および幼生パターン形成におけるHhの活性にとって必須である ということ、を示している(p. 2080)。遺伝子的実験によると、この修飾の触媒となる アシルトランスフェラーゼは、Skinny hedgehog(ski)遺伝子によってコードされている ことが示される。このski遺伝子は、Wingless信号伝達経路に必要な遺伝子と、配列に おいて関連していて、分泌されたタンパク質のアシル化が発生において広範な役割を果 たしている可能性を提起している。(KF)

遺伝子発現を知るための山登り法(Mountain Climbing for Gene Expression)

膨大な遺伝子発現データ集合を分析する1方法が、Kimたちによって報告されている(p. 2087; また、Giffordによる視点参照のこと)。彼らは、30の研究所と共同して行なった 553の実験から得られたデータを組み合わせて、1万7千以上の線虫(Caenorhabditis elegans)遺伝子のプロファイルの相関を調べた。彼らは、データ点を山岳状の領域へと 変換する可視化プロトコルを用いたが、これによれば相関する遺伝子発現パターンをも つ遺伝子がグループ化されるのである。たとえば、ある特定の山をなす3つの遺伝子の 連合は、それらが熱ショックによって制御されている可能性を示唆するものであった 。この仮説はその後の実験によって確認された。この発現マップは、ゲノム中の、いま まで知られていなかった機能を示す大部分の遺伝子における遺伝子発現の相関を同定す るのに使える可能性がある。(KF)

月面表土の窒素同位体変化(Isotopic Variability of Nitrogen in Lunar Regolith)

Hashizumeたちは(2000年11月10日のレポートp. 1142)月面土壌の窒素同位元素比率を深さ の関数として測定し、太陽風(SW: solar wind)中の水素に関連する15Nに乏し い成分と太陽起源でない惑星型成分である濃縮15Nの2つの起源があることを 発見した。Hashizumeたちは、このパターンは同位元素分化だけでは説明出来ず、代わり に、恒星間物質起源の15Nを豊富に含む物質が惑星物質中の窒素量に対しかな り貢献していることが必要である、と論じた。Kerridgeは、そのコメントの中で、比較的 単純な議論だけで、この2成分モデルが月面表土の窒素同位元素の変化を説明することに 失敗し、Hashizumeたちの分析に対するいくつもの反論が持ちあがっている、と主張して いる。Kerridgeは、月面表土の窒素同位体の変化は十分説明されていない、と結論つけた 。それに対し、Hashizumeたちは、太陽風と微粒隕石のフラックス比の変化による月面表 土の窒素同位体変化を説明する新しいモデルを提案した。そのモデルは、月面表土窒素に 含まれる窒素同位体に対するKerridgeにより引用された、仮定上の惑星成分の判断基準と 矛盾がない。これらのコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/293/5537/1947a で読むことが出来る。(Na,Tk)
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